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「問題はそのバックアップユニットってやつのありかだな」
礼が次の議題を上げて会議を仕切りなおす。
「私の見る限り、あのビルの中にそれらしきものは見当たらなかった」
あの夜、千霧は礼たちの消失後もその場に残り、抜かりなくビル内の様子をチェックしていた。
「あの人の研究室や私の家を探せば、何か手掛かりがあるかもしれない」
「いや、あんなことがあった後だ。おっちゃんもそんな不用心なことはしないと思うぜ」
「う~ん、こんな街の中じゃ、手掛かりのひとつでもないと探しようがないような?」
美瑠の言うとおり、確かに手詰まりだった。そのうえ天剛の懸念が事実だとすれば、事態は切迫している。この一事のみにもたもたと時間をかけている余裕もないのだ。
誰もが妙案を思いつかないまま、沈黙が続いた。
過ぎていく時間のもどかしさに、千霧がつややか膨らんだ唇をかむ。
(やはりここは……)
「あの人に……、直接聞くしかない」
それは理夢の声だった。まさに同じことを考えていた千霧は思わず顔を上げた。
「ええっ!? 直接聞くって……、森嶋さんに? そんなことできるの!?」
美瑠の言葉に千霧も内心でうなずく。
自宅や装置のあるビルをこちらが把握している以上、再び森嶋に会うことはそれほど難しくないのかもしれない。だが、会えたからといって森嶋が素直にバックアップユニットの場所を教える道理はない。それが千霧の悩みどころだった。
「何かいい考えでもあるのか?」
皆の疑問を代表して礼が訊ねた。
「あの人は私がすべて。世界の何よりも私が大事。だったら、それを奪ってしまえばいい」
「「「!」」」
過激な言葉に驚く3人を尻目に、理夢はいつもと変わらず淡々と言葉を続けた。
「私を、誘拐する」
「誘拐って……、あの、病院に寝てる方の嬢ちゃんをか?」
「そう」
「なるほどな……。君の身柄と引き換えに、森嶋から情報を引き出す、か」
「ふえ~~、じゃあ私たち、誘拐犯になっちゃうの?」
「その心配はいらない。私はずっとあの病院に隠れていたから、中のことは詳しい。あの病院にはほとんど人の来ない場所があって、そこに私のカラダを移動しておけばいい」
「あっ……、それで森嶋さんから話を聞けたら、理夢ちゃんの体の居場所を教えればいいんだね!」
「う~ん、確かにあんだけ親バカなおっちゃんなら、正直に話すかもしれねえなあ。でも、いいのかね? 勝手にそんなことやっちゃって」
「……」
「え? 何?」
「礼はヘンなことを言う」
「へ? なんで?」
「あの病院で寝ているのは私。私がいいと言うんだから、いいに決まってる」
『言ってやった』と言わんばかりの得意げな顔で、理夢はフンスと鼻息を吹きだした。
「はっ! 言われてみれば、そりゃそうか! 他にアイデアもないみたいだし、いっちょその作戦でいってみるか」
「もう、お兄ちゃんはホント適当なんだから……。ねえ、千霧さんはどう思う?」
「ん? 私は悪くない計画だと思う。森嶋との接触は危険だが、時間もない以上、私たちはその危険な道を選ばざるを得ないからな」
「よしっ! んじゃあ、決まりだな」
握りこぶしをもう一方の手のひらに当て、ぱしんと景気の良い音をたてる。
「あのネクラなおっちゃんが腰抜かすぐらい、ぶったまげさせてやろうぜ!」




