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ギタイマシ  作者: ヒロキヨ
エピソード3 Party Shaker
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27

 とはいえ、礼たちにのんびりしている余裕はない。

 市民球場は祭りの特設会場として連日イベントが行われるようになったため、資材置き場には想像以上に雑多な資材が放り込まれている。狭い通路を足早に物色してまわり、これはと思しき覆いをまくり上げると、果たしてその下からいかにもといった怪しげな機械が姿を現した。


「多分こいつで間違いねえだろう」


 覆いを完全に取り払い、改めて機械を観察してみる。

 部屋のすみにひっそりと置かれたそれは、ベースとなるノートPCに他の機器やむき出しの基盤をごてごてと増設しただけの、手作り感満載の外見をしていた。

 横からは電子化された呪詛をデーモンデバイスへと供給するための光通信ケーブルが壁に沿って伸び、PC下部には無停電電源装置(UPS)、増幅装置ブースターなどのパーツがくくりつけられている。さらにその下には……


「どわあっ!」


 無骨な電子装置の陰から出てきたのは、成人男性の二の腕ほどもある巨大な芋虫らしき生物だった。

 黄色がかった透明な液体で満たされた円筒形のプラスチック容器の中で磔にされながら、その「蟲」は明らかにまだ生きていた。

 むき出しの基盤からのびた4本のコードの先端にある極太の注射針のような端子が、「蟲」の頭部と腹部に左右2本ずつ深々と突き刺さっている。

 だがこの生物はそんなことも意に介さず、百足(ムカデ)のような多足をうねうね動かしながら、芋虫には似つかわしくない凶悪な大あごを絶え間なく開閉しているのだ。

 おそらく人間界には存在しないこの「蟲」もまたデーモンデバイスのパーツの一つなのだろうが、その気味悪さは男の礼といえども相当な嫌悪感があった。

 

「こりゃあ、美瑠や嬢ちゃんがいなくてよかったな……」


 さらにこの場に千霧がいれば、この装置から発せられる微弱な波動が呪いにかかった市民を装置から遠ざけていることを説明したのだが、いずれにせよ礼の推測通り、これが森嶋の言う「バックアップ」であることに間違いなかった。


 目標物を発見し、さっそく“サーチ&デストロイ”の次の段階に取り掛かる。

 ノートPCにつながれている機器を片っ端から取り外して床にばらまき、室内に保管されていた野球道具の中から拝借した金属バットでPCともども叩き壊す。

 コンサートの大音量が都合よく破壊音をかき消してくれたお陰で、礼は周囲に気取られることなく無事に作業を完遂することができた。


「芋虫ちゃんはもうちょっとここに隠れてような」


 怖いもの知らずな礼であったが、さすがにこの未知の生物を金属バットでどうこうする勇気はない。

 容器の中から執拗に礼の指を狙って大あごを開け閉めする「蟲」を室内の目立たぬ場所にしまい、再び覆いで隠すと通信装置を操作してビル内にいる千霧に連絡を入れる。

 

「任務完了だ。バックアップ端末はきっちり破壊してやったぜ」


 すでに屋上から階下に移動していた千霧は、醜く肥大した祭鬼の前で礼からの報告を受け取った。


「ではこちらも只今よりデーモンデバイスを破壊する。君は念のためそこに待機してくれ」

『あいよー』


 バックアップ装置なき今、目の前のデーモンデバイスを破壊してしまえば15分後にシステムの復元は行われず、都市にかけられた呪いも徐々に失われていくはずである。

 そうすれば、自我も保てぬ状態のままシステムの一部としてただ生かされているだけの祭鬼も、この果てのない苦しみから解放される……

 

「と、いうわけだ」


 そう言って祭鬼の鼻先に錫杖を構えた千霧の瞳には、普段の凍てつくような眼差しの中に少しだけ違うものが混じっていた。



 赤黒い肉片と、粉々に砕かれた機械の破片が床一面に散らばっている。

 時刻は深夜の12時に差し掛かろうとしていた。

 室内は静寂に満ち、動くものは何もない。

 部屋の中央には千霧が、入り口ドアの陰には狐の面をつけた理夢がいたが、どちらも微動だにしなかった。遠く市民球場から届く音楽がビルを通り過ぎていく中、ふたりとも15分が経過するのをただただ待っていた。


「時間だ」


 訓練により正確な時間知覚を身につけている千霧が、確認のためスマホを取り出す。

 スクリーンの時間表示が1分進み、15分の経過を知らせたと同時に、室内に散らばっていた無数の肉片が一斉にもぞもぞと動き出した。


「何っ!?」


 後にも、先にも、この一瞬しかなかった。決して隙を見せる事のない千霧が唯一、気を取られた一瞬。奇襲をかけるには最良の瞬間。

 その瞬間、千霧の背中を鋭利な刃が切り裂いた。

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