ルルーンの街にて
夏夏ー♪
サラサラした暑い夏。
そんな夏が好きだけど、ねっとりした寒さの冬の方がもっと好き
こそこそと二人で話し合うミリとアルムを見るスフィアはこの子達は誰なのか考えていた。タカシと共に行動しているのは確かなのだが、信用していいのか判断に困っていた。
自分がいた未来では不老族の国でタカシと二人で暮らしいたが、ある日を境にタカシが行方不明になったとタカシの同僚から聞かされて、その数日後に見知らぬ子供が目の前に現れたと思ったら、檻の中にいた。
何が起こってここがどこなのかわからなくなった。状況を確認するために檻の記憶を見てここがどこなのかわかった。いや、今がいつなのか気づいた。
自分は過去にいることに。
そうここはあの時の場所だ。私とタカシが出会った街。始まりのルルーンの街。
不老族の国で長年暮らした私としてはこの街は何もない空虚な街に思えた。いや、不老族の国は情報も娯楽も何もかもあふれていたからそう感じるだけかもしれない。
目の前に現れた子供は時間を操る能力を持っていて、私を過去に送ったと思う。でも私の知っている光景と何かが違かった。その微妙な違いには気が付かなかったけどここで待っていればきっとタカシが迎えに来てくれると信じていた。
それなのに微妙な違いがだんだん大きくなってきた。
街で騒ぎが起きない。過去に来て二日、ルルーンの街は魔物の群れに襲われて壊滅するはずなのに魔物の大量発生の話が見えない。
ルルーンの街が襲われて奴隷商の店主が街を脱出する際に身体中に魔物を呼び寄せる薬を塗りたくった私を囮として街の外に解放されて、魔物に襲われていた私を助けてくれたタカシは来ないかもしれない。
いや、私が過去に来たのだ。タカシも過去に来ているはずだと思って奴隷商で待っていた。
信じていた通りにタカシは来た。来たのだけど見知らぬ女の子を二人も連れている。タカシは私のことを知っていてくれたけど、獣人の女の子も私のことを知っていた。
私の知っている光景とは違う。これはもしやとパラレルワールドなのではないかと思い始めた。
世界は時間が進む中で枝別れしていくとアニメでやっていた。それが今の状況だと思う。
私がいた時間はタカシと二人っきりで暮らす運命であったのに対して、この時間には見知らぬ女の子二人がいる運命に枝別れしたと。
だが、何故獣人の女の子は私のことを知っているのだろうかと疑問が残る。彼女も、隣の小さな子も別の枝別れした運命からここにたどり着いたのかもしれない。獣人の女の子が自分のことを知っているのは納得いく。
まるでアニメの世界に入った気分だわ。
彼女達の記憶を見たいけど、勝手に見たらプライバシーの侵害になる。
タカシからもらったこの力。触れた物の記憶と過去を見る能力とテレパシーは相手の脳みそから好き勝手に情報を盗める能力だけど、彼女達も枝別れした先から来ているのなら彼女達も私と同様にタカシから力をもらっているはず。
どんな力を持っているのか不明だ。
彼女達が信用できるかまだ分からない。
「タカシさんはどんな宿がいいのでしょうか?アルムちゃん、スフィアちゃんはどう思いますか?」
私達はタカシのお願いで宿を取るようにお願いされたが、私達はまだ子供、宿なんて取れないのは見え見えのことなのになぜにタカシは私達にそんなお願いをしたのだろう?
タカシは貴族の娘の友達の怪我を治しに行った。タカシに怪我を治すことができるのだろうか。なんでもできたタカシだけど、人の怪我や病気は治すことはできなった。この運命のタカシは人の怪我を治せるようだ。
気になったのでさっき自分も連れていってと目で訴えたが、失敗に終わった。
「そうですよね。子供だけじゃ泊まれる宿は限られますよね?スフィアちゃんはどう思いますか?」
タカシと別れて宿を探している中で獣人の女の子がやたらと話しかけてくる。
何を答えたらいいかわからない。なんて話せばいいかもうそのやり方は忘れてしまった。
タカシや周囲の人達はテレパシーの情報のやり取りでコミュニケーションをとっていたからずっと喉を使って話していない。話すというコミュニケーションの取り方はどうすればいい?相手と面に向かって何を話せばいい?
