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ぎゃくさつ! ~JKのどきどき紛争傭兵ライフ~  作者: ルト
第五章 ラストミッション
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突破口(1)

 ベルナルドを拘束して、沙希たち強襲チームは全員合流を果たした。


 手近な建物の空き部屋を徴発してベルナルドを取り囲む。

 アメリア、ロザリー、ジゼル、そしてブレンデンだ。ベルナルドの秘書も連行されている。

 ライザも一命を取り留めた。口径の小さい拳銃だったため威力が弱かったのだ。


「後回しにしちゃってごめんねライザさん」

「正直ぶち殺してやろうかと思った。こっちが死にかけてるのに爆笑しやがって」


 全身に止血テープを巻きながら沙希とライザはボソボソと話す。


「今はとにかく出血を抑えて、充分な輸血を確保できる環境ですぐに銃弾を摘出。うん、大丈夫だね。そのためにも」


 沙希は振り返る。

 部屋の中央で、ベルナルド膝をついて座らされている。

 ブレンデンに銃を向けられても、ベルナルドは飄々(ひょうひょう)とした態度を崩さなかった。


「ベルナルド・ストラーニ。包囲を撤退させろ」

「無茶を言う。これだけFHが暴れたあとで、俺の口八丁が通じるとでも思うのか?」

「通じるでしょ」


 ライザの手当を手伝いながら、沙希は声を向けた。


「あんたはそういうタイプだ。常に裏道をいくつも用意してる」

「ご評価痛み入るね」


 うんざりと肩をすくめ、ベルナルドは受け流す。


「てめえじゃ無理か?」


 役立たずなら一発殴らせろ、とばかりにロザリーが前のめりになる。

 その彼女にベルナルドはウィンク。

 鼻白むロザリーを含めて、ベルナルドは一人ひとり順番に視線を向けていった。


「やりようはある。諸君の協力が必要だがな。……ギーツェンくんは義に(あつ)い男だ。情に訴えてやれば話が早い。つまり、」


 そこで一度切って、勿体つけずに言葉を続けた。


「無駄な戦闘を止めて逃げた方が仲間を犠牲にせずに済む、と(ささや)いてやればいい」


 なるほど、と言ったのは沙希だけだ。何人かが沙希を振り返った。

 沙希は止血テープを治療箱において、通信機を手に取る。


「ジョッシュ。援軍の手配状況はどうなってる?」

『出発準備中だ。作戦は成功したし、破壊されたグロリアの機密処理もしなければならないからね』

「ほう! 素晴らしい。それなら問題はすべてクリアされたようなものだ」


 芝居がかったベルナルドの笑声に、ブレンデンは渋面を浮かべる。

 場の主導権を拘束された男に奪われている。


「……許可を出すまで口を利くな」


 ベルナルドは口を軽薄な微笑に閉ざし、肩をすくめた。




 作戦はシンプルなものだ。


「ベルナルド・ストラーニの亡命を受け入れた。本隊が迎えに来る」


 そんな風聞を流したのだ。

 とはいえ動かせる人員に制限がありすぎて、アメリア機が外部スピーカーで演説したり、遺棄されたウォーキーボックスが勝手に録音を流したりという間の抜けた宣伝工作になった。


「レコーダーなんてよく積んでたね」


 暇そうなベルナルドに沙希が話しかける。

 一瞬不愉快そうに顔を歪めたベルナルドは、声だけは平静に答えた。


「どうせ通信網はお前たちに荒らされて使い物にならなくなる。ウォーキーボックスを伝令に使っていたんだ」

「時代錯誤な……。こんな不自然な工作でいいの?」

「下手でも構わない。要は伝わればいいんだ。俺の身柄がお前たちの管轄になったのは事実だからな」

「黙れと言ったはずだ」


 ブレンデンに叱られて、ベルナルドは首をすくめた。




 続いて、スクランブルでやってきた戦闘機が包囲網の一角に爆弾を落としていく。

 救出部隊から一機だけを先行させたのだ。

 攻撃の効果範囲も限られた、こけおどしの一撃。

 それでも情報工作にあった「迎えに来る本隊」の先触れとしては十分だ。


「あとは、こちらの抵抗戦力が侮れないとアピールするだけだね。そうでしょ?」


 沙希に尋ねられ、ベルナルドは苦々しくうなずく。


「背後から敵の援軍が迫っている状況で、籠城(ろうじょう)する敵を攻め切れないかもしれない……そう思わせれば勝ちだ」

「本当か? 沙希機、ジゼル機ともに交戦で破壊され、ロザリー機もまた中破状態に陥っている。この状況で援軍を待って籠城とはあまり楽しくない展望に思えるが」


 ブレンデンの苦言に対し、ベルナルドは自信を湛えた笑みで顎を上げる。


「自信がないなら俺が指揮を執ってやろうか?」

「黙って寝てろ」


 沙希が肩を蹴っ飛ばした。

 両手両足を縛られているベルナルドは、あえなく床に転がされる。同じく拘束されるベルナルドの秘書が気まずげに目を逸らした。

 と、建物の表にジープが止まる。

 街の巡回に向かわされていたロザリーだ。苛立たし気に足を踏み鳴らして部屋に押し入ってくる。


「本当にあったぞ! この野郎、マジでただの幼稚園に武器工場を作ってやがった」

「お前たちだって『幼稚園に偽装した武器工場』と報道して爆撃するだろう」


 ベルナルドは悪びれない。


「作るだけなら大それた設備なんて必要ない。そもそも、護衛や作業員が常駐することを喜ばれたぞ」


 今にも殴り掛からんばかりのロザリーを押さえて、沙希があっけらかんと笑った。


「いやー、ほんとにクズだねベルナルド」

「お前にだけは言われたくないな。……本当に」


 ベルナルドは忌々しくうめく。

 どうやら沙希の前でだけは余裕の表情を保てないらしかった。




 ベルナルドの情報に従って街を巡れば、武器がいくらでも集まってくる。

 皮肉抜きに沙希が呆れかえるほどだ。


「どれだけ買ってるのさ」

「まあ……俺も金だけはあるからな」


 とはいえ、と集まった武器を見渡してベルナルドが秘書と目配せをかわす。秘書は「これで全てです」と陰鬱に頷いた。


「ガザ市に仕込んだのは昔だから、どれも旧式だな。首都ならもっといい武器があるんだが」


 剣呑な告白にブレンデンでさえもため息をこらえきれない。


「こいつは生かしておくべきではないかもしれんな……」

「おっ! 殺す? 私やるよ??」


 沙希が嬉々として銃を探す。

 ベルナルドが顔を歪めて悲鳴を上げた。


「冗談でもよしてくれ! 俺が進んで協力しているのは、あんたたちにこの狂犬を押さえてもらうためでもあるんだぞ」


 はいはい、と疲れた顔でアメリアが沙希に手のひらを向ける。


「沙希、ステイ」

「ばうわう」




 やがて。

 準備を終えた沙希たちと、充分に包囲陣を狭めた武装組織が交戦した。

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本作は金椎響様「さよなら栄光の讃歌」をもとに、本人の許可を得てスピンオフとして描いた作品です。

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