旅立ちの準備
ミリ達が寝たことを確認して廃墟から出る。
タカシは先に目的の場所、浮浪児達が暮らす小屋に視界だけを飛ばして監視していた。
監視してわかったことだが、浮浪児達の回りには親と呼ばれるような大人がいる気配がない。食べ物も自分達で準備して食べていたし、自分達のことは自分達でしている生活を送っていた。
そこら辺は俺達と一緒だったが、小屋にある器は多少人数より多いがどうしても大人がいるとは思えなかった。近くに住む大人達も浮浪児達を見ても気にする様子もない。
「よし、あっちもぐっすり寝ているな」
とりあえず浮浪児達も寝ていることを確認して向かうことにした。
浮浪児達が暮らす小屋の近くに着くとタカシは路地の物陰に身を潜めた。
視界の先でハンリーがスヤスヤと眠るのを確認して、ゆっくりとハンリーの体を念力で浮かす。起きないように慎重に体を運ぶ。
小屋の扉もできる限り音を絶てないように開け閉めを気を付けてタカシはハンリーを自分の目の前に寝かす。
タカシがいる物陰から半径2m以内には人がいない。ここまでくればハンリーが暴れようと誰も気づかない。
「ハンリー起きろ」
「クカー」
「起きろってば」
体を揺らしても起きないハンリーの顔に生成した水を勢い良くかける。
「ぶわ!なんだ?!」
顔に水をかけられビックリ間際の寝起きのハンリーは飛び上がった。
「おはよう、ハンリー君。寝起きのところ悪いが君にここで使命を与える」
「お前はタカシじゃないか?何でここにいるんだ」
ふざけてスパイ映画風に問いかけてみたが、ハンリーには 素で返されたので俺も素でやろう。
別に滑って恥ずかしかったのではない。
「ハンリー、俺はお前を気に入ったからお前に力をあげようと思う」
「はぁ?何を言っているんだ。力って何のこと。これは夢か」
ハンリーは現在の展開がいきなり過ぎてこれを夢だと思いこんだようだ。夢だと思いこんだ方が俺にとって都合がいいのかもしれない。
「まいいや、さてと始めるか」
「始めるって何をだよ。タカシ?」
「何をって実験のような物かな?自分でも詳しくは知らないけど」
相手に能力を渡す方法は知らない。パスだって詳しく知らないと言っていたがなんとなく方法は知っているらしい。
パスに従いながらハンリーに能力を与えてみる。
『マスター、念力を使う感覚を強くイメージしてください。血の操作は私が調整しますのでマスターはイメージだけに集中してください』
『わかった。こんなんで本当に能力を与えられるのか?』
『確証はありませんが以前のマスターから少しだけ教えてもらったことを私なりに推測した方法になります』
俺が少しだけ教えた微かな情報をパスなりに考察と推測を繰り返しで出した物だそうだ。俺にはそんな記憶は毛ほどにもないからパスの推測の結果が頼りとなる。
『はい、できました』
パスの声に右手の人差し指にチクりと痛みがした。
『マスターの指から血が出ていると思います。それをその子供の口に突っ込んでください』
『ハンリーの口に指を突っ込むんだな』
「わかった。ハンリー口を開けろ!」
「はぁ?むぐ!」
パスの指示に従いそれを実行する。
他人の口に指を入れるのは少し汚いと想いながらも躊躇わずにハンリーの口に指を入れてすぐに引き抜く。
「タカシ今何をした。口の中が鉄の味するぞ」
「ハンリー、体はなんともないか?例えば力が溢れるとか酷い頭痛がして気分が悪いとか?」
