出会い
「早いです!!止まってくださーい!」
「ナニコレナニコレ」
「もっといけいーけい」
「もっとスピード出すか?」
「えっ、待ってください!これ以上に早くなるのですか?物が落ちますから一旦止めってくださーい」
俺達はルルーンの街から出発してこの国の王都を目指いる途中の草原を念力で浮かした馬車で突っ走っていた。三者三様それぞれもうスピードで走る馬車に対してリアクションをしてくれる。
早さの余りナニコレbot化したスフィアは必死に俺のジャージの裾にしがみついている。ジェットコースター感覚で楽しむアルムとベスは俺の膝の上で流れ行く回りの光景を楽しんでいる。そして現在俺の首をシメにかかっているミリはガタガタと震えている。
ミリはそんなに怖がらなくてもいいのに。荷物は念力で馬車に固定しているから馬車から落ちる心配はいらない。
時速100キロ程、出ているが念力で浮かしている以上急ブレーキ、速度を落とさず方向転換が可能だ。進む先に何が待っていても対応できるようパスに視界を飛ばしてもらっている。
俺は肉眼と視界で進む先を見ている。余所見して事故を起こしたらたまったもんじゃないし、昨日買ったばかりの馬車だし、たったの数日で壊したくはない。
この馬車は最も安全で最速な乗り物だ。別に急いでいる訳ではないからここまで速度を出さなくてもいいんだけどスリルを味わいたいと思ったから速度を出している。
アルムは楽しんでいるいるが、ナニコレbotのスフィアは案外楽しんでいる気がする。ミリは反応が可愛いいからよし。
おっと数百メートル先にでっかい岩があるな。このまま進めば激突するから少し馬車の進行方向をずらすか。
「この先に岩があるからこのまま進むとぶつかちゃうから」
「遅くしてくれるのですね」
「違うよ。岩を避けるから舌を噛まないように気を付けて」
「さらに早くなってますよっ!」
それはミリの気のせいだ。速度メーターはないが一定のペースで進んでいるはずだから速度が上がっていないはずだ。
馬車は岩から二メートル手前でポーンと岩を飛び越えた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!」
「ナニコレナニコレナニコレナニコレ」
「スゴーーーい!」
「なんだ!」
岩を飛び越えた辺りでミリとスフィアが悲鳴を上がりアルムの歓喜の声が響き渡る中で野太い声がした。
声の方向に目を向けると岩影に冒険者の一団がいた。
冒険者の一団は驚きの表情をして俺達の馬車を見上げている。
やべ、こんな所に人がいるとは思わなかった。まさか岩影で休憩しているとは。ルルーンの街に変な噂が出回るかな。
タカシ達が乗る馬車は冒険者の一団を置いて風の如く進み続けた。冒険者達の顔を視界で覗くと全員ポカーンとした表情で数分間そのままの状態だった。
ルルーンの街で話題にならないといいのだが、あの冒険者の驚いた様子だと街で噂になりそうだ。食堂や酒場辺りで今日目撃したことを友人や給人の人達にペラペラと話すだろう。
次、街に行ったらどんな噂が広まっているか怖くて考えるのはやめよう。
「タカシさん!前!森ですよ」
「ちゃんと(視界で)見ているからそんなに慌てなくて大丈夫だよ」
草原の景色が流れ行く光景が終わりをむかえて、もう少しで馬車は森を通りかかろうとしていた。
俺は草原の変わらない景色に飽々して速度を少しばかり落としてタブレットを弄っていた。視界で前方を見ていたからこれは余所見ではない。
今までは平らな平原が続くばかりで馬車を浮かしてもうスピードで走れたから問題はなかったが、森の中はそうではない。
森の中は無数に生えた木々や岩、崖などある。このままのスピードで進むには問題が出てくる。
走っている中で枝に当たったり、木々で数メートル前が見えなくて崖に激突する恐れが発生する。それに森の中には魔物や生き物がいるから何かの拍子で馬車に飛び付く習性を持つヤツがいるかもしれないからそれらの対策で、森の中ではもっとスピードを落とすことが必要になってくる。
草原を走っている中で魔物はスライムや大きな虫のようなものちらほら見かけたし、普通の生き物だって兎とか牛など見つけた。兎と牛は冒険者に狩られていたがたぶん普通の生き物のはずだ。
丁度いい。ルルーンの街から出発して四時間が経過したところでだんだんお昼の時間になる。森の手前で馬車を止めて休憩がてらお昼を食べる。
「森の前で止めてお昼にしよう」
「やっと馬車を止めてくれるのですね!」
馬車が止まるのを知ってミリが嬉しそうに声をあげる。
馬車を止めるだけでここまで喜ぶばれるとは思わなかった。喜ぶミリを見ていると気の毒でしょうがない。
そういえば俺に服の裾にしがみついたナニコレbotの化身スフィアは静かだがどうしたのだろうかと思ってスフィアの顔を覗きこむと目を回していた。
