Act.5-24 第一回異界のバトルロイヤル 一日目 scene.5 下
<三人称全知視点>
ローザから与えられた伝説級の『空翔ける天馬の召喚笛』で相棒の天馬を召喚し、空からヴェモンハルトの姿を視認した時点でイスタルティは地上に降りて天馬を帰還させた。
その理由は、「王子殿下相手に空から奇襲を仕掛けるなどなんと卑怯な」とか「王子殿下を高いところから見下すなど」などといったヴェモンハルトの地位の高さ故の配慮ではない。
何故、イスタルティが高度という優位性を捨てたかというと、それが優位性たり得ないと判断したからだ。
ヴェモンハルトは剣の扱いも魔法の扱いも長けたバランス型だ。イスタルティの中ではバランス型は剣は近距離、魔法は遠距離と使い分けるイメージがあった。
イスタルティはヴェモンハルトがどのような魔法を使うのかを知らなかったため、ヴェモンハルトの必殺魔法が近距離戦でも遠距離戦でも使える、どちらかといえば近距離寄りの魔法であることを看破できた訳ではない。
だが、結果としてイスタルティの選択は自身の愛馬が血漿を撒き散らして死ぬという惨たらしい姿を晒す望まぬ展開や、愛馬を失ってそのまま落下し、ヴェモンハルトにとっていい的になる展開を回避することに成功した。
「第一騎馬隊隊長のイスタルティ=ジェルエスネさんですか。残念でなりません……もし、そのまま空をお飛びになっていれば真っ赤に染め上げてあげましたのに」
「恐ろしいことを言いますね、殿下は。良かった……降りてて。まあ、これじゃあ騎馬隊長じゃなくて、ただの槍使いですけどね。……魔法使いは苦手でしてね、できれば剣でお相手願いたいのですが」
「魔法が苦手だからと忌避していては隊長の威厳が損なわれますよ」
「……参ったなぁ。本当に苦手なんですよ、魔法。……まあ、仕方ありませんね。ジェルエスネ流槍術 始ノ型 嵐纏槍迅」
イスタルティが『神槍・天逆鉾』に魔力を流し、暴風を纏わせた。
イスタルティの生家――ジェルエスネ家では風属性の魔法の使い手が生まれることが圧倒的に多く、風と槍を組み合わせたジェルエスネ流槍術が一家相伝で継承されてきた。
イスタルティも漏れなくこのジェルエスネ流槍術を父から学び、奥義に至るまであらゆる技を使いこなせるようになっている。
「でも、やっぱり遠距離魔法は苦手なんで堪忍してください」
「嫌ですね。精々、簡単に死なないでください。――フレイムブランド」
「はぁ、あの父親にしてこの息子ということですね。……ジェルエスネ流槍術 二ノ型 暴旋刺突」
空に顕現した赤い魔法陣から降り注ぐ無数の焔の剣を躱しながらイスタルティは槍に纏った風を後ろに向けて放ち、気流を作って加速――そのままヴェモンハルトに螺旋状の空気を纏った刺突攻撃を仕掛けるが……。
「――ハイドロバースト」
ヴェモンハルトの目の前に青い魔法陣が展開され、その中心から猛烈な勢いで水が収束された状態で噴射された。
「おっと――吹き荒め風よ。一つ処に吹き荒れて風の盾となって我を守れ――烈風障壁。吹き荒め風よ。鉄槌となりて降り注げ――蒼穹衝槌」
イスタルティは二つの魔法を同時に発動し、一つ目の風壁を作る出す魔法で「ハイドロバースト」に対抗した。そして、もう一方の圧縮した風を鉄槌のように降らせる魔法でヴェトンハルトに攻撃を仕掛ける。
ヴェモンハルトは幻想級二刀流装備『モラルタ・アンド・ベガルタ』に武装闘気を纏わせると、そのまま風の槌を両断し無効化――ハイドロバーストで烈風障壁の破壊を狙いに行くが……。
「そのまま黙って攻撃を防ぎ続ける訳がないよね。やっぱり、その盾は囮か……ゲイルアローズ」
