重機FH(3)
黄砂色の岩山に囲まれた空は、ひどく青い。
「空は同じはずなのに、雲の形が日本と違う。なんでだろう。湿度が違うからかな」
『沙希、大丈夫? 頭打った?』
アメリアの気の毒そうな声を寝そべったまま聞いて、沙希は操縦桿を繰る。
機体に降りかかった石を散らし、沙希のFHは起き上がる。同時にスクリーンを占める景色が青空から山肌、そして眼前で擱座するアメリア機へと移り変わる。
「アメリアこそ大丈夫? 豪快に転げ落ちたけど」
『平気。ごめんね、沙希。巻き込んじゃった』
「ううん。本来そこで止めるために私たち固まってたんだから、こっちこそ落ちちゃってごめん」
答えて、沙希は顔をあげる。
岩山の斜面にできた亀裂のような谷底だ。
頑張れば登れそうな傾斜に見えるが、ころころと剥がれやすい砂利がまぶしてあり不安定。沙希たちの操縦技量では滑り落ちてしまいそうだ。
ふむとうなずいて沙希は通信機に目を向ける。
「あーテステス。ジョシュアさん聞こえますか?」
『聞こえている。今救援を呼んでいるから、無理しないでのんびり待っていてくれ』
「うっす。お手数かけます」
『なに、考慮していたさ。すぐ動けるチームを確保してる。それほど待たずに済むと思うよ』
そういえば支援体制を整えるみたいなこと言ってたな、と沙希はぼんやりうなずいた。
「救援くるってさー」
『聞こえてたわ。ジョシュアさん、ありがとうございます』
礼を言うアメリアの声にかぶさるように、じゃりじゃりと砂利を滑落する重量の音。
沙希が見上げる先で、一機のグロリアが滑り落ちてきた。
そいつは斜面の終点に両足を突くと、ぽーんと跳ねて頭から落ちる。
『いってー!』
「その声、ロザリー? なに、あんたも落ちてきたの?」
『ばッか、お前らと一緒にすんな。付き添いに来てやったんだよ!』
「えぇ……? 超いらないんですけど……助けられないなら落ちてこなくていいよ。要救助者を増やすだけじゃん、なに考えてんの。バカなの?」
『うっ、うるせぇ! ばーかばーか!』
悪態も倒れたままでは覇気がない。
のそのそと起き上がるロザリーを呆れた目で見て、沙希は機体を座らせた。エンジンパワーをアイドル状態まで落とす。
「ま、サバイバル演習と思ってゆっくりしましょ。えーとサバイバルキットが確かコックピットにあったハズ」
シートの裏にあるポケットから、ビニールにパッキングされた布リュックを引っ張り出す。ビニールを破ってみると防寒シートの表面にサバイバルガイドの記載があった。
「ナニナニ……周囲は敵地である、Y/N。敵地の場合、機密保持のためFHを自爆させること。あはははは、次」
沙希は笑顔でスルーした。
ひとつ、周囲に敵兵が予想される場合、安全が確保される場所まで移動することをなによりも優先とする。
ひとつ、火急の危険がない場合、早急に負傷の手当てをすること。行動に支障がない場合はその限りではない。
ひとつ、安全が確保される場合、体力確保を最優先とすること。たとえ救難信号がなくとも、友軍はきみを見捨てない。
ひとつ、安全が確保され、体力の保持が可能な場合のみ、友軍に連絡を取るようにすること。
「ほーん。さすが人道主義のアメリカンアーミースタイルって感じ?」
沙希は浅く座ったシートに足を組んで、面白げに読みながらパッキングを切ってレーションをかじる。
目を見開き、むせた。
「げっほ! げほ! なにこれ、ぜんぜんカロリーメイトじゃない! ぺちょついてるしクソ甘い!」
『ちょっと沙希、なにやってるの?! 大人しく座って待ってるんじゃないの!?』
絶叫にも似たアメリアの叱声が飛ぶ。
首をすくめる沙希は、ふとスクリーンに目を向けた。画面の隅でロザリー機の胸襟が開く。コックピットハッチを開けたロザリーが頭を出した。
即座に委員長の叱責が飛ぶ。
『ロザリーあんたも勝手に外に出ないのっ!!』
『いいじゃん別に。パワーパックも勿体ないし、じっと座ってるのも暇だろ。お前らも降りて来いよ』
「確かに。乗った」
沙希は腕を伸ばして天井の解放レバーを引く。
アメリアが叱責をあげかけて、頭痛をこらえるように黙り込んだ。
『……あなたたち、すごい神経してるわよね』
「図太く生きなきゃ。戦場じゃ大変よん?」
見えないと分かりつつ沙希はアメリア機に向けてウィンクを飛ばす。
まるで見えたかのような特大のため息が返された。




