Act.9-508 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜到着! 呪われし無人島〜Vol.2 scene.4
<三人称全知視点>
リオンナハトの指示のもと割り振られた役割は、ミレーユとカラックが森での食材調達、リオンナハトとアモンが狼煙を守りつつ海釣り、そしてライネとフィレン(一応、エメラルダもいるにはいる)が洞窟の中に残り、料理を準備するというものになった。
「グリーンダイアモンド公爵家の威信にかけてフィ……うちのメイドが料理致しますわ。道具はございませんけれど、できますわよね?」
そんなエメラルダの無茶振りに「承知致しました。……流石に豪勢なディナーは作れませんが、食材がございましたらなんとか致しましょう」と請け負ったフィレン。
とはいえ、調理道具すら満足にない劣悪極まりない環境だ。王侯貴族の舌を唸らせる豪勢なディナーどころか庶民の料理すら作ることもままならない状況に頭を悩ませていた。
これまでエメラルダに散々無茶振りをされて振り回されて鍛えられているとはいえ、流石にこれほどの難題に向き合うのは初めてだ。
まずは食材を調理するための道具の準備から始めなくてはならない。鍋や包丁などの代わりになるものを探すことから始めたフィレンとライネだったと、それを遠巻きに見つつ偉そうに指示を出すエメラルダだった。
一方、ミレーユとカラックの二人は森の中を歩いていた。
「あっ……あれは確か蓬の一種ですわね。苦いけど食べられる筈ですわ」
「流石に目がいいですね。あれは、島蓬といって蓬の一種。湯掻くと多少苦さも薄れる筈です。栄養もかなり含まれています」
次々に食べられる山菜類が集めていくミレーユに不覚にもカラックは感心してしまった。
――これはもしかしたら中途半端なサバイバル知識ではなく本格的な知識なのかもしれないな。
ミレーユと共に食材調達をすることになってしまった時にすっかり気落ちしてしまったカラックだったが、ミレーユがまともなサバイバル能力を持ち合わせていることを知って少しずつ気分を持ち直してきた。
一方、カラックが元気になっていくのに比例するようにミレーユのテンションは少しずつ下がっていく。その理由は……。
「しかし、美味しそうな茸は生えているのに毒茸ばかりですわね。……あれは、六日舞茸。食べると六日間踊り続けることになる茸。こっちは、毒鶴茸……確か、『殺戮の天使』や『破壊の天使』の異名を持つ茸でしたわね。毒成分はビロトキシン類、ファロトキシン類、アマトキシン類……こちらは現時点で解毒薬が存在しないって仰っていましたわね。……ですが、やっぱり茸は食べたいですわ! あら? あれは、紅天狗茸ですわ! ルクシア殿下は寒冷地に生息していることが多いと仰っていましたけど、珍しいですわね。一部の地域では毒があることを承知の上で食べる文化もあるそうですし、ちゃんと料理をすればきっと大丈夫ですわ! ルクシア殿下は『素人は絶対に手を出してはいけません!』と言っていましたけど、わたくしは素人に在らず! 煮こぼしと塩漬けで毒抜きをして実食といきますわ!!」
ミレーユは飢えていたのだ。なまじっか知識をつけてしまったが故に安易に茸に手を伸ばすことができず、それ故に毒茸ばかりの島で地獄のような苦痛を味わっていた。
それ故にミレーユはあろうことか毒茸と知りながら紅天狗茸に手を伸ばそうとしてしまう。
当然、カラックは危機を察してミレーユをなんとか説き伏せた。
ちなみに、一説によると紅天狗茸は八月や九月に収穫すると効力が強いと言われている。島は温かい風土のため、もしかしたら毒性がミレーユの予想以上に強かったかもしれない。
「ううっ……でも、紅天狗茸は出汁にすると美味しいと聞きますわ。兎鍋にするのであれば……」
「まず、兎鍋にするんだったら、兎を捕まえる必要がありますし、そもそも鍋がありません。なので、兎と鍋が手に入ってから隠し味の心配をするのでも遅くはないと思いますよ、ミレーユ姫殿下」
「……でも、茸が、食べたいですわ」
「仕方ありませんね……ミレーユ姫殿下は知識あるみたいですし、根気強く食用になる茸を探しましょう」
結局、クッキー一枚分の恩義もあって根負けしたカラックはミレーユの茸探しに協力することになった。
しかし、不運なことにその後も見つかるのは食べられる野草と毒茸ばかり。
流石に日も暮れ始め、まだまだ探すつもりのミレーユを連れて海岸に戻るつもりだったカラックだったが……。
「あら? あれは……木箱ですわね」
無人島に不釣り合いな木箱を発見し、ミレーユは遠い目になる。泉のほとりに置かれていた衣類の入っていた木箱と全く同じデザインのものだ。
「あの木箱と同じものですね。……となると諜報員が……」
「えぇ、早速開けますわね」
「中身は……包丁に鍋、調理に必要な器具が一通り入っていますね。これは、良い報告ができそうです。……ミレーユ姫殿下? どうかしましたか?」
「……うっ、ううっ。き、きのこ、ですわよね? わたくし、夢でも見ているのかしら? 毒茸じゃない……これは、もしや、松茸?」
調理器具が占有している箱の隅っこに、まるで「ミレーユの頑張りを見守っているよ」とでも言われているように入っていた茸を見つけたミレーユの目から涙が溢れる。
声が掠れ、緊張で震えながらミレーユは松茸を手に取った。とてもとても、上質な松茸であった。
◆
松茸を入手して一気にやる気に満ち溢れたミレーユは更に美味しい食事を目指すべくカラックと共に森の探索を再開した。
ちなみに、これまでに摘んだ野草類は全て箱に入れている。木箱は二人で十分運ぶことが可能なので、帰りは二人で木箱の両端を持って運ぶことになっている。
「できたら肉類が欲しいですわね。やっぱり一番は兎肉ですけど」
既にミレーユの中で兎は愛玩動物ではなく食肉の扱いになっているようだ。
――島の兎達に重大な危機が訪れようとしていた!
