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ぎゃくさつ! ~JKのどきどき紛争傭兵ライフ~  作者: ルト
第五章 ラストミッション
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彼女たちの誓い(3)


 薄暗い部屋で投影される巨大な正面スクリーンを従えて、壇上に立つジョシュアがマイクに声を入れる。


「勇敢なる諜報員が重大な情報をもたらしてくれた。至急で追加人員を配置しているが、現状で分かっている情報を共有する」


 短すぎる言葉のなかに、犠牲の存在が示されていた。

 ピリッと表情を引き締めるスタッフたちにジョシュアは語る。

 ウォーキーボックスの製造・開発は独自のもの。ここにロシアや中国の手は入っていない。

 そしてWBの設計を担ったのは、地元のチンピラから成りあがった現地テロリスト。


「この男だ」


 スクリーンに顔が移される。

 浅黒い肌に短く刈り上げた黒い短髪。大きい涙袋から伸びる垂れ目は黒い瞳が印象的だ。セクシーな分厚い唇に挑戦的な微笑を浮かべ、若々しく男性的な魅力を発散している。

 見るからに危険な男。だが同時に、見かけの軽薄さで本性を塗り潰した底知れない男。


「ベルナルド・ストラーニ」


 これが敵だ。

 沙希は生唾を飲み込んだ。目を見開いてベルナルドの顔を見つめた。

 本能が警鐘を鳴らしている。この男は危険だ。放っておいてはいけない。こいつは私の邪魔になる。

 戦慄する沙希を見て、ロザリーは怪訝に眉をひそめた。

 ジョシュアは常の微笑をひっこめて、落ち着き払った所作で机をつかむ。


「引き続き情報は集めるが、きみたちはきみたちの心配だけしていればいい。君たちにも時間はない」


 ゆっくり、はっきりと言葉を継ぐ。


「我々の狙いは人間じゃない。小指の先ほどの情報素子に隠せてしまう金型の設計データだ。暗殺ミッション以上に正確無比な作戦遂行が求められる。たとえ即席チームであろうとも、チームワークを果たしてもらわなければならない」


 作戦の大枠はすでに決まっていた。

 ベルナルド自身の身柄、そして彼の情報端末を狙って夜陰に乗じ強襲する。

 ベルナルドを拿捕(だほ)して情報を吐かせ、さらに彼にまつわる情報記録を根こそぎ押収することになる。


「インターネットや衛星通信の検閲も始まっている。あとは彼自身の尻尾をつかむだけだ」


 彼の行動範囲は、常にヴォーリャ小隊が急行できる範囲内だ。

 このヴォーリャは、いままで現れた整備不良のポンコツとは違う。

 専門に訓練された操縦士が、万全に整備の行き届いたヴォーリャを用いて、徹底された戦術理論で戦う……精鋭中の精鋭。

 よって作戦は一つ。


 強襲チームがベルナルドを確保。同時に沙希たちFHチームも周囲を制圧。護衛のFHを迎撃しつつ、強襲チームとベルナルドの離脱を支援することになる。

 FHの砲火から仲間を守るためには、高度な連携による要撃しかない。

 作戦手順を聞かされて、その困難さをまざまざと思い知らされた沙希たちは息を呑む。

 だが、


「やれるね?」


 ジョシュアは淡々と問うた。


「はい!!」


 四人の少女たちは大声で応じる。

 沙希はスクリーンに映し出された顔写真を見た。


「ベルナルド・ストラーニ」


 その名を口にする。

 刻み付けるように。


 φ


「八津沙希」


 ばつん、と壁のホワイトボードに上質紙を挟み込んで留める。

 遠景から盗撮した少女の横顔だ。

 薄暗い部屋に懐中電灯を転がして、ベルナルドは彼のオフィスに人を集めて立っていた。


「日本人。ハイスクールのティーンエイジャー。無理心中を試みて夫……沙希の父親を殺した母親を、逆に刺し殺して正当防衛が認められた民間人だ。スフェール入りは三週間前で、PMSCのブラスト社とのつながりは不明だが雇用関係にあるらしい。そして、彼女が操っているFHが」


