Battle No.3 カリン視点
—カリン視点—
つまらない。
世の中はつまらない。
百年前の原魔大戦、迫って来る無数の魔物。私は魔法でそれらを返り討ちにし、殺してきた。
相棒だった勇者パーティのみんなは最高に化け物じみた強さを持つ戦士だった。
強者に囲まれる時代。
だけど平和になると同時に、私を手こずらせる敵も一緒に消えて、勇者パーティもみんな死んでしまった。
魔法において最強と呼ばれる私、恐らく今この世界で私に勝る魔法騎士は存在しない。
だからつまらないのだ。
だから私は歩き出した、魔法じゃない道へ。
私は全世界、国内国外、あらゆる場所を巡り、あらゆる体術を学び、桜陰流を作り出した。
魔法ではなく体術で闘えばなにかを見出せるのかもしれない、そう思っていた。
だが体術を研究するにつれ、おかしな気持ちが芽生えた。
もやもやする。
例えると、なにかの一歩手前にいる感覚。
0.999999……がどんなに頑張っても1になれないにいる感覚。
だけど自分だけじゃどうしようもできない。
この魔法にしか興味ない世界、強化魔法があればフィジカルをなんとかできる世界に、私と同じ考えを持つ同志がいない。
結果、つまらなさは解消されるところか、私はさらにもやもやを引き寄せてしまった。
オークスのやつ、天才を超えた天才を養女にしたと言い、少し興味を持った私は彼女に付き合ってみたが、やはり私を熱くにすることができなかった。
あの子の名前……アンナだっけ?
魔法の才能は確かなものだ。だけど彼女にはそれしかない。
気が弱く、闘争を望んでいない、戦士ではない。
つまらない。
もうどうでもいい、なにかと闘いたいと思い、魔物が出る森へ腹いせでもしようと思った。
出会ってしまった。
私を熱くさせたあの子、ナタリーちゃん。
最初はびっくりしたよ、こんなところに子どもがいて、しかも自分に魔法を仕掛けてるのだから。
まず目に入ったのが彼女のタフネスだ。あれだけ電気を喰らっても魔法を辞めない。
しかも全身に捻挫と炎症、恐らく長時間あの拷問を続けてきた。
聞いてみればまさかオークスの長女だと。
記憶の中のオークスの長女とは全く違う。
礼儀がなっていない、私に土下座するほど態度が低い、お嬢様のくせに安いポーションを飲んでいる。
ドワーフ・ハートなのに強くなろうとする意志。
一気に興味が湧いてきた。
ドワーフ・ハートであるのも丁度いい、なぜならば彼女に残された道は体術しかないのだから。
だから彼女を桜陰流の弟子にすることにした。
試し彼女のタフネス限界を試してみたが、まさか鼻血が出ても走れなくなってもテストを諦めないとは。
彼女に私の興奮して興奮して興奮してたまらない顔をバレないようにするだけで精一杯だったな。
アース・ドールとの喧嘩は見事だった。
最初から彼女が反撃できるなんて予想していない。
彼女の回避行動、無駄が多いが確実に攻撃を躱している。
そして彼女はタックルを喰らうまでずっと立っていた。反応速度もバランス感覚もその歳にしてはかなり強い。
その時点で私は既に満足していたが、ナタリーちゃんは中々奥が深い。
なによりもあのアーム・バーだ。
アース・ドールがやりすぎて止めようとした、彼女に反撃できるわけがないと思った。
だけど実際は彼女がアーム・バーでアース・ドールの腕を破壊した。
まだまだ未熟だが、確実に極めたアーム・バー。
どこでアーム・バーを学んだのかは知らないが、素人でありながらそれを行動に移すセンス。
一瞬だけだが彼女の鬼のような容貌。あれは恐らくゾーンに入ったことによって自分の本能を剝き出しにしてしまった結果。
彼女は間違いなく「こっち側」だ。
言わば生まれつきの戦士、ナチュラル・ボーン・ウォリアー。
そして次の日、彼女にまた驚かされる。
ドワーフ・ハートなのに王立魔法騎士学園に入りたい。
お嬢様なのに獣人のメイドであるマリアちゃんと友情を築き上げている。しかもそのマリアちゃん、相当に強い戦士だと見た。
最後に、ナタリーちゃんが繰り出した正拳突き、恐らく彼女自身も気付いていないが、そこには私が教わっていない脱力が含まれている。
脱力とは打撃の要。筋肉がリラックスから緊張状態になることで拳を最大限に加速させる。
そんな脱力を彼女は自然に利用していた。
彼女を逃すわけにはいかない。
天性の才能、そしてまるでびっくり箱のように破天荒な行動をするその性格。
私の退屈を消してくれるのは彼女しかいない。
私のもやもやを解決できる者は彼女しかいない
強くなれ、ナタリーちゃん。
強くなって、誰にも負けないようになって。
私と最高の死合をしてくれ♡。
—カリン視点・終わり—




