訓練という遊び
クルクルクルクル。
ギルドで魔石を買い取ってもらった次の日、俺は朝早くから起きてそこら辺に落ちていた小石を操って一人楽しく遊んでいた。
「やっぱり、あれだ。もう少し自分の力をコントロールしないとな」
念力の力を微妙な加減でコントロールするのはとても難しくて中々上手くいかない。昨日だってギルドで絡んできた男の腕を危うく加減を間違えて肉片に変えそうになった。
あれは本当に危なかった。
手に持った銃を軽く弾くつもりでめちゃくちゃ手加減したつもりだったが腕が普通ではありえない方向に曲がった時、思いっきりヤバイ音がしていて心身焦った。
ありえない方向に曲がって関節が外れただけで大人の男が泣き叫ぶ程の骨折とかの重症ではないはずだ。そうだと思いたい。
前々から思っていたが、俺が誰かを殺す前に念力の訓練をしなくてはいけないと思う。
発砲した銃弾を受け止めるのは研究所で何度も実験させられて慣れたが、あれはけっこう集中するから疲れる。
あの頃は銃弾を点で止めようとしていくつも体に穴を開けたっけな。痛くて辛かった思い出だ。銃弾の弾道を予想して銃口からストレートにくる弾丸を止められるようになってからは唯一怪我ができない実験になった。
あれほど楽になった実験はほとんどないや。
今、思えばあの実験も音速で向かってくる物の動きを止める実験みたいで軍事目的に進めていたことを研究所の人間が話しているのを聞いた。
その実験のお陰でミリ達を銃弾から守ることがてきた。
しかし、いざ訓練とは言っても正直、それ以外で何の訓練をすればいいのかわからないからこうしてそこら辺に落ちていた小石をぐるぐる回して操っているのだが、空中で高速回転させるのは少し難しいけどこれが以外と面白い。しかも集中力を鍛えられそうだ。
クルクルクルクルクルクルクルクル。ッピキ
「あっ」
小石は遠心力と念力の力に耐えきれなくて砕け散った。
「だけどな。そこら辺の小石なら簡単にチリにできるかんな」
小石を拾ってから数分間の少しの時間で砕け散るのをつまらないそうに眺める。足元にあった小石を念力で圧力を加えて粉に変える。元小石だった粉は風に吹かれてパラパラと無くなった。
「もっと固めの石を探そう」
先程の小石より固そうな石を拾い上げては手で感触確かめてはまた回して遊んで砕け散ったらまた小石を探すが、どの小石も3分もただずに耐えきれなくて砕けるがやりようによってはもっと長く耐えきれそうなのでもう少しだけ遊んでみる。
28個目でようやく3分をこした。
長い時間を回すのは石の固さは関係なく、問題は回し方と念力の力加減だ。まず、回す支点となる部分石の中心を固定するイメージで最初は1秒間に10回転ぐらいの速度で回す。
だんだん少しずつ回転速度を上げていく。最高1秒間に速度143回転までは安定して回転が続いたがそれ以上回転数を上げると石が砕ける。
最高記録143回転を3分以上回った。
慣れてきたら少しずつ回転数を上げてみよう。
144回転。よし。
146回転。よし。
150回転。よし。
およそ300個目で150回転を3分以上保つことに成功した。個数は三桁超えたあたりからあんまり数えていなかったが、大体の数なので遠からず300個であっている。はずだ。
目に見える範囲にあった小石をすべて砕け散らしたら、今度は砕け散った小石だった砂利を集める。
「チリも積もれば山となるか。いっぱい潰したからかなりの量が集まりそうだな」
集めた砂利でいろいろと創作していく。
花。木。動物。ミリ。アルム。スフィア…
どれもちぐはぐなできで生き物の目や口などの細かいパーツが難しい。
毛は細かい砂で代用して再現できたが、細かい他のパーツを砂で代用しようにも何か違和感があって気持ち悪い仕上がりになる。しかも動かす度に全体から砂利が擦りあってギシギシとなってさらに気持ち悪い。
ほどなくして砂利を使っているからどれもゴツゴツした感じになって気持ち悪い仕上がりになっているのに気づいた。
「このゴツゴツをどうするかだな」
