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ぎゃくさつ! ~JKのどきどき紛争傭兵ライフ~  作者: ルト
第五章 ラストミッション
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ラストバレット

「八津沙希。お前だけは殺したかった」


 ベルナルドは沙希を見下ろし、笑みを凶悪に引きつらせている。

 沙希はあおむけに倒されて銃を踏みつけられている。ストラップを肩に通しているため、それだけで体も縛られた。


「人間のふりをした悪魔め。お前のために俺はどれほど損失を出したと思っている。ギーツェンに頭を下げてヴォーリャを動かす羽目になったのもお前のせいだ。おかげでヴォーリャの仕入れルートをあらかた吐かされたぞ」


 ベルナルドの恨み節を、沙希は鼻で笑い飛ばす。


「もう関係ないことでしょ。どうせ国から出るつもりなんだから」

「俺のような裏稼業は、隙を見せるとどこまでも悲惨な目に遭うんだ。どこでロシアの沼に脚を取られるかわかったもんじゃない」

「ハ。いい気味だ」

「ロシアの生産力でWBを利用されると、どうなるかな」


 沙希の表情が消えた。

 ベルナルドは笑みを吊り上げる。


「ロシアだのイギリスだの、大国には売りたくないんだ。俺のWBは紛争経済を変える。なのに大国がいち抜けしてしまったら、金の湧きどころがなくなるだろう。それでは意味がない」


 語りながら、ベルナルドは前のめりだった身体を起こしていく。銃口を沙希の額から離す。

 沙希から離れていく。

 体を起こして訝る沙希。その表情を見てベルナルドは悪辣に笑った。


「俺を守れ。そうすれば、お前は俺が守ってやる」


 まるで映画のようなセリフ。

 沙希の表情は困惑に曇る。


「殺したいんじゃなかったの?」

「殺すよりも金になる選択肢があるだけだ。さあ、選べ。俺の時間は値段が高い。お前の価値を上回ったらその瞬間に撃ち殺す。断っても殺す。人殺しの化け物も、自分の命は惜しいだろう?」

「そう――だね。死にたくはないかな」


 沙希は困ったように笑った。

「でも、」と口の中だけでつぶやいて。倒れるライザに目を向けた。

 ベルナルドが撃った。

 ゆっくりと立ち上がる。


「ねえ、ベルナルド・ストラーニ」

「なんだ? 八津沙希」


 銃口を向けられたまま、顔を合わせて見つめ合う。

 一歩、進めば手の届く距離。


「自分でも不思議なんだけどさ。何を犠牲にしてでも。友達に嘘をついてでも。私――あなたのことだけは」


 沙希は握手を求めるように手を伸ばし、


「殺したいと思ってるんだ」


 手のひらで拳銃を突き上げる。

 クラッカーのように高い発砲音は空しく響くのみ。

 沙希は腕をベルナルドの胸ぐらを引っつかみ、足でふくらはぎを引っ掛ける。払い腰。全体重をかけて押し倒す。

 ベルナルドの背中を地面に叩きつけた。

 右手の銃を奪い取って、ベルナルドの喉元に押しつける。


「かは、ぐッ。お前……ッ!」

「日本の女子高生を舐めないでよ。体育で柔道を選択してる子もいるんだから」


 沙希は笑った。

 ベルナルドの肩の付け根を膝で抑え、波乗りでもするかのように身じろぎの機先を制する。抵抗を押さえつける。


「ライザさんを撃ったね。殺すつもりで何発も撃ち込んだ。ってことは現行犯の犯行だ。私は『抵抗されてやむを得ず』あなたを殺したことになる」

「まだそんなことを……八津沙希ィ!」


 怒りの声を心地よさそうに受け流して、沙希はむしろ穏やかにベルナルドの目を覗き込む。


「面白いよね。私、ひと目でわかったんだ。あなたは――私だって」

「……っ!」


 ベルナルドは抵抗を止めた。

 沙希は笑っている。目元を柔らかく緩めて、親しい人を見るように。


「あなたは、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。べつにお金を稼いでやりたいこともないくせに、利用できる者は利用して、そのために人が死んだとしてもお金になるならまあいいかって考える。そういう私だ」


 ベルナルドもまた笑っていた。


「俺も、おまえをひと目見てわかった」


 目元を歪めて皮肉げに、抱えきれない感情に溺れるように。

 認めざるを得ないことにうなずくように。


「おまえは、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。正義も道徳も、屁とも思っていないし、なんならそれを盾にとって人を殺しだってする。矛盾している現実を笑いながら楽しんで『正義』を気持ちよく謳歌する。そういう俺だ。だから、」


 沙希とベルナルドは、目を合わせた。

 だから――。


「お前は俺に利用されてろ」


 ベルナルドはあざ笑い、


「死ね」


 沙希は引き金を引く。


――かちん、と乾いた音がした。


 二人はしばらく見つめ合っていた。


 そして、

 ぷっと噴き出して、二人は同時に笑いだした。

 笑い転げた。

 身を折って、額を押さえて、肩を揺らして腹の底から大いに笑った。


 弾は、すでに撃ち切っていた。

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本作は金椎響様「さよなら栄光の讃歌」をもとに、本人の許可を得てスピンオフとして描いた作品です。

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