「そういえば、蛙の肉は鳥のように淡白だと聞いたことがありますわね。試したことはありませんけど。カラックさんは、試したことは?」
「…………いえ、生憎とないですね」
微妙に引き攣った顔をしているカラックだったが、ミレーユは気づいていないようで思考の淵に沈んでいた。
「ミレーユ姫殿下、大変失礼ながらお聞きしても?」
そんなミレーユの思考はカラックの言葉で現実に引き戻されることとなる。
「あら? なにかしら?」
「随分と野生の食物に詳しいようですが、それはいずれ来るとお考えの飢饉に備えているが故なのでしょうか?」
「あら、ご存知でしたのね? 一体どなたから?」
「ルードヴァッハ殿に、馬車で教えていただきました」
「流石は……良い判断ですわね。ええ、その通りですわ。来年から数年にわたって不作の年が続きます。飢饉は大陸全土にまで及ぶことでしょう。ですから、備えをしておくのが大切ですわ」
正直にいえば、ライズムーン王国の行く末など知ったことではないというのがミレーユのスタンスである。
前の時間軸でも普通に飢饉を乗り切っていたので今回もなんとかなるんだろうなと思っているのだ。
しかし、ミレーユは思い出した。以前、プレゲトーン王国に向かった際にリオンナハトに対して思ったことを。
「いきなり処断するのではなく事前に警告してくれたって良かったのではないか? 同じ学校に通っていて知らない仲でも無かったのだから、せめて一言でも言っておいてくれても良かったのではないか? そのたった一言でギロチンに掛けられるような状況を回避することができたかもしれないのに」と。
自分がしてもらいたいと思っていることを相手にもするようにという至極当たり前の良心に従った考え……をミレーユは決して持っている訳ではない。
自分は寛大だから許したが、同じことをされた時にリオンナハトがどのような反応を示すかどうかは未知だ。腹いせに、何か嫌がらせをしてくるかもしれないので先手を打ってその可能性を潰しておきたいという割と消極的な考え方から来る行動であった。
それに、リオンナハトやカラックにもちょっぴり恩を感じており、この場で返しておきたいという思惑もあった。ミレーユの胸中は複雑なのである。
「ライズムーン王国でも、備えておくに越したことはないと思いますわ」
「ミレーユ姫殿下のお言葉を疑うわけではありませんが、そのようなこと、分かるものなのですか?」
「元々はあくまで予感や勘……そういった裏付けなんて信憑性のないものでしたわ。ただ、圓様曰く数百年のサイクルで発生する異常冷夏のようですわ。なんでも、海面水温が高くなることなどが要因だとか」
「圓様が仰られているのであれば確かなのでしょうね」
「……まあ、仮にその情報が無かったとしてもわたくしはお話していたと思いますわ。信じる信じないは勿論、貴方達の自由。ただ、わたくしはこう考えておりますの。飢饉が来ることを信じ込んで備えて準備をしていて、けれども実際には飢饉が来なかった場合と、飢饉など来ないと備えを怠って飢饉が来てしまった場合と、果たしてどちらが悲劇かということを」
「常に最悪に備えよ、ということですね」
「ふむ、それもいいですわね。でも、わたくしが意図したのは笑って誤魔化せるのはどちらかという話ですわ。もし、わたくしが『飢饉が来るぞ』と言って備蓄を増やさせたとして、それで実際に来なかった場合には溢れた備蓄はわたくしの誕生祭にでも民衆に振る舞って食べてしまえばいいのです」
それは、我儘皇女の無駄遣い。しかし、食事を振る舞われた側も苦笑いで済ますことができる我儘だ。
既に圓から示された科学的見地で飢饉の発生は半ば確定してしまっている。そんな未来は来ないのかもしれない。……だが、もし、なんらかの形で未来が変わって小麦が余ったら、お腹いっぱいケーキを食べてやろうと目論むミレーユである。
これだけ頑張ってきたのだ。それくらいの見返りはあってもいい筈だ。
ケーキはないよりも余っていた方が良いに違いない。無論、食べきれない量を一人で抱え込むのではなくみんなと一緒に。
それは、きっと幸せで気分のいい未来の筈だ。
「なるほど、素晴らしいお考えですね」
そんなミレーユを見て、カラックは尊敬の念を更に深めるのだった。
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