鎮火した村
リュックサックモドキから出てきたのはスライムでした。
よく見るとスライムの中は透き通っており、中の魔石がシュワシュワと小さな泡出しながら溶けているのが見える。
「タカシさん!魔石が全部スライムに食べられてます」
「ウソ!」
魔石が入っていたはずのリュックサックモドキを覗くと中身は何も入っていなかった。しかも素材まで食べられてしまった。
「マジだ」
スライムにルルーンの街で売る目的を全部食べられてしまった。
ところでスライムって魔石食べるの?魔物が他の魔物の魔石を食べるって聞いていたけど、このスライムは見た感じ中にある魔石は取り込んで吸収したと思うけどスライムの口どこにあるの?
それでこのスライムは洞窟にいたスライムの生き残りと思うから、洞窟からリュックサックモドキの中にいつから入っていたのか不明だ。
そんなことはどうでもいい、ミリたちが襲われて怪我をしないうちに早く倒さないと。
手を翳すとスライムが怯えたようにプルと震えたと思ったら、凄い早さで足元にすり寄って来た。
(くっ!攻撃か!)
と思ったらスライムは命乞いのつもりなのか頬ずりするかのように体(?)を一生懸命、脛に擦りつけている。
ナニコレ、妖怪脛擦り?
スライムってこんなにひんやりとしていてプルっと感触が気持ちいい。
この生き物、凄く可愛いんだけど魔物だから倒さないといけない。
すべての魔物が怖いミリが俺から離れて自分より小さいアルムの影に隠れてるし(全然隠れていないし、おもいっきり抱き締めていてなんだかアルムが少し鬱陶しそうでかわいそうだ)、アルムはアルムでスライムの様子を見てキョトンとした顔でスライムを見ている。
「タカシさん!魔物を早く倒してください。アルムちゃんそんなに近づいたら危ないですよ。離れてください」
ミリが叫んでいる中、足元をスリスリしているスライムは足を振って振り払おうとしても離れてくれないし、俺が腕を動かすたびにブルンとびびるし、いったい何がしたいんだ。
「タカシおにいちゃん、これさわっていい?」
「えっ?触りたいんですか!?」
スライムを触りたいと言うアルムにミリが驚きの声をあげる。
今はスリスリしているだけで害はないから別に触るぐらいならいいかな。
「俺が付いているし、触っても大丈夫だ。ただしこいつは魔物だから十分注意しろ」
「うん、わかった」
アルムは魔物があまり怖くないのかもしれない。
俺の足から離れないスライムにゆっくりと触る。最初は指先でつつくだけだったけど5分、10分経つとスライムを撫ではじめる。
「つめたくてプルプルしてる。ねーねー。このこのなまえってスライムっていうの?」
「えっ?名前じゃないけど魔物だし」
「こんなにかわいいのにまものなの?」
「アルムちゃん!十分触りましたでしょ。危ないので離れてください」
「ミリおねえちゃんもおいでよー。プルプルしてておもしろいよ」
「いやです。魔物に触りたくないです」
「なにもしないのに。タカシおにいちゃんも触ってみて」
アルムに言われてスライムを触れてみたが、ひんやりとしたゼリーみたいな手ざわりで軽く揺さぶるとプルプルして中々楽しい。
「これはこれで面白いな」
「でしょー。プルプルしているところがおもしろいでしょ」
「ひんやりして気持ちいいな。あ!そうだ」
タブレットを持ちスライムに向ける。
「タカシさん!それでスライムを倒せますか?」
「たおしちゃダメー!」
倒すと聞いたアルムはスライム庇うようにタブレットの前に出る。
タブレットにはスライムを倒せる機能はない。
しかし、そんなアルムが可愛かったのでタブレットのカメラマークのアイコンをタッチしてスライムを庇うアルムの写真を撮る。
「タカシおにいちゃん、このここんなにかわいいのにたおしちゃうの?ひゃっ!」
上目遣いで聞いてくるアルムにタブレットを向けたとたんタブレットを武器だと思ったらしく尻もちをついていた。
そのアルムが可愛かったのでシャッターを押す指が加速する。
タブレットの中にある写真は殆どの湿った服を着た幼女のものになってしまったので犯罪匂が凄いことになっている。
可愛いものは正義だ。
「これでは倒せないよ。これでただの写真を撮っているだけだよ」
「しゃしん?ミリおねえちゃんしってる?」
「聞いたことないですね」
写真と聞いて首をかしげるアルムとミリ。
「そう。写真」
アルムに廃村で撮ったミリの寝顔を見せる。
「ミリおねえちゃんがふたりいるよ?」
アルムがスライムに2分に一回の割合でガンを飛ばしているミリを指差す。
あれ、写真を知らないのかな?
