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ぎゃくさつ! ~JKのどきどき紛争傭兵ライフ~  作者: ルト
第五章 ラストミッション
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ラストミッション(1)

 ガザ市、市街。

 夜も明けきらない朝もやの街を、ベルナルドの乗る日本車のセダンが駆け抜けていく。

 クリーム色の石で造られた古式ゆかしい市街地は入り組んで、遠景での監視では建物の谷間に見失ってしまいそうだ。


 ヴォーリャの姿は見えていない。いないはずはないが、探す時間があまりにも足りなかった。

 監視衛星は、フロントガラスから見えるベルナルドの姿を捉えていた。

 彼は遠くで羽ばたくヘリの轟音に気づいて窓を気にしている。


『いい気なもんだぜ。あのいけ好かないニヤケ面を吹き飛ばせると思うとワクワクするな』


 ロザリーの軽口が通信に響く。

 沙希は聞き流しながら本部の通信に目と耳を澄ませていた。

 市街地をひた走るトヨタの監視映像が沙希たちにも回されている。


『ホークワン、作戦距離に入った』

『了解。標的に接触する』


 そんな声の直後。

 街角から飛び出した二台のジープが日本車を背後から猛追する。

 あと数センチで追突――そこで日本車が急加速した。

 尾を追いあう犬のようにカーチェイスを描きながら、夜も明けきらぬ市街の砂埃を蹴立てていく。


『そのまま追い散らせろ。すぐユニット・エコーが合流する。――せっかくバックアップを自ら壊してくれたんだ。情報素子を仲間に引き渡されたくはない』


 ジョシュアの短評。

 ぐん、と沙希の平衡感覚が傾いた。

 スクリーンから見下ろす街並みも斜めに傾ぎ、雄大な山の稜線が傾いて登っていく。

 グロリアをぶら下げて、輸送ヘリが飛んでいるのだ。


 機体の傾きがダウンバーストの角度を変え、ヘリの速度を増してモスクの屋根を超えていく。

 その先は、まだ店が開かれていない自由市場。


「降下地点を確保する!」


 パイロットの宣言と同時に、グロリアの集音マイクが銃声を伝える。

 民兵が顔を覗かせる街角や窓に機銃で牽制銃撃を加えながら輸送ヘリが急旋回――ホバリング。

 ジョシュアの落ち着き払った声が端的に言う。


『ではユニット・エコーの諸君、ノック・オン・ウッド』

「八津沙希、グロリア・タイプE四号機! 行きます!」


 ヘリに振り回される慣性の間隙。

 精密無比にその一瞬をとらえたサポートAIが、機体をつなぐロックワイヤーを切断する。ばつばつと音を立てて切り離されたグロリアは、ヘリから投げ落とされた。

 特徴的なオレンジ屋根の街並みと、屋根の間に見える砂煙の残滓。

 自由落下にあわせてすべてが迫ってくる。


「さて、戦いだ」


 操縦桿に指を巻き付けるように握り、沙希は激しく唇を笑ませる。

 ベルナルドのヴォーリャ部隊はすでに偽装を捨てていた。道路の真ん中に集まってきて、機関砲を構えて対空砲火代わりに撃つ。火線が周囲を駆け抜けていく。

 旧式だろうが海賊版だろうが、FHには変わりがない。

 戦闘機並みの砲火力を持つヴォーリャの足を止めるのが沙希たちの役目だ。


 沙希機のブーストが火を噴いた。

 火線を避けて流星のように屋根の上を翔けていく。

 ヴォーリャ四機小隊も即応してブースト、散開する。闖入するグロリアを包囲して抑えつつ、ベルナルドに迫るジープを追う動きだ。

 まるで四つ巴に連なるチェイス。

 沙希機は屋根をひらりと飛び越えて大通りに踊り込み、道の先を跳ぶように走る一機のヴォーリャにロックオン照射。


「まずひとつ!」


 アサルトライフルと六連装小型ミサイルが怒号をあげる。

 真っ逆さまに飛んでいくミサイル群を振り返り、ヴォーリャはショットガンを連射した。

 三式弾のように散らばる断片がミサイルを飲み込んで爆破していく。

 すべてを飲み込めるはずもなく、煙を貫いた残り二発のミサイルは――身を隠したヴォーリャを追ってマンションを吹き飛ばす。


「ちっ! 障害物くらい避けろ!」


 成果をあげなかったミサイルに恨み言を乗せ、沙希は操縦桿を操る。

 ヴォーリャの逃げ込んだ脇道に滑り込み、足を止めた。


「あれ? いない。……くぉッ!?」


 とっさに飛び退った沙希機をかすめて、背面と側面から嵐のような機銃掃射が駆け抜ける。

 別のヴォーリャから猛射を受けている。

