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Battle No.5 姉の動き

 次の日、僕はまた師匠とのトレーニングに戻った。


「今日はよろしくっす」

「あのな、ナタリーちゃん」

「なんすか?」


 師匠は僕の後ろに目をやる。


「なんで嬢ちゃんもここいるんだい?」

「アンナのことっすか?」


 僕の後ろには、マリアに挨拶するアンナがいた。


「はじめ、まして、マリアさん。アンナ、です」

「アンナ様、私のことはマリアとお呼びください、敬語なしでも大丈夫です」

「気軽に、いいの、ですか?」

「ええ、ナタリー様より砕けた口調になることは至難の技ですから」

「ふふっ、そう、だね。よろしくね、アンナ」


 なんか僕をダシにしてないか⁉︎


「ちょっとマリア! ひどい!」

「気になるのでしたら淑女らしく振る舞ってください」

「ぐっ」


 普段の行いのせいばかりに……!

 ため息をつきながら僕は師匠との対話に戻る。


「マリアも大丈夫みたいっすし」


 今日アンナをここに連れて来た理由は、アンナを色々試させてみたいからだ。

 彼女の悩むを解決する方法はシンプルだと思う、それはなにか彼女を夢中にさせることを見つけ出すこと。

 それさえ見つかれば、彼女はそこから使命感やその類いのものを見出し、自分に対しての不安も消えるはずだ。

 マリアと師匠の意見が心配だったけど、二人ともアンナのこと良く思っていないからな。

 でもマリアは割り切ったからか、反対することはなかった。

 それなら師匠も受け入れてくれると思ったけど。


「彼女はあなたの要望に逆えないじゃないか」

「僕は別にマリアに命令できる立場じゃないっすけど……」

「自分の影響力を知らないんだね」


 師匠は信じられないものを見た目で僕を見下ろした後、話を続ける。


「あなたはいいのかい?」

「いいのかって?」

「嬢ちゃんのこと。あなたは彼女をここに連れて来るくらい気に入ってるのかい?」

「えっそれは」

「私はそうでもないでな」


 師匠のその目、本当にアンナのことがどうでもいいという意思を感じる。

 もしかするとアンナのことが邪魔だとすら思っている。

 だけど僕は既に決まっている。


「はい、すっごく気に入ってます。大事な妹なんで」

「そう……」

「アンナは見学だけで、師匠を困らせることはしないっすから、お願いします」


 元からアンナを準備運動にだけ参加させるつもりだから。

 流石に8歳の女の子を殺人トレーニングに参加させるわけにはいかないので。

 9歳の僕はなんなんだって? ククク……。


「わかった、それくらいなら」

「いいんすか!」

「彼女、ずっと見ていたからな。覗き見から隣で堂々と見るになっただけだ」

「師匠は覗き見のこと知ってたっすか⁉︎」

「ただの基本の気配読みだ。あなたもそのうちできるようになる」

「まじで」


 なになになにっ、僕はそのうち「十メートル先の殺気でも感じ取れる」みたいなことができるようになれるってことっ⁉︎

 でも受け入れてくれたし……。


「あのう、師匠、もう一つ頼みことなんすけど」

「なんだい?」

「図々しいかもしれないんすけど、しばらくだけでいいから、トレーニングの時間を半分にできないんすか?」

「……なぜ?」

「家族との、付き合い、っす」


 もっと正確に言うと、アンナの趣味探し。

 さすがにこの頼みごとはアウトだという自覚はあるけど、やっとみないとわかんないからな。

 恐る恐る師匠を見ると、彼女はため息をついた。


「どこまでも甘いやつなんだ」

「えっ」

「なんでもない。ちょっとだけの期間なら、トレーニング時間を減らしてもいいだろ」

「ありがとうございます!」

「この一ヶ月間私も忙しくなりそうからな」

「どうしたんすか?」

「ここあたりの幻魔教の痕跡を掴まえたのでな」


 まじでいるんすね、幻魔教。

 なにを企んでいるのだろう、ちょっとこわい。


「なにかわかったんすか?」

「恐らく数人レベルの小チームでの活動だ。一人捕まえたけど中々情報を吐いてくれない、かなり慎重なやつらだ」

「なんだ……」


 被害が大きい破壊活動をするわけじゃないみたいなので、僕は安心した。

 だけど師匠はさらに言葉を強めた。


「安心するのはまだ早い。それはむしろ危険だ」

「なんで?」

「最低限の人数で匿ってるということは、計画した確実な狙いがあること。そして、成功する確信があるということだ」

「た、たしかに」


 師匠の言う通り、確実な計画がなければ少人数のチームを出張させるわけがない、敵地に潜入するスパイのように。

 そして、定められた被害者が出る。


「あなたも気をつけろ、外に出るのは控えた方がいい」

「はい」