どうやってゴツゴツから滑らかなフォルムにするかいろいろ試行錯誤してみた。隙間を砂で埋めたり、表面を粘土質の土で固めたりするがどうにも自分が納得いくような物ができない。
自分が満足いく綺麗な造形を作るには何か違う気がする俺の鼻先にポツリと雫が弾ける。
「ん?雨が降ってきたか。そうか」
物に当たって形を変える雨を見て創作意力が沸いた。雨を貯めて今度は水で先程と同じ物を作っていく。
雨は時間が過ぎていく程に強さが増していく為必要な量の水は簡単に集まる。前にびしょびしょになった念力経験を活かして俺は念力の壁で防いでいるので濡れていない。
こうして雨を貯めて完成したのが水でできたミリ達だ。
どれも丸みも滑らかで俺が満足いくフォルムだ。しかもギシギシと不愉快な音がしない。
俺にとってこれはとても大きな1歩だ。
ゆっくり動かして遊んでみる。走る動作も物を投げる動作もプルンプルンしてぎこちないが砂利と土で作った物よりかはマシになった。それに俺が操作しているからぎこちないのはしょうがないだろう。
ぎこちない動きが何だかベスが化けているように見えてしまうのはなぜだろう。水でできていて透明という部分がスライムであるベスと共通しているからだろうか?
あともう少し練習すればスムーズな動きになるだろうか?
「ヒャッ!精霊さん?!」
訓練もとい一人遊びをしていると俺の元に困惑顔のスフィアが現れた。
「タカシ!この方達って水の精霊さんと土の精霊さんでしょ?そうなんでしょ?」
スフィアの食いつきに驚きつつもどう返せばいいのか少し迷う。
精霊と言うものがよくわからない。精霊というのは俺の記憶では光できた妖精だったり、形がない生命体だったりといろいろな精霊の伝説があってどれが本当に精霊がいるのかわからなかった。
俺が作り出したこの造形がスフィアが思い描いていた精霊にマッチしたのだろう。
とりあえず水でできたスフィアを操作して手を振らせる。
「タカシ見て!私そっくりな水の精霊さんが手を振ってるわ」
手を振ってもらえたのが余程嬉しかったのか自分そっくりな水の造形にぶんふんと手を振り返している。スフィアが満足したところを確認して彼女が言う精霊を崩していく。
「精霊さん達がいちゃった。それにしてもあなたって精霊使いなの?それに今精霊さん達と何をしていたの?」
「精霊使いではないけどずっと遊んでいただけだよ」
別に嘘は言っていない。俺は本当に精霊使いじゃないし、水と砂利を使って遊んでいただけだ。
本当のことを言って女の子の夢を壊すのはベストじゃないと判断した。本当のことを言ってガッカリさせる訳にはいかないし、女の子には素敵な夢を見ていてほしいと俺は思っている。
「そうなんだ。遊んでいただけなのね。タカシはどうやって精霊さんをここに呼んだの?」
「さぁ、どうやって呼んだんだろうね。自分でも不思議だよ」
「自分でもわかりきってないのね」
スフィアがガックリと肩を落としながら言う。
変なことを口走ってそれをスフィアが信じてしまったら申し訳ないので適当に誤魔化しとく。
「タカシはなんでこんなどしゃ降りの中外で何を、えっ?なんで私もタカシも濡れていないの?」
何を今更なことを言っているのだろう。君が外に出ってから君は一度も雨に当たっていないのに何を驚いているのかわからないな。
数分前から廃虚の物陰から覗くスフィアに気づいていたから念力で雨から守っていた。
どしゃ降りの雨に気づいていたなら自分が濡れていないことに気づいてほしかったが彼女は「これが水の精霊の加護?」と少し斜めな方向に誤解していたので俺からはとくにどうこう言う気はない。
俺の力を知ってしまったら彼女達の命が危ない。研究所の人間達が俺の関わりある人間をどうするかわからない今、どういう対応すればいいのかわからないから安易に教えるのはダメだろう。
権力者側のアシュティア達は大丈夫だろうがこの子達はどうだろう。人権の言葉を知っているのか怪しい研究所の人間達の餌食なるのは間違いない。
