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登場人物
瞳明寺刀真 18歳 高校3年。修行中の僧侶。ハンドルネーム「寺生まれのDT」
※ 以下順次追加
礼(美瑠)からの突然の解呪依頼により、オカコミュの参加者たちはにわかに色めき立ち、デジタルの無機質なチャット部屋が一気に沸き上がった。
オカコミュのメンバーも、月光市市民祭が実は呪いから生じたものであるという事実にはたどり着いていた。だが強力かつ広範に及ぶ呪いが、やがてはこの世ならざる者に開かれた門となる可能性までは、さすがに理解が及ばなかった。
ある者は即座に承諾し、ある者はその依頼内容に戸惑いを見せた。
しかし、それぞれの返事を待つ間もなく、美瑠から彼らへの指示が、滝のようにチャット画面を流れていく。
―――――
礼「みなさん、勝手を言ってごめんなさい。かかったお金も全部払います。今だけ、力を貸してください!」
ぬうべえ「ひ~、どどどうしよう」
寺生まれのDT「それは願ってもない申し出だ! 礼さん、ぜひ協力させてください」
オカルト好き「でも、私この街来たの初めてですよ!? 土地勘もないのに大丈夫ですか?」
長老「とりあえず礼ちゃんからの指示を待ってみようかの」
礼「ぬうべえさんは萌えフェス広場の会場で待機しててください。会場内にあるバックアップ装置の場所がわかり次第知らせます」
礼「寺生まれのDTさんは車か何か乗ってますか?」
礼「長老さん、せっかく奥さんと楽しんでたのにごめんなさい! 近くのJRもみじ台駅まで戻ってください。駅前のバス停に特設会場巡回バスが止まります。次の便が最終なので絶対そのバスに乗ってください」
ぬうべえ「あわわわわわかりました~」
礼「オカルト好きさん、今いるところの近くにドンキホーテ月光店があるの見えますか? 見つけたらお店前の道路で少し待っててください」
寺生まれのDT「ごめん、交通機関で来た……。原付の免許は持ってるんだけど、この時間じゃ調達は難しいよね」
―――――
「ドンキ月光店の前で待ってます。名前は末堂です。大至急お願いします!!!」
美瑠は、ほとんど言い終わらないうちにタクシー会社への配車依頼の通話を叩き切った。
双方向通話装置で、礼からバックアップユニットの外見と破壊方法を聞きながら、月光市市民祭公式HPやら、タクシー会社のHPやら、バスの時刻表やらのウェブサイトが開かれた礼のノートパソコンでグーグルマップを凝視し、高速で思索を巡らせる。
4人中3人の移動については目途が立ったが、残る一人が難航している。聞けば彼は、現在美瑠がいる雑居ビル近くの寺を散策中らしい。といっても、残念ながらこの辺りは商業地区からそれなりに離れていて、最寄りの特設会場までは車で10分近くかかってしまう。先ほど問い合わせたタクシー会社からは、近くに営業中の車両がいないため、5分以上は待つことになると言われてしまった。
(どうしよう……、あと一人……、あと一人……。この辺はバスも通ってないし、タクシーもダメ。お祖母ちゃんなら車もってるけど、さすがに今すぐは無理だし……、あっ!!!)
不意に、先ほどのチャットの一言が頭に浮かぶ。
「……原付っ!!!」
急いでデスクの引き出しを開けると、そこに兄のオンボロスクーターのキーがしっかり入っていた。それは礼がいつも移動のために使っているスクーターだが、今夜は理夢も含めた3人での移動だったため使用せず、このビルの駐輪場に停めたままになっていたのだ。
◇
「寺生まれのDT」こと、瞳明寺刀真が、夜の月光市を影すら置き去りにしそうな速さで駆け抜けていく。
実際、彼の身体能力は同級生たちと比べてもずば抜けていた。
彼が生まれたのは、遠く奈良時代から続くとも言われる由緒ある古寺である。表向きは一般的な寺社と同様の仕事を生業としているが、その裏では、古より連綿と伝わる退魔の秘術を用い、浄霊や悪霊払いを行う、いわゆる「バリバリの武闘派」でもあった。
そのような環境で幼少より「家業」の修行を続けていた刀真は、すでに並の退魔士ではとても及ばないほどの実力を有していた。
また、彼は容姿にも恵まれていた。少し長めに伸ばしたサラサラの黒髪に、意志の強そうな眉と切れ長の目がよく似合う。寺生まれにより身についた、上品な所作と和の雰囲気が周囲の女性の心を鷲づかみにするらしく、彼の住む町では隠れファンクラブが複数存在するほどだった。
そんな彼が、手にしたスマホのチャット画面に導かれるままに、見知らぬ街の夜道を疾走している。自分の仮説通り、月光市で起こった異変には、呪いが介在していた。だが、この異変は放置しておくと人々に災いをもたらす厄介なものらしい。
(緊急事態とはいえ、まさか僕が呪いを止めるための一員になるとはね)
緊張と期待の中で、刀真はこの街に来て正解だったと確信した。
◇
雑居ビルまでの道をチャットでナビゲートしていた美瑠が、非常階段の3階踊り場に出てきたとき、ちょうど眼下の歩道を刀真が走ってくるのが見えた。
美瑠の予想はいい意味で裏切られた。5分はかかると踏んでいた距離を、刀真はものの2分でたどり着いたのだ。
雑居ビルの左サイドに設置された駐輪スペースの前に立つと、刀真は早速チャットで自分の到着を知らせる。
刀真「えー、『つきました』……と。うわっ、返事早っ! え? 上?」
ポンっと表示された「上からキーを投げます」とのメッセージを見て、慌てて刀真が上を仰ぎ見る。
その瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、高校生の制服を着た少女だった。
(礼さんて、女の子だったのか……?)
少女は、刀真と目が合うや否や、すぐに手にしたキーを放り投げた。
非常階段の上から、スクーターのキーが落ちてくる間のほんの数秒、刀真は見惚れていた。強い意志がみなぎる真っすぐな瞳と、口の端にチョコレートをつけた、可愛らしい少女の顔に。
5話連続の予告投稿で力尽きました……。
次回投稿はちょっとだけ時間いただきます。
(週末ぐらいかなあ)
◇
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