王都までの道のり
「何が久しぶりないのよ!久しぶりなんだけど。私がどんな目にあったか知らないくせに」
「話は聞いてからだいたい知っているよ」
「そうそう、分かればいいのよ。え?知ってるの?」
「うん、ジュンが村にいたところから盗賊に誘拐されたところまで村の人や騎士の人達から詳しい話を聞いているよ」
盗賊のアジトがよほど怖かったのか逃げてきて疲れたのか、荒れている。
「お前達は顔見知りだったか。我々は不老族の言葉がわからない。悪いが通訳を頼めるか?」
「まぁ。別に構いませんが」
貴族まで通訳を頼まれた。ジュンと意思疏通できないから何を言っているかお互いわからないままいるのはしのびなかったのかもしれない。
アズサの通訳役とジュンの通訳まですることになった。
「おっさんはなんて言ったの?タカシだけなんで言葉通じるの?」
「一気に質問するなよ。俺が言葉が通じるのは能力のおかげだからな。文字は読めないけど。前者は俺に通訳をしてもらえないかだってさ」
「言葉が通じないよりマシじゃないの。タカシの能力ってそうだったのね。別の区画に監禁されていたって聞いていたから全てを破壊することができる能力だと思ったわ」
ジュンの認識は少しだけ合っている。自分の能力はまだ理解できない部分がほとんどだが、もしかしたら全てを破壊する能力も含まれているかもしれない。
研究所の人間達は能力のバーゲンセールみたいな被験者はとても危険視していて暴走しないように記憶を弄っていたのかもしれない。
「ジュンは知らないから言うけどこの人は偉い人なんだよ。貴族って言って権力を持っているんだ。その呼び方は少し失礼じゃないかな」
「だって言葉もわからなかったし、相手の名前も知らなかったもん。名無しさんって呼べば良かったの?」
ジュン視点で考えれば相手の立場がわからないのは当然で言葉も通じないから名前さえわからない状況だ。
研究所の限られた世界しか知らなかったジュンも相手が貴族だなんて検討も付かないはずだ。
貴族は「我輩はこの娘になんて呼ばれていたんだ」と小声で呟いて俺とジュンのやり取りを見ていた。
「俺が悪かった。通訳役をさせてもらう」
「分かればよろしい」
「タカシ話は終わったかな?久しぶりだね。ジュン」
「アズサじゃないの。タカシと一緒にいるなら最初に話しかけてよ」
アズサとジュンは顔見知りのようだ。
「いやさ、僕もタカシとあったのは二時間前でさぁ、状況が頭に入らなくてボーとしてたら知っている顔だなって思ったらジュンだったよ」
「アズサもこっちの言葉分かるの?」
「まさか。僕も全然わからないよ。タカシを頼って相手とコミュニケーション取ってるってレベルだもん」
アズサは胸を張って言っているが自慢げに言えることなのか?俺を通してのコミュニケーションは言わば伝言ゲームのような物なのではないのだろうか?
俺が話したことは誰でも分かるから自分が伝えたいことを間違えようなら訂正を求めるのであろうけど。
二人には一刻も早くこちらの言語を話せるようになってほしいものだ。
「ジュンにそっくりだけどあの子は?」
「あの子は私達が捕まる前から捕まっていたのよ。ずっと黙ったままで部屋の隅に縮こまっていたのよ。私もあの子顔を見た最初はビックリしたわ。鏡を見ているみたいなんだもん」
「似ているけど肌の色と髪の毛の色が全然違うよね」
「それはそうでしょ。他人空似なんだから」
元々盗賊に捕まっていたのか。
黙りしているのは盗賊達に乱暴されたからその影響で静にしているのかな。
「話しは終わったか?」
「はい」
「ちなみに君達はここまで何で来たのかね?まさか歩いて来たわけではないだろう?」
「そうですね。馬車で来ました」
馬車を念力で動かして貴族達の前に置いた。
独りでに動いた馬車に対して貴族、騎士にジュンも驚いていた。
家の子達は既に経験済みで馬車が動くどころか宙に浮くことも知っているから平然としている。アズサは先ほど穴を掘るときに念力を使ったからあまり驚かなかった。もしかすると空気のやろうに前もって俺について聞いていたのかもしれない。
「た、タカシ!どうなっているのよ。これは?」
「これはって言われても馬車だよ」
馬がいないけどこれも立派な馬車だ。作りもしっかりしているし、水食糧を乗せてもガタつかない。
念力で浮かして走らせているいる以上ガタつくはずもない。
「タカシとやら、これは不老族の魔法具か何かなのか?!馬がいないのに動いたぞ?」
「調べてもらっても構いませんがこれはただの馬車ですよ。何も仕掛けなどしてない」
貴族が興奮したように俺に掴みがかってきた。これが不老族の魔法の道具か何かに思ったようだ?
