Act.9-506 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜到着! 呪われし無人島〜Vol.2 scene.2
<三人称全知視点>
「ひとまず、俺達のやるべきことは二つ。食糧の確保と、この島の探索、当面はこの二つのために行動していくことになるだろう」
そこで言葉を止めて、リオンナハトは何かを思い出したのかふと笑みを溢した。
「しかし、食料といえば先ほどのミレーユの行動には驚いたな……」
「ええ、まさか何の迷いもなく自らの食料をあんなにあっさり分配してしまうとは。しかも、従者である我々にまで……」
「ミレーユが帝国でやっていた政策を踏まえると食料の重要性が分かっていないということは、ないだろう。それにも拘らず彼女は貴重な食料を分け与えた。彼女が人格者であると知ってはいても驚かずにはいられないな……」
最終的に陣頭指揮は圓が取ることになるだろう。
あの『帝国の深遠なる叡智姫』に比肩する知恵者は、ミレーユが持っていない世界の創造主の知識を持つ。全てを俯瞰する神の視座にある圓がいながら、他の者が主導権を握れるとは思えない。
ミレーユだけでなく、リオンナハトやアモンも同様だ。
仮にエメラルダが大国ダイアモンド帝国の名を持ち出して権力をチラつかせたとしても、相手は複数の国家のトップであり、多種族同盟の頂点に君臨する重鎮だ。当然、歯牙にも掛けないだろう。
となると、決めておくべきことは圓達と合流するまでのリーダーを誰が務めるかということである。
(……探索の間、しばらくこの島で暮らすことになるだろう。その間、俺かミレーユ、或いはアモン、この三人のいずれかが指揮を執るべきだと思っていたが……あの思い切りを見せられてしまうと俺が引き受けるのは些か躊躇われるな)
◆
三人がそんなやり取りをしていると、ミレーユとライネが海岸へとやってきた。
「ああミレーユ、戻ってきたか? ……ん? エメラルダ嬢はどうした?」
「フィレンさんが服を洗うのを待つと言っておりましたわ」
ミレーユの説明に首を傾げるリオンナハト達だったが、ライネの補足説明を受けて少しばかり呆れた顔をした。
「なるほど、そうか……。少し大切な話だから彼女達も待とう」
「分かりましたわ。……では、待っている間にわたくし達が得た情報を共有しておいても良いかしら? エメラルダさんとフィレンさんには既に共有済みなので問題ありませんわ」
ミレーユは泉のほとりで発見した木箱について話をした。
ちなみにエメラルダとフィレンには水浴びをしている間に情報を共有済みだ。得体の知れない者が残した服に抵抗を覚えたエメラルダだが、着ていた服と水着しか残っていない現状ではとても贅沢は言ってられないので不承不承ではあるが島にいる間は木箱に入っていたエメラルダの体型にあった服を着ることにしたらしい。
「……男性ものの服が入っている方はパッと見ただけですが、女性ものの服が入っていた木箱の方はサイズがピッタリでしたわ。恐らく、島に留まっている諜報員が残したものの可能性が高そうですわね」
「釣り竿もそうだが、やはり島には潜伏しているようだな。……まあ、全く手を貸してくれるつもりはないようだが」
「しかし、釣り竿と服が調達できたのは良いことだね。魚も取れるし、衣類にも困らない、洞窟という雨風を凌げる住環境も手に入れている。とりあえず、最低限島で暮らしていくだけのものは揃ったってことかな? となると、そろそろ次のステージに進まないといけないということか」
「気が進みませんけど……この島を探索するしかないですのよね」
リオンナハト、アモン、ミレーユがそんな感じで話しつつ、ライネとカラックと共に浜辺で釣りをすること一時間半、合計十数匹ほど新鮮な魚を釣り上げた頃、ようやく、エメラルダとフィレンが戻ってきた。
全員が揃ったことを改めて確認し、リオンナハトは徐に口を開く。
「この無人島を脱出するまでの間のリーダーを決めておいた方がいいと思うんだが……」
「確かにそうですわね。纏め役がいた方がバラバラに動くよりも良いですし……」
そのリーダー役というのが、あくまで圓達と合流するまでの臨時的なものであることを鈍感なミレーユも察していた。とはいえ、目的地である邪教徒の神殿がどこにあるか現時点では不明である。当然、圓達との合流がいつになるかは未定だ。その間、リーダーが不在というのはあまり良い状態ではない。
(……ふむぅ、そういうことでしたら、わたくしが立候補してもよろしいのですけど)
と、リオンナハトの言葉に同意しつつも最悪な方向へと舵を切っていくミレーユ。
残念ながらミレーユには自負があった。自分こそがサバイバルマスターであるという絶対的な自信が。
