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Battle No.3 ドワーフ・ハート

 凛々しくて、落ち着きのある声。そして、どこか聞き覚えがある。


「誰っすか……?」

「ただのお節介なお姉さんさ。お嬢ちゃん、面白いことしてたね、なんでそんなことするんだい?」

「はぁ?」


 こっちは必死なのに、なにが面白いんだぁ?

 と頭に来たが、ぐったぐたなので怒鳴る気力すら湧かない。

 そんな僕の考えを知る訳もなく、謎のお姉さんは僕の横にしゃがんで僕を観察する。


「痙攣による筋挫傷と捻挫数箇所、手足に軽い炎症、そして魔力不足」

「な、なにっ、いきなりなんっすか」

「お嬢ちゃんが負ってる怪我さ、しかも今日できてばかりとは思わないだよね」

「マジ⁉ ポーション飲んてるのになんで……?」

「安いポーションはこういうマイナーな創傷にあんまり効果がないからね」


 なるほど、街の店のポーションじゃあこんなものか。

 安くないポーションを売る店なんて知らないからな。


「治ったと思い込むで大怪我になるケースって結構あるのさ。ヒール」


 お姉さんが「ヒール」を唱えると、僕の体は光り、全身の疲労と痛みが一気に消えていく。


「えっ、痛くなくなった」

「治癒魔法をかけてあげたから」


 重くて動けなかった手足が軽くなった。しかも明らかに傷を負う以前より体調がいい。

 まるで昔読んた心霊話の語り手のような、体に取り憑いたなにかが払われたような不思議な感じで、人生初めてこんな体験をした。


「すげえ‼ お姉さんの魔法すごいっす!!」

「これでもそこそこ有名な魔法騎士だからね」


 元気を取り戻した僕は、さっきちゃんとお姉さんを見てなかったことに気付き、改めて彼女を見る。

 最初に目の入るのはいかにもファンタジー貴族が着てそうなタキシード、もしそのグラドルに負けないナイスボディがなければ彼女を男だと思っていた。女なのに男装してるのが更に彼女への印象を増す。長い赤髪、冷たい目つき。整ったその顔はまさに美人で、中には凛々しさも含まれていて、男でも女でも関係なく見惚れてしまうほど美しい。そして特徴的な長い耳、恐らくエルフだと考えられる。

 こんな美人さん、まるでゲームのキャラみたいで……ゲームのキャラ?


「あっ⁉」

「どうしたんだい? 急に大声を出して」

「えっもしかしてお姉さんはあの賢者カリンさんっすか⁉」


 賢者カリンと言うのは、ゲームのサブキャラであるカリンである。魔法騎士学園の先生を務めていて、その正体は百年前勇者パーティーと言う強い魔法騎士パーティーの一人。エルフは魔法の才能が人間の遥か上と言われていて、魔法に特化した彼女はみんなから賢者と呼ばれている。


「あら、子どもなのに私のことが分かるんだ」

「カリンさんのことが知らない人なんてこの世にいないっすよ!」

「これは恥ずかしいな、とっくに一線から退けたのに」


 恥ずかしいと言っているが、彼女の顔は恥ずかしいところか余裕綽々に見える。僕の記憶の通りの自信家だ。


「じゃあ、お嬢ちゃんが私の正体をバラしたんだ、今度はお嬢ちゃんが自己紹介してくれないかい?」


 名前を聞かれて、今度は僕の方こそが恥ずかしながら答える。


「ぼ、僕⁉ 僕はナタリー・オークスっす、一応オークス家の長女……」


 相手はお偉いさんを超えたお偉いさん、そして僕はお嬢さまなのに平民の服を着ている、しかも先吐いてばかりだから臭いもする。下手すると不敬罪になってもおかしくない。

 でもカリンさんは気にする素振りを見せなかった。


「えっ、あなたがあのナタリーちゃんなのかい? 風評とは全く違うじゃないか」

「……ちなみにどんな風評っすか?」

「めんどくさい……性格がひどい……ワガママ……」

「ギクッ」

「あと噂によると出来損なさすぎてオークス家に見放されたと」

「ぜ、全部合ってるっすね」

「そうかな? 私としては今のところ結構好印象だけど」

「あざーす……ちょっと事情があってね」

「ふーん」


 カリンさんが嘗め回すかのように僕のことをめちゃくちゃ見ている。

 不審に思えたからか、それとも興味が湧いたのかは、僕には分からない。


「って、なんでナタリーちゃんはここにいるんだい、しかもあんな拷問紛いのことまでして」

「一応、あれは魔法の修行なんっすけど……」

「あれが修行……なるほど、大体分かった」


 少し考えたあと、カリンさんの眼光が鋭くなる。


「その修行はやめたほうがいい。そんなことやっても一生成長できないぞ」

「えっ」


 ばっさりとダメ出しされた。

 普段なら不満を抱えてしまうかもしれないが、相手はこの世界において一番魔法に詳しいと言っても過言ではない人。

 僕は素直に彼女に問いかける。


「なにが、ダメなんすか?」

「ナタリーちゃんはそう思ってるのだろ、無理矢理頑張ればいつかなにかのコツを掴むんじゃないかって。しかも基本な魔法すら使えこなせないから尚更それに頼るしかない」

「えっ⁉ なんで僕が魔法を使えこなせないことを」

「だって、あなた」


 カリンさんは、僕の胸に指差す。


「ドワーフ・ハートでしょう」

「えっ?」


 急に意味の分からない単語を聞かされて、僕はきょとんとした。


「知らないんだね。それじゃあ、まずは質問。人の魔力はどこから作り出されたんだい?」

「魔力? それは……」


 そういえば全く考えたことなかったな、魔法の原理。


「知らないっす」

「答えは、心臓だ。心臓には魔力を作り出し、そして魔力を貯蔵する機能があるんだ」

「なるほど」

「そしてナタリーちゃん。あなたの心臓は生まれつきドワーフ・ハートという病気にかかっているのだよ」

「ドワーフ・ハート?」

「ドワーフ・ハートは健康を影響しないが、心臓の魔力を貯蔵する機能を退化させる。人の魔力貯蔵量はそれぞれだが、ドワーフ・ハートを持つ人の魔力貯蔵量は底辺より数倍低い」

「うそっ⁉」

「その心臓では、初心者魔法を維持する分の魔力を用意することもできない、だから暴発する。そして魔力貯蔵量は一生変わらないのだ。例えどんなにテクニックを鍛えても、先ほど使っていたエレキット・ショックをギリギリ撃てるようにしかならないのだよ」


 無情の事実が、賢者と呼ばれる人の口から吐き出される。


「ナタリーちゃん、あなたはどう頑張っても、常人にすらなれない」

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