重機FH(4)
機外に出たアメリアとロザリーは、それぞれFHの足裏に集まるように車座になる。
手ぶらで出てきた二人は沙希を見て目を丸くした。
口にレーションをくわえ、開けられたサバイバルパックを背負い、片手にラジカセにも似た通信機を提げている。
アメリアは唖然と口を開けた。
「通信機って外せたんだ……っていうか沙希あなた、なに勝手に緊急用のサバイバルパックを開けてるの!」
「ん? もぐ……。遭難って緊急じゃないの?」
「今まさに救援来てるでしょうが……!」
「ロザリーもレーション食ってみる? まっずいよ」
「マジで? ちょっとくれ」
レーションの下端をちぎってロザリーに分ける沙希の姿に、アメリアは頭を抱える。両手を振り下ろして叫んだ。
「そのサバイバルパック、使い捨てで単価が張るの! みだりに使わないで!!」
「アメリア、家計を把握しすぎでしょ……」
うへぇ、と顔をゆがめた沙希は、封を切ったレーションのパウチを折りたたんでリュックに戻す。
そういう問題じゃないと言いたげに唇を動かしたアメリアだが、ぐっと飲み込んで腰を下ろした。
レーションをまずそうに飲み下したロザリーは、沙希に顔を向ける。
「ちょうどいい機会だから、お前に言っておきたいことがある」
「ん。なに、また突っかかってくる気? もちっと待ってほしいな、いちおう救助待ちなんだし」
「分かってるよ! ここでケンカするほどバカじゃねーよ」
嫌そうな顔で口を曲げるロザリーは、気を取り直して真面目な顔で沙希を見た。
「本当に、お前にここで仕事する覚悟があんのか聞いておきたい」
はっとアメリアが息を呑んだ。
アメリアだけは聞いている。沙希はお金を稼ぐために基地に来た。
ロザリーは険しい目で沙希に詰める。
「最初は考えなしのバカが来たと思って腹が立った。今もふざけた態度にゃイラつくけど、なんだかんだトレーニングも取り組んでるし、訓練も受けてる。仕事をするつもりはあるんだと分かったよ」
ロザリーは荒っぽい手段ではあるが、ちゃんと沙希のことを見ていた。
そして沙希もちゃんとそのことを分かって、ケンカに真っ向から応じてきた。
でもな、とロザリーは目をすがめる。
「どうにもわからねぇ。……あたしはもともとケンカしか取り柄がない人間だ。ガキの頃からそうだった。ジゼルは軍人の生まれだ。アメリアはPMCがどういう仕事で金を集めてるのか、ちゃんと分かってる。お前がわかんねぇんだ」
沙希の瞳を覗き込んでロザリーは問う。
「平和な日本から、どうしてこんな仕事を選ぶ必要がある? なにをする仕事なのか、お前、ちゃんと分かってるのか」
アメリアが口を挟むことを躊躇う、真剣な眼差し。
不審と心配を一身に受けて、沙希は唇を尖らせた。
「んー」
身を引きながら首を傾ける。どこにも緊張がない自然体。
「ロザリーの心配がよく分からないんだよね、私。ジョシュアさんから入念に説明を受けて、同意したから来たんじゃん。仕事は仕事、ちゃんとやるよ?」
「じゃあ、わかりやすく言ってやるよ」
ロザリーが拳を地面につけ、さらに詰め寄る。噛みつかんばかりの形相で詰問した。
「人を殺す覚悟があるのか、って聞いてんだ。虫も殺したことのないような日本人がよ!」
「あるよ」
沙希は表情を変えない。
「虫くらい日本人だってバリバリ殺すよ。蚊もゴキブリも、山がちな日本にはたくさん出るから」
真剣さに応えるような真顔で。
ロザリーは言葉に詰まった。黙ったまま顎を引いて、指で眉間を揉みほぐす。
「……いや、あの、だからな? そういう話をしているんじゃねぇって……。もぉーお前ホントやだ、揚げ足取んなよぉ……」
なおも真顔を続ける沙希に毒気を抜かれ、ロザリーは両手で顔を隠す。沙希よりも緊張していたアメリアが肩をすくめて笑みをこぼした。
沙希はきょとんと目をしばたいている。
ばふばふ、と沙希の担いできた通信機が音を発した。
『あー。沙希、ロザリー? アメリアから反応がないんだけどなにかあった?』
アメリアが慌てた顔で彼女のグロリアを振り返る。通信機を持ってきているのは沙希だけだ。
沙希が通信機をノックして返事を吹き込む。
「やっほー、ジョシュア。なにもないよ。今はみんなFHを降りてガールズトークしてるだけ」
『っっ!?』
ジョシュアが息を呑む気配。
次の瞬間、怒号が弾ける。
『バカか君たちはっ!? さっさと機に戻れっ! 狙撃されたらどうするんだ!』
凝然と凍りつくアメリアとロザリーをよそに、沙希は目をぱちくりして通信機を見る。
「おろ? 敵、いるんですか?」
『いるよ! 紛争中だよ! 目下僕たち連合軍がじゃんじゃんバリバリ戦ってるよ! 相手の動向を完璧にとらえられるわけじゃないんだから、護衛も装備もなしにフラフラされたら守れるものも守れないだろ! なんのために救助チームを急行させたと思ってるんだ!?』
「アッハーなるほど、これは失敬。うっかりしてました。ね、みんな」
太平楽な顔で振り向く沙希を前に、ロザリーとアメリアが顔を見合わせてアイコンタクト。揃えたように沙希を指差す。
「「沙希に無理やり連れ出されました!!」」
「ブッフォ! おおおおまっ、おまえらっ、裏切るつもりか――っ!?」
『全員! 帰ったら覚悟するように!!」




