ミリとアルム
一晩眠って次の日。
「タカシさんご飯できましたよ」
ミリは俺の前に朝食を置く。メニューは昨晩と同じものだ。
それをミリと摘まみながら話をする。
「ミリ、これからのことなんだがいいか?」
「はいなんでしょう?」
「アルムとスフィアのことなんだが、わかるか?」
ミリは俺とは別の未来から来ているため、もしかしたらアルムとスフィアのことなんか知らないかもしれないので最初に言ってみる。
「はい、アルムちゃんとスフィアちゃんですね。わかりますよ。タカシさんが死ぬまで一緒にいましたもの。あの子達ならきっと大丈夫だと思いますが心配ですね」
ミリの未来では俺は死んで知るようだ。それで俺を見たとたん思いっきり抱きついてきたのか。
もしかしたらアルムもスフィアもミリと同じ未来から来ている可能性があるな。しかも能力付きで。
「知っているなら話は早い。今からアルムのところへ行こう」
ミリはアルム達のことなんか大丈夫だと言うが、彼女達はまだ幼い。ミリも幼いが。いくら能力を持っていたとしても大人に騙されるかもしれない。アルムとスフィアは未来から来てないかもしれない。
スフィアだけは奴隷だったから今頃は奴隷商にいると思うけど、今の時点で前のと違っている。俺がいた未来とは別の未来へ向かっているから二人はもうすぐ死ぬ可能性もある。
脳に入ってくる二人の情報は特に身体的ダメージはない。脈も平常だ。特に異常はないが早く再開したい。
ミリも心配しているし、今すぐ行こう。
昨日の内にミリが準備してくれたおかげで今すぐ出発できる。
「ミリ、これを見てくれ。俺達がいる場所はここで、アルムと出会ったのはここらへんだ。この方向にアルムがいる」
「場所が分かっているのでしたら行きましょう」
タブレットの地図をミリに見せて現在地とアルムと出会った場所を説明する。
地図を見てアルムがいる方向は俺達が出会った場所に変わらずいるようだ。もしアルムも未来から来ているならその場所に待っているのかもしれない。未来から来ていなくてもあの洞窟の中で鎖に繋がれて一人で寂しくしているだろう。
そうならばアルムの下へ行くしかない。
ミリが準備してくれた荷物を持ち、廃村を後にする。
アルムがいる洞窟を目指して進む。アルムと出会う前の道中、魔物を倒した覚えがある。
確かゴブリンとスライムがいたな。そのスライムはベスなのだが、ベスは魔物だから未来から来ていないはずだ。もしかしたらベスに襲われるかもしれない。
襲われたら、倒すしかないか。ベスにはいろいろと世話になったが、記憶が無ければただの魔物だ。
ベスを可愛がっていたアルムには悪いが、倒すしかない。
進んでいくと何やらひんやりした感触とゼリーみたいなプルっとした感触が患者服の隙間から足を覆うように上へと上がっていくような違和感を感じた。
もしやベスか?それとも別のスライムか?
俺を襲っているのか?それとも服の中に隠れようとしているのか?どっちなのかわからない。ベスが服の中に潜り込もうとしているのと似た感覚だ。未来のベスに犬猫みたいな飼い主へ媚びを売るほどの知性があるのかは知らない。てか俺がベスにまともな餌を与えた覚えがない。その前にアルムを死なせてしまってからは餌すら与えた記憶がない。
スライムは微生物や光合成で栄養を得ていると考えよう。
今、足についているのはスライムなのは確かだ。痛みはないから食われているわけではないが、スライムの習性が分からないからこの状況が襲われているのか判断がつかない。
ミリに聞いてみよう。
「なあ、ミリ?スライムの習性について聞きたいんだが。いいか?」
「スライムの習性?急にどうしたのですか?スライムならタカシさんが目を瞑っていても倒せるじゃあありませんか?」
「それはそうだけど、足にスライムが付いているみたいなんだ」
患者服の裾をあげるとスライムが呼んだと言わんばかりにニュルっと顔を出した。(顔なのかはわからないけど)
「きゃあああ、なんですかそれは。タカシさん痛くはないのですか?」
「まあ、全然。ひんやりと感じるが痛くはない。これって俺襲われているのか?」
「わかりませんよ。スライムは獲物に襲い掛かる時は口とか鼻とか呼吸できる穴を塞いで獲物を殺してから食べるようですが、これはどういう状況なのか私にもわかりません。このスライムを殺さないのですか?」
「ミリがいた未来ではいたのか分からないけど。俺がいた未来ではスライムをペットみたいに飼っていたんだ。そいつはいろいろと役立つ奴でな。そのスライムも未来から来たんじゃないかって思っているんだ」
スライムはまず獲物の呼吸を奪って殺すのか。生き物は息ができないと死ぬからな。
殺してからゆっくりと食べるわけか。食べると言うより体に取り込んで溶かす感じだけど。
「そいつなのかはわからないからこのまま様子見にする」