 説明を受ける強面の面々は、ベルナルドを馴染み切った信頼の目で見つめている。

 ベルナルドにとって古くからの部下。昔馴染みのチンピラ仲間だ。

 ばつん。衛星写真を無理やり拡大したモアレだらけの点描画をホワイトボードに突き立てる。森の中で白炎を噴かす黒い鎧。


「マーク・フォーと呼んでいる。実に八十余名を殺害した人の皮をかぶった悪魔だ」


 どよめきが漏れる。

 集まる面々のなかで唯一顔色を変えない男がひとり。秘書を務める沈鬱な顔をした長髪の男。

 時計を見る彼とアイコンタクトを交わして、ベルナルドは仲間に説明を続ける。

 別の写真を取り出す。

 突き抜けた青空の下、山岳地帯に亡霊のように立つ黒い鎧の望遠画像だ。先ほどのグロリアより一回り細い。


「グロリアの出撃は数例だけ確認できているが、他の四チームとこいつらは明確に別の部隊だと推察される。まず従事しているミッションが違うし、こいつらのモデルだけ武装や装甲が追加されている。おそらく素人を乗せた実験部隊というところだろう」


 トラックのコンテナに押し込まれて配達される最新鋭機など、それこそ聞いたことがない。

 本来、それが彼女たちに与えられる期待値だったはずなのだ。

 ベルナルドは手を揉んで一同を見渡す。自分に注目が集まったことを確認して、おもむろに言う。


「この部隊の練度そのものは高くない。西側らしいコンピュータ制御と基礎性能が立ちはだかってヴォーリャで相手をするのは難しいが――難しいだけだ。不可能ではない」


 否定の語尾に熱を込めて、さも必ず可能だと刷り込むように。

 ベルナルドは顔をあげて写真を見る。


「狙うのはマーク・フォーひとりでいい。こいつだけ突出して殺し慣れている。ほかは新兵さながらだ。タイミングを見て適当に始末しろ。とにかく狙うのはマーク・フォーだ」


 ぴろろろと電話が鳴った。

 声もなく緊張が張り詰める。受信機のパネルに表示されている番号を見て、ベルナルドは激憤に顔をゆがめた、

 大股でオフィスの電話機に歩み寄ると、受話器をむしり取る。


「この忙しい時に電話などかけてくるな! 黙れギーツェン! 今はお前の友人ごっこに付き合っている暇はない!!」


 受話器を叩き潰すように切り、電話線を引き抜いた。

 荒々しく息を突いて背中を曲げる。次に顔をあげた時には、ベルナルドの顔にはにこやかな笑みに彩られていた。


「失礼。我らの大将がご立腹でね。下っ端は世知辛い」


 やれやれと肩をすくめておどけてみせる。

 笑いをこぼす仲間たちは、途切れた緊張を引き締めた。

 ベルナルドは表情を改める。自分の表情の一つ一つ、しぐさや手ぶりの細部まで、相手にどんな印象を与えるか知りつくした仕草だ。


「実際、PMSC連中はうまくやった。してやられたよ。商機は熟したが売るタイミングを潰された。紛争で最高に儲かるはずだった俺たちは、今や足音に震える袋のネズミだ」


 だん! と机を叩く。

 張り詰めた空気に、ベルナルドは強気な笑みを差し込んだ。


「だが、そこがやつらの限界だ」


 そう確言する。


「どんなに訓練された特殊部隊だって、背中に目はついていない。腕も耳も、数は二本に限られている」


 右手を挙げて謳い、


「グロリアがどんなに優れたFHでも、ヴォーリャからの十字砲火を受けて無事にいられるわけじゃない」


 左手をあげて嗤う。


「釣り出して、かき回して、すり潰す。国外に逃げるのはそれからでいい」


 両手を打ち合わせて強く握る。

 余裕と軽蔑を微笑にこめて。


「俺たちの勝ちだ」

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本作は金椎響様「さよなら栄光の讃歌」をもとに、本人の許可を得てスピンオフとして描いた作品です。

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