幼女との語り
「ここに座って」
フォスティアが軽くイスを叩いて座るように指示する。指示通りに座ると膝の上にフォスティアが座る。
「手」
「手?」
「うん。手」
「はい」
フォスティアは口数が少ないがなんとなくやって欲しいことがわかる。
両手をフォスティアの腹に据える。それで彼女は満足したように「ふぅ」と息を吐く。そして目が合うと嬉しそうにニコと頬笑む。
ナニコレ、カワイイ。
「君は日本から来たの?」
彼女は頬笑むのをやめると突然そんなことを聞いてきた。
日本?外の世界にある国名だ。どういう国かはよく知らない。どうしてだが懐かしい響きだ。
何故、フォスティアが聞いてきたかはわからない。ただ俺の特徴が日本人の特徴に似ていたから聞いただけかもしれない。
日本の漫画を研究所でよく読んでいたが漫画のほとんどはフィクションだから読んだだけで日本のことを知った気になってはいけないと思う。
「どういう国かは知らないけど名前だけは知っているよ。後、日本の漫画はとても面白いよね」
「なんで日本語はわかるのに日本こと自体わからないの?それに名前も日本人なのに」
日本語?今話している言語は日本語なのか?でも街の中の看板は読めたが日本語の文字とは違っていた。
俺の名前は日本の漫画のキャラクターからとった名前だ。
「言っている意味がわからないよ」
「わからないのならもういいの」
フォスティアがふるふると首を振る。
「そうなのか?」
「うん。タカシさんは漫画が好きなの?どういうのを読むの?」
「暇だったから読んでいただけでそれほど好きじゃないけど。時間が腐る程あったからいろんなのを読んでいたよ。例えば、二巻までしか読んでなかったけど、タイトルが[僕らの学園生活の中に異能力が紛れ込んでいる]って言う学園バトルラブコメ系の漫画は凄く面白かったな」
「私もその漫画知ってる。主人公が入学した学園が異世界人と戦っていて、その戦いに主人公達が巻き込まれる話だよね」
「そうそう。異世界人が高度な科学技術とか超能力を持ってて、主人公達も異世界人と同じような能力に目覚めていくストーリーが気に入て、中でも学園生活の中で主人公とクラスメイトのキャラクターのやり取りが好きだった」
「私も結構好きだった。残念だけどその漫画の作者は5巻目が発売する前に死んじゃって打ち切りになったよ」
「そうなのか。5巻以降はもう出ないのか」
その漫画は研究所から脱出する数日前に読み始めたから続きが気になっていたけど終わってしまったのは仕方ない。
俺は研究所の中で読んでいた本のシリーズ物すべて読みかけだ。今まで読んだほとんどの本も最終巻まで読んだことはまったく物はない。
物語の悪の黒幕を倒してそこで「はい、終わり」というところが気に喰わないから中途半端に読んで、続きを妄想して楽しみにしているのは楽しいがたぶん、俺は物語がそこで終わるのが嫌なのかもしれない。
俺の中ではキャラクターの人生が強制的に終了するのをつまらない実験で殺される俺ら被験者に重なりあわせて嫌悪して、最後まで読めなくなっているのかもしれない。
だがどのシリーズの漫画に出てくる学園生活には憧れる。勉強して、部活して、友人達と遊んで輝かしい生活をおくっているキャラクター達がとても羨ましい。
どの国も学校ってあんな感じなのかなって思っているがあんなふわふわな感じの学校は日本特有だろう。
「日本の学校って漫画に描いているようなところなの? 」
「ちょっと違うけどだいたいあってる。授業とか部活とかはスポーツ漫画の通りと思っていいよ」
「きらきらした生活が羨ましいな」
「きらきらはしてないけど、平和過ぎてすごくつまらないよ」
「その平和がいいと思うよ。変わらぬ日常に平穏な日々、恵まれた生活がきらきらしていいよ」
「タカシさん、それじゃあいつか飽きてちゃうよ」
「飽きちゃったら熱心に集中できる物を探せばいいよ」
フォスティアと少しの間、日本の漫画について語り合った。
「フォスティアって日本について詳しいけど日本人なの?」
「それは」
「タカシ様、お待たせしました」