「タカシさんがそう言うなら止めませんが、傷みや焼ける感じがしたら即座に剥すのですよ?」
今の俺は身体の一部が欠けようが、すぐに再生できるから足一本スライムに食われても心配はない。
足についているスライムをベス(仮)と名付けよう。
少し道草を食ってしまったが、アルムに近づいている。
アルムと出会った洞窟に到着した。この洞窟の中にはお宝や魔物がいたからそれらを対応してからアルムのところに行こう。
洞窟に入ったが、魔物を見かけない。前はスライムとゴブリンがいたはずだが、見かけない。仮にスライムは俺の身体に張り付いている奴だとしてゴブリンがいるはずなんだが、いないな。
視界を飛ばして洞窟内を探索してゴブリンを探したがやっぱりいない。いないならいない方がいい。俺達が過去に来たことによっていろいろと運命が変わったのかもしれないな。
それじゃあ、お宝に手を出しますか。
お宝がある部屋は視界で発見済み。それにゴブリンを探している中でアルムも見つけた。アルムは前にいた場所では無く洞窟の外で俺達を待っているようだった。
アルムは見たところ大丈夫だったのでアルムにはもう少し待たせるが、お宝部屋でお宝を物色させてもらおう。
このお宝は今後の俺達の生活費として活用するからだ。今の手持ちは金貨数枚しか持っておらず、一か月ほどは暮らしていけると思うがし、一か月の間に働けばいい。しかし目の前に宝があるなら手を出すしかない。
宝部屋の壁を破壊して部屋に侵入する。
「ミリ、これを詰めるだけ詰めるぞ」
「はい!」
俺とミリは荷物に宝部屋にある金貨を鞄に詰められるだけ入れた。それと俺は患者服のポケットにもいられるだけいる。服が重い。入れすぎたか?気が抜いたらズボンが下がりそうだ。
これだけ持っていけば一年以上は働かずに食っていけそうだ。
金貨を詰め終わり、宝部屋を後にする。
「ミリ大丈夫か?重くて持てないなら俺が持つが?」
「いえ、大丈夫です。タカシさんにもらった力のおかげで軽々と持てますよ。それよりもアルムちゃんがいる部屋に行きましょう」
「あ、言うのを忘れていた。アルムは洞窟の中にはいないぞ」
「…そうなのですか?では外に行きましょう。やっぱり今のアルムちゃんは」
目の前の宝に目がくらんでうっかりミリにアルムが外で待っていることを伝えるのを忘れていた。
ん?ミリの様子が少しおかしい。間があったのが気になるが、その点は俺の気のせいにしても「やっぱり今のアルムちゃんは」どういう意味だろう?
ミリも他の子が未来から来ているとは思っていなくて、未来から来ているのは自分と俺だけと思っているのかな?それで前と違うからアルムも未来からきたのでは?っと困惑しているだけだろう。
きっとそうだろう。俺も最初はミリが未来から来ているとは思わなかったから今のミリと再会したときはびっくりした。
洞窟から出ると外で待っていたアルムと目が合う。
アルムはやっと会えたとか言いそうな寂しそうな
「お兄ちゃん」
再会したアルムは一声発してだけでもわかった。少し大人びた感じがしてアルムも未来から来ているのだと。
アルムが俺もとに駆け寄ろうとしたとき素早く、アルムに近づく影があった。それはミリだ。
ミリもアルムと再会できてうれしいのだろう。感極まって抱き着くのはいいけど俺も二人の間に入っていいかな。昔、読んだ漫画に百合に無理矢理割って入る男性キャラに殺意が沸いたのを覚えている。そんなことはどうでもいいか。
せっかくの再会のわけだし、今は二人を優しく見守ろう。
「アルムちゃーん!お前を絶対に殺します!」
は?ミリは今なんて言った?殺す?そんな物騒なことを言わない子だったのに。いや、俺の聞き間違いに違いない。目の前には二人の女の子がほほえましく抱き合おうとは。
してない。それよりもミリは隠し持っていたナイフを取り出してアルムの腹に狙いを定めている。
大変だ。ミリを止めないとこのままだとアルム腹にナイフが刺さる。
俺がいるから死ぬことは無いが、痛い思いをさせてしまう。
「あれ?貴方はだーれ?なんでお兄ちゃんと一緒にいるの?その手に持っている物は何?もう躾がなっていない猫ちゃんは痛い思いしなちゃだめなの!」
アルムは迫りくるミリをジャンプで躱し、ミリの背中に向けて火の魔法を放った。
アルムはもともと魔法が使える子だ。そして未来から来たのは確実だ。これだけじゃないだろう。ミリと同様にアルムも俺から力をもらっているに違いない。
どちらかが死ぬ前に止めないと。
なんでミリはアルムを襲っているんだ。俺がいた未来は実の姉妹のように仲良かったはずだ。ミリがいた未来で何が起きていたんだ。
今のアルムはミリのことを知っていない様子だ。ミリと出会わなかった未来から来ているのか?それとも記憶を弄られているのか。
