伯爵家
青年やメイドが馬車の中に入って何やら伯爵と話し込んでいる。伯爵が貧民街に連れてかれた件か、仕事に関しての話なのかは知らないがその間、俺達には関係ないことなので御者の席でボーとしている。
馬がいない馬車の御者の席に座る俺達を奇異な目で見てくる人々煩わしく思いながら気にしない様に膝の上に大人しく座るアルムを抱きしめる。
アルムの温もりを感じながら両隣に座るミリとスフィアがそわそわしていることを気付いた。
「どうしたの二人とも?何か気になることでもあるのか?」
「タカシさん、私達邪魔になってませんか?」
「絶対邪魔になっているでしょう。ギルドの入り口の真ん前に馬車があったら入りにくいでしょ。周りをよく見てよ」
スフィアからごもっともなツッコミを聞いて歩き去る人々を見る。皮状の鎧やローブを着こんだ人達がチラチラと遠巻きに見ている。
遠巻きに見ている人達はどうも冒険者のようでギルドに入るか迷っているかのように見えた。迷っているよりもギルドの前に領主の馬車があって入りにくいようでたむろしている。そして何人かはギルドに入るのを諦めてギルドの隣の店に入っていく姿が見えた。
ギルドの前に伯爵の馬車があれば入りにくいだろうから馬車を入り口から少しずらしてやると諦めていなかった者が驚きながらも一斉にギルドの中に入っていく。馬車を動かした影響で伯爵達が驚いた声を上げたのでので御者の席から降りて謝りに行く。
「ちょっと行ってくるよ。それとこの後のことも聞いてこようかな」
馬車の中で話声がまだしているので、コンコンとノックしてから扉を開こうとしてドアノブに手を掛けたところ扉が開いた。扉の反対側のドアノブを握ったメイドさんと目が合った。
扉はメイドさんが開いてくれたようだ。
「旦那様、空の魔剣師がきました」
「タカシか、丁度良かった。今リヒトに呼びに行かせようとしていた所なんだ」
「はい?」
馬車の中に入り、伯爵が何かを頼むような雰囲気を漂わせている。
いきなり馬車を動かしたことで怒られるわけではないからホッとする。今さらの話、色々と伯爵には失礼と思われる態度をとってしまっている。いくら娘の恩人だが、伯爵の中でのこれはいい、これはダメの境界線があり、ダメの境界線を越えて伯爵を怒らせてしまったと思ったがいらぬ心配だった。
「これから屋敷に招待する客人に頼むことじゃないんだが、私達を馬車ごと屋敷まで連れてって欲しい」
何を言われると思いきや頼みごとだった。
俺の中ではメイドや青年と再会したから用はないからもう帰れと言われるのを期待したのは黙っておこう。
伯爵に頼まれた通りに馬車を念力で押して伯爵の屋敷の前に着く。
「ありがとう。タカシには二回も助けてもらった」
「いえ、おきになさらず。では僕達はこれで」
「タカシはどこに行こうと言うのだね?私が恩人に何もしないまま帰すと貴族の恥さらすマネをさせるつもりではないのかね?それとリヒトは馬車の片付けを頼む」
伯爵達を屋敷に届けて、ミリ達を連れて帰ろうとしたら伯爵に肩を掴まれた。伯爵は不思議そうに俺を見ていた。青年リヒトは伯爵に言われて屋敷から執事達を呼び、執事仲間と馬車を押して車庫(?)に入れていた。
まだ、何かあるんですか?疲れたので帰りたいのですがダメなのでしょう。今気づいたけどミリとアルムは立派な屋敷に見とれているから数分位は動かないだろう。
「今日はタカシの為に豪華な料理を作らせよう。そして今晩は泊まってもらう。それだとアシュティアも喜ぶだろう。メア、客室の用意をしてくれ」
伯爵は俺達が止まる前提でメイドさんに指示を出している。メイドさんもそそくさと屋敷の中へ姿を消した。
俺の意見は聞いてくれないが豪華な料理はミリ達に食べてもらいたいから伯爵の言葉に甘えて今日は泊まらせてもらうことにした。
とその前にミリ達も泊まっていいのか確認を取らないと。
「あの、この子達も泊まるんですよね?」
「もちろんだ。タカシの連れも泊まらせても良いぞ」
伯爵から了承をもらい、ミリ達も泊まらせてもらう確認ができた。
「ヤッター!」
今の話を聞いたアルムが大喜びして可愛いかった。ミリも少しだけ嬉しそうに笑っていたが、スフィアは複雑そうな表情をしていた。
何か不安なことがあるのだろうか?後で聞いてみよう。
「旦那様、客室の用意ができました」
「そうか。メア、タカシ達を部屋まで案内しなさい。私は夕食まで書類を片付ける」
「はい、かしこまりました。では私についてきてください」
伯爵と別れて、メイドさんの後をついていく。
ついでにフォスティアも一緒だ。
