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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-504 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜到着! 呪われし無人島〜Vol.1 scene.8

<三人称全知視点>


 数十分後、ミレーユは幕屋から戻ってきた。その手には小さな木箱と一振りの釣り竿が握られている。


 ほんの数分前、ミレーユはあるものを発見した。

 着替えのドレスなどは旅行鞄の蓋が開いてしまったために飛ばされてしまっていたが、鞄の片隅に括り付けられていた小さな木箱だけは暴風雨に晒されてもその場に留まっていた。

 その木箱こそ、ミレーユが存在を思い出して探し求めていたものである。


 中身を確認し、無事であったことに安堵したミレーユ。

 その中身とは、ミレーユが趣味で持ち込んでいたクッキーだった。

 「無人島とはいえ、寝る前には甘いものは必須!」という固い信念のもと、ミレーユが鞄の中に放り込んだクッキーは、暴風雨に晒されたにも関わらず小箱に入れた時の状態を維持していた。湿気に晒されてヘナヘナになった様子もない。


 クッキーが無事だったことに安堵し、すぐにクッキーを食べようと手を伸ばしたミレーユだったが、寸でのところで踏み留まった。


 ……これは、皆の前できちんと平等に分けた方がいいような気がいたしますわね。


 食べ物の恨みが弾頭台(ギロチン)に直感することをミレーユは身をもって知っていた。

 クッキー一枚を先に食べてしまったことで、恨まれて弾頭台(ギロチン)にかけられる可能性だって皆無とは言い切れないのだ。仮に苺のホールケーキを苺の一粒も残さず丸ごと食べたというなら弾頭台(ギロチン)にかけられるのも致し方なしだが、流石にクッキー一枚で弾頭台(ギロチン)にかけられるというのは割に合わない。……ミレーユの中で弾頭台(ギロチン)にかけられる基準が少しおかしいような気がしないでもないが。


 自身の食欲という名の欲望と、まるで勇者が魔王と対峙する時の如き熾烈な戦いを繰り広げたミレーユは、ついに勝利を捥ぎ取り、クッキーを持ってリオンナハト達と合流したのである。


「……よくこんなものを持ち込んでいましたね、ミレーユ姫殿下」


「備えあれば憂いなし、ですわ。まあ、わたくしにかかればこのぐらい当然のことですわ!」


 感心した様子のカラックにミレーユは得意げになる。


「それはよろしいのですけれど……何故、平民にまで当たり前にクッキーを与えるんですの? 納得いきませんわ」


 一方、エメラルダはそんなミレーユの判断に不服そうな顔をしていた。

 平民にまで何故クッキーを平等に配るのか……貴族の価値観で考えれば寧ろエメラルダの考えの方が王道ではあるが。


 ミレーユはそんなエメラルダに呆れる。肝心なことを何も理解していないと言わんばかりに……。

 そう、ミレーユは決して善意でクッキーを提供した訳ではないのである。その裏には深い深い思慮の果ての打算があった。


 確かに、クッキーを沢山食べればお腹は膨れる。だが、小箱に入ったクッキーはせいぜい十枚程度、それだけで数日お腹が持つとは思えない。

 だが、もしクッキーを分け与えればどうなるだろうか? 確かに自分が食べる量は減ってしまうだろう。しかし、それと引き換えにミレーユは得難いものを得ることとなる。

 それは即ち、食料の乏しい無人島で自分自身もお腹を空かせているのに惜しみなくクッキーを振る舞ったミレーユに対する恩義だ。


 一粒の麦死なずば、ただ一つにてあらん。 もし死なば、多くの実を結ぶべし。

 『ヨハネによる福音書 十二章二十四節』の言葉である。


 この言葉をミレーユは知らない……が、ミレーユはこれを無人島に残った奇跡のクッキーで再現したのである。

 まあ、本人は「クッキー一枚で恩義を得られるなら安いものですわ。もし、この先、リオンナハトやカラックと敵対することになっても今回のことを持ち出して見逃してもらえるかもしれませんし」などと打算的なことを考えていただけなのだが。

 ……まあ、それもこれもこの無人島から脱出できればの話ではあるが。圓達が来ていることを知っているため、最悪の事態にはならないだろうとタカを括って心のどこかで油断しているミレーユである。


 それに、打算はなくともクッキーを従者に分けないという選択はミレーユの中にはなかった。

 ライネにあげるのは当然のこととして、カラックにあげなければリオンナハトの怒りを買いそうで怖い。それに、カラックを元気にしておけばクッキーがウサギ鍋になって返ってくる可能性もある。まるで海老鯛である、投資しないなどという選択肢は存在しない。


 そして、フィレンに関しては……もし、倒れられたらエメラルダが面倒くさそうだし、という考え故である。

 ちなみに、カレンがこの場にいたとしたらミレーユもクッキーを分け与える提案をしていた。……とはいえ、この状況を見越していた側のカレンなら普通に食糧を持ち込んでいてもおかしくはないが。


