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Battle No.4 妹の悩み

 お茶会が始めてからまだ短い時間だけど、アンナと仲良くなれそうで僕は満足していた。


「お茶のお代わりはどう? 今度は僕が淹れてみたい」

「お願いします……」

「よいしょっと」


 僕は立ち上がってお茶を淹れる。

 

「姉様はすごいです」

「えっ」


 藪から棒に、アンナは語り始めた。


「こわいけど、昔からずっと堂々としていて、どんな時でも挫けなくて」

「なっなんだよいきなり」

「それだけでもすごいのに、しかも家事もできて、自分の世話ができて、アンナと違って頼りになります」


 彼女の目の中には綺麗なものを見ているかのような、憧れが含まれていた。


「アンナは、ずっと姉様を、尊敬していました」

「そ、そうなんだ」

「うん、今はもっと、尊敬になりました」


 彼女からの讃えに対し、僕は困惑ばかりであった。

 昔から堂々としているのって、高飛車お嬢様的なあれのこと? あれはただの強がりだし、今の僕と全く関係ないじゃないか。

 自活能力のことも、前世の記憶持ちなら誰でもできることなんだよな。

 僕がしたすごいことなんて一つもない。


「なんでそう思うようになったんだ?」

「それは……アンナは、アンナがここいる意味が、わかりません」

「そんなわけ」

「お母様は、アンナはオークル家の希望って、言ってましたけど。アンナは、理解できません」


 アンナの頭は悲しく垂れていた。

 理解できないってどういう意味だ?


「でもアンナの魔力はすごいじゃないか? 使ったことあるんだよね」

「使ったことが、あります」

「どんな感じだった?」

「よく、わかりません」

「じゃあ見せてくれるかな? 無理じゃなければ」

「は、はい」


 彼女を庭の開いた場所に連れて行って、そこにある一本の木へ指差した。


「あの木を魔法で撃ってみてくれる?」

「わかりました」


 アンナは掌を木の方に狙い定め、魔法を唱える。


「エレキット・ボール」


 彼女の手から電気の球が飛び出し、木に直撃して、爆発した。

 

「姉様、どうでしょうか?」

「どうでしょうかって、言うまでもないじゃないか」


 木の下半分は完全にこの世から消え去り、上半分は焼き焦げた状態で地面に転がっている。

 いやっ聞いて欲しんだ僕は木に穴を開くくらいの威力しか予想してなくてね。これは完全にオーバーキルじゃないか。

 とりあえずガゼボに帰って、僕はアンナに素直な感想を言う。


「いやいやいやっアンナはまじで天才じゃないか、心配する必要はどこにあるんだよ?」

「姉様も、他のみんなと同じく、そう思うのですか? アンナは、強いって」

「うん」


 彼女は僕の言葉に共感できなかったようだ。


「アンナは、魔力が強いのかもしれません。ですが、それは『アンナのもの』とは思えないのです」

「アンナのものじゃない? あのパワーはアンナにしかできないじゃないか?」


 この歳であの威力が出せる人は恐らくアンナしかないと思うのだが、同年代の子どものことなんて知らないけど。


「アンナは、なんの努力もしていません。そんな、持っていることすら知らなかった力、まるでアンナのものじゃないみたいで。それなのに、みなさんに褒められているのです。もし、アンナにこと力がなかったら、今は、きっと……」

「アンナ……」


 なにもしていないのにすごいものを手に入れてしまって、そのことに対しての不安。

 その気持ち、なんとなくわかる気がする。


「すごいかもしれませんけど、アンナは、ただの、凡人なのです。だから、姉様を憧れていました」

「ぼ、僕?」

「どんな時でも自信満々で、自分のことを疑いません」

「あ、あはは」


 めちゃくちゃ褒められてて恥ずかしい。


「姉様がカリン様の弟子に、なったことを聞いてから、ずっとその様子を、覗いていました」

「ずっと見てたのか⁉」

「はい」

 

 なるほど、だから僕とお母さんの喧嘩現場に鉢合わせてしまったのか。


「あんまり見てて楽しいものじゃないけどな」

「うん、楽しくは、ありません。自分の限界より遥かに上の、厳しいトレーニングに、耐えているのですから。ずっと、ずっと」


 まるで言葉を咀嚼しているかのように、アンナは声に力を入れていた。


「姉様は自分ができなかったこと、自分より強い相手に挑んでいたのです。生まれ持つ能力しかなく、それに甘えるアンナとは、全く違います。だから、憧れていました。姉様だけじゃない、必死に頑張っている、従者のみなさんも。アンナなんて、ただの……」

「……辛かったんだな、アンナは」


 僕は彼女の頭を撫でた。


「えっ」


 彼女の悩みは自分の背丈に合わない大きな力を持っていること。

 それは人として立派なことだと思う。僕なんてもし同じ立場にいたら無限にイキり散らす芸を見せる自信がある。

 だけどそれは8歳の女の子がすべき悩みではない。親に甘えることだけに専念するべき歳で、その悩みは焦りすぎだと思う。

 そして彼女を焦らせたのは、同じく焦っている僕を含めて、この屋敷にいる全員のせいだ。

 彼女のポテンシャルじゃなく、今の彼女をもっと大事に守るべきだった。

 その償いと言うのはなんだが、


「心配するな、アンナは立派だ」


 今の彼女を、ちゃんと肯定する。


「アンナが、立派だなんて……」

「すごく立派だ。アンナは知ってるか、本当に強い人はどういう人なのかを?」

「強い、人……? すごく、力強い?」

「一般的にそうかもしれない。だけどな、本当に強い人は、心が強いんだ」

「心が、強い?」


 僕は昔読んだ漫画の売り文句を思い出す。


「心は自分が弱いであることがわかっている、だからこそ強いんだ」

「弱いのに、強い?」

「うん、弱いから強いんだ。完璧な人はこの世で存在しない、自分の欠点を自覚してるからこそ、人はそれを改善できる」

「ですが、思っているだけでは……」

「それはそう、だけど考えないとなにも始まらない。そしてアンナと同じ歳でそれに自覚できる人なんて、中々いないんだよ。だからアンナは誇るべきだ」

「アンナが、誇る……」


 僕はアンナの手を握る。


「自覚したなら、次はどうすれば強くなれるかを考える。焦らなくていい、ゆっくりと探索するんだ」

「アンナに、そんなこと、できません」

「一人でできないのなら、ふたりですればいい。そのために僕がいる」

「姉様は、手伝って、くれるのですか?」

「もちろん、アンナのお姉ちゃんだからな」

「姉様……!」

 

 アンナが必要なのは導き手だ、そしてその役目は僕がやる。

 優しい彼女を守りたい。

 誇張すぎるかもしれないが、僕は心の底からそう思っている。

 姉であるからか、それともファンとしてアンナのことがすきだからか、僕にはわからない。


「よく頑張って、よく食べて、よく寝て、そうすればアンナは必ず強くなれる。心配することはない、僕なんかよりアンナはよほど才能があるからな」

「そんな、姉様の方が、すごいです……!」

「ははっ、ありがと。それじゃめんどくさい話はここで終わり、今はお茶会を楽しもうぜ。はい、お茶」

「ありがとう、ございます」


 アンナはお茶をふーふーしてから、一口飲んだ。


「とても、おいしいです」

「そっか! 僕も試してみよう!」


 思い込みなのかもしれないが、今の彼女は前より明るくなった気がする。


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