いつも通りにテレパシーを使ってコミュニケーションを取りたいが、急にテレパシーを使ったら驚かれる。中には自分の記憶を見たと勘違いして激昂する人いるから知り合いや自分のデータを知っている人以外、無暗にテレパシーを使うのは避けている。これはタカシと約束したことだ。
でもさっきタカシを引き留めた時、テレパシーを使うか躊躇ってしまった。この人は私が知っているタカシなのかと。別の時間の運命から来ている同一人物でも人は体験したことで心情がコロコロ変わる生き物だ。もし、今のタカシが私が知っているタカシと違かったらどうしよう。
でもタカシはタカシだ。さっき会ったタカシは私の知っている柔らかな表情をするタカシだった。
タカシは違う運命を辿ってもタカシは変わらない。
そして私は昔のように声を出して話すことができるのか?一昨日みたいに練習がてらタカシを待っていた時、ポロリと一人ごとが漏れた。見回りの男に声を聴かれたが、ものすごく恥ずかしくて子供っぽくて変なことを口走ってしまった。
そうならないか、それだけが今の私の心配だ。
☆
ミリ達がいる場所に向かう中でずっと様子を見ていた。
「なんかぎくしゃくしているな」
ミリ達に宿を取るようにお願いしたのに宿の前に立っているなら兎も角、いる場所は住宅街の建物の隙間。そしてミリ達とスフィアの間に壁のような物が見える。
ミリ達に宿を取れるとは思っていない。
旅で疲れているだろうから宿に行かせたが、子供が宿を取れるわけがないのは当たり前。貴族の家紋が刻まれたメダルを持っているなら話は別だと思うけど。ただの子供が保護者もなしに宿が取れるわけがない。
俺から離したミリ達の様子を見たかった。ミリとアルムの関係は良好に見える。ミリはアルムのことを前のルートで知っていたからそれもあるだろう。同じくスフィアも知っているが、ミリが話しかけてもうんともすんとも言わない。
もしや、スフィアだけが未来を経験していないなんてことがあるとかミリとアルムが話し合っている。
それか、喉などをやられて喋られないようにされたのではと思ったが、脳に入ってくるスフィアの身体の情報は身体の欠損や怪我はしていない。少し栄養を取った方がいいが、特に異常はなく健康そのものだ。
問題がないのになぜ喋らないのか。そこが分からない。
アシュティアの用事を終わらせたからミリ達の下へ到着した。
「あ、タカシさん!アシュティア様のご友人の件は終わったのですね。それとお願いされていた宿はまだ取れてません」
「お兄ちゃんごめんなさい」
ミリとアルムが宿を取れなかったことに謝罪をしてきた。ミリもアルムも気づいているはずだ。自分達が宿を取れるはずがないと。
俺がミリ達をアシュティアのお願いから遠ざけたのは何か意味があるはずだと気づいたに違いないと。特に意味はないけど。
俺の無意味なお願いのせいでミリ達に変な気遣いをさせてしまったのは事実だ。
どこかでご飯を食べに行こうかな。
「いいよ。俺達がこんな見た目だから泊めさせることできない宿もあるだろう。こっちが金をちらつかせれば泊めてもらえる宿があるよきっと。その前に何か食べよう。スフィアも檻の中で碌な物を食べていなかっただろうからな」
スフィアもだけど、ミリもアルムもお腹を空かせていたからご飯を食べに行こうと話を持ってきた。
スフィアを買う為に集めた金も残っているわけだしな。
もし、泊まれなかったら誰もいない建物や地下の部屋に入り込んで一晩明かそう。
「ご飯ですか?まあ、確かにお腹は空きましたが、それは宿で取ればいいのでは」
「俺もそう考えたけど、先にご飯を食べた方がいいでしょ?もしかすると泊まれる場所が見つからないかもしれないし、それなら店が閉じちゃう前に食べようよ。それから宿を探そう」
ご飯を食べることにした。
早い時間だから食堂は空いている店が多い。
近くの食堂に入った。
「いらっしゃい!子供?お前さん方保護者は?」
給仕をしていたおばさんに保護者の有無を問われた。
「親はいないが、ちゃんと金はある」
俺達には保護者と呼ばれる存在はいないんもを軽く説明してポッケから銀貨数枚取り出して見せた。
「金があるのならこっちとしては文句はないけど、今は空いているから好きな場所に座りな」
やっぱり保護者がいないとダメなのかな?屋台で飲み食いなら問題なかったけど子供で食堂に入ったら食い逃げをされると警戒されるか。
保護者がいないのはしょうがない。
みんなで食べられる大皿の料理を複数頼んで空腹だった腹を満たした。
黙り続けているスフィアも黙々と食べてくれた。
「美味しかったですね」
「そうだね」
「デザートもあるとよかったのに、不老族の国じゃないからデザートがあるお店は少ないか」
「いいですね。アルムちゃんは不老族の国いたなんて」
食後に話していた。
「お前さん方は不老族の国に行ったことがるんか?」
先ほどの給仕のおばさんが聞いてきた。俺達が入った時と比べて客が入っているがまだ忙しくないみたいで俺達の話を聞かれていたようだ。
「ちょっと縁があってな」
おばさんや周りの客にパスであるバーコードの腕輪をチラリと見せる。
アルムやミリが狙われないようにするために俺が不老族だとアピールする。どこで誰が聞いているかわからない。俺達の噂が流れて人攫いに狙われるかもしれないからな。
今のミリやアルムは前とは違うから攫われても能力を使って普通に帰ってきそうだ。
