ラストミッション(2)
「――!?」
グロリアの足元が爆発した。
IED、粗製爆弾。
傾いた機体のダメージを鋭く分散させながら沙希は周囲を見回す。
「待」
――逃げ出さない民間人。
「ち」
――やたら間口を大きく開けた民家。
「伏」
――護衛対象と併走しなかったヴォーリャ。
「せ」
――民家から飛び出すアッシュホワイト。
「ッ!!!」
沙希の左右を無数の亡霊が駆けていく。
ウォーキーボックスだ。五機、八機、十機……十二機もの、配されていたWBが一挙に現れた。
機体が傾ぐまま、沙希はグロリアの銃を連射する。
民家の壁を砕き、それでも十字路を駆けていくWBを捕えられない。銃の反動を加えられてバランサーが悲鳴を上げる。
倒れ行く機体の中、沙希は絶句する。
ベルナルドはWBを開発する悪魔的な商才の持ち主だ。
迂闊が過ぎた。相手はこの十字路で追跡するジープを爆破し、WBで包囲殲滅する腹積もりだった――敵の作戦を頓挫させたせっかくの幸運を、むざむざ手放してしまった。
強襲部隊は装甲化されたジープから降りている。
「逃げろぉ――ッ!!」
道路の真ん中で立ち尽くす精鋭兵士に、十二基の無慈悲な火線が突き立てられた。
バランサーの限界を超え、沙希の機体は十字路の真ん中に倒れ込む。
石畳が割れ砕け、仮想照準が乱れた。早朝の空がスクリーンいっぱいに広がる。
「こなくそ!」
シートに押しつけた腰を支えに、沙希は両手両足でグロリアを繰る。
FHは機敏に応じ、ネックスプリングで起き上がる。左足首の損傷は大きいが、走り回るのはFHの主眼ではない。
銃を向ける先で、アッシュホワイトの死霊たちは波が引くようにかけ去っていく。
入れ替わりに、曲がってくるや否や急加速するワゴン車が来た。
ぎこちなく運転しているのは子どもだ。停車したジープをまっすぐにらみつけている。
「車爆弾!」
沙希は急いで銃撃を加える。
ボンネット、フロントガラス、ルーフ、エンジンブロックに次々と大穴があき、ガソリンが火球に吹き上がった。車体がバウンドして、再度の爆発。
『バカ、後ろもだ!』
ロザリーの怒号と、背後に迫る巨大な圧迫感に沙希が顔をあげる。後方映像を出した。
背後に割り込むロザリー機。
その向こうから軽トラックが駆け込んできていた。高所作業用の足場で気休めの装甲化を施したトラックは、背中に機銃を担いでいる。
十代前半の子どもで構成された改造戦闘車だ。
機銃が吼える――寸前に、ロザリーの銃撃がトラックの横腹に突き刺さった。ガソリンが爆発する。
『無事か、沙希!』
「もちろん。さんきゅ、ロザリー」
背を合わせて立つロザリー機に沙希は笑う。
メインスクリーンに、車両の爆発を縫って道路を横断するWBの姿がよぎる。回り込むつもりだ。
と思わせて、別方向の角から銃口だけを出したWBが掃射してくる。
「く、矢継ぎ早に!」
沙希の銃弾は身をひっこめるWBを捉えることができない。入れ代わり立ち代わりに、通りのどこかから一方的に撃たれている。
道路の真ん中から撃ったところで石造りの建物に遮られる。見通しはいいが、射界が狭い。狙われ放題だ。
「これは、まずいねぇ……」
沙希はFHをジープの前でしゃがませた。
しかし機体を盾にしたところで、WBの銃弾は跳弾でも十分な殺傷力を保つ。
『逃げろ!』
ジョシュアが命令を叫んだ。
『そこでベルナルドを確保してもダメだ、流れ弾で死んでしまう! 退避するんだ。そこにいても死ぬだけだ!』
沙希はちらりと足元を見る。
凶弾に倒れた仲間を、生死にかかわらずジープの近くに引きずり戻したところだ。
ライザが気炎を飛ばし、ブレンデンが負傷した仲間を載せる。どうやら二人は無事らしい。
運転席に着いたライザが沙希の乗るFHを見上げた。
「沙希! ここは頼む!」
返事を待つ暇もない。
ジープはタイヤを滑らせて駆け出し、十字路の横合いから撃ち込まれた銃火を潜り抜けていった。
「撃たせるかっ!」
沙希は機体を翻し、十字路の角に滑り込む。
二機のWBに報復射撃。一機は銃弾を受けてばらばらに吹き飛んでいったが、もう一機は素早く機体を引いて逃れてしまった。
入り組んだ街並みが小型軽量なWBの味方をしている。
「かーっ! 街ごと絨毯爆撃で焼き尽くしてぇー!」
両足を失ってもがくWBに止めの銃撃を加えながら沙希は呪う。
『沙希ッ!』
張り詰めたロザリーの声。
レーダーに感がある。振り向けばヴォーリャが二機編成で飛んできている。
彼らからのロックオン照射を受けて、沙希は青ざめた。
「おま――まっじか!」
市場の真ん中に停まるベルナルドと、空からのヴォーリャを沙希は交互に見る。
日本車は運が悪ければ沙希機の爆発に巻き込まれる距離。――運がよければ無傷で済む距離。
そして沙希はみすみす爆破されてやるほど献身的ではない。
ほんの数歩の油断。
この距離なら大丈夫だろうと敵を撃破しに動いた距離のせいで――ベルナルドを守るヴォーリャからの砲撃を許してしまった。
(ベルナルドに近づいて盾に――ダメだ。ベルナルドに死なれて困るのは私たちだ!)
「あああああああああああああああっ!!」
沙希は咆哮をあげながら四肢を操って操縦装置を操作する。
フレアを空にぶち上げ、フルブーストで後退。街角に飛び込んで機体を隠す。
狭く切り取られた屋根の上を、フレアに誤誘導された対FHミサイルが飛んでいった。
ロザリーも同じくミサイルに追い立てられて路地に逃げ込んできている。
(再び飛び込んで確保――無駄だ。ヴォーリャは今も狙いをつけているに決まっている。飛び出したところをドカンだ!)
沙希は全身いきり立って肩を揺らしながらFHをホバー移動させ続けた。
「クソっ! くそっくそぉっ! すみませんジョシュアさん! ベルナルドから引き剥がされた!」
『見ていた。仕方ない。連携を怠った僕のミスだ。大丈夫、最後に逃がさなければ同じさ。取り返そう』
ジョシュアが一語一語を短く言う。
彼も焦っている。