フォスティアの言葉を遮るようにアシュティアが部屋に入ってきた。
「ちっ、間の悪い姉だ」
「フォス、何か言いました?」
「いいえ、お姉様」
俺は毒づいたブラックなフォスティアを目の当たりにしたような気がしたがフォスティアを見るに変わらないにっこり笑う可愛らしい女の子がそこにいるだけだ。
今のはきっと幻覚と幻聴なのだろう。最近寝てないから疲れているのだろう。
帰ったらゆっくりと休もう。
「それよりもフォス、なんで貴女はタカシ様の膝の上に座っているのかしら?羨ましいから早く退きなさい」
「嫌、ここは私、特等席だから譲れない」
「フォ~ス~!」
「まぁまぁ、アシュティアお嬢様。フォスティアお嬢様はまだ小さいですので、姉であるアシュティアお嬢様は我慢を」
「ふん」
鼻を鳴らしたフォスティアはアシュティアを見て勝ち誇ったような表情していて、アシュティアはとても悔しいそうである。
アシュティアを慰めているルーカは困った顔して頬掻いている。
姉妹なんだから仲良くすればいいのに。
「嫌だ。私もタカシ様の膝の上に座りたい。フォスばかりズルい」
なんでこんな血と泥で汚れた小汚い男の膝の上に座りたいのだろう。俺は逆にアシュティア達の高そうな服が汚れないか心配である。
駄々をこねるアシュティアを見てフォスティアは何だか自慢気にニコニコしている。
フォスティアはちょっとひねくれているかもしれない。
「それとタカシ様、これをその上に着てください」
「なんだこれは?」
ルーカからローブを渡された。
ローブはとても古く所々に虫食いの穴が開いていた。臭いを嗅いでみるとカビ臭さの中にほんのりルーカの臭いが混ざっていた。
「そのローブは私が子供時に使っていた物です。それとできれば恥ずかしいので余り臭いを嗅いでください」
頬を赤らめてモジモジとルーカは言う。
要するにルーカの御下がりと言うことか。
サイズにぴったりで丁度よくボロボロの患者服が隠れる。
「この後、タカシ様は誰にもに気づかれることなく屋敷から出てって欲しいのです」
「ルーカ、なんで?」
疑問に思ったのか、フォスティアが聞く。
「タカシ様が誰かに見つかった場合少し面倒ごとになります」
「こんなボロボロの服を着ていると泥棒と間違われるとか」
俺が冗談半分で言うと。
「それに近いです。領主様はお嬢様達のことになると早とちりする方です。領主様は身なりがよろしくないタカシ様がアシュティアお嬢様をそそのかしたと思い、タカシ様を罪人として扱うでしょう。私達も、助けたタカシ様にとっても不運なことです。このまま帰ることをお勧めします」
「ちなみに罪人の扱いは?」
捕まった場合の処罰を聞く。
「不法侵入になるので鞭打ち200回の刑です」
鞭打ち200回とは案外軽いと思った。研究所の入っては行けない所へ入ってしまった時のお仕置きは謎の薬を盛られたり、怪しい液体を注射されたりと嘔吐、幻覚、幻聴、幻痛の副作用(?)が地獄のように恐ろしかったもんだ。
それらに比べれば軽い。軽過ぎる。
だが、痛そうだ。ルーカに言われた通りこのまま大人しくミリ達の元へ帰るとしよう。
「領主様には私の方から説明しますので、後日お嬢様を助けた勇敢な少年として謝礼金がでるかと思います」
お礼目的で助けたわけではないのだが公式に金が貰えるなら貰っとこう。今後、金は沢山あっても足りないから貰えるときに貰う方針で行こう。
話を戻すが、一晩ミリ達を放置してしまったのはしょうがないことだが、一度帰った時は皆ぐっすり寝ていたので安心していたが、今更メモでも残すべきだった。
今頃は起きて混乱していることだろう。
「では、おじゃm」
「行かないで!」
フォスティアが叫び、俺の膝の上から退いてくれない。というかどこかに行かせないとばかりしがみついて離れてくれない。
表情を見てアシュティアも俺を行かせたくないみたいだ。
「タカシ様、私の護衛、いいえ、ここで働きませんか?お父様には私が説得して見せます。どうかずっとここにいてください」
就職先か。安定した収入はとても引かれる。
だが、ここで俺に何ができる?