 ちなみにミレーユ含めて七枚を消費し、残りも割って分配してしまった。一瞬、カレンのためにも残しておいた方がいいかもしれないか、と思ったミレーユだが、様々考えた末に「まあ、大丈夫ですわね」と判断した結果である。

 奪い合いを危惧し、それならばお腹に入れておいてしまえばいいというミレーユなりの危機回避術である。


「……しかし、釣り竿か。あの暴風雨の中で見覚えのない釣り竿が残されていたということは、やはりカレン殿の置き土産か?」


「ふむ……」


「どうしたんだい? ミレーユ」


「いえ……確信はできませんけど、カレンさんでは無さそうな気がしますわ」


 もし、カレンであるならば釣りの仕方を伝授してから姿を消しそうなものである。

 或いは、水着と銛でも用意しておいて「潜って自らの手で魚を勝ち取ってきなさい」とメモを残しそうだ。実際、カレンはリオンナハト達に素潜りの方法を教えていた。

 口に咥えるタイプの小型エアー発生装置は残念ながらテントごと流されてしまったが、もしあれが残っていれば銛を持って素潜りし、魚を捕らえるというのも手段として考えられただろう。


「……となると、これは諜報員が残したものの可能性が高そうだね」


「やはり、島に居ても助けてくださる気は微塵もないということですわね。何かしらの条件を満たさない限り、現れてはくれないと」


 アモンの言葉に、ミレーユは溜息を吐き項垂れる。


「……やはり、あの洞窟を探索せざるを得ないということだな。一先ず、食料の確保が先決だ」



 幕屋に戻った一行は、ミレーユ達の許可を得て幕屋を物色した。

 しかし、収穫は先程存在を確認していた釣り竿のみ。とりあえず、リオンナハト、カラック、アモンの三人は釣り竿を持って海岸へと向かった。


 その後も、何か見つからないかと幕屋の残り物を物色していたミレーユ、ライネ、エメラルダ、フィレンの四人だったが……。

 せいぜい見つかったのはあまり見ないように、と鞄の底の方にしまい込んでいたアレくらいだった。


「ああ、水着……。それもエメラルダさんが用意したいかがわしい方ですわ……。これは、使えませんわね……」


 ぽーいっと捨てようとしたミレーユだったが……。


「あっ……ミレーユ様、少し待ってください」


 それを見たライネが慌ててミレーユの手を離れた水着をキャッチする。

 それを見たアンヌが、慌てて水着をキャッチした。そして、数秒の見分の末、ライネは口を開く。


「……これ、使えます。ミレーユ様」


 ライネの言葉に首を傾げるミレーユだった。



「なかなか察しがいいですわね。……てっきり、どこか抜けているお姫様かと思っていましたが、肝心なところではなかなか鋭い様子。圓様が目を掛けるのも納得ですわね」


 島の上空、風魔法を応用して生み出した床に足を置き、光魔法によって光を屈折させることで擬似的な光学迷彩を生じさせ、水属性の幻惑魔法と組み合わせて地上の様子を見ていた諜報員の一人はミレーユ達の様子に関心していた。

 釣り竿の用意も全てこの諜報員、ミルィシアが独断で実行したものだ。


 上層部の指示でも圓の意思によるものでもない。その行いが、圓や他の諜報員の意に沿わないものであるかもしれないが、それを承知でミルィシアは釣り竿を幕屋に運んだ。

 その目的はいくつかあるが、その一つがどういった反応を示すか興味があったということである。実際、ミレーユの判断はミルィシアが期待していた以上のものであった。


 ……まあ、結局のところミルィシアの最も大きな目的は膠着した状況に飽きつつあるミルィシアの単なる暇潰しでしかないのだが。


「ミーフィリア様、レミュア様、桃花様、篝火様、美結様、小筆様、レナード様、アルベルト様――『諸島の地下都市遺跡ケイオスメガロポリスのスクライブギルド』の探索を進めていた皆様も動き出したそうだし、ラインヴェルド陛下、オルパタータダ陛下、レジーナ様、ユリア様、アルティナ様――海洋国マルタラッタ組も圓様とソフィス様と共に向かってきている。諜報員も各島で異変が起きた場合の対処を目的に過去類を見ない人数が投入されているし、どんな想定外の状況になったとしても後手に回ることは無さそうね」


 もっと戦力を集めることも可能だったが、数を活かせる類の戦場ではないため、少数精鋭となった。……まあ、それでも多いため、最終メンバーの選定が行われることになるのだが。

 できる限りの準備は整えた。もし、これで負けることになっても人数を理由に言い訳はできない。


「さて……『這い寄る混沌の蛇』の動きはなし。もうしばらく、平和な時間が続きそうね」


 生欠伸を噛み締めつつ、ミルィシアは大きく伸びをしてミレーユ達の観察を続けるのだった。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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