 沙希は飛び上がって上空に退避し、鋭いターンで火線の竜巻をかわす。


 グロリアの機動性でなければそのまま仕留められていた十字砲火。


 集合住宅の陰に着地して射線を切った、と同時に銃声が止む。

 無駄弾を撃たず、力押しをしない。動きに合わせて戦術を変えてくる技能がある。


「あっぶね。敵はマジで精鋭だなコレ」

『一人で突っ走んな、沙希!』


 宙返りするように降下してきたロザリー機が沙希の隣に着地した。


『とにかくヴォーリャの数を減らすぞ』

「うぃ、そうしましょ!」


 駆け出すロザリー機に沙希も続いた。

 グロリアは身をかがめて武器を抱え、まるで一介の陸軍兵士のように市街地を走る。

 振動で建物の窓が割れる寸前までたわみ、建物そのものから粉を吹いていく。

 沙希は移動しながらガザ市のマップを開いた。ベルナルドの動向とヴォーリャたちの配置予測を重ねる。


「ベルナルドの狙いがわかんないな。どこに向かってるんだろ」

『は。要は全員ブッ倒せばいいんだろ』


 ロザリー機が消えた。

 見れば彼女はブーストを吹きながら街角を鋭角に切り込み、角の向こうに待ち構えるヴォーリャに肉薄している。

 相手の構えていた機関砲を、発射される前に殴る。返す拳でアッパーカット――空を切った。


「なッ!?」


 ヴォーリャは推進器を吹かして後退している。ロザリーとの間合いを離していた。

 引き下がりながらの機銃掃射。

 ロザリー機は両手の小手で体を庇う。


『ぐ、くぅううううっ!?』

「馬鹿、逃げろロザリー!」


 沙希は建物の陰から銃と肩のサブカメラだけ覗かせて、ヴォーリャに向けてアサルトライフルを猛射する。

 装甲ですべて跳ね返され、手傷を与える前にヴォーリャもまた交差点を折れて身を隠した。そのまま遠ざかっていく。


「ロザリー、平気?」

『問題ない。クソ、やっぱちゃんと整備されたヴォーリャは動きのキレが違うな』

「油断大敵だよ」


 沙希の諫言に、ロザリーは毒づきながらも首肯する。

 と、通信機が針をはじくような素っ気ない電子音を鳴らした。ジョシュアの声が響く。


『沙希。そのまま大通りを二ブロック北上して左折してくれ』

「え? ヴォーリャから逃げるの?」

『ヴォーリャを足止めするのは、あくまでベルナルドを捕えるためだ。先にベルナルドを捕えてしまえば必要ない』

「迎撃に散っている隙に本丸をかすめとろうってことね……了解! 行くよロザリー!」

『仕切んな!』


 ブーストが地表の砂を吹き飛ばして、グロリアの巨体が地表すれすれをホバー移動する。

 突き当りの民家を蹴飛ばして方向転換。手狭な横道に機体の肩をねじ込むようにして飛んだ。


『ま、待て……クソッ』

「先に行くよ!」

『勝手に行け!』


 無茶な機動に引き離されたロザリーが背後で毒を吐く。

 先行して路地を駆け抜ける沙希に、張り詰めたジョシュアの声。


『左からだ、沙希!』

「おっけ」


 沙希機は足を地に添えてスライディングしていく。

 普段は市場の開かれる大通りに滑り込みながら振り返れば、ベルナルドの日本車が迫る。


 フロントガラス越しとスクリーンを臨むファイバーグラス越し。

 互いに見えるはずのない視線が、ぶつかった。


「ぉらァ!!」


 沙希はトリガーを絞っている。

 グロリアの構えるアサルトライフルが火を噴いた。

 爆発するような弾着が石畳を砕き、日本車の左側面ぎりぎりを駆け抜けて、その後ろの建物に突き刺さっていく。

 ベルナルドは運転を誤って大きく左右に振れる。


『よくやった! あとは任せな!』


 噛み潰したタバコを吐き捨てる雄々しい気炎。

 追いすがるジープが日本車のケツに食らいつく。そのままハンドルを切った。ジープの鼻先が日本車を押して、致命的に横滑りさせた。

 完全にスリップしたタイヤは地表を上滑りし、操縦不能に陥る。朝市の木箱に突っ込んでいった。

 砕け散る木片。散らばるレモン。

 肉薄した二両のジープから強襲部隊が次々と飛び降りていく。

 逮捕劇の終幕だ。


「しゃおらー!」


 沙希が雄たけびを上げてグロリアに足踏みさせる――瞬間。

 足元が爆発した。

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本作は金椎響様「さよなら栄光の讃歌」をもとに、本人の許可を得てスピンオフとして描いた作品です。

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