Battle No.4 妹との初対面
その後、僕はアンナのことについてマリアと作戦会議を開いた。
前世の時から僕は年下の子と会うチャンスがない。マリアは妙に大人びてるから例外として、僕は年下と交流する方法を知らない。
だからマリアになにかいいアイデアはないかと聞いた。
色々考えた結果、まさかの食べ物で誘惑するという結論が出てしまった。
マリア本人が気に入りそうなアイデアかどうかというか気に入りそうと思うけど、マリアに効くかどうかは知らない。彼女は別に食欲旺盛キャラじゃないしな。
だが思い立ったが吉日、僕は食料庫に材料がないかを確認した。翌日、師匠に一日休ませてくれないかと頼んだ。
意外にもあっさりと「好きにしろ」と返されたので、即厨房へダッシュ。
ちょうど慣れたレシピの中にいいやつがあって、僕は手早く料理を始めて、約2時間後に出来上がった。
そして午後のいい時間になって、マリアが用意してくれたちゃんとしたドレスを着て、僕は料理が入ったバスケットを持ってアンナの部屋へ向かう。
だが向かうという行動が思った以上に厳しかった。
その理由は、同じ屋敷に住んでいるが、僕はある意味隔離されていたからだ。
僕とアンナは屋敷の違う部分に住んでいて、その気になれば簡単にお互いの住む場所へ行けるが、アンナや彼女の使用人を含めてこの屋敷の人間はみんな僕の生活範囲に入ろうとしない。
僕と関わりが薄い使用人に会える場所といえば、玄関やダイニングなどの共有スペースしかない。
恐られているからか、それともオークス家の出来損ないに会いたくないか、またはその二つ同時か。
そんな僕が自らアンナの生活範囲に行こうとした結果、めっちゃ使用人たちに訝しまれていることとなった。
歩いているだけなのに、周りの人がヒソヒソと喋っている。
もしかして服がおかしいのかな、歩く姿勢が良くなかったのかな、色々と心配しながら僕は視線に堪えた。
そしてやっとアンナの部屋の前にたどり着いた。
だがそのドアの横に一人のメイドが立っていた。
元のナタリーの記憶にないメイドだ。恐らくアンナを養子にした後のここ一〜二年間の新入りさんだろう。
僕を見た彼女は僕に話しかける。
「ナタリー様、ごきげんよう」
「こ、こんちわっす」
やばっ緊張しすぎて呂律が回らない。
「私はアンナ様のメイドのセシリと申します」
「よ、よろしくお願いします、セシリさん」
「ナタリー様がここにいらしゃって、一体どんなご用件でしょうか?」
「要件、ほどのものじゃないんすけど。ちょっとその、アンナとお話しがしたくって……」
僕はバスケットを持ち上げて、「お茶会でもしようかと……」と補充した。
セシリさんは冷たい目で僕を見下ろし、
「それはできません、お引き帰りください」
と拒否された。
「えっなんでっすか」
「ご存知だと思いますか、アンナ様は臆病な方です。ナタリー様に会わせると、驚かせてしまうかもしれません」
「そんな……ここに誓って僕はアンナになにもしません! 本当にただアナンと仲を深めたいだけなんすよ!」
「それでもダメです」
セシリさんは頭を横に振る。
「はっきりと言います、私はあなたの悪い噂はよく知っております。そしてアンナ様もあなたに会いたくありません。だからお引き戻りください」
「そうかもしれないすっけど、ちょっとだけでいいっす! もしアンナが本当に嫌がったら直ぐ帰るから」
「いけません」
自分が屋敷の人に嫌われているのはわかっているものの、まさかここまで拒絶されとは思ってのいなかった。
なにを言っても、セシリさんは聞こうとしなかった。
誠意を見せるために、僕は彼女に頭を下げる。
「お願いします! これでも一応姉妹なんっす、ちょっと会うだけでいいから!」
「くどいです。言っておきますが、オークス様からナタリー様が暴れたらちょっと手荒いことをしてても構いませんというご指示があります」
「そんな……」
「どうか、アンナ様の安らぎのためにも、もう二度とここに来ないでください」
