ラストミッション(5)
守ることは難しい。
まず攻撃を受け止めて通さないこと。受け止めた衝撃力に負けないこと。どちらも容易ならざる難問で、現代において"盾の兵器”は現実味を帯びることがない。
だから、味方を守るためには、別の手段が講じられる。
撃たせない。撃たれる前に撃ち殺す。撃ち返されないよう確実に仕留める。
防衛的先制攻撃を。
「ボギーワンを止める! ジゼルお願い!」
アメリアは、南イタリア風の赤い屋根にFHの上半身を乗せ、屋根のてっぺんから銃身を覗かせる伏射姿勢。
アメリアはサポートAIが敵機の動きを解析し終えるのを待って、トリガーを絞った。
吐き出された弾丸が空気を穿ってヴォーリャを横ざまに襲う。関節部を貫通して、動きが硬直したヴォーリャは棒を倒すように転がった。
『てぇい!』
制御噴射の光を引いてジゼル機が真っ逆さまに落ちてくる。
ヴォーリャの胴体、胸部装甲の継ぎ目にナイフを滑り込ませた。
激しく火花を散らして貫通する高周波振動刃式ナイフは、斬り裂く以上に破断した金属片でもって内部を蹂躙して破壊する。ほどなくヴォーリャは動きを止めた。
ジゼル機は軽やかに超振動ナイフを抜き払う。
『この距離ならナイフのほうが強いね』
「でも、なるべくなら距離を取って安全にね」
アメリアは機体を振り返らせてターゲットロック。敵のヴォーリャも最小ユニットは二機編成だ。一目散に逃げる背中を捉え、トリガーを絞った。
銃撃とともに肩のコンテナからミサイルが放たれる。
銃弾によろめいたヴォーリャをミサイルの爆炎が包み、炎熱で搭乗者を焼き殺す。
「・・・ッ」
敵の末路に想像が至り、顔を背けるアメリアの耳にジゼルの声。
『グッドショット、アメリア。これで味方の助かる目が増えた』
「・・・ありがと。ジゼル」
肩の力を抜いて、アメリアは操縦桿を握り直した。
「予定作戦時間はあと四十分。ウォーキーボックスの介入で車両部隊が危ないみたい。せめてヴォーリャは私たちできっちり抑えないとね」
『うん。でも……』
ジゼルは声を低くする。
『ヴォーリャの数が多すぎる。これが"逃亡先でかきあつめた抵抗戦力"なの?』
「どういう意味?」
『敵は戦闘を準備していたんじゃないかな』
まさか、とアメリアは苦笑した。
アメリアたち強襲チームが編成されたのは、臨時と突貫を重ねた異常事態だ。たとえ内通者がいたとしても予期できなかったことだろう。
そのうえ敵も、戦闘することに意味がない。
仮にアメリアたちと全力で殴り合って勝ったとしても、次の追手がかかるだけだ。
『そうかもしれない。けど、もしもの備えで何体も死蔵させられるほど、相手の懐事情に余裕があるのかな? まさに今、ユニット・アイリーンをはじめとする別のチームが、次々と組織の幹部を逮捕しているのに?』
「……」
アメリアは黙った――黙らされた。
まさに今。
その言葉は、そもそもウォーキーボックスが登場したタイミングにもいえた。
逮捕業務という、綿密な捜査と厳密な作戦行動が要求される仕事に人員が拘束された機会を狙って持ち込んできた。
敵はこちらの動きを観察して、そのうえで動いている。
だとすれば。
こちらが稼働戦力を振り絞った緊急作戦すら読まれていたとすれば。
「謀られたってこと?」
アメリアが口にしたその時に。
ジョシュアにしては珍しい、軽快に引きつった声が鋭く差し込まれる。
『敵の増援だ。ヴォーリャの大部隊が向かってきている!』
アメリアとジゼルは息を呑んで、同時に町の外に目を向けた。
のどかな農牧地帯の土を蹴立てる群れ。ずんぐりした鎧が隊列を組んで進んでいる。
「なんて数……どうすれば? 数を減らせばいいの?」
『突撃されたら結局抑えきれない。相手が足並みをそろえている間に遅滞戦術を取る方がマシ。地雷とか、トラップとか、バリケードとか』
「私たち二人で間に合う?」
『ムリ』
「……どうすればいいの?」
戦力に差がありすぎた。
ヴォーリャとグロリアでは性能に大きな違いはある。だからと言って、ヴォーリャの砲火にさらされてグロリアが無事でいられるわけではない。
であれば。
『やられる前にやるしかない』
「作戦目標はベルナルド・ストラーニの捕縛。敵の殲滅じゃあないものね」
うなずき合い、アメリアとジゼルは同時に機首を返して飛ぶ。
その眼前に弾幕が湧き上がった。