掃除、洗濯、料理どれもやったことがないのでできない。
なら、アシュティアとフォスティアの護衛?この俺が人の命を守る仕事を。どんな笑い話か、なんの冗談だろう。
実験で人を殺してきた俺が命を守ることなんてできない。研究所の奴等に見つかったらアシュティア達に迷惑がかかる。
それに面接に受かる自信がない。服だってこれしか持っていない。学歴さえないのだからこんな身元不明者を雇えないだろう。
ミリやアルムとの約束をまだ果たしていない。
「すまないけどここで働く気はない」
「そう」
悲しそうに落ち込むフォスティアの頭を撫でる。物分りのいい子だ。
「誘ってくれたことはとても嬉しいが俺にはやることがある」
アルムの両親探しやら安心して暮らせる場所探しやらとやらなければならないことがいっぱいある。
「別に一生涯の別れではない。また遊びに来るさ」
「本当に?」
「近いうちにこの街から出ていくかもしれないがまたこの街に戻って来るし、会いに行くさ」
「うん。わかった」
フォスティアを何とか納得してもらえたみたいだ。
「当分はこの街にいるから好きなときに来るさ」
「約束だよ。遊びに来たらトントントトトントントンのリズムで知らせてね」
「そのリズムだな覚えた。遊びに来たらそのリズムで壁とか窓とかを叩くよ」
フォスティアの言うリズムが聞いたことがあるリズムだった。たぶんなんかの漫画の合図とかだったと思う。
「わかりました。タカシ様できるだけ遊びに来てくださいね。ほら、フォスはタカシ様から降りなさい」
「イーヤー、もうちょっとだけー!」
次はフォスティアが駄々をこね始めたがルーカの頑張りによって俺は解放された。
「タカシ様これを。オヤツぐらいしか買えませんが貰ってください」
「別にいらないのにな」
無言でルーカから8枚の銀貨を渡された。たぶんだが迷惑料だと思う。
貰った8枚の内の4枚をテーブルに置き、残りの4枚をポケットに入れる。
「ありがとう。ではまた来るよ」
ベスが体に張り付いているのを確認して、ローブをかぶり窓から飛び出した。
8枚の銀貨がどのくらいの価値なんて俺には理解できない。けれど迷惑料で8は多すぎると思ったのでテーブルの上においた。
自分でいらないといいながらもミリ達のお土産代として使うかと心の中で考えていたのは秘密だ。
俺の中では遠慮は美徳だ。ドヤァ!。
ところでアシュティアの部屋に巨大な魔石を忘れてしまったがまた遊びに来たときにどうなっているかわからないがその時は忘れずに持ち帰ろう。
街は残っている人は数える程度はいたがどこのお店もやっていなかったのでとぼとぼミリ達の元へ帰った。
台座のスイッチを押して隠し部屋に入る。
「タカシさーん、今までどこに行っていたんですか?私達をこんな部屋に閉が込めて怖くてしょうがなかったじゃないですか!」
ミリが一番駆け寄って来てどれ程不安だったか一生懸命に語った。
「ミリおねえちゃん、ものすごくうるさかったよ。アルムがかならずタカシおにいちゃんはもどってくるっていってもきかなくてたいへんだったよ」
「ミリ、ごめんよ。アルムも心配かけたね」
ミリとアルムの頭を撫でながら謝る。
「でもねスフィアおねえちゃんがね。ミリおねえちゃんをなだめたんだよ」
「ごめん。スフィアお姉ちゃんって誰だっけ?」
「え?スフィアおねえちゃんはスフィアおねえちゃんだよ。タカシおにいちゃん、だいじょうぶ?」
「ちょっと疲れているみたいだけど本当に誰だか思い出せない。ミリ、教えてくれ」
「ほら、タカシさん。奴隷商で助けた女の子ですよ。タカシさんはまだ名前を聞いていなかったので、それでわからなかったのでは?」
「あのエルフの女の子ことか!」
「そうです。あの子はまだそこで寝ていますが年が200歳を超えているそうで何でも知っていました」
「スースー」
ベッドを見るとエルフの女の子、スフィアが可愛い寝息をしながら寝ている。まだ起きそうにはない。
「ミリ、アルム悪いがスフィアが起きるまで寝かせてくれ」
「アルムもタカシおにいちゃんと一緒に寝る!」
「わかりました。私もタカシさんの隣に横になります」
俺もスフィアの隣に横になり、ミリとアルムがスフィアの反対側に横になる。ロリロリサンドイッチに挟まりながら深い眠りについた。
「ねぇ。起きて。ねぇたら」
誰かの声が聞こえる。俺を起こそうと頑張っているようで体を揺すっている。
「待って、もう少し、もう少しだけ」
「いや、朝ご飯はあんなマズイ木の実しか食べていないのにお昼もあんな物食べるなんてごめんだわ。だから起きて」
「スフィアおねえちゃんのいうとおり。あんなきのみたべたくないよう」