本当にただのへんてつのない馬車。動かしているのは俺の能力で馬車には細工は無い。
「俺達はこれに乗って旅をしています」
「魔法具でなければ噂に聞く不老族の不思議な力なのか?」
「確かに動かしているのは俺の力です」
「えっ?タカシの能力って通訳できる能力じゃないの?」
「それは俺の能力の一つだけど能力は一つとは限らないだろう?」
「いくつ持っているの?通訳と物を動かせる能力の他に?」
「私はクーからタカシは数えきれないほど持っているって聞いているけどタカシ本人は把握できないていないじゃないかな」
貴族の質問に答えたら、その答えにジュンがまた驚いた。研究所から逃げ出す時にジュンにチラッと能力について話したと思うのだが、気のせいだったか?
俺も最初は能力は一つだけと認識していたが、今は自分の能力が複数あることが分かっている。
ジュンの疑問に答えたが俺の場合は複数持っているから自分でも何個持っているのかアズサの言う通り把握仕切れていない。
やはり、アズサは空気からある程度聞いていたようだ。アイツは俺の何かを知っているようだ。
「その馬車に我輩を乗せて王都まで連れてってくれ」
「まぁ、俺達は構いません。そっちの馬車も一緒に動せますがどうしますか?」
盗賊達の馬車も動かせることが可能だ。ある程度人数は馬車に乗ることができるが乗れなかった人は歩いてもらうしかない。
「盗賊共の馬車か。あんなボロボロの馬車で王都に着けるのか?いい、あの馬車は君に任せる」
貴族はそう言うがそれほどボロボロではない。カビや汚れは付いているが造りはしっかりしているし、各パーツは破損しているわけではない。
汚い馬車に乗りたくないからそう言うのだろう。
「我々は歩いて行くから気にしなくていい。その馬車は行く道に出る魔物の素材でも乗せてくれ。その代わりゆっくり進んでくれるとありがたい」
騎士と冒険者はもともと歩いて来たらしいから馬車があるのに歩いていくつもりでいるらしい。
騎士達の言う通り王都までの道乗りに魔物が出れば倒して、その死骸でも乗せて運ぶことにした。回りを見渡せば岩と草しか見えない。こんな平原に魔物が出るとは思えないが。
しかし、騎士達が歩くとなればこれでは馬車の速度が出せなくなった。
俺が知らなかったがミリとスフィアは馬車がゆっくりと進むことにガッツポーズを取っていた。
俺達の馬車には俺とミリ達にアズサとジュンとジュンに似た女の子、それと貴族が乗り、それ以外の人達は歩いて進むことになった。
しかし、ジュンに似ている女の子は全然しゃべらないな。静か過ぎて一瞬存在を忘れていたよ。女の子は黙っているが俺達と貴族を見てオロオロしたり、俺達の動く馬車を見てソワソワしたりしている。
引っ込み思案でしゃべることができないのかな?街に着いたらコミュニケーションを取ってみよう。
『パス、俺は乗っている馬車の操作と回りの警戒するからあの馬車の操作を頼むよ』
『はい、分かりました。お任せください』
パスに盗賊達の馬車の操作を頼んだ。頼んだことによって馬車の操作をしながら回りを自由に見渡せる。
そして魔物らしき影を発見した場合即座に対応してパスが操作する馬車に乗せることができる。
騎士達のペースに合わせて少し浮かんだ馬車二台が動き出した。パスはタカシが操作する馬車の後ろに追尾する形で馬車を走らせている。
王都までの道乗りは先ほどタブレットのマップで見たから道さえ合っていればいい。王都までの距離はまだまだあるが近くの街にはあとちょっとで着きそうだ。
時々、冒険者から「道が合っているのか」って聞かれるが方向が合っているから「問題ない」と返してる。
目的地確認で視界を飛ばしてルート確認を怠らずにしているから道は合っている。歩いている人達のことを考えて歩きにくそうな地面は迂回しているけどね。
普段の冒険者達が使うルートと違うのだろうか?