「いきなり何を言っているんだ?人の口の中に変な物を入れたと思えば次に変なことを言ってもオイラが見ている夢なんだからな」
ハンリーの様子を見ても異常はないようだ。失敗したかと思ったが物は試しでハンリーに念力の使い方を伝授する。
「そんなことよりこれを動かしてみろよ。ポイントとしてこれだけを動かすことに集中しろ。動かすことが成功したらくれてやる」
「マジで!」
俺はポケットから一枚の金貨を取り出した。ハンリーは取り出した金貨を見てやる気を出した。
夢だとわかっていても金はほしいようだ。
「うーん、動け!動け!」
ハンリーは必死に金貨に向けて念じる。
ジリジリ。
手のひらの上の金貨が少しだけ動いた。
「うおっ!動いた!タカシお前がやったんじゃないよな?オイラが動かしたんだよな?」
「ああ、俺は動かしていない。約束通り金貨は上げよう」
金貨をハンリーに手渡しする。
金貨を握ったのを確認してハンリーを念力で飛ばす。浮浪児達が暮らす小屋へ凄い勢いでハンリーが寝ていた場所へ戻す。
ハンリーが元々寝ていた場所は他の浮浪児達が転がって侵入してこないように念力で確保してある。そこにハンリーを素早く、そしてソフトに寝かす。
ハンリーに握らした金貨は浮浪児達が必死で集めた薬草を売った金だ。渡し忘れていたが薬草を売った金にしては多いがポケットに入っていたのが金貨しか入っていなかったからしょうがない。
ハンリーつりはいらない。あとは自力で練習することだな。
その後俺は小屋の中に戻したハンリーの様子を見て廃墟に戻る。小屋の中へ戻したのがほんの一瞬だったからハンリーは夢だと思いこんだようだが、自分が握った金貨を見て夢なのか現実なのか困惑していた。
俺はハンリー達の幸せになるように願いながらミリ達の元へ帰った。
ミリ達が寝ているベッドの中へ転がり込むと数時間ほどの眠りについた。
朝目覚めると今日やることをタブレットにメモをとる。1.食料の買い出し。2.乗り物の調達。3.野宿用の道具を買う。4.今夜泊まる宿を探す。
1と3は日持ちする食べ物とテントとかの必要な道具だ。2はオジさん達と遺跡へ行った時、行き帰りに使った馬車がとても便利だったので馬車だけを買おうと思う。念力を使えば馬車を簡単に動かせるから馬なんて必要ない。馬車はほしいができるだけ出費は金は有限なのだから押さえたい。
これが貧乏性なのか。
4.は今夜でこの街から出ていくので最後に普通の宿にでも泊まっていこうと思っている。
出費を押さえたいと思っている中宿に泊まりたいと矛盾を言っているが懐に金が溜まったのにミリ達を薄暗くじめじめしていた廃墟の一室に寝かしているなんて男として情けないと思い始めた。だから街での最後の一晩だけ普通の宿に泊まることにした。
と言った感じだが、ミリ達と話し合って予定を変更するかもしれない。とりあえずミリ達が起きてから行き先も含めて話し合おう。
街を出た後どこに行くのかはまだ決めてなかった。とりあえずこの国の首都に向かえばいいかなと軽く考えていたが、果たしてそれでいいのか?俺の中で疑問が浮上してきた。
明確な目的がない俺はただの平穏な生活を求めて研究所から脱出してきたが流れるままミリ達と出会って流れるままこの街に着いた。
他人に決断を任せ過ぎな気がする俺はもう少し自分で決断した方がいいのではないのだろうか?