そんなことよりも二人を止めないと死ぬし、こんなところで暴れたら、自然環境もそうだが、未来が大きく変わってしまう。
未来の記憶を持っている中で行動している時点でもうすでに変わっているような気がしてならないが、早く止めないと。
「おー!猫さんもすごーい。こんなに距離があるのに地面も木もなんでも切れるね。土木の仕事を始められるよ」
「うるさいですよ。早く死んでください。でないと」
「でないと?なーに?」
「うるさいです。黙って死んでください」
アルムが地面に着地すると同時にジャンプした。アルムが着地した場所には深い切り込みができていた。アルムは危機一髪で躱したのだ。着地したままなら確実に足を切り落とされていた。
ミリの能力なんでも切る能力によるものだろう。
間違いなくミリは本気でアルムを殺しにかかっているが、ミリの能力をうまく躱しているアルムはただ遊んでいるように見える。まるでいつも殺し屋から命を狙われ続けていたかのようにこの程度のことは遊びだと語っているように見えた。
「二人ともやめろ!やめてくれ」
「お兄ちゃん、アルムはやめたいんだよ?でもこの獣人がやめないの」
「タカシさんはそこで大人しく見ていてください。アルムちゃんは私が殺しますので」
ミリに言われてはい、そうですかとならない。
なんで二人が殺し合っているのかはわからない。わからないことばかりだけど二人を止めないと。
ミリは木々をなぎ倒し、地面を切り裂きアルムへと迫っていく。アルムはそよ風でも受けているように涼し気にミリの斬撃を躱している。いや、アルムは遊んでいた。
アルムはミリの後ろに瞬間移動をしたり、ミリの頭の上から水のようなものを掛けたりしてミリをからかっていた。
ミリは本気で殺しにかかているが、アルムは遊んでいる。
「アルムちゃん!お遊びと避けてばかりでちゃんとやりかえしたらどうですか」
「えー。アルムはちゃんとやりかえしているよ。精神的な攻撃を。こんどは物理的な攻撃をしようかな?えい!」
「痛。って、真面目に殺しにかかっているのに」
自分の攻撃が当らなく、からかわれて顔を赤くしたミリが激昂する。それをあざ笑うようにミリをからかい、ミリの頭上に金属のタライを落とした。
がらーんと大きな音をたててミリの頭に直撃して、ミリはさらに激昂する。
二人はなんでこんなことをしているのだろうか。俺がいた未来では姉妹のように仲が良かったのに。二人がいた未来の俺が二人に能力が上げたからこんなことになったのか。
いいや、未来の記憶を持っている時点でミリはアルムを殺しにかかるだろう。悪いのは空気のヤロウの連れのアイツがミリとアルムを未来から連れてきたのが原因だ。未来の記憶を持っていなかったらミリはアルムを殺そうとしない。
ミリがアルムに憎悪を向けて殺そうとしている動機が分からないからそこはアルムに聞くしかない。
「ミリ!落ち着いてくれ!どうしてこんなことをするんだ!」
「タカシさん離してください。アルムちゃんを殺さないと」
「いや離さない。今は落ち着いて話し合おう。アルムも聞きたいことがあるから落ち着ける場所に行こう」
念力でミリを捕獲した。ミリはジタバタ暴れるが実態がない手で捕まえているから逃れることはできない。
開けた場所に移動して、簡易なテーブル一つとイス二つを土で生成して座る。
ミリは念力を解除するとまたアルムに襲い掛かる可能性があるので俺の膝の上で大人しくしてもらう。
イスに座り、ミリを引き寄せて膝の上に座らせて、抱きしめるようにミリの腹の上に手を組む。これで暴れることは防ぎそうだ。
ただ、ミリのなんでも切れる能力を封じたい。目隠しをすれば封じられるかな?でも遠くを見る能力は多分視界だと思うからミリに目隠ししたところで意味がない気がする。そこはミリに能力を使うなとお願いするしかない。
ミリが使ったとしてもアルムなら躱してくれるだろう。
ミリを落ち着かせる為にと水を生成して念力を使ってゆっくりと飲ませていたら頬を膨らませたアルムがクレームを言ってきた。「なんでその獣人を膝の上に乗せるの?アルムもお兄ちゃんに抱っこされたい。襲われたのはアルムなのに獣人ばかりずるいよ」とミリに嫉妬しているようで、アルムにこれはミリが暴れないように捕まえているだけと説明しても聞いてくれない。
説明してもアルムは不機嫌になり、聞いてくれないのでアルムも膝の上に乗せることになった。
なんで手を腹の上に乗せてと要望があったので乗せた。確かに片膝の上は座りにくいからバランスを崩れやすいからな。でも腹の上に手を置いたらミリが襲って来た時は躱せないと思うけど。
それにアルムをミリの隣に座らせて大丈夫かな?
俺に抱かれているミリは諦めたようで大人しくしている。今のところは暴れ心配はなさそうだ。
さて、二人が落ち着いてきたことろで本題に入ろうか。