急いでいない時以外はそんなにスピードを出さないようにしよう。
そしてアルムははしゃぎ過ぎたのか疲れはてて俺の膝の上で眠ってしまった。うん、可愛い寝顔だ。
「森の中は何があるのかわからないし、もうじきお昼になるから森の前でお昼休憩をね」
「そうなのですか。森の前でお昼ですか?二人は寝ていますがどうしましょうか?」
「休憩する時に起こすからこれまで寝かしといておう」
「わかりました」
馬車は森に近づくにつれて走る速度を落としていった。『ミリに急に止まらないでください。ゆっくりと徐々に落としてから止まってください』とお願いされたからだ。
「お昼にするから起きて」
「ごはん?」
「ナニコレ!!あれ森だわ?」
「スフィアちゃん寝ぼけてないで準備を手伝ってくださいよ」
「森に入る前のお昼休憩だよ」
お願いされた通りにゆっくりと馬車を止めた。寝ていたアルムと気絶していたスフィアを起こした。
スフィアはまだナニコレbotから直ってなかったようだが、馬車が止まっていることに気づいて正気に戻ってくれた。
俺は馬車の積み荷からルルーンの街で買ったキャンプセットに似たコンロを取り出して組み立てた。ミリ達は食料を出したり、落ち枝を集めたりして準備を始めた。
コンロの組み立てを終えて辺りを見渡すとヒョコっと顔を出した兎がいたので念力で掴まえた。念力で兎を引き寄せたが、なんとこの兎には角が生えていた。
物珍しいかったので殺さずにミリ達に見せた。
「なんか角が生えた兎を捕まえたよ」
「タカシさん角兎を捕まえたのですね。捌いてお昼に混ぜましょう」
「おにくがふえたー!」
「角兎なんてこんな所にもいるのね」
お昼のおかずが増えて喜ぶアルム以外はふーんと言った感じの空気が漂った。
この角が生えた兎ってここら辺ではメジャーな兎なのか。いや、ここは異世界だからこっちがメジャーなのかも知れない。
兎の処理は手慣れたミリに任せて俺はやることがなくなった。生き物を捌くなんて生まれてから一度もやったことがない。
捕まえた兎はミリ曰く角と毛皮がギルドで買い取ってくれるらしい。初心者の俺がやれるわけでもなくミリに丸投げとなった。
捌きはスフィアもできるらしくミリスフィアコンビに任したからアルムと一緒にコンロにいれる落ち枝でも拾ってこようかな。
暇潰しにアルムを連れて落ち枝を拾いに馬車の回りから少し離れ森の入り口で拾う。特に他意はないが俺は念力を使わずに手で拾っていく。ミリ達の方が少しばかし時間がかかるらしく時間を潰すためである。
落ち枝はコンロに入れる分だけ拾う。少し多く拾い過ぎても次使う分にまわすから多少多めに拾った方がいいかもしれない。でも今から森の中へ入るから落ち枝には困りはしないだろうけど。
「おにいちゃん、えだいっぱいひろったよ」
「お、結構拾ったな。俺もこのぐらい拾ったぞ」
「やったー。アルムのほうがたくさん」
枝拾い競争していなかったがアルムの量のほうが多い気がするが微かな差だ。それで無邪気なアルムが喜んでくれるのはそれはそれで俺も嬉しくなるよ。
アルムと共に拾った落ち枝を抱えてミリ達のもとへ向かう。
「あっタカシ達今どこに行ってたのですか?」
「アルムと一緒に落ち枝拾いに行っていた。何かあったのか?」
視界で見ていたからトラブルに発展しそうなことはなかったのは確認済みだが、俺が気づかないことで問題があるから一応聞いてみる。
「落ち枝を拾いに行っていたのね。丁度良かったわ。料理するための薪を買うのを忘れていたから困っていたのよ」
「そうなんですよ。先ほど気づきまして困っていましたので助かります」
重大なことではなくて良かった。気になったから聞いて丁度よく俺とアルムが燃やす用の枝を持ってきてくれたと言ったことろか。
コンロの中に細かく折った枝を入れて火をつけて、ミリが新品のフライパンで捌いたばかりの兎肉焼いていく。
コンロに火をつける時、アルムが魔法で火をつけたがっていたがアルムの魔法は威力のコントロールがまだできていないから下手したらここら辺が焼け焦げる。一歩間違えれば森が火事になる危険があるからアルムには火をつけさせることができない。
「むぅ」
「アルムちゃん拗ねないでくださいよ。もっと魔法の練習をして上手く操れるようになったら、タカシさんだってアルムちゃんに任せますって」
「いまやりたかったんだもん」
「俺の分の肉をあげるから機嫌直してよ」
「うん、おにくはもらうけどつぎはアルムがやるの!」
「わかったよ。それまでアルムは上手くコントロールしなくちゃね」
「そうね。まずは体に流れる魔力の操作からね」
「スフィアおねえちゃん、アルムそれがんばる!」
アルムの皿に俺の兎肉を乗せてあげると少しだけ機嫌がよくなり、今乗せた兎肉を頬張っている。
こんな約束をしてしまったからアルムの魔法が上手くなるまではコンロはそれまで封印だ。
