スタンピート
「そろそろ寝たかな?」
ミリとエルフの女の子が寝息を発てているのを確認してからミリ達が起きないようにゆっくりと念力で退かす。アルムが服を付かんで離さなかったので退かせるのに数分ほどかけて苦労した。
そしてエルフの女の子が見た目より少し重かったようで乗っかてた足が痺れていたに少し驚きながら立ち上がる。
「スー、スー、」
「クカー」
そんな可愛く寝ている子を見ていると自分も寝てしまいそうで少しよろけてしまう。
「ふふっ、可愛いな」
皆、寝顔はとても幸せそうで素晴らしく可愛いらしい。
彼女達を見て思わず、笑っている自分にびっくりだ。研究所にいた前の自分ではまずあり得ない満足感、嬉しさ、安らぎが今のここにある。
彼女達の幸せな寝顔を見ていると空っぽだった何かが満たされている感覚がとてつもなく気持ちいい。上手く説明できない感情が俺の空っぽで汚れた心を満タンに満たしてく。
これの感情をなんと呼ぶのかは、今はわからないけど自由になった今は時間がある。それにこの子達やこれから出会う人たちと触れ合う内にこの説明ができない感情がなんなのかいつか気づくだろう。
それまでこの大切な物を何としても守らなくちゃいつかこれがなんなのか気づけるまで。
「ウニャッ、タカシさん、タカシさん。好きです。大好きです」
「えっ!」
皆の寝顔を見ているとミリがいきなりびっくりするようなことを言い出したが、ミリの頬をつついてみたが普通に寝ていたので寝言だったみたいだ。
「ここに何かあるのか調べてみるか」
この建物は見た目は古ぼけているように見えるけど造りはしっかりしているから住むには最適と思う。
横長い椅子が並び、椅子の先に台座がある。
エルフの女の子もここを古い教会と俺の予想を肯定するようなことを呟いていたので宗教的な物を置いていたのかもしれない。
この教会はそれしかなかったので仕方なく台座を調べてみる。
特に目立った物はない。
建物の中は何もなくガランとしている。
誰かが持ち去ってしまったのか、それとも元々こういう場所なのかわからない。仕掛けがしてあるのならわかりにくいところにスイッチなどの仕掛けを隠しているはずだ。
小説や漫画では本棚の特定の本を引くと扉が開くとか、何かを乗せると動くとかいろいろある。俺は目をつけた台座を細かく観察し、台座の回りをクルクル回った。
「っん?」
これはなんだ?縁の模様がおかしいぞ。
ここだけ、何故少しへっこんでるだ。
台座の裏側の一部の縁の部分が正方形に潰れていた。
いや、違った。それは正しくは正方形のスイッチだ。
俺はおそるおそるそのスイッチを押した。
すると足元がガコッと床が消えた。
床が消えた時点で俺は自分を念力で支えて下を見た。梯子があり、それが下へと続いていたが深さは暗くてよく見えなかった。
この仕掛けは俺じゃなかったら下まで落ちていた。
荷物からタブレットと護身用に空気の腹を刺した剣を持ち出した。空気を刺した剣は血がついていたはずだが、いつの間にか消えていた。誰かが綺麗に拭き取ってくれたのだろう。
それとアルムに抱かれていたベスが「私も行く!」と言わんばかりに俺の体にべっとりと張り付いた。
剣とベスを装備した俺はタブレットの光を頼りに梯子で下を警戒しながら降りる。深さは4メートルほどで思っていたより深くはなかった。
下は小部屋がだった。テーブルや椅子、小さなベッドが置いてあり。いかにも隠れ部屋という風体の部屋だった。
梯子のすぐそばに壁から突き出てるスイッチを押すとスイッチの下に同じようなスイッチが突き出て部屋の明かりが付いた。下のスイッチは明かりを消すスイッチだろう。
上で寝ている子達をなんとなく一人一人お姫さま抱っこで運んでベッドに寝せる。部屋に荷物を移動させて最後に体に張り付いているベスを剥がしてアルムのもとへ置く。
皆が暗いと怖がるかもしれないと思い明かりを消さずに俺は上に戻った。台座のスイッチをまた押すとガコッと床はもとに戻ったのを確認してから古い教会を出た。
この街でひっそりと暮らして行く為、大切な物を守る為に今から魔物の群れを倒しに向かう。
部屋にあったローブを被り、剣を片手に俺は鳥のように飛んだ。空から見下ろすと魔物がもうすぐ来るというのにまだ街に残っている人達が少なからずいた。
俺達が通った門には数十人程の人達が集まっていた。誰もが頑丈そうな鎧を身につけている。
この人達は領主が集めた魔物の群れから街を守るのだろう。ここにミリがいたら彼らのことを冒険者と説明してくれていただろう。
今は特にこの人達には用事がないのでスルーして一曲線に魔物の群れへ向かう。