「世間話はここまでだ。ウォーミングアップするぞ」

「はい!」


 お堅い話は終わり、やっと体を動かせる。

 僕はアンナに声をかける。


「ウォーミングアップだよ! 来て来て!」

「わ、わかりました!」


 すると師匠は不機嫌そうに言う。


「見学だけじゃなかったのか?」

「ウォーミングアップもちょっとだけ、ね?」

「はぁ……」


 師匠は諦めるため息をついた。

 ウォーミングアップがどうなったと言うと、


「イタタタタッ!」


 柔軟運動でアンナはひたすら悲鳴を上げ、


「も、無理、です」


 その後のランニングでアンナは数サイクル走っただけでギブアップ。

 僕はウォーミングアップを中断して、アンナの看病をする。


「アンナ! しっかり!」

「申し訳、ござい、ません」

「そんなことない、アンナはよくやったよ! マリア、僕の水筒を持って来てくれない?」

「わかりました」


 横に立っているマリアは手早く水筒を取って来て、アンナに渡す。


「はぁ、はぁ、あり、がとう、アンナ」

「どういたしまして」


 アンナに感謝されるマリアは、硬い表情のままなのにどこか嬉しさを感じた。

 僕たちの生活圏以外の人に珍しく褒めたからかな?

 マリアもアンナと仲良くなれると僕も嬉しい。


「アンナはしっかり休んで、僕トレーニングに行って来る」

「姉様の時間を、無駄にしてしまって、申し訳ございません」

「いいよそんな、むしろアンナを無理させた僕の方が悪いんだから。マリア、アンナのことを頼む」

「おまかせを」


 残ったウォーミングアップを終わらせ、今日のトレーニングが始まる。

 

「今日はあなたに新しい技を教える」

「どんな技っすか?」

「あなたの基礎がすでにできている。今なら桜陰流の我流技を学べるのだろう」

「我流技!」


 今まで学んだ技は全部師匠が世界中の流派から学んだ他流技で、僕からすれば現実基準の技である。

 我流技ってことは、おそらく前世の地球にいない、この異世界オリジナルの技だ。

 ワクワクしないわけがない。


「この技一回しか見せない、その一回でしっかり覚えろ」

「えっなんで⁉︎」

「嬢ちゃんのために時間を無駄遣いした罰だ」

「そんな……」


 オリジナル技を一回で覚える、絶対無理だろそれ。

 ドキドキと緊張が僕の心拍数を上昇させた。

 師匠は僕を全く気にせずいつものアース・ドールを召喚する。

 だけど今回は少し違った。


「師匠!」

「なんだい?」

「デカくないっすか!」


 このアース・ドールの身長は師匠の1.5倍以上、普段のサイズと違ってまるで巨人。


「見てろ、桜陰流『アキレス落とし』」


 師匠は巨人へ走る。

 それに対し、巨人は師匠に蹴りを繰り出した。

 そして師匠は避けることなく、その足を正面で立ち向かう。

 このままだと蹴りをモロに喰らう。


「危ない!」


 蹴り上げられた。

 違う、蹴り上げられたのではない、師匠はその足首を掴んでいる。


「しゃあっ!」


 師匠は浮いたまま、両足で巨人の軸足を蹴った。

 軸足が取られた巨人はもちろん立っていられない。

 腕は足首を離さない。自分の片足を掴んだ足に絡めて落ちる。

『バキッ』

 着地する瞬間、恐ろしい音と共に巨人の足首はありえない方向へ曲がった。


「アキレス落とし、別名ドロップ・アンクル・ホールド。小さい相手に蹴りを使うのは一般的な判断だ。それに乗っかって、相手の体重を逆手に取り、その重さで一瞬に足首とアキレス腱を極める」


 巨人が砂に崩れ落ち、師匠は立ち上がる。


「魔物が相手だと、一瞬でも立ち止まったらそれが命取りになる。あらゆるものを利用し瞬時に相手の体を破壊する、それが桜陰流の神髄だ」

「神髄……!」

「魔法と武器を駆使して魔物を葬るこの時代、全世界の素手の武術は演武レベルに衰退していた。私はこの桜陰流で、たとえ魔物でも素手で倒せる武術を作り上げろうとしているんだ」

「賢者なのに?」

「面白いことならなんでもやる性分でな」


 それを語る師匠の顔は、子どものように誇らしげだった。


「今領地にいる不審者相手の自衛手段としても含めて、今のあなたに教えるにはピッタリだ。あなたにとって大人はみんな巨人なんだからな」

「考えなしに教えてるわけじゃないんすね」

「それはどういう意味だい? 私は適当にやってるとでも」

「いえいえいえ! そんなはずないじゃないんすか!」

「全く、動きは覚えているかい?」

「全然」

「よし、今からアース・ドール相手に練習して来い。完全に習得できる前に休みはなしだ」

「えーーーっ⁉︎」


 ひたすら大人サイズのアース・ドールにボコられて、なんとかコツを掴んだ僕であった。


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