イスタルティが風の壁を囮にして既に移動していることを視認したヴェモンハルトはハイドロバーストを解除することなくイスタルティの方に向かって魔法陣を展開――無数の風の矢を放った。
「吹き荒め風よ。一つ処に吹き荒れて風の盾となって我を守れ――烈風障壁」
「――ストーンハンマー」
素早く風の壁を展開して攻撃を防ぐイスタルティ……だが、その行動はヴェトンハルトの狙い通りだった。
「ハイドロバースト」を消し去って発動した土魔法によって空に魔法陣が顕現し、無数の岩の鉄槌が降り注ぐ。
「ジェルエスネ流槍術 二ノ型 暴旋刺突」
咄嗟に頭上に向けて暴風を纏った『神槍・天逆鉾』で刺突技を放ち、岩石の鉄槌を破壊するイスタルティ。
だが、その瞬間にはヴェモンハルトの魔法が完成していた。
「サンシャイン・グリムヴォルテクス」
イスタルティの近くで小さな光が生まれ、それが急激に膨張して光の渦となってイスタルティの身体を両断した。
範囲が狭い分、決して躱せない攻撃ではない。もし、イスタルティが下に回避するか、攻撃範囲から逃れていれば倒されずに済んだだろう。
「ゲイルアロー」で防御に転じさせ、「ストーンハンマー」に注目させつつ退路を奪い、「サンシャイン・グリムヴォルテクス」で一撃必殺を狙う――鮮やかなまでの作戦勝ちであった。
「まあ、目標としていた『五属性全てを使ってイスタルティを倒す』という条件はクリアできたし、私としては満足かな? さて……アクアさん、ディランさん。出てきてもいいですよ?」
【ブライトネス王家の裏の杖】の片割れ――【血塗れた王子】の由来となっている得意魔法を使わず、更に自らに「五属性全てを使ってイスタルティを倒す」という枷を課した上で勝利したヴェモンハルトは、小さな雲の影に隠れた二人に声を掛けた。
その表情はイスタルティと戦った時とは異なり真剣味を帯びている。
ヴェモンハルトにとって、イスタルティは相性が良過ぎる相手だった。使用できる属性の数も圧倒的に優っており、攻撃方法もそのほとんどが槍の間合いでの物理攻撃――遠距離からぶっ放す類の魔法を弱点としていた。
一撃必殺の「クリムゾン・プロージョン」を使わなかったとしても、イスタルティ側に勝ち目はほぼ無かったのである。そのため、ヴェモンハルトは自分に新たな枷を課してイスタルティと対等な勝負をすることにした……まあ、ヴェモンハルトの課した枷が本当に枷になっていたかは不明だが。
だが、アクアとディランは違う――隣国フォルトナ王国最強の漆黒騎士団の団長と副団長を前世に持つこの二人はイスタルティとは異なり、ヴェモンハルトの裏側の顔も知っており、得意魔法が割れている。それを理解した上で何の躊躇もなく顔を出すということは、何かしらの策略があるということだろう。
純粋な剣の実力では、ヴェモンハルトは父ラインヴェルドに及ばない。そして、ラインヴェルドに匹敵する剣の使い手として挙げられるのがヴェトンハルトの知る限りだが、カノープス、バルトロメオ、アクア、ディラン、フォルトナ王国の【白の魔王】シューベルト=ダークネス、そしてカッコ付きだがローザの六人。
剣の使い手としてラインヴェルドに匹敵する二人を相手にすれば、ヴェトンハルトに勝ち目はないだろう。
「王子殿下は強い……けど、基本的にはスザンナ様とあまり変わらない。さっきみたいに立ち回れば問題なく勝てそうだな」
「そうだ、親友。スザンナとの戦いで俺、思いついたことがあるんだ。(耳元でゴニョゴニョ)……って奴なんだけどさ」
