虐殺機関(2)
基地を監督していたらしい武装組織の主要メンバーは爆殺した。
『上出来だ。沙希、ヴォーリャの一機が業を煮やして駆け込んできている。狙え』
「了解」
沙希機は崖に身を隠したまま、銃だけを出して撃ちまくる。
同時に肩のグレネードランチャーを撃ち放った。
高速で飛んだ榴弾はヴォーリャの足首をあやまたず吹き飛ばす。膝を突いたヴォーリャは、グロリアの銃撃を正面から浴びる形になる。
がぎごがごぎぎぎぎぎと被弾の衝撃に総身を震わせ、集弾効果により装甲が断裂。その亀裂から銃弾が飛び込み、内側で跳ね回って内部構造を蹂躙する。ついには爆発した。
「あと一機!」
沙希はペダルを踏み込む。
ぐんと跳びあがった機体は背部ブーストを全開に噴かせて跳躍。稜線を蹴って盆地を眼下に収める。
最後のヴォーリャが半壊した民家の陰に立っている。無造作に姿をさらした沙希に気づいていた。
もっさりとした動作で銃を振り上げようとする。
対戦車、対地上兵器、対軽装甲目標の戦闘を期して設計されたFH黎明期の名機。それがヴォーリャだ。
当時の仮想敵は、至近で慣性をねじ伏せて縦横無尽に機動するような相手ではなかった。
つまり、ヴォーリャはFH同士で繰り広げられる三次元戦闘に疎い。
「さぁ――たんまり食らえ!」
沙希はありったけの銃弾とミサイルとグレネードを降り注がせた。
思うさま爆発にもみくちゃにされて、ヴォーリャは砕け散っていく。
「よっしゃ! 重要目標すべてクリア! これで、」
着地したグロリアの装甲表面で、WBの銃弾が跳ねる。
沙希は疑問を顔によぎらせてスクリーンに目を向けた。
戦闘の巻き添えを食って、無限に思われたWBは今や数えるほどしか残っていない。
そのWBにすがりつくようにして、土煙で真っ白に汚れた子どもが懸命に銃を連射している。
「あ。私にもう戦う気がないってわからないかな?」
沙希は操縦桿を繰る。
無造作にWBへ手を伸ばすと、搭乗する子どもをつまんでWBから引き剥がした。
できる限り丁寧に――怪我をしない程度の粗雑さで、少年を下ろす。
彼が歩けることを確認すると、無人になったWBを右腕マニピュレータでつかんだ。
左腕にグローブを展開する。
「逃げるならよし! それでもまだ戦うつもりなら――」
拳をWBに打ち合わせて叩き潰した。
「こうだ!」
砕けた破片が飛沫のように飛び散っていく。
無残な姿にひしゃげたWBを見上げ、子どもたちの目にようやく恐怖がよぎる。
WBの一機がくるりと背を向けて逃げていった。
「おっ。よしよし」
沙希の顔がほころんだのもわずか。
『ダメだ!!』
ブレンデンの怒号。
逃げる仲間を指さして叫んだ一人が、WBの操縦桿をつかむ。
ぐるっと機体の向きを転回させて、
逃げる仲間に向かって撃った。
「えっ?」
撃ちまくった。
「え?」
虚を突かれる沙希の目の前で、なんの装甲も施されていないWBは背後からの射撃に次々と撃ち抜かれていく。
操縦していた子どもは踊るように身体を激しくくねらせた末、全身穴だらけになって転げ落ちた。
主を失ったWBはつんのめって倒れて跳ねた。
「えっ」
逃げた仲間を始末し終えた少年が、再び沙希を振り返る。
銃をフルオートで撃ち放った。
関節部を狙っているらしい。
だが歩兵銃で貫徹されるほど薄い装甲ではない。贅沢に呆然とする沙希の耳に、ブレンデンの声が届く。
『この子どもたちは逃げないだろう』
「なんで」
食い気味に詰問する沙希。
ブレンデンは落ち着いた声で説明する。
『村ごと武装組織に取り込まれた貧しい子どもたちだ。武装組織は神の戦士を輩出した家族に援助を約束する。すると家族の暮らしをよくしたいと思う子どもが、自ら組織に名乗りを上げるようになる』
感情に乱されぬよう努めて抑えられたブレンデンの声は、苦々しさがにじんでいる。
『そういう子どもたちは誇りと家族愛を持って戦いに臨むんだ。"強大な敵と戦った勇敢な戦士"であり続けるために。"家族も正義も捨てて逃げた卑怯者"にならないために』
「無茶苦茶じゃん」
『その通り、無茶苦茶だ。だがそれが紛争だ』
子どもたちの顔には恐怖が張り付き、まるでその恐怖をぬぐおうとするかのように闇雲に銃を撃ち続ける。
『神の戦士だの正義だのは、出まかせだと分かっている子どももいる。だが同じことだ。戦って死ぬまでがセットなんだ。死ぬまで戦い続けなければ――家族を養うことができない』
深くため息をついた沙希は、操縦桿を操った。
グロリアが突撃銃を構える。
「戦闘の終了条件がわかっていて、他の選択肢がない。なら、分かっている条件を満たすだけだ」
AKのものとは違う、重たい銃声が連なる。
沙希はトリガーを放す。
底の抜けたような静寂が山間に伸びていった。
沙希は統合情報表示のレーダーマップを注視する。しばらく待っても、動くものは誰一人として現れなかった。
静寂だけだ。
「……終わった」
『確認した。……沙希、きみは正しいことをした』
「はっ。冗談でしょ? 嘘はやめてよ」
沙希の声は冷たい。
「こんなの、絶対に間違ってる。もしここに正しさがわずかでも含まれているなら――人類に生きる価値なんてないよ」
『……そうだな。沙希の言う通り、正しいなんてごまかしだ。俺たちは、間違ったやり方でしか、より大きな間違いを収めることはできない』
その声を聴き流しながら、沙希は頭上のハンドルを引く。
ガコン! と音が鳴ってハッチが解放されていった。梯子を登り、沙希はハッチの縁に腰かける。
「戦場か」
焦げた砂の匂い。
灰の混ざった汚い空気。
沙希は戦場を見渡した。
死屍累々の惨状だ。映像フィルターも放送倫理コードもない、ありのままの現実がある。
常人なら目を覆わずにいられない、人間が人間性を失った地獄の中心にあってなお。
沙希は他人事のように冷めた目で人間の残骸を見つめている。
唇を開いた。
「ひでーな、こりゃ」
沙希は決断した。
戦争当事者として。