「乗り物に乗って移動って本当に楽わね。ここまで来るまで私ほとんど歩いて来たから乗り物に乗るのは新鮮だわ」
「そうだね。色んな景色を見ながら揺られて移動も悪くないよね。僕なんてクーにいろいろ連れ回されている間変な異空間の中をひたすら歩いていたよ。それよりタカシこの子達、僕達を見ているんだけど僕達何かしたのかな?」
目的地の王都に着くまで暇なので元々知り合いだったアズサとジュンは馬車に乗った感想を話し合っている。
話し合う二人をじっと見ているミリとスフィアが真面目に言葉が分かるはずのないのに二人の話しを聴いている。
俺に通訳を頼むと思うのだが今、馬車の操作をしているから二人は俺に気を使って頼まずにただアズサ達の話しを聴いているみたいだ。
アルムは俺の膝の上にチョコンと座ってミリ達を真似てアズサ達の話しを見ている。
貴族は俺を気にしているようで話しかけることもなく俺をチラチラ見てくる。
「二人の話しを聞きたいようだから話を聴かせてあげな」
「私達の言葉を分からないのよね?分からない言葉を真面目に聴いていても意味がないじゃないの?」
「もしかしたら勉強で聞いているんじゃないかな。僕もこの子達に見習って勉強しなくちゃな」
「勉強ね。学校に通いたいわね」
「この世界には学校があるのかな?タカシはあると思う?」
「さあ?あるんじゃないのか?国で運営している学校とか。貴族さんに聞いてみようか?」
「待ってこの世界ってどういう意味なの?私に説明してよ」
ジュンにはここが異世界だと言うこと話すの忘れていた。その説明はアズサに任せるとして俺をチラチラ見てくる貴族さんに話す用事ができた。
「突然ですがソイドさんこの国には学校ってあるのでしょうか?」
「学校?学園のことか。我が国には学園はない。王族や上級貴族は大国にある学園に数年かけて行くが、下級貴族と商人の子供は家庭教師を雇うのが普通だ」
「無いのですか。学園は大きな国しかないのですね」
「そう言うわけではない。小さい国にある。魔法国家は我が国より小さいが魔導師学園がある。大きい国しかあるわけではない」
とのこと。分かったことはこの国には学校はない。
前にアシュティアが隣国の学園に通う為に勉強をしているって聞いた。自国に教育機関がないから家庭教師を雇うか、隣国の学園に行くしかないということか。
「話しは分かった?この国には学校がないってさ。だから学校がある国に行って学んでくるのが主流だそうだ」
「ここは異世界なのね。最初は研究所の人達が言っていた物が少しだけあったから随分田舎な場所に来たんだと思ったけどそもそも世界が違ったんだだからあの人達の話しとの矛盾がこんなに多くのあったのね」
「そうそう。地球との似ているところはあるけど全然違うでしょ?タカシ?どうしたのさ?」
「いや、なんでもない」
アズサとジュンは俺の話を聞いていなかった。ジュンはこの世界と地球の違いを改めて実感している。
別世界だから数多くの違いがあるのは当たり前だが、似た点があるのはこっちに被験者が来て文化や人の意識に何かしらの影響を与えて、それが地球との類似点になっているのかもしれない。
知らんけど。
アズサにジュンの異世界についての説明を丸投げしたのは俺だから二人が俺の話を聞いていないことに拗ねているわけではない。
あっ、あんなところに大きなもぐらみたいな生き物が顔を出したから念力で捕まえて殺して盗賊達の馬車に乗せよう。あっ、空には頭がハゲた大きな鳥が飛んでる。あれも捕まえて殺して馬車に乗せよう。
あれも…。あれも…。あれも…。
そんなこんなでいつの間にか後ろの馬車に乗せている魔物の死骸がてんこ盛りになってきた。
馬車の後ろに歩いているもう冒険者達の様子がおかしい。なんか目が虚ろで表情が暗いのはなぜだろうか?