お昼休憩を終えて俺達はまた馬車に乗り、通常の馬車の速度で森の中へ入った。
森の中は異常な程静かで鳥の鳴き声や虫の羽音などの生き物達が音が一切聞こえなかった。
「不気味な森ですね。王都はこっちの方向であっているのでしょうか?」
「地図で見るにこっちの森を真っ直ぐ抜けると王都が見えてくるからあっている。この森を抜けないならこの森の回りを数時間迂回しなくちゃならないよ」
「それで森を通ったほうが王都に早く着くから通ることになったのね」
森を通らない道を戻るとしたら森の回りを迂回して山を越えなければならない。となるとさっきの速度でも数時間かかってしまう。でも森を真っ直ぐ通れば二時間で王都に到着できる。
だからこっちの道を選んだというわけだが森の中はおかしい魔物や動物の姿が全然見えない。偶然見つからなくても鳥の声が聞こえてもいいと思うのだが聞こえてくるのは木々が擦れる音だけだ。
「タカシこの森大丈夫なの?引き返したほうがいいんじゃないの?」
「そうですよ。どこからか不穏な気配を感じますし、スフィアちゃんの言う通り引き返したほうがいいのでは?」
「いや、このまま進む。何が出ても撃退すれば問題ない。みんなのことは俺が守るから心配しないでほしい」
「なにがでてもアルムのまほうでやっつけるんだから」
「アルムちゃん世の中にはアンデッドっていう普通の魔法では簡単に倒せない魔物がいるのですよ。聖魔法や浄化魔法使えるとアンデッドは簡単に倒せますが、浄化魔法は神父様やシスター神様の加護を持った人じゃないと使えませんよ」
「でもおばけのまものはよるしかでないからいまはでないよ?」
「アルムちゃんそれは身体を持たないゴーストの話で明るい内でもゾンビやスケルトンが出てくるんですよ」
「ゾンビ、スケルトン?出てくるならアルムがたおしす」
アルムは自分が魔法を使えるとわかってから日に日にバトルジャンキーチックになっている。魔物が出れば「倒す」と言い、みんな俺が守るから魔法は自己防衛だけでいいからアルムには女の子らしくしてもらいたい。
アルムがやりたいなら止めはしないがあまり危険なことはしないでほしいい。
「でもアンデッド特有の腐敗臭はしないわよね。ゾンビの唸り声も聞こえないし、少なくともゾンビやスケルトンの実態があるアンデッドはいないみたいよ」
「アンデッドって臭いのか?」
「死んでいるから肉体が腐っているから特有の腐敗臭が臭うのよ。でもこの森にはその臭いがしないからこの森には昼間行動するアンデッドがいないってわけよ」
「ゾンビがいないのはわかったが、そもそもこの辺りには生き物が見当たらないのは何故だ?」
「そんなこと私だってわからないわよ」
と変な質問してスフィアに怒られた。
スフィアだって何でもかんでも知っているわけではない。
生き物がいないのは自然的な理由かもしれない。例えば森の環境が急激に変わって生き物が生きていけなくなったり、どこからかやってきた肉食の魔物が森に存在していた生き物を全て食べて次の獲物を求めて別の場所に向かって生き物がいない森ができたとかありそうだ。
何が来ても俺が対応する。視界を飛ばして四方八方の監視は怠らねぇ。
何かしら変化も見逃せねぇ。
「それにしても不気味ね。原因が何にしても獣と魔物いない森なんて何だか死者の森を連想するわ」
「スフィア死者の森ってなんだ?」
「レイス系のアンデッドしかいない森なんだけどレイス系のアンデッドは夜だけ活動するの。それで昼間は何もいない静かな森なんだけどその森と少し似ているなって思っただけ」
「そうなのですか?私が聞いた話しだと死者の森は昼間はゾンビ系のアンデッドが徘徊しているって聞きましたよ。アンデッド以外にも小鳥やフクロウといった生き物もいると聞きましたが?」
「そうなの?私と聞いた話しと違うわね」
ミリとスフィアのやり取りを聞きながら馬車を進めていく。
森の中はミリとスフィアの話し声が響いている。これだけ話し声を出しているのに物音すら起こらない。
いや、何かこちらへ這いずる音が聞こえる。
「タカシ何か来るわよ!」
「魔物でしょうか?」
「魔物なのか獣なのかわからないがでかいのが来るぞ」
「アルムがたおす」
ミリ達は馬車を一端止めてこちらへ来る何か備える。
魔物だろうが瞬殺なのだがな。とりあえず這いずり音の方へ視界を飛ばして魔物や獣だったらミリ達が見る前に瞬殺するか。
視界を飛ばして這いずる音がする方向に向かうとでかい木が動いている。
根子が地面に埋まっていない木が器用にクネクネと動かして前へ進んでいる。一ヶ所だけ幹の上の方にはてかてかした緑色の丸い物体が見える。枝があるが普通の木の枝とは違い葉っぱぽい物が生えているが根子と同じようにクネクネと動いている。
そして驚くべきことに片言だが言葉を発している。
『ゴハン、ゴハン』
何なんだ。この生き物は。