「何でですか?私とタカシさんはあれを食べていたお陰で飢えをしのげたんですよ」
「その木の実もうないじゃん。ここは街なんだから食べ物は買えばいいよ」
「わかった。起きるからケンカは止めてくれ」
ミリ達にスフィアが起きたら起こしてと頼んでいたのにもう少し寝かせてくれというのはおかしい話だ。
俺が起きるとピタリと言い争いが止まる。
「やっと起きてくれた。もうお腹ペコペコ」
「タカシさんすみません。私もお腹空きました」
「アルムも」
3人は空腹で目が覚めたらしく、アルムとスフィアが俺を起こしていたそうで、ミリは俺が起きるまで待とうとしていたそうだ。
「タカシさんすみません。木の実は全部食べちゃったのでもうありません」
「やっとあの木の実が無くなったのね。ミリに無理矢理食べさせられたから、もう私後一生あのマズイ木の実は食べないからね」
スフィアは例の木の実がお気に召さなかったらしくものすごく毛嫌いしていた。
しかし、俺がいない間随分と仲良くなったようでなりよりだ。
「出かける予定はあったから外で食べるか」
「おみせでたべるの?」
「そうだよ。お店に行く前にちょっと寄るところがあるけど少し我慢してね」
「わかった。アルムがまんする」
「タカシさん、寄るところと言いますとギルドですか?」
「そう。夜中に魔物の群れを片付けたから魔石が数えきれない程あるからベスに食べられる前にそれを全部売ろうと思って」
「まっ、魔物の群れを一晩で片付けた!!嘘でしょ?」
「嘘ではありませんよ。タカシさんにとって魔物の群れを一晩で片付けるなんて簡単なことなんですよ。それほどまでにタカシさんが強いと言うことです」
信じられないと言うばかりにスフィアは驚いている。それに対してミリはいかに俺が強いかをスフィアに説明していた。
ミリ、俺をそんなに持ち上げるな。恥ずかしくぞ。
「タカシおにいちゃん、アルムお腹空いた。早く行こうよ」
「ちょっと待って、行く準備するから」
出かける準備というのはただ魔石を確認するだけの作業のことで俺が寝ている間にベスに食べられたか懸念していた。
ローブにくるんでいた魔石の無事を確認し、一安心。昨夜の言い聞かせが効いたのかベスは魔石に手を出していなかった。
注意されたことを学習したベスは俺が思っているよりも賢いのかもしれない。
リュックサックモドキから金貨を取り出す。
ミリの説明によると今持ってる金貨で何でも買えるらしいので今日はこれでいろいろ買ってみよう。
「ミリ、何枚か金貨を渡す。何か必要だと思ったら気にしないで買ってくれ」
「必要な物ですか?食べ物でも道具でもいいですか?」
「それでいい。ミリが必要だと思ったら買えばいい。後、欲しい物があったら買っていいよ。わかっていると思うが買いすぎないように」
「わかりました」
ミリに金を渡したのは俺よりもうまく使えると判断したからである。それに足し算引き算の計算ぐらいならできると言っていたので適任だ。
「とりあえず必要なのは服だね」
「服ですか?」
「そう。俺達がまともな服来てないからさ。俺に関しては患者服がボロボロすぎて半裸だよ。それはさすがにマズイから新しいのと思ってね」
数日前はあんなに清潔だった患者服がここまで泥と血で汚れボロボロになったのは初めてだ。ここまでボロボロになっては露出卿だと呼ばれても仕方がないのでローブを被ろう。
こんな姿を見てアシュティア達はどう思っただろう。
察したルーカがローブをくれてたことをとても嬉しいが何だか言葉に言い表せない気持ちになった。
仕方がないことはおいとこう。まずは魔石の山をギルドで売らないと。
俺達は廃虚から出てきれいな建物の方へ向かう。
きれいな建物方に近づくにつれて人が多くなっている。昨日、魔物の群れの騒ぎで人が見当たらなかったのに今日になってこんなに人がいるとは思わなかった。
何故か俺達に視線が集中している気がするのは俺達が全員ローブを被っているからに違いない。
きれいな建物方へ向かう内にだんだんと美味しそうな臭いがする。
「おいしそうなにおいがするよ。はやくたべたいよ」
「ハァー、お腹ペコペコ~で死にそう」
「みんな後少しですよ。私とタカシさんだってお腹が空いているんです。我慢してください」
丁度よく俺達の目と鼻先に屋台があった。そこから美味しそうな肉の臭いが漂ってくる。
「すみません。8本お願いします」
「8本ね。銅貨8枚」
俺はすかさず買った。銀貨1枚出して2枚の銅貨がお釣りできた。
銀貨1枚に対して銅貨10枚ということだろう。
屋台で焼いていたのは串だったので一人2本ずつ美味しく食べた。