速度は一定のままだと思うが歩き疲れたのだろうか?
あと一時間程度歩いた先に街に到着するからそれまで頑張ってもらいたい。
馬車に魔物を乗せるのはもう限界まできている。さっき乗せた大きな犬なのか熊なのかよく分からない魔物が今にもずり落ちそうだ。こんなに魔物を積み重ねてギリギリ落ちないバランス感覚を保ってるパスは凄い。
魔物を見つけても殺さないように自重しよう。
もうすぐ街に到着する。その街で狩った魔物を売ろう。ついでに盗賊達の馬車を処分しよう。
運ぶ物はないから二つ合っても二つ同時の操作が面倒で邪魔になるし、今は汚い馬車は必要としない。
「タカシさん次の街が見えてきました」
ミリが指した街はルルーンの街と王都の間にある街でルルーンの街と比べて一回り小さい街だ。
「タカシあれなんなの?」
「街だ」
「何があるのかしらね。初めての街だからワクワクするわ」
「遠すぎて見えないけど、異世界の街はジュンが期待しているような物はないと思うかな」
ミリが指した先に目を凝らして見るジュンの質問に答えた。答えを聞いたジュンは異世界の街に何があるのか楽しみらしい。それに対してクーと一緒に他の街に入ったことがあるアズサは異世界の街に興味がないようだ。
アズサ達に聞いた見たがこの距離から街まで普通の人の視力だと遠すぎて見えないようだ。
街と認識できるミリの視力は凄いかもしれない。
騎士や冒険者達の体力的に安定しているので今の速度で進めば日が落ちる前にはあの街の中へ入ることができそうだ。
「止まれ、身分を証明する物を見せろ」
街の門に着いた。門には人が列を作っている門と門番しかいない門があったので空いている門へと馬車を進めて街の中へ入ろうとすると門番に阻まれてしまった。
門番の目には俺達が怪しく見えたのかもしれない。
複数の子供とボロボロのおじさんを乗せた馬がいない馬車は誰が見ようと十分怪しく見える。その上騎士達が守るように進んでくるから警戒しないわけにはいかない。
「我々はこういう者だ」
「これはヘッグナ卿の家紋。ヘッグナ卿の騎士か」
騎士の一人が自分達の身分を証明できる紋章を門番に見せている。騎士達の鎧や剣に同じ紋章が刻まれているから見れば分かるがそういうやり取りの一手間が大事みたいだ。
ヘッグナ卿というのは貴族の名字なのだろう。
「ここは貴族用の門だ。一端の騎士と平民が通れる門ではないのは知っているだろう?」
「知っている。盗賊共に襲われて証明できる物は無いがここにいらしゃるのはソイド ヘッグナ様だ」
怪しげな目で門番が馬車に座る貴族見る。
「確か二週ほど前にはヘッグナ卿一行が通ったな。文官と顔会わせば分かるだろう。誰か文官を呼んできてくれ。しばし待ってもらいたい。そして一緒にいる子供は何なんだ」
門番の一人が街中へ消えて、残った門番は次に俺達を目をつけた。
困ったことに俺達は身分を証明する物がない。俺を含む不老族組はバーコードの腕輪を見せればいいが、ミリ達を証明することができない。
俺はあるものを思い出して、それをリュックサックモドキから取り出して門番に見せた。