「不老族の国ってどういうところだい?噂では神々が暮らしている話は聞くけど」
「不老族の国は異世界の住民を中心に多種多様な種族が暮らす国だ。ここや王都でも見たことのない物があふれている」
と言った感じに説明した。
説明した内容はアルムの話やヒロなどの被験者達から聞いた話を俺なりに考察した話だ。
多種多様な種族、体が宝石でできている男やサイボーグ少女。うん、多種多様な種族だな。家電製品や車とかあるだろうからな。うん、この街で見たことない物があふれているな。
「見たことが無い物と言ったら例えば何だって言うんだい?」
おばさんは俺の話しに興味を示したようでさらに質問してきた。
「例えばか。燃える液体を使って走る鉄の乗り物とか家から出なくても何かを買うことができる物とかあるみたいだ」
この世界に来て見た車は燃える液体、ガソリンを使っていなかった上に空を飛んでいたからな。あれを車と呼ぶかは悩んだ。
「燃える液体?油かなんかかい?あら、忙しくなってきたね。坊主の話を聞けて楽しかったと。ありがとうね。よかったらまた来てくれないかい」
おばさんはそう言って冒険者風のおっさんの注文を受けに行っていった。
俺達は会計を済ませて食堂を出た。
「さっきほど詳しそうに話してましたが、タカシさんって不老族の国に行ったことがあるのですか?」
「でもお兄ちゃんは不老族の国に行ったことがないって言っていたよね?アルムはガソリンを燃料に走るレトロな車の話はしてないよ?お兄ちゃんはなんで知っているの?」
とミリとアルムが疑問を漏らした。
この世界にもガソリンあるんだ。あっても不思議でもないか。ガソリンという化石燃料は大昔に死んだ生き物の死骸が何千年、何万年もの時間をかけて変化した液体、石油から作られる液体だ。
それを燃料する車や道具もあるだろう。
それをレトロな車と言ったアルムに少し驚いた。
俺が移動手段で使っていた空を飛ぶ車の中を覗いたけど燃料と思われる石ころが入っているだけでガソリンみたいな液体を使っている風には見えなかった。
あの石ころを燃料にして走る車が主流なのだろう。
「俺は別の世界から来ているからそこにはガソリンで走る車もあったし、家から一歩も出ずにネットで買い物もできたみたい」
俺は研究所から出たことが無いからガソリンで走る車の現物は見たことが無いし、買い物だってしたことが無い。
「私達が泊まれる宿がありませんね」
「そうだね。このまま野宿なの?お兄ちゃん」
ミリ達にできるだけいい宿に泊まってほしいからそれなりに安くていい感じの宿を回っていたが、それらの宿はすべて満室で泊まることができなかった。空いている宿は貧民街に近い場所にある柄の悪そうな男が受付をしている宿しかなかった。そこは地下に家電製品がある家の近くでもあるから泊まりたくなかった。
ただただ街の中を彷徨っただけで日が沈み、空が暗くなってしまった。
貧民街の近くに泊まるのなら貧民街の空き家に泊まる方がいいだ。金がかからないしね。
ならいっそのこと、あそこに行くしかないな。
俺達は目的の場所に向かった。
「ここってもしかして」
「ミリお姉ちゃん知っているの?」
ミリが古ぼけた建物を見て、反応した。
同じくしてスフィアもずっと黙っているが、ここに何があるか知っているように見えた。
ここは前に来て一泊した古びて使われなくなった教会。この教会には地下に隠し部屋がある。
すでに視界で誰もいないことを確認したので今日はここで泊まることにした。
中に入って仕掛けを作動させて地下へ行ける入口を開ける。
みんなで隠し部屋に入った。
「教会に隠し部屋?なんだかゲームみたい」
「アルムちゃん、この教会は私がいた未来で寝泊まりした場所ですよ。懐かしいです。タカシさんもこの教会に来たことがあったのですね」
ミリはアルムに自分がいた未来の出来事を説明をしながらベッドに腰かけた。
教会の中は変わらずベッドが一つしかない。ベッドの数が足りないけど、宿に泊まれない状況だからこのさい仕方がない。
三人にベッドを使わせて俺は上の教会の長椅子で横になろう。この隠し部屋に通じる入口は一つしかないから俺が入口を守ればいいだけのだ。
俺は少しの間、家電製品がある家を視界で見張っていた。家電製品がある家の連中にはまだ気づいかれていないが、そこに見覚えがある人物達がいた。宝石男とサイボーグ少女、髪の長い女の姿があった。その他に見たことが無い顔が何人かいる。今の状況で関わることが無いから放置でいいだろう。
奴らもこの街にいたなんてな。びっくりだ。
視界で宝石男の話を聞いていたが、本当にこの街に俺がいるなんて思ってないが、被験者が転移してきたという話を聞けた。
彼らは俺達被験者を保護するために派遣されてきたみたいだ。俺にはどうでもいい話だけど。
彼らは未来の記憶を持っていないのはよかった。今は不老族の国に行く気はないから彼らに気づかれないままこの街に去ればいい。
しかしあいつ等が食っている物、ハンバーグにコールスローサラダ、分厚いステーキを食ってやがる。
なんてうまそうな物食っていやがるんだ。
奴らの仲間の一人が冷蔵庫から1ホールのチーズケーキを取り出した。
おいおい、今度はデザートかよ。なんて羨ましい。今から突撃してあのケーキを奪って、目立つ行動はやめておこう。ん?
「スフィアどうした?」
俺は腕にスフィアが触れていることに気づいた。