客室に向かう途中に説明があり、伯爵が言ってた客室は四部屋用意されていたと知る。俺達一人一人に用意した部屋だと聞かされたミリ達は喜ぶと思ったが三人とも不安な顔したのでメイドさんにお願いして4人で一部屋にしてもらった。
問題は一部屋にありベッドが二つしかなく、誰が俺と寝るかで揉めた。
君達、誰と寝ようも変わらないと思うけど。
「お嬢様は何故にここに居られるのでしょうか?お帰りなされたらアシュティアお嬢様と一緒に御茶をお飲みになるのではなかったのですか?」
「タカシさんに出会えるとは思いませんでしたので夕食までタカシさんとお話しますからお姉様には私が疲れて寝たとでも言っといてください」
フォスティアはメイドさんに言う。メイドさんの方は疲れたように「わかりました。アシュティアお嬢様にはそうと伝えておきます」と言って部屋から出ていった。
「すごーい。おにいちゃんへやがキレイだよ」
「アルムちゃん、騒がないでください。フォスティア様もいるんですよ」
「そうよ。タカシにも迷惑かかるから大人しくしなさい」
用意された部屋の豪華さに興奮するアルムを大人しくさせようとミリとスフィアが頑張るけどはしゃぐアルムは止まらない。高そうなシーツが張られたベッドにダイブしたり、ゴロゴロしている。
ミリは貴族であるフォスティアの前ではしたない姿を見せて反感を買うのを恐れている。フォスティアはゴロゴロと寝っ転がるアルムを微笑ましそうに見ている。
「私のことは様をつけなくていいただ単にフォスでいい。敬語も鬱陶しいからやめて。タカシだって私と話す時は普通でしょ?」
「貴族様を愛称で呼ぶわけにはいかないですよ。それと敬語というか私は元々誰に対してもこういう話し方なので鬱陶しいと言われましても困ります」
「フォスティア、ミリと初めて合った時からこういう喋り方なんだよ」
初めて合った時のミリはずっと敬語を使っていた。丁寧な口調で俺は好きだがフォスティアはミリとの距離感や壁を感じるのだろう。
「タカシはミリのことをフォローして私のフォローは無いの?」
「フォローって、ミリはまだ、いや、何でもない。...敬語は丁寧に聞こえるけど相手からしたら距離感を感じて自分と仲良くなりたくないんじゃないのかなって思うんだ。敬語はある意味悪く受け取られるかも知れないんだ」
ミリはまだ小さい子供だって言いそうになった。自称転生少女フォスティアの方が小さな子供だ。フォスティアはミリ達に自分が転生者だと知られたくはないかもしれない。言いそうになった言葉を飲み込みだ。
「わかればよろしい、そうだ。私って初めて出会った獣人がミリなんだ。だからミリの耳と尻尾を触らせて欲しいな。いいかな?触らしてくれるのなら敬語は許してあげるわ」
「えっ?私の耳と尻尾ですか?別に構いませんが、そこまで良い物ではないですよ」
「私達にとってそのふわふわな耳とさらさらな尻尾はまさに至高な産物なのよ。っね、タカシ?」
「俺!?」
フォスティアからいきなり振られて戸惑う。
確かにミリの耳はフワフワだったが頭を撫でることはあれどじっくりと触ることはないだろう。あれをもう一度もむ様に触ればそのフワフワな毛並みから逃れられなくなってしまう。
「だからあの時、タカシさんは私の耳を触っていたのですね」
「ミリちゃんもタカシに耳を触らせて欲しいって頼まれたの?私も遺跡の時に頼まれたのよ」
「え?スフィアちゃんはタカシさんに頼まれたですか?私の場合は前にスフィアちゃんとアルムちゃんには話したことがおると思いますがタカシさんと初めて会った時の話ですが」
「ミリがタカシと初めて会った話と言うと森の主に襲われた時の話ね」
「なにそれ?その話ききたい」
「はいそうです。思わずタカシさんの抱き付いちゃいまして、タカシさんは私の耳を痛いほど揉まれました。そこまで私の耳はいい物だったんでしょうか?」
ミリは自分の耳をモミモミと自らの耳の感触を確かめているが触られる理由をあんまり理解できないようだ。ちなみにミリの耳は横についているのではなく猫の様に頭部にチョンとついている。最初は横にも耳がついているのではないかと思いミリに頼んで見せてもらったが本当に横に耳がついていなかった。
頭に生えた耳は本物であったことに驚いた。ミリ以外の獣人はミリの様に横の耳はないのだろうか。
「タカシって意外と大胆なのね」
「ミリちゃんの場合はじっくりと触ったんだ」
フォスティアとスフィアはジッと俺を見る。
「スフィアちゃんの場合はどうだったんですか?」
「遺跡の中でタカシは私の耳が尖がっているのがわかると触らしてくれって頼まれたのよ。別にタカシが触って減る物じゃないからしょうがなく触らしたの」
「で?触ってもらった感想は?」
「私も聞きたいです」