「……なんか絵面的にはアウトだが……確かにそっちの方がいいかもな。ってことは、俺……じゃなかった、私がヴェモンハルト王子殿下と直接対決をすればいいってことね。楽で助かるわ」
「そういうと思ったぜ、親友!」
ヴェモンハルトは二人の会話から「スザンナを殺ったのは目の前の二人である」ことを理解し、更に警戒を強めた。
別に仇を取ろうとか、そういうつもりは更々ない。ヴェモンハルトにとって、スザンナは確かに婚約者であり、大切な人であることに変わりはないが、その彼女が負けたからといって一々熱くなるような性格では無かった。これが現実で殺された……となれば話は別だが、ここは電脳空間――仮にヴェモンハルトがスザンナと邂逅し、戦闘する流れになってしまった場合は全力で勝ちに行くつもりだったので、そのことに対して何か思うことはない。
単に劣勢を悟ったということである。スザンナは【ブライトネス王家の裏の杖】としての本領――「クリムゾン・プロージョン」を使ってなお敗北したのだろう。ということは、「クリムゾン・プロージョン」を回避する何かしらの術を持っているということだ。そして、その二人にはその作戦が実際に成功したという経験がある。これは大きなアドバンテージだ。
一方で、ヴェモンハルト側にはアクアとディランが「クリムゾン・プロージョン」を回避した方法が皆目見当がつかない。唯一分かっているのはアクアがもたらした「私がヴェモンハルト王子殿下と直接対決をする」という情報だけだ。これは相手がバレても問題ないと考えて流した情報である以上、大した推理材料にはならない。
「それでは始めましょうか? クリムゾン・プ――」
「――黒影の抱擁」
だからこそ、ヴェモンハルトは先制攻撃を仕掛けた。情報がなければ早々に暴けばいいという考えである。
ディランは魂魄の霸気を発動して影の触手を生み出してアクアの腰に巻きつける。
そのまま影の中に消えていき、更にアクアを影に引っ張り込んだ。
「なるほど……魂魄の霸気ですか」
ヴェモンハルトが習得に成功していない霸気。それ故に、ヴェモンハルトは霸気を使用して回避するという可能性を想像していなかった。
自分の想像力の欠如に苦笑しながら、さてどうしたものかとヴェモンハルトは策を巡らす。
「サンシャイン・グリムヴォルテクス」
縦方向にした光の渦を影に向かって放つ……が、影が切れることは無かった。
『残念ながら俺の影は光じゃ消せねえよ。まあ、ネタバラシすると俺の二種類の影のうちの一種類は実体を伴った影でよ、まあ試しに斬ってみろって』
ヴェモンハルトの目の前にアクアの腰に巻き付けられたものと同じ触手が現れた。試しに剣を振るうとその影が斬り刻まれて地面に落ち、影に戻る。
『まあ、片方の影は影に実体を与えるって効果だからな。影は実体を与えられると光では消せなくなる。基本的に影魔法ってのは影に光を当てれば消せるものだが、物理的な影には通用しないってことだぜ。で、もう一つの影はどんな影なんだって? そいつは殿下にも教えられねぇな。ってことで、時間は稼いだぜ』
背後に殺気を感じ、振り返るとそこには剣を逆手で持ち、殺気をだだ漏れにしながら斬撃を放ってくるアクアがいた。
咄嗟に『モラルタ・アンド・ベガルタ』で受けるがあまりにも重い斬撃に腕が悲鳴を上げる。これが、見た目少女の細腕から繰り出されているなど到底信じられることではない。
「お見事です、殿下。では、次は殺気を消しますので頑張ってくださいね」
アクアは取ってつけたように天真爛漫な笑顔を浮かべると、影の触手に引っ張られて影の中へと消えていった。
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