前の時間軸で革命軍に追われて森の中で暮らしていたミレーユは前の時間軸の記憶と、今世で似たような状況に遭遇した際に対応できるように勉強して得た知識によって食べられる山菜を見分けられるようになり、魚も川魚に限るが取り方を知っている。それに、海の魚もここ数時間で釣り竿を使い取れるようになった。
今ならば、難しいと言われているキノコと毒キノコの見極めだってできる自信がある。……そう、自信だけはあるのだ。……自信だけは。
普段は面倒ごとを嫌い、極力重要な役割は他者に押し付けようとするミレーユだが、この場面ではそうも言っていられない。
これは我が身の安全に関わるような事態だ。決して手を抜くことなどできない。
(……ですけど、ここでわたくしが立候補すると面倒なことになりそうですわね)
ミレーユが視線を向ける先にいるのはエメラルダだ。
そもそも、今回の旅のホストはエメラルダである。本来であれば彼女がこの場をリードするのは、ごくごく自然な流れであると言えるだろう。
だがしかし、ミレーユの危機察知能力がけたたましい音で警鐘を鳴らしていた。
――エメラルダだけは絶対にリーダーにしてはならない。他の誰がリーダーになるにしてもエメラルダよりはマシだと。
ごくごく自然な流れでエメラルダを候補者から外す言い訳を考えたミレーユは一つの妙案を思いつく。しかしその場合、ミレーユの立候補はノイズになりかねない。
エメラルダを納得させるためにもここは立候補をせず、エメラルダを候補者から外すようにごく自然に誘導することにした。
「こういったことは殿方に任せるのがよろしいと思いますわ。エメラルダさんもそう思うでしょう?」
「ええ、確かに、こういった場合には殿方にリードして頂きたいですわね。ミレーユ様の仰る通りだと思いますわ」
元々、エメラルダは保守的な考え方をしている。
そんなエメラルダの性格を踏まえ、万が一にもエメラルダがリーダーを引き受ける流れにならないように細心の注意を払って外堀を埋めるミレーユ。
そして、それを察せないリオンナハトとアモンでもない。
リオンナハトはエメラルダの方に一瞥を加えた後、小さく頷いた。
「分かった。アモンと俺のどちらかで……」
「いや……すまないがリオンナハト、その仕事は君に任せるよ」
「何故だ? 遠慮する必要などどこにもないんだぞ?」
「ボクは既に一軍を率いて指揮を執ったこともあるからね。今回はこの場を指揮することで君に経験を積んでもらおうという意図もある。……それに、今回はミレーユを守ることだけに集中するつもりだからね」
ここでリオンナハトにリーダーの役割を委ねるのは確かにアモンのプライドに小さくない傷を刻む行為である。
だが、例えプライドに傷がついたとしてもアモンはリオンナハトにリーダーの座を譲る選択をした。
その理由はやはり、ミレーユを守りたいからである。リーダーとは全体を見通して指示を出す役割だ。当然ながら全体の利益を考えて行動する必要がある。
仮にこの島で有事が起きてミレーユが巻き込まれてしまった場合、アモンがリーダー役になっていれば当然、指揮を執るに必要がある。今すぐにでも助けに行きたいという気持ちを押し殺し、冷静に皆の安全のために指示を出さなくてはならない。
だが、何の役割も担っていないのであれば話は別だ。
リーダーにその場を任せ、ある程度、自分の裁量で調査を進めることができる。王族として超えてはならない範囲は勿論あるが、それでも指揮官よりは自由に動くことが可能だ。
それに、リオンナハトは現時点でもアモンより優れている。その優秀さに、今の鍛錬と努力では届かないことを理解していた。
適材適所という考えにおいても、アモンが出しゃばるよりもリオンナハトが指揮を執る方が理に適っている。
しかし、それでも決して悔しくない訳ではない。これが最適であると頭で分かっていても、そう簡単に割り切れるものではないのだ。
そのモヤモヤとした気持ちを振り切るために、アモンはあえて戯けてみせた。
一方、アモンがそんな複雑な感情をしていることなど知らないミレーユはというと……。
「まぁ、アモン……」
などと、ドゥクン! と胸を高鳴らせていた。まさに恋する乙女であった。
……まあ、確かに一番の理由はミレーユを守りたいからということなので決して間違ってはいないのだが。
「……では、お言葉に甘えてこれから暫く俺が臨時に指揮を執らせてもらう。といっても、然るべき人が現れるまでの話だけどな」
「まあ、仮にボクが指揮を執っていても結局、そうなるよね」
「リオンナハト、よろしくお願いしますわ。……あの方と合流できるまで、大変だと思いますけど」
リオンナハト、アモン、ミレーユの共通認識になっている情報を知らないエメラルダは三人のやり取りを訝しみ、フィレンと共に首を傾げていた。
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