人類の進化の為にと意味不明な大義名分を掲げた頭のおかしい奴等だ。よくて口封じ、悪くて人体実験の的になるだろう。
奴等からこの子達を守るために俺は力を語らない。
「タカシ見ててね。炎よ!」
スフィアの小さな手から吹けば消え去りそうな炎がボアッと出た。
「すごいでしょ。エルフが火の魔法使うなんて珍しいでしょ」
誉めてと言いたげに消え去りそうな炎を見せびらかすスフィア。
「それが魔法なのか?どうやってやるんだ?」
「えへへ、火の魔法はこれがやっとだけど昔、おじいちゃんに魔法と言うものは魔法の適正と魔力以外に想像力も大事なんだって教えて貰ったんだ。火の魔法はこんな感じだけど他の魔法も使えるんだから。例えば風が抜ける想像してと、風よ!」
俺とスフィアを包むように強風が吹き抜ける。
「魔法の適正と魔力に想像力か。適正と魔力は俺にあるかはわからないが想像力なら何とかなりそうだな」
「タカシがすごくても想像力だけでなんとかなるようなものじゃないよ。基本的な魔法の適正と最低限の魔力が必要になるんだからね」
「魔法の適正とか魔力があるかはわからないが物は試しで挑戦してみるか」
集中して炎が燃えるイメージをした。
燃えさかる炎が手から出るように。
「タカシ!手が燃えてるよ!!」
スフィアに言われて自分の手を見ると本当に燃えさかっていた。燃えていたが不思議と熱を感じなかった。手を空に向けかざしてみる。どう見てもこれは燃えてる。たが、熱くないし、痛みもない。
漫画を読んでからずっと憧れていた魔法が自分でも使えるようになるなんて夢みたいだ。
嬉しさが増えるに比例して炎の勢いも強くなる。
「水!早くこれに手を突っ込んで!」
慌てたスフィアがどこからか水が入った器を持ってきた。器の汚れを見てそこら辺に落ちていた器に雨が貯まった物を持ってきたようだ。
「スフィア魔法って言うものは想像力が大事なんだよな」
「今そんなこと言っている場合なの?さぁ、早く手を突っ込んで」
「手を突っ込まなくてもいいんじゃないか。別に熱くないから大丈夫」
「大丈夫なわけないじゃん。タカシの手が燃えているんだよ」
人の手が燃えていたらこういう反応するのは当たり前だが、スフィア少し過剰じゃないのか?
そんなに慌てる必要はないと思うのだが。
大慌てのスフィアを見ている気もないし、少し可愛そうなので手から出ている炎に「消えろ」と念じた。
炎は元々燃えていなかったように消えた。
「へぇ?」
目が点になったスフィアの口から間抜けな声が漏れた。
「これはどうなっているの?!私にわかるように説明してちょうだい」
「俺には火の魔法の適正があっただけじゃないのか?それと最低の魔力も」
「タカシに魔法の才能があるってことは認めるけど私が言いたいのはそこじゃない。なんで魔法の火で被った手が火傷がないことを言っているの」
俺の手を細かくチェックするスフィア曰く魔法で出した火が魔法を出した本人を傷つけることがあるそうで悪ければ命を落とす可能性もあるみたいだ。だから魔法使いは細心の注意をして魔法を使っているらしい。
だから俺の手が燃えていたのを見て慌てたのか。
「スフィア、心配してくれてありがとう」
「わかってくれたの?本当に魔法は危険なんだからいくら精霊の加護があるからって次は必ず怪我をしないわけじゃないんだからね。そこは気をつけてね」
「わかったよ」
スフィアの必死の説得に負けて肯定してしまったが次からはスフィアの前では危ないことをやるのは控えよう。
それにスフィアは俺が火傷をしなかったのは炎の精霊の加護と判断したようだ。
そのまま誤解したままでいいが変な方向に転ばないといいけど。スフィアの中で俺という存在をどう理解しているのか気になる。
魔法と言うものは想像力でなんとかなると理解した。俺が他のこともイメージできる程度でやってみよう。
冷たい冷気を想像しする。手から冷たい冷気の煙が出てきた。
やっぱり、俺の思った通りだ。
「スフィアそれかして」
「危ないことに使わなければ別にいいけど、何に使うの?」
「それをそこに置いて見てて」
