Act.3-18 冒険者ギルドの一騒動とアネモネの勧誘 scene.3
<一人称視点・リーリエ>
全員に幻想級の装備を渡して、切り札にしてもらうということは決めていたけど……さて、何を誰に渡すのが一番かな?
「……まず、ラルさんには……これだねぇ。『ブルートガング』と『ナーゲルリング』。どちらもディートリヒ伝説系の幻想級装備で前者はハイメがディートリヒに挑戦するために旅立った時に父から持たされたもので、後者はディートリヒから下賜されて英雄ハイメが使ったというものだねぇ。まあ、あんまりパッとしないだろうけど、幻想級だから現状ある武器よりは強いからねぇ」
「ありがとう。大切にするわ」
「次はヴァケラーさん。……これかな? 『鬼神温羅の金棒』。大倭伝説系の装備で、岡山県南部の吉備地方に伝わる古代の鬼温羅が持っていたというフレーバーテキストのある金棒だよ。……まあ、桃太郎の鬼のモチーフになったというだけで、実際に鬼だったかは分からないんだけどさ……吉備津彦命の時代には《鬼部》すらないし……まあ、そんな化石なんてもう実在していないと思うよ……多分」
まあ、小豆蔲さんも少女みたいな見た目に反して結構なお年みたいだし、本物の鬼は年齢が分かりにくい上に下手をすると千年以上生きていることもおるからねぇ……まあ、生きた化石の光竹赫映さんとか、浦島子さんみたいな仙人も実在する訳だし、そこまで特別だっていうイメージはないけど……。
「返答には困るけど……とりあえず、ありがとう」
「次はジャンローさん。……そうだねぇ。幻想級装備、『ブリザードブリンガー』をあげるよ。前者の二つみたいに神話や伝説に典拠があるものじゃないけど、ボクの『銀星ツインシルヴァー』も神話由来のものじゃないからねぇ……ガッカリすることはないと思うよ?」
「アネモネさんが選んでくださった武器ですから間違いがある筈がありません! この武器に恥じぬ強い剣士になって見せます!!」
……何この反応。あまりボクを過信し過ぎない方がいいと思うんだけどねぇ……ボクの見立てが間違っていることだって充分にあるんだから。
「ティルフィさんには……これかな? 『接骨木の杖』……お馴染み、某魔法ファンタジーの児童文学に登場する最強の杖と同種のものなんだけど……一応、極めて並外れた人間にしかその実力を引き出せない、自分の持ち主が共にいる仲間より劣っていると感じれば、持ち主に見切りをつける、なんて性質があると言われているけど、まあ、装備が裏切るということはこっちでも滅多にないだろうからねぇ」
「これほどのものを、本当に私なんかがもらっていいのでしょうか?」
「……まあ、うちはとにかく滅多矢鱈にレイドこなしていたから倉庫の中には同じ幻想級武器が下手なものだと何千、何万と貯蔵されて肥やしになっているんだよねぇ。特にボクが解放しているのはその中でも比較的に数が多いもの。……でも、重要なのは希少か、希少じゃないかじゃなくて、どれだけその武器を愛用するか、なんだと思うんだよねぇ。実際、手に入れたばかりの武器はその人のものであって、その人のものではない。使い古されて、馴染むようになって初めてその人のものになるって、そう感じた超越者も多かったみたいだからねぇ」
本来、武器の前に「〇〇の」とつけた方がいいかもしれない、という具合にカスタマイズや強化方針、使用頻度によって全く別の武器のようになっていく……製作級は最初から雛形を基にほとんど自由に作っていくけど、幻想級のような固定された武器は自分で使う中で作り替えていく、自分のものにしていくというところがある。
まあ、どっちがいいって話じゃないからねぇ。……だから、製作級と幻想級を併用するプレイヤーがいるんだよ。数字だけで語れる問題じゃない……まあ、確かにパラメーターは重要だけどねぇ。
「ありがとうございます」
「礼には及ばないよ。さて、ハルトさんには……そうだねぇ、『オレルスの弓』がいいかな? 北欧神話系の幻想級武器でᛇで表される弓の材料となるイチイによって作られたもので、北欧神話ではウル、『デンマーク人の事績』にはオレルスという名前で登場する呪文を刻んだ骨を船とし、海を渡る魔術師が持っていた弓だよ」
「ありがとうございます……これは、素晴らしいですが……矢は既存のものを使えばいいですか?」
「魔法を矢に変えて放つ……というのは難しいかな? そうだねぇ。製作級だけどかなり希少な材料を消費する『神水晶の破魔矢』を何本か渡しておくよ。……まあ、あくまで切り札という扱いでお願いしたいねぇ……ストックが沢山あるとはいえ湯水のように使われたら流石に枯渇するから」
「分かりました」
「最後はターニャさん。……『ヘリオトロープの聖樹杖』がいいかな? 回復魔法と浄化魔法の効果を上昇させる追加効果があるからねぇ。聖女の愛はあらゆるものを癒すみたいなイメージの杖かな?」
「ありがとうございます!」
「そういえば、リーリエさんって聖女を持っているのよね?」
「まあ、持っているけどねぇ。あくまでリーリエというメインアカウントは倉庫を最大まで拡張し、イベントのものを含め全アイテムや装備をクズアイテムから幻想級に至るまで入手、百人以上が対象となるオーバーハンドレッドレイドに至るまで全てのレイドを制覇、従魔をイベントやレイド制覇もの至るまで全入手、全職業を四次元職まで強化、所持金カンスト、全特技を秘伝まで強化――つまり、種族スキル以外の全てのものを完全に制覇した究極のアカウントというコンセプトだから、聖女はその中の一つに過ぎないんだよ。……まあ、施療帝と聖女のみ、蘇生魔法……施療帝は蘇生術式、聖女は聖煌甦光癒って名称だけど、これらは三十分以内でなければ魂魄剥離の影響で、神界の輪廻の輪に回される。そっから先、魂がどこにいくかは神すらも知らない運命のみぞ知るって奴だねぇ。まあ、大した力でもなんでもないけど……」