アルムに次々と写真を見せてみる。
「アルムもふたりいる!鏡?」
鏡じゃないよ。写真だよ。今撮った写真だし、アルムはまだ小さいから鏡と勘違いしたのかな?
「写真と言うものはね、見たものを記録する物だよ」
「アルムわかんなーい」
俺の説明が下手なのか、アルムが幼さ過ぎるのかわからないが写真についてそのうち理解するだろうし、大きな街とかにいけばカメラとか売っているから嫌でも目にするだろう。
とりあえず、ミリとアルムに写真の撮り方を教えることにした。
被写体は勿論、スライムと俺だ。
まずは俺とアルムのやり取りを見つめているミリをスライムになれさせることだ。
「ほら、ミリ。いつまでもそうしてないであいで」
「タカシさん、それは魔物なんですよ。いつ襲われるかわからないのですよ」
「確かに魔物だが、いや、こんなになついているから大丈夫だ」
「本当に大丈夫ですか?」
自分でも理屈は説明できないがこのスライムは大丈夫な気がする。
頷いて、足にくっついて離れないスライムを無理やり剥がしてミリに近づける。一方、ミリはおどおどしながらもスライムに触れようと頑張っている。
ピト
「水みたいにひんやりしてます。でもやっぱりダメです」
頑張ってスライムに触れたが怖いものは怖いらしく触ったらすぐに手を引っ込んでしまう。
最初はこんなものかな。
「ミリには悪いけどこのスライムをペットにしたい。ミリとっては怖い物だろうけど我慢して欲しい」
「この魔物を飼うのですか!」
スライムを飼うことに反対の声をあげる。
それにミリは魔物に対するトラウマが深いようだ。
攻撃的な行動を取らない無害なスライムに怖がる程に心の傷がある。(逆に洞窟にいたスライムが穏便な性格で無害な魔物だったと思うと問答無用で倒してしまったことに心が傷む)
しかし、いつまでもこの状態が続くなら少し危ない。
もし、俺から離れたり、一人の時に魔物に襲われたりしたらパニックを起こして危ない行動をしてしまうかもしれない。
トラウマを克服してもらう為にまずは最初にこのスライムに慣れてもらう必要があると思ったらからだ。
だからスライムをペットとして飼うのはミリのトラウマの克服の為になるし、魔物に対する知識を学べる。それにずっとなついてくれるペットが買いたかった。
一石三鳥である。
ここで問題が。エサは何をあげればいいのか?
やっぱり、魔石を食べていたし、やはりエサは魔石なのだろうか。
それは後で考えるか。
「スライムの名前はベスにしよう。今日からお前はベスだ」
ベスは名前をつけてもらったことにプルプルと嬉しそうに揺れている。
「ベスーよろしくね」
「名前までつけちゃって本当に飼うんですね」
ミリがうんざりしたように言う。
ミリよ。ベスを飼うのはお前のトラウマ克服の為でもあるんだよ。
「さてと、村に行きますか」
俺が一番重いリュックサックモドキを持ち、次に中身が入っていないリュックサックモドキをミリが持ってアルムの村に向かう。
アルムはベスをだっこしている。
スライムにすべての魔石と素材を食べられたせいでリュックサックモドキの中身が軽くなった。中身がないからミリとアルムだけでも軽々と持てる。
大半の荷物は食糧の木の実だけになったのは言うわけもないだろう。
「パパ!ママ!アルム戻ってきたよ!」
村に着くなりアルムはアルムのパパとママを呼ぶが何にも反応がない。
アルムも反応がないことは予想してたらしく、昨日みたいにただ落ち込むのではなく両新の生存を信じているようだ。
そんなアルムを見てると心が傷む。ベスもプルプル揺れて、アルムを励まそうと頑張っているように見える。
村の探索の続きを始める。
村は予想通り一晩中降った雨で鎮火しており、村の中を三人で進む。
殆どの家が全焼しているから家の中が丸見えで人が住んでいた痕跡も一緒に燃えてしまったらしく住んでいたのか、空き家だったのか分からない程だった。
どの家も燃えてしまいとても人が住めそうな家がない。ミリがいた廃村の方が人がまだ住めてマシだった。
見た限り危険が無いので、俺の見える範囲でミリとアルムに探索の許可を出そう。
「先に行ってもいいぞ」