行き先はミリ達以外の誰かに相談した方がいいのかもしれない。
タカシは伯爵家に向けて視界を飛ばした。
視界は幽霊の如く壁をすり抜けて伯爵家に向かった。運がいいことに相談相手のフォスティアは本を読んでいた。
フォスティアの顎を念力でクイッとあげてコンタクトを取ってみる。
「ひゃあ!何?!」
自分以外何もいないはずの自室で顎をあげられたフォスティアは驚いた声をあげた。
俺はフォスティアの目の前に炎を出現させた。その炎で簡単な平仮名を書く。
ちなみにタカシは気づいた時から研究所にいたので学校に行ったことがないため、簡単な漢字ぐらいは書けるが小学校三年以上の漢字は読み書きがほとんどできないから今は平仮名のみを使っている。
『おれはタカシだ。もうすぐまちからでようとおもっている。だけどこれからどこにいけばわからないからそうだんにのってほしい。このくにのしゅとにいけばいいのだろうか?』
「へ、ひらがな?そんなことを私に聞いても困るよ。だってタカシさんのやりたいことがわからないもの。タカシさんは異世界に来てやりたいこと、したいこととかないの?」
『へいおんにくらしたい』
俺は今まで研究所で暮らしていたからか今さらやりたいことを聞かれてもすぐにパッと思い浮かばない。しかもここは地球ではなく異世界だ。今は謎の組織から追われる身なので一ヶ所に止まることがでない。
それらを考慮して今自分がやりたいことは思い浮かばない。
「それだけ?せっかく異世界に来たんだから科学で無双するぞとか。チート能力を使って上級階級になって楽な生活をおくるぞとかないの?」
フォスティアの例えに習って自分の能力を使って楽な人生はおくれそうだが、俺が思っている平穏とは何かが違う。
俺が何を求めているのか自分でもわからない。この答えは消された記憶が関係しているのか知らないけど今の自分で答えを見つけなければいけない。
『おれにはたびのもくてきがない。フォスティアからおしえてもらうまでこのせかいがちきゅうとおもいこんでいたから、いせかいとわかったらさらにどこにいけばいいのかわからなくなった』
「ふーん。ならもう少しこの街に残って考えればいいんじゃないの?」
『とあるりゆうでのこれなったよ。フォスティアだけにいうけどふろうぞくのなぞのそしきからおわれることになったから、いっかしょにとどまれなくなちゃったんだ』
「不老族から追われる身ね。何かしたの?」
『なにかしたわけではない。ミリたちのためにいまつかまるわけにはいかない』
「タカシさんが話したくないことは聞かないわ。とりあえず王都に行ったらどう?この国の首都っていうより王族貴族が住む国の中心の街みたいな所だけど」
『王都か。ありがとう。明日向かうから次に会ったらお礼にあるものをあげるよ』
視界を閉じた。
フォスティアが言っていた王都に向かうかな。元々次は首都に向かおうと考えていたが最終決定をフォスティアに押し付けてしまった。次、会うときはとても便利なチート能力をプレゼントしてあげよう。それまで能力の譲渡の練習をしておかないと。
この国の首都のような街だから人がいっぱいいるばずだ。そこでハンリーみたいな子供に実験なってもらう。
明日は街から出ていくから午前中はほぼ買い物に費やす予定だ。まずは馬車からお手頃な物を見に行ってみよう。その後に食料だ。
ミリ達が起きてハンリー達が昨日と同じように廃墟の前にいないか確認して四人で出かける。荷物は当然全部持ってきたし、隠し部屋の扉を隠してきた。なのであの廃墟の隠し部屋を誰も見つけられない。
「明日、出発するから今日は旅に必用な物を買いに出かけるぞ」
「お買い物ですか?」
「何を買いに行くのかしら?」
「とりあえず馬車だな。その後に食料を買いに行く」
ミリ達には簡単には買い物の説明をして、俺達は馬車を買いに行く前に朝食にこの間行った屋台に向かった。
「屋台のおじさんまた来ましたよ」
「おう、この間の坊主か。また買ってくれるのか?」
「はい、前と同じ数でお願いします」
「任しとけ、すぐに出来上がるから待ちな」
朝早い時間帯だったからか屋台のおじさんは屋台の準備をしていた。おじさんから聞いた限り毎朝このぐらいの時間には出しているらしい。冒険者がギルドや街の外に出かけるぐらいの時間に合わしているみたいだ。
冒険者の朝は早いようだ。
串肉で空腹を満たして最初の目的である馬車を売っている店を屋台のおじさんから聞き出してその店に向かった。ギルドの近くにあるようだ。
できるだけ出費を押さえるために新品の馬車ではなく、中古の馬車を買った。中古でも金貨5枚だったから安いのかわからなかったが作りがしっかりして長旅でも耐えられる物選んだ。
その後、馬車に買った食料を積んでいく。干し肉、漬物、果物、長持ちしそうな食べ物やミリ達が欲しい物を色々買っていたら空がオレンジ色に染まっていた。




