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夜祭を彩る色とりどりの街灯が、腰まで届く長い黒髪を縫って宝石のように煌めいている。
一輪の花を思わせる千霧の立ち姿は、祭りの幻想的な照明に照らされて思わず見とれてしまうほどの美しさだった。
「呼び出しに応じていただき感謝する」
無感情な感謝の言葉とは裏腹に、千霧の内心では警報が大きく鳴り響いていた。
先ほど、森嶋の背後に立った時、千霧は幼いころからの習性で己の気配を完璧に絶っていた。……はずだった。
にもかかわらず、森嶋はまるで初めから見ていたかのようにこちらの存在を把握していた。
本来ならば、相手が人であれ魔物であれ、これほどあっけなく気配を悟られるようなことはないはずだ。
(この男……、やはり普通ではない)
警戒のレベルを一段引き上げ、千霧はひとまず相手の言葉を待った。
「感謝、だと……?」
愛するわが子をさらった犯人を目の前にして、森嶋の心にふつふつと怒りが湧き上がってくる。
「卑怯者が何をしらじらしい! あのようなことをされれば、嫌でも出てこざるを得なかろう!」
口元から唾を飛ばしながら千霧に詰め寄り、貫かんばかりの勢いで人差し指を突き付ける。
「貴様っ! 娘は無事なのだろうな!?」
「その件についてはどうか信頼してほしい。すでにお知らせしている通り、我々の目的は彼女ではなく、別にあるのだ」
「ならば直接私に言えばよいではないか! それを卑劣極まるあのような非道、許されると思っているのか!」
その言葉を聞いて、千霧の脳内にフンスと鼻息を立てる理夢のドヤ顔がぽんと浮かんだ。
(「あの病院で寝ているのは私。私がいいと言うんだから、いいに決まってる」)
さすがに状況が状況なので寸前のところで食い止めたが、食いつくような目で千霧を捉えていた森嶋は、紅色の飴細工のような唇の端に、かすかに浮かんだ笑みの欠片を見逃さなかった。
(この状況で、笑うか)
それは、憤怒に燃えさかる森嶋をかえって冷静にさせた。
どうやらこの女は怒りをぶつけるだけで何とかなる相手ではないようだ。
ただ闇雲に要求を突き付けても、あの氷のような一笑に付されるだけだろう。
警戒のレベルを一段引き上げると、森嶋はすでにいつもの陰鬱な口調に戻っていた。
「……お前たちの目的はわかっている。あの装置を、止めろと言うのだろう」