スフィアが俺の手についた炎を消すために持っていた水の入った器を目の前に置いてもらった。
拳を器に向け凍れと念じる。
拳から凍てつく白い煙が出て器を覆う。器からはピキピキと凍る音が聞こえてきた。
白い煙が消え去り器を覗くと器に入っていた水が綺麗に凍っていた。
「どうだ」
どや顔で決めた顔でスフィアの方向に振り向くとそこには唖然とした表情のミリが立っていた。スフィアもう呆れたかのような感じで頭を押さえていた。
「すごい。すごいですよ。タカシさん!今のどうやったんですか?」
「俺のマジックだ!」
「タカシさんってやっぱり魔法使いだったんですね。すごいです!」
「正確には魔法使いではないけど。それでもいいや」
「魔法が使えるならそれはもう魔法使いです!あれも魔法の一種なんですね?」
「あれも?」
「あれですよ。タカシさんって物を触らずに動かすことができるじゃないですか。それも魔法なんですね」
「タカシの術理魔法のことね」
「それか。それを魔法と言っていいものか断言できないな」
念力みたいな魔法があって俺が念力を使っている時、回りからは魔法を使っているようにみえるのか。
今度からは念力のことを術理魔法と言い張っていれば研究所から見付かり難くなるかな?
簡単に騙される程やつらはバカじゃないのはわかっている。
「あれって魔法じゃなかったの!道理で呪文を言ってなかったのね」
魔法使うには呪文が必要みたいだ。
その方がイメージしやすいみたいなことを適当に言っていたがスフィアはなんで必要なのかわからないようだ。
「私も魔法が使えるのでしょうか?」
「スフィアが言うには想像力と最低の適正と魔力が必要みたいだが、ミリも一緒に練習してみるか?」
「はい!タカシさんとスフィアちゃん、よろしくお願いしますね」
「はいはい、わかったわよ。ミリちゃん、始めに聞くけど何の魔法が使いたいの?」
「一番は傷を治せる魔法が使いたいです。大切な人の傷を癒せるように」
チラチラ俺を見ているが自分の回りのみんなの傷を治せしたいという意味で言っているのだろう。
「わかったわ。でも適正がなくても私を責めないでよ。まず、基礎の魔法からいくよ。傷が治る想像して呪文を唱える。癒しを!」
スフィアの手が優しい光に包まれる。
「これが治癒の魔法の基礎の基礎。この魔法の説明だけど。治るのはすり傷程度の傷しか癒せないからそこは理解しといて」
「はい!」
ミリがいい返事する。
「ミリちゃんもやってみて」
「わかりました。え~と、傷が治っていく想像して、癒しを!」
微かな光がポァとミリの手を包む。
スフィアの光に比べたら可愛そうな程弱い光だが、誰かの傷を治したいという思いが込められているように感じる。
「できました!」
「最低の適当はあるみたいね。その感覚を忘れないようにして、今のを何回も練習していればその内光も強くなっていくし、魔力が無くなるまで使用したら倒れるけど魔力量も増えるから覚えといて損はないわ」
「倒れるまで使ったら危なくないのか?」
「魔物前ではそれはそうだけど、少し休んだら魔法がまた使えるようになるから街中では気にしなくていいんじゃない?」
魔力が無くなって倒れるのは疲れて倒れるのと同じみたいなものか?魔力が増えるのは体力みたいな感じかな?
「はい!スフィアちゃん先生」
「先生って、そこまで大層なことを教えていないからやめてよ」
ミリに先生と呼ばれて恥ずかしがるスフィアは満更でもない顔だ。内心は嬉しいに違いない。
「おにいちゃんたちなにしてるのー?」
眠たげな目を擦りながらアルムがやって来た。
アルムは今まで隠し部屋でずっと寝ていたようだ。
「アルムおはよう。今スフィアに魔法を教えて貰っていたところだよ」
「ほんとにー?アルムもまほうつかいたーい」
アルムに火の魔法を教えたら軽く大惨事になった。どしゃ降りじゃなかったらここら辺は大火事になっていたと思う。
いつかアルムが大魔法使いと呼ばれるようになることを知らない俺は楽しい朝のゴタゴタを味わいながら朝を迎えていく。