「タカシさん?」
「えっ?いいの?」
「ただし俺からあまり離れない距離で、ミリと一緒にだ」
「わかりました。アルムちゃんはかまわないのですが、ベスと一緒はちょっと」
「うん、わかった」
アルムはベスを抱いたまま小走りで行ってしまったのでミリがうんざりした顔でアルムの後を追う。
「アルムちゃん!待ってください」
魔物が苦手なミリはまだベスに対して文句を言いつつもアルムの側を離れないところを見ると本人は頑張って少しずつ慣れようとしているのかもしれない。
このあたりの魔物は昨夜で一掃したし、そんなに遠くに行かない限りは危なくないだろう。
一人で確認したいことがあるし、ミリたちが見える範囲にいてもらえれば何かあった時、すぐに助けられる。
確認を込めて昨日の血痕を埋めた場所に行って見ると、雨のお陰でどこに埋めたか分からないぐらい上手く隠蔽できたが、家が全焼したからか至るところに空薬莢が落ちているに後で気が付いた。
空薬莢を隠した意味はなかった。
ミリたちの落ちている空薬莢の反応を見ると特に気にした様子はないので安心したが、アルムの両親を探すのに夢中で足元の空薬莢に気が付いていないのかもしれない。
今のところ幼い子供が見ちゃいけない物はまだ発見していない。
昨日、進めなかった村の奥まで進むがやはり人が住んでいた痕跡すら焼けていてわからなかった。
「パパとママがいないよ」
「タカシさん、誰もいなかったです」
誰も見つからなかったことに落ち込んみながらミリたちが戻ってきた。
「やっぱり誰もいなかったか」
「やっぱりと言いますと何かわかったのですか?」
「いや、この村は思っていたより何もなかったなって思っただけだ」
この村は空薬莢と焼けた建物以外、本当に何もなかった。最初はすべて燃えたと思っていたが燃え貸すすら何も残っていないのはおかしい。
まるで誰かが持ち去ったみたいだ。
「きっと村人が避難する時に持ち出したと思います。だからアルムちゃんのパパとママもどこかに避難しています」
空気を読んでアルムを慰めるようにミリは自分の考えを説明する。
ミリ偉いぞ。アルムを悲しませないようにと気を使うだなんてさすがお姉さんだ。
後で頭ナデナデしてあげよう。
「ほんとう?タカシおにいちゃん」
「俺もそう思うよ」
アルムの悲しげな表情を見るにそうとしか言えなかった。村の状態と血痕の量を見るに住んでいた村人はこの世にもういないのかもしれない。
「おなかすいた」
少し安心したのかアルムがくーっと腹の虫を可愛らしくならしていた。時間はさほど気にしていなかったがどうやら探索しているうちに時間が過ぎたようだ。
「そう言えばお腹空きましたね。お昼にしますか?」
「そうだな。ご飯を食べて、このあとのことを考えるか」
「はい、わかりました」
「アルムもごはんつくる!」
「ではアルムちゃん一緒に作りましょう」
「うん!ベスー、タカシおにいちゃんのところに行って」
と言ってミリとアルムは村の広場でお昼ご飯の木の実の皮をむき始めた。ちなみにアルムはほんのり甘い木の実だけをむいて、できるだけ苦味のある例の木の実を少なくしようとしているみたいだ。
ミリはアルムの企みがわかっているのか例の木の実だけをむいているので食卓に並ぶ割合が半分ずつになりそうだ。
俺が座るとベスが抱きつくようにベターと体に張り付いて離れなくなる。しまいには永遠とスリスリを続けてくる。
なついてくれるのはいいが少々鬱陶しい。
「アルムはあのきのみだいきらいなのにまだ、あのきのみいっぱいあるよ」
「タカシさんできたので食べましょう」
ベスがスリスリし過ぎて張り付いている部分が溶けるのではと思った時、お昼ご飯の準備が終わったようだ。
ただ木の実を切って木皿に盛り付けるだけの簡単な作業だが、アルムが苦味のある例の木の実を嫌がった為少し時間がかかったようだ。
それでぼやいて元気がない訳か。
俺も数日とはいえ木の実ばかり食べているからたまには肉が食べたいが、先程ベスに素材と一緒に入っていた魔物の肉を全部食べられたから今はない。
その前に肉があっても火を興さないと生で食べたら食中毒が怖くて食べられない。