「あの……完全な形で蘇生できる時点で凄いと思うのですが……てっきり、リーリエさんの蘇生手段というのは、吸血鬼が持つという眷属化で吸血鬼化する方法だと思っていましたが……」
「まあ、確かに吸血姫は『吸血』や一定期間の吸血、食事を取らない場合に発動する『飢餓狂暴走』、吸血鬼の眷属を増やす『眷属化』といった固有スキルを持っている。……けど、いくらボクが神祖だからといって、普通の吸血鬼よりは強くなれるだろうけど、太陽の下ではステータスがガクッと下がるから(まあ、それはボクにも言えることだけどねぇ)正直、そんな方法でドーピングしたって意味はない。自力で強くなってもらわないとねぇ。……まあ、どうしても吸血鬼になりたいっていうならしてあげてもいいけど、正直メリットよりデメリットの方が高いよ。……まあ、一つだけメリットがあるとすれば、吸血鬼を含めて一部の種族は美貌に補正が掛かる上に、人間よりも寿命が伸びる。……まあ、不老不死を目指すなら吸血鬼化か解脱かを選ぶしかないのが現状かな? ……まあ、解脱の方はやり方を教えてもらったけど、仙術との相性があまり良くなかったから使ってこなかったんだけどねぇ」
ちなみに、調息法を使って自己の身中に丹を生成する……この内丹術の末に辿り着くのが仙人(天仙、地仙、尸解仙)で、その副次的効果で仙氣と呼ばれる力を利用して神通力と呼ばれる力を使うことができるようになる。
結構、闘気戦闘術と似たところがあるんだけどねぇ……。
「まあ、地道に強くなるしかない、ズルはいけないってことね。……圓さんに至っては努力の化け物だし」
「……ラルさん、酷くない? ボクは化け物じゃないよ? 世の中には一つのことを極めた化け物が溢れているからねぇ。ボクはただの器用貧乏だよ。さて、武器の方は終わったし、防具の方を選んでいこっか……必要だよねぇ?」
全員の首肯を確認して二周目……統合アイテムストレージの幻想級在庫がほんの若干だけ減ったかな??
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<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
翌朝、ボクはラピスラズリ公爵家の馬車でアクアマリン伯爵家へと向かうことになった。付き添いは無しで、馭者役はラピスラズリ公爵家で庭師をしているカッペが担当してくれている。
馬車に揺られながら、ボクは今回お茶会で主に交流することになる二人について考えていた。
兄で攻略対象のニルヴァス=アクアマリンと、妹で友人とライバルキャラの中間キャラみたいな存在で実は本編全クリア後に追加される隠しルートにより攻略が可能となる隠しキャラであるソフィス=アクアマリン。
……しかし、乙女ゲームの頃は社交界デビュー後、つまりはデビュタントの後の筈なんだけど。
ちなみに、この世界でのデビュタントは十四歳……まあ、地球における女子は十八歳になると一人前のレディと認められ、恋愛結婚の対象になったことを意味するということを指すデビュタントではなく、この世界では男女共に社交界にデビューすることをデビュタントと呼び、大体十四歳頃……前後辺りで行われる。ちなみに成人は十八歳ということなのでこの辺りはごちゃごちゃしているんだよねぇ。……ちなみに、恋愛結婚が可能になるのはデビュタント以降、賭け事や酒の解禁は成人後……十八歳、二十歳問題みたいな分類があるのです。……一体誰が決めたんだろうねぇ、こんなごちゃごちゃした設定……ねぇ? 高槻さ〜ん♪♪
まあ、社交界デビュー前でもお茶会に貴族を招くことはある筈だが、完全に御簾の中の平安貴族の娘と違って、ソフィスの容姿が秘匿されている訳でもないし、優秀な宰相を羨んだ者達が心ない噂を流すことも考えられるんだけど……そんな三歳程度の相手にするかよ、とは思うんだよねぇ。
……ただし、この世界は元の世界とは違う……のかもしれない。ネストも三歳児とは思えないほど聡かったし、心に傷を負ったものは心の成長が早い、或いは早く大人にならざるを得ない……という理論を考えてはいたけど、やっぱり賢過ぎると思うんだよねぇ。……もしかしたら、元の世界の人間に対する常識が当て嵌まらないのかもしれない。
「まあ、十歳で起こるようなイベントを前借りしちゃっている感があるし、何らかの補正が働いているのかも……って考えても仕方ないか」
「何を言っているのか分からないですけど、お嬢様、屋敷に着きましたよ」
カッペがそう言いながら扉を開け、ボクは案内役としてやってきたメイドに案内されながらラピスラズリ公爵家よりも遥かに広大なアクアマリン公爵家の屋敷へと進んでいく。
しかし、九、十歳くらいから参加するお茶会を三歳で経験するって異例じゃないかな? ボクはまあいいとして、ニルヴァスとソフィスに負担が掛かってなければいいけど……。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




