ラストミッション(6)
平凡な街並みに突如湧きおこった銃撃の雨に、アメリア機は装甲を震わせる。
「っくぅ! なに!?」
『敵FHだ!』
ジゼルが叫ぶ。
民家を待ち伏せの殻として、ヴォーリャが潜んでいたらしい。
被弾の衝撃に揺れるアメリア機を越えて、ジゼル機が猛然と跳びかかった。空き家に収まるヴォーリャは逃げる暇もなく、ジゼル機の銃撃を浴びて膝を突く。ナイフにコックピットを切り飛ばされた。
伏撃の伏撃――仲間を釣り餌にジゼル機を狙うヴォーリャへと、アメリアは頭を抑える銃撃を浴びせていく。その二秒でジゼル機が取って返し、ナイフで止めを刺す。
『ありがと』
「こちらこそ。沙希のところに急ぎましょ――」
アメリア機の背中が爆発した。
WBだ。裏を取られてRPGで爆撃された。
『アメリアッ!』
ジゼルは二点速射でWBを粉みじんに吹っ飛ばす。
回避行動を取るアメリア機はひとまず後回し。ジゼル機は腰部マウントからマスカラのようなハンドグレネードを取った。振り返りざまに投擲。
投げられたハンドグレネードを、飛び込んできたヴォーリャが目で追っている。ジゼルはそのヴォーリャを撃ちまくった。
『待ち伏せだからって、先手が取れると決まったわけじゃないよ。おまぬけさん』
全身に跳弾の火花を散らすヴォーリャは、降ってきた擲弾に頭をぶつける。炸裂。
赤熱した燃料が装甲を過熱させ、銃弾に対する防御性能を失わせた。貫通弾に全身を射止められて大の字に倒れる。
『一機撃破!』
「わぁ、どいて――!」
飛んでいたアメリア機が、居合わせたヴォーリャに正面衝突してずってんころりん。お互いに吹っ飛んで道路に転がる。
銃口を振ったジゼルがヴォーリャを銃撃する。アメリアも倒れたまま十字砲火に合わせた。アメリア機の目と鼻の先で爆発する。
息を吐く暇もあればこそ。
倒れるアメリア機にWBが飛び乗った。機体の顔面が銃撃される。
「わああ、わああ!?」
『アメリアーッ』
ジゼルはアメリア機に駆け寄って鉄腕で打ち払い、WBを弾き飛ばす。
「うぅ……助かったわ。ありがと、ジゼル」
『不幸なのか敵がやり手なのか、わかんないね』
アメリア機を助け起こしながら、ジゼル機は苦笑をにじませた。
通信機が騒音をがなり立てる。
沙希機からの通信に衝突音が乗っていた。顔をあげて見れば、粉砕された民家の土煙が立ち上っている。FHで突っ込んだらしい。
「沙希が危ない」
決断は即時。
『助けに行こう』
二人はブーストを輝かせてガザ市を翔る。
その間にも銃撃に狙われ、ロケット弾頭が周囲を駆け抜ける。ウォーキーボックスは容赦なく町中に浸透しているようだった。
ウォーキーボックスによって戦争が本格化していく。
いちいち反撃していたら身動きが取れなくなる。二人は無視して街を突っ切る。
「よし……、もうすぐ!」
データリンクが確立される。
沙希とロザリーは無数のヴォーリャに包囲されていた。
『沙希、ロザリー! 助けに来た!』
ジゼル機がヴォーリャの脇腹にナイフを突き立てて無力化する。蹴飛ばすようにすれ違って、包囲を構築するヴォーリャへと踊りかかっていった。
「二人ともこっちへ!」
アメリアもまたマンションの陰から投擲弾を放り、銃を撃って撃って撃ちまくる。
熾烈な撃ち返しにマンションが瓦解していった。
『サンキュー! ジゼル、アメリア!』
沙希とロザリーは横目に機体でアイコンタクト。同時に飛び出していく。
別々の方向へと。
ジゼル・アメリアの強襲によってこじ開けられた包囲の穴。それを埋めるべく無理な動きをしたヴォーリャを次々と食い散らかしていく。
『ごうごうごう!』
『おらァ! 舐めるなザコどもがッ!』
叫ばれる戦意を通信機に聞いて、アメリアは苦笑する。
「ふつう、ここで反撃するかな。意気軒昂すぎるでしょう?」
――ほどなく、敵の殲滅は完了した。
奇しくもそのとき。
『撤退だ!』
身を切るようなジョシュアの命令。
『敵の数が想定を超えている! 敵の狙いは我々を誘い込んでの殲滅だ……! ――撤退しろ。生き延びてくれ……っ』
待ち伏せを殲滅した広場で、沙希たちは聞いた。
戦争の音は遠い。機械仕掛けの軍靴の音色が刻々と近寄ってきている。
くそ、というロザリーの毒づき。
『目の前にスカしたクソ野郎がいるのに、尻尾撒いて逃げるってのか?』
「仕方ないわ。あの数のヴォーリャを四機で支えるなんて無理よ」
行進する敵部隊の隊列を見ているアメリアは肩をすくめた。多勢に無勢だ。
ロザリーは腹に据えかねるように喉を鳴らす。
『撤退っても、どうすんだよ? ヘリなんか着た途端に撃ち落とされるし、戦車隊だのFH隊だのを呼べるなら初めから出してるだろ』
『援軍なんて来ない。逃げて良いよって、敵前逃亡で怒らないよって言っただけじゃない?』
『最悪だな』
「生きて帰りましょう」
曲がりなりにも部隊長のアメリアが宣言。無理にでもまとめにかかり、次の動きを始めようとする。
返事は二つ。
沙希は黙したまま沈思していた。
「……沙希?」
『え? あっ、うん。逃げるんだよね。大丈夫、逃げ足には自信があるよ」
『そいつは期待できそうだな』
ロザリーがどうでもよさそうに鼻で笑った。
おーい。遠くそんな声がする。
遠くはなかった。装甲の外だ。
「悪いが、撤退をエスコートしてくれないか」
車両隊のライザが、ジープの窓から身を乗り出して言った。
「よろこんで」
アメリアはもちろん請け負った。




