隘路(1)
『準備はいい? 息を合わせて行くわよ……』
アメリアの宣言が沙希の耳にも聞こえてくる。
大通りの十字路に面したマンションの陰でFH四機は武器を構えて待機している。
ロザリーとジゼルのFHが先鋒を構え、ライザ車両の左右を沙希とアメリアが固める布陣。
FHが槍となり盾となって、進撃してくるWBとヴォーリャを正面から突き破っていく作戦だ。
だが。
機体肩部のサブカメラから様子を窺うジゼルが、うめき声を漏らした。
『……待って。ここも、敵が多い』
共有される映像を沙希も確認する。
ぞろりと隊列を組む騎士鎧のようなヴォーリャの数々。猫の子一匹も逃さない、金のかかった隊列だ。
四機が連携して包囲をこじ開けようにも、作る砲火の壁には動きが鈍る。そうなれば開きかけた穴は瞬く間にふさがれてしまうだろう。
車を通す以上、選べるルートには制限がある。
どの道も同等以上の戦力で封鎖され、あるいは破壊されていく。
選択肢は狭まる一方だ。
『火力が足りねぇ……』
押し殺すようなロザリーの悲鳴。
ヴォーリャの装甲を貫徹できない突撃銃では、どうしても照射する数秒がネックになる。
「ウォーキィー!!」
ライザが雄たけびを上げて車両を急発進させた。
一機のWBが路地から現れた。
車両スタッフが手持ち火器のありったけで攻撃。ハンドグレネードを避けたWBの運転席で、男児の身体がアサルトライフルの被弾に弾む。指ほどもある銃弾が未成熟の肉体をぶち抜いて命を奪った。
ライザが舌打ちする。
「見つかった! いったん下がる!」
「撤退、撤退ぃー! ロザリー、ジゼル、敵を留めて!」
無人の路地を駆けるジープを追い抜いて、アメリアが撤退の先頭を務める。沙希は後ろを振り返って背中向きに飛んでいく。ロザリーとジゼルは殿だ。
「いっそ攻め込んでくれれば、逆に突破口を確保できるんだけど……」
沙希のつぶやきに答えるかのように。
敵は釣り出されてくれず、包囲陣は崩れることはなく。
沙希たちはまんまと逃げきった。
手近な路地にFHで囲んで陣地を作り、ライザやブレンデンが通信機と地図を並べて額を突き合わせる。
『WBはどうにも痒いところに手が届くな。うちにも欲しいくらいだ』
ライザが忌々しげに吐き捨てた。
FHにとっては羽虫に等しいWBではあるが、軽装甲部隊にとっては脅威となりうる火力と機動力を併せ持っている。
アメリアが苦笑する。
『運用するたびに誰かが死にますよ』
『わかってるよ。使わねえわ、あんなクソ兵器』
ライザは再度吐き捨てる。
ことごとく任務遂行を邪魔されてライザは怒り心頭に発している。
包囲を縮める敵の足音が、無人の街に静かに染みる。周囲は街から取り残されたように静かだった。
ブレンデンがスナイパーライフルを取り出して点検する。
『……我々が囮になる。FHだけならば突破も可能だろう』
あぁ? とロザリーが苛立たしげにうなった。
『おい、ふざけてる場合じゃねぇんだぞ』
『子どもたちを逃がすのが優先だ』
老獪な声は気にも留めない。
ライザもまた、ため息交じりにうなずく。
『ま、そうだろうな』
仕方ねぇ、とばかりにライザが肩をすくめてタバコをくわえる。火はブレンデンに止められて忌々しげに下ろした。
同調する雰囲気が車両の兵士からかもし出される。
『待てよ。そんなの許さないからな!』
『ロザリー。では逆に問うが――他に、ひとりでも多く包囲網を突破できるプランがあるのか?』
あっという間にロザリーは黙らされた。
脱出するプランなどない。だからこうして追い込まれている。
『すまない。援軍を交渉しているが、難しい』
頼みのジョシュアも社内政治に縛られつつあるようだ。素っ気ない通信は、裏側の協議に謀殺されている証だろう。
ブレンデンは期待していないと示すように肩をすくめて、一人ひとり順番に目を向ける。
『なにかいい考えのあるやつはいるか?』
沈思していた沙希が、おもむろに顔をあげた。
「私にいい考えがある」