セシリさんのどうしてでも僕をアンナに合わせたくないという意思を強く感じた。
僕自身もわかっている、自分はアンナに合わせるべき人物じゃないことを。
悔しいけど、仕方がないんだ。
「分かり、ました」
ここまで言われたら、もう身を引くしかない。
別に今日中アンナに会わなければならないわけでもないし。
同じ屋敷に住んでいるんだ、自分から会いに行かなくてもチャンスはいくらでもあるだろう。
自ら圧をかける必要はない。
「すみませんでした、セシリさんの言う通りに帰ります」
「ご理解いただきあり……」
今日はもう諦めると思ったその時、部屋のドアが内側から開かれた。
中からアンナが顔を覗いた。
「どうしたのセシリ、言い争いでも……あっ」
僕と目が合ってしまった。
それに対してセシリさんは直ぐに口を出した。
「なんでもありませんお嬢様! さあお部屋にお戻りください」
でもアンナは僕を見て、身を固めた。
「姉様、ですか?」
瞬間、僕の脳内に電流が走る。
姉様、なんという素敵な響きなんだ。
初めてゲームヒロインの生声にかけられたお言葉が、姉様という偉大なる二文字。
「どうやら僕らは姉妹だったようだ」
「えっ」
目から川が流れ出す。
なにもかもが感動的すぎて涙が出ちゃったよ。
ああ神よ、僕をこの世界に転生させてくれてありがとう。
「泣いている、のですか?」
「ご、ごめん。僕も、よくわからなくって」
涙が止まらないよ助けてくれーっ!
このままだとただの変質者になってしまう!
だがこんな僕を見て、アンナは引くどころか、更に話かけた。
もちろんセシリさんは彼女を引き止めようとする。
「お嬢様! 部屋にお戻りください!」
でもアンナはその声を聞いていないようだ。
「あ、あの……もしかしてアンナは、姉様に失礼なことでもしてしまったのでしょうか?」
おいおいおい聞いたか、一人称はアンナなんだぜ。
あざとすぎるだろうがよえーっ!
天使かこの子、いや天使確定だな。
「いえいえ‼︎ アンナはなにも悪いことをしてないんだよ‼︎ ただ僕が頭おかしいだけで‼︎‼︎‼︎」
「ひぃ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
思わず大声を出した結果、アンナをびびらせた。
「違うんだよアンナ! 僕は怒ってるわけじゃないんだ。ただアンナとお話がしたくて、緊張になってて……」
「アンナと、お話?」
その反応、どうやらお話というワードに引っかかったようだ。
僕は涙を拭いて、今日ここに来た目的を話し出す。
「うん、アンナとお茶会でも開こうと思って。お土産も用意したんだよ」
僕はバスケットをアンナに見せる。
「本当に、いいのですか?」
「ん? なにか問題でもあるの?」
「嫌じゃないのですか? アンナとお茶会……」
「そのためだけに来たんだから、嫌なわけないよ」
アンナは思ったよりも乗ってくれた。
てっきり逃げられると思って食べ物で釣ろうとしたが、これならうまくいけそう。
「それなら、アンナも、姉様とお茶会がしたいです」
「本当に⁉︎」
なんだ、アンナは僕に会いたくないわけじゃないんだ。
仲良くなれそうじゃないか。
とは言え、セシリさんはやはりこれに対し不満であった。
「お嬢様、本当にナタリー様に付き合うつもりですか?」
「ダメ、かな?」
「ですが、もしお嬢様がなにかされたら」
「セシリ、お願い」
「……わかりました」
アンナの目線に負けて、セシリさんはやっと諦めてくれた。
これならアンナとお話しができる。
「ありがとうアンナ」
「お礼なんて……! あっ、私ハンカチを取りに行きますね、姉様はそれで涙を拭いてください」
そう言って、アンナは部屋の中に入った。
僕はことが順調に行ったことにホッとしていると、肩がセシリさんに掴まれた。
「ナタリー様、どうかご自身の行動にお気をつけてください」
セシリさん、本当に僕のことが大嫌いなんだな。