「アルムはこの後はどうしたい?よく考えてごらん」
朝と同じメニューを食べ終えて、アルムに今後のことを聞いてみた。
アルムが両親が戻るまで村で待つと言っても村があの有り様では誰も住めないだろう。
しかも小さな女の子一人で生きていくなんて厳し過ぎるから尚更無理だ。
「アルムはパパとママをさがしたい。はやくあいたいからむらでまっていられないよ。だからタカシおにいちゃんたちといっしょにたびにでる」
本人は着いてくる気満々だ。今俺が「ダメだ」と言っても後ろから黙って着いてくるレベルの意気込みだ。
何も無くなったこの村にアルムを見捨てて置いていくのは殺すことに等しい。
そうアルムはもう俺の友達だ。俺は二度と友達を見捨てないとあの時に決めたんだ。
幼女が一人増えたところであまり変わらないだが、アルムの気持ちをもう少し確かめたい。
「わかった。着いてくるのはいいが見つからないかもしれないぞ?それでも着いてくるのか?」
「うん。みつからなかったらアルムがおおきくなったらひとりでさがしにいく。お願い、アルムがおおきくなるまでタカシおにいちゃんのたびについていかせて」
アルムは深く頭を下げた。
気持ちは充分わかった。ルルーンの街に魔石を売る目的が無くなったがルルーンの街まで目指そう。
ミリもアルムと同じく自分を捨てた両親探していたな。両親を探す点では以外な共通点だ。
俺は自由になったのはいいがこれから何をすればいいのかわからない。とりあえずミリとアルムの両親を探しながらルルーンの街を目指すか。
「アルムの両親を探しながら予定通りルルーンを目指そう」
「タカシおにいちゃんありがとう」
「いいのですか?売る魔石は食べられてなくなりましたよ」
「そうだな。最初はルルーンの街に魔石を売る目的があったが、魔石を食べられた今目的がないが大きな街や都市に行きたいと思っている」
「そこでならアルムちゃんのパパとママの情報が何かしらわかりそうですね」
「情報収集の為にルルーンの街に行けばな」
「ルルーンっていうばしょにいけばパパとママがどこにいるかわかるの?」
アルムは困ったことに自分の両親の情報がわかるかもしれないとわかると期待に満ちた瞳で見つめてくる。
「かもの話しだからそこまで期待されても保障できないぞ」
「パパとママのいばしょがわかるのならアルム、ルルーンにいく」
この子話し聞いてくれないよ。情報がなかったら悲しむだろうな。
まだ死んだとわからない。血痕程度の判断で人の安否を決めてはいけない。
アルムが信じているんだからアルムの両親は生きているんだ。そしてアルムを両親の元へ届けるまで守ろう。
それまで俺は研究所に見つからないようにしないと。でもミリたちを守る為に体を鍛えたい。
「黙りこんでどうしました?」
ミリが可愛い顔で覗きこむ。
「いや、何でもないから気にしないでくれ」
そうだ。友達を守るんだ。
昔みたいにただ命令されるだけの道具じゃない。自由になったのは殺すことから逃げる為じゃない。
誰かを守りたいから逃げ出したんだ。
念力の制御をもっと上手くしなくちゃな。外でできた初めての友達を守る為にな。
ベス、お前も忘れてないぞ。
「お願いがあるんだ。いいか?」
武器が欲しい。ベスに食べられてちょうど荷物が無くなったんだ。確かあの洞窟に高そうな武器があったはずだ。
「お願いですか?」
「あぁ、洞窟に戻りたい」
「あの臭い洞窟ですか?」
「どうくつくっさーいからいや」
「いいか?」
ミリたちが臭い洞窟に行かないのなら魔物がいないここで待たせてもいいのだが、いろいろと心配だ。
当然、長時間あの洞窟にいたアルムは嫌がる。
「もしかして荷物が無いから洞窟に戻ってお宝を取りに戻るのですか?」
「おたからってなーに?」
もっと宝をもっと持っていきたかったミリは戻りたいと言っただけで目がキラキラ輝いている。
あの洞窟に宝があったことを知らないアルムは首を傾げた。
「あの洞窟にはお宝があって、今からそれを取りに行くんだ」
洞窟から来た道のりを戻ると。
「世界の平和の中に悲しみが溢れている」
洞窟の入り口にあいつがいた。