「ミリちゃんみたいにじっくりじゃなかったけど尖っている先っぽを中心をツンツンしてくすぐったかったけど遺跡で見た魔法少女に夢中でそれどころじゃなかったわ。それとタカシは自分の耳を触りながら私の耳を触っていたわ。あれはどんな意味があったのかしら」
遺跡の中でスフィアの耳を触ったのは尖った耳が気なったから自分の耳と比べながら触ったので特に意味はない。
「あれは意味はないが強いっていうなら自分の耳と形が違ったから比べながら触っただけだ。ほかに理由はない」
「ふーん。二人の大事なところ触っといて「はい、終わり」って感じね。責任取ろうと思わないの」
「って誤解を招く言い方をしないでくれ。スフィアは故意で触ったがミリの場合は人違いだ!」
なんて酷い言いぐさだ。知らない誰かが聞いたら本当に節操がないと思われるじゃないか。
「そういえばタカシさん、あの時私と誰を間違えたのですか?最初私をジュンとか呼んでいたような」
「それって何の話?」
「えーとですね。私が森の主が襲われてタカシさんが現れた時、タカシさんがジュンって叫びながら私を助けてもらったんですけどあの時誰と間違えたのかなってずっと思いました」
ジュンと間違えた話か。
「友達のジュンって言う女の子と間違えたんだ。ミリと出会う前に友達達とはにげ、別れたんだ。今頃は好きなように生きているかな」
「また女の子なのね。こんなにも周りに女の子がいて満足できないの?まさか、私の知らない間にタカシは女の子をその毒牙の餌食にしているんじゃないでしょうね?」
「茶化すな。また女の子なのねだ。誰と会おうと俺の勝手だろう。仲間達はここは故郷からかけ離れているというか個人の力で故郷には帰れないことを知らないかもしれないんだ。俺を含め仲間達は故郷に帰えようとは思わないだろうよ」
一緒に逃げだした仲間や空気の様に別ルートでこの世界に来た奴らはここが異世界ということは知らないのだろう。もしかするとサイボーグ少女の仲間に保護(?)された奴らは教えられているのかもしれないな。元の世界とこの世界の違いに気付いた奴がいるかもしれないが俺には関係ない話だ。
「その女の子ってタカシの彼女だったりする?」
フォスティアがマジの顔で聞いてくる。
「だからただの友達だって言っているだろう。その前に俺には彼女という存在はいない」
「そうなのね。良かったわ。気になっていたんだけどタカシってもしかしてクラスでこの世界に転移してきたの?」
「学校のクラスでという意味だよな。俺は学校に行けなかったし、小さい頃からこの世界に来ることになるまで仲間達とあまり合わせてもらえなかった。この話は俺にとって辛いから止めにしないか?」
「タカシが話たくないなら別に話さなくていいわ。タカシが昔何をしていたなんて今とは関係ないものだし、過去は過去で今は今って割り切れることも人生の中で大切なのよ」
フォスティアは俺の頬を撫でる。
転生者であるフォスティアは本当に過去は過去、現在は現在で割り切れているからそう言えるのではないだろうか。彼女みたいな価値観を持ち合わせていた楽なんだろうか。いや、彼女も思うところがあって俺を慰めると見せかけて本当は自分に言い聞かせているのかもしれない。
だから昔の自分のことを言いたくないから俺のことも聞かないのではないだろうか。
「タカシさん達はなんの話をしているのでしょうか?タカシの言葉は分かりますがフォスティア様が口にしている言葉が分からなくなっちゃいました。スフィアちゃんは分かりますか?」
「私も知らない言語だわ。後でタカシに聞いてみましょう」
おや?ミリとスフィアがフォスティアの言葉がわからないようだと思えば俺は言語通訳系の能力を持っているんだった。サイボーグ少女達と会うまで自分の能力は念力だけだと思っていた。あれ?おかしいな記憶の中では念力以外の能力を使う実験をしたことがある気がするが思い出せない。またモヤが頭に掛かるような感覚だ。
忘れているだけなのかもしれないが3割近くの実験が思い出せない。あんな惨たらしい実験なんて思い出せなくていい。フォスティアの言う通り過去のことは過去で割り切れればいい。今はミリ達がいるから過去のことは忘れよう。
あれ?そういえばアルムが静かだなと思えばベッドで寝ていた。今日はいろいろあって疲れた。それはアルムも例外ではなく、こうしてフカフカのベッドで気持ちよさそうにすやすや寝ている。
アルムの寝姿を見ると自然と心が安らぐのは現在の俺だ。過去は過去で現在の俺はこうしてアルムの寝姿を見て幸福な気持ちで満たされている。
「アルムちゃん寝ちゃいましたね」
「ああ」
「呼ばれるまでこのまま寝かしてあげましょう」
「そうね」
1月15日の投稿は用事があってできないかもしれません。