門を超えれると千体近くの魔物が砂煙を上げ街へと向かって来るのが見える。それはそれでいいとして、門に集められた人達が魔物の群れに向かい始めた。
自殺志願思考なのかは知らないが千体近くの魔物の群れを相手に数十人ばかりで挑むのは死ぬだけである。
「何か作戦でもあるのか?俺には関係ないか」
死なれると目覚めが悪いので死にそうになったら助けようと思うが、先にその数十人の先にいる魔物を片付けるとしよう。
ピョンと魔物の前に飛び込んで迫り来る魔物を念力で剣を操り蹴散らしていく。それでも剣から逃れて襲いかかる魔物は首から上を弾けるように爆発させ赤黒い華を咲かせた。
「この調子で残りを片付けるか」
今、倒したのは全体の3割ぐらいでまだまだたくさんの魔物が押し寄せて来ているのはわかっている。
「400近くいた魔物がすべて死んでいるぞ!」
「あの宙に舞っている剣は魔剣か?!」
「おい!これが全部あのチビっ子がヤったと言うのか?何かの冗談だろ?」
「このままアイツが魔物をすべて倒せばこの街は助かるんじゃないか?」
ここに向かっていた人達が今目の前にある魔物の死骸の山と魔物の血のシャワーを浴びて赤く染まった俺にそれぞれの感想を吐いていた。
「お前は何者だ?」
この中で大きな剣を背負った男が声をかけながら近づいてきた。
俺はそいつを念力で押すとそいつとの間に魔物が横切った。
「足がー!」
生き残ったと思われる魔物がそいつに向かって体当たりするように突進してきたので俺は助けたと思ったが魔物はそいつの足を踏んでいったみたいだ。
魔物は避けられたとわかると大勢の方へ突進していく。魔物の突進から逃れるためにバラバラに散らばる。
「こいつはストレートボアだ。こいつはまっすぐに突然してこないが突進をまともにくらうと死ぬぞ」
「足がー!足がー!」
「逃げていないで、誰か喚いてるジョスを助けろよ」
「ストレートボアに気づかなかったアイツの自業自得だ。その前にストレートボアを倒すことに専念しろ。ジョスのことはあとまわしでいい」
「魔法を使える奴はストレートボアの隙ついて当てろ!それ以外の奴はおとりして注意を引け」
「「ファイアボール」」
杖を持った何人かが呪文を唱えると杖から炎塊が出て魔物に向かって放たれる。
魔法は魔物に対しては毛皮の表面を焼いただけだが魔物が魔法に当たると動きが止まるので剣や槍を持った人達が魔物に切りかかっていく。
その人たちはようやく魔物、もといストレートボアを倒した。
「怪我人を早く治療しろ」
「うるさい。今、やろうとしていたところだ。ヒール」
怪我人と言うがストレートボアに足を踏まれた男以外の怪我人はいなかった。
ストレートボアという魔物は一直線にしか突進しないので避けやすく魔法が当たると一時的に動きが止まるのでその隙に攻撃すれば倒せるみたいだ。
「怪我人と言ってもなジョスの馬鹿以外誰もいねーぞ」
「じゃあ、ジョスに治癒の魔法を掛けてやれ」
「たくっ、しょーがねーな」
杖を持っていたのにストレートボアに魔法を打たなかった女が突然光出した杖先を足を踏まれた男の足に当てる。
男は苦悶の表情だったが痛みが引いていくのかだんだんと落ち着いた表情になった。
「流石だ。王宮にいただけのことはあるな」
「ジョス、この件が片付いたら何か奢れ」
男はストレートボアに踏まれた足が治ったのを確かめてから何事なく歩いていた。あれだけで治ったのだろうか。彼女は被験者に見えない。あれも魔法なのだろう。
魔法とは何だろうと疑問に思ったが街に迫り来る魔物を片付けた後に聞けばいい。
俺はストレートボア以外の魔石だけを回収して飛び去った。
回収した魔石は量的にはうはうはだったがポッケトにはそんなに入らなかったことに気づいたのは街に迫り来る魔物を倒したすぐあとだった。
それから俺は街の周辺を飛び回り魔物を倒していた。
一時間が経過してからは倒した魔物の魔石だけを回収してそれ以外を捨てていくだけの作業とかした。
「もう見える範囲で魔物がいなくなったな。だんだん暗くなってきたし、ミリ達のところに帰るか」
暗くなっていく空を眺めてそう呟いた。
始めてから二時間程が経った。俺の前にはいくつもの積み上げられた魔物の死骸がある。魔物の死骸には魔石を取り出した後の穴が空いている。
気がつけば街へ向かっていた魔物の群れはもう片付いた。いや、無心で作業をしていたらいつの間にか終わっていて、俺の隣には大量の魔石が積み上がり、どう運ぼうか悩む。
どう考えても一人ではとても運びきれない量の魔石が山になっている。入る限りポケットにつめ込んで残りを考える。
ここで捨てるのはもったいない。何かいい運べる物は。
辺りは徐々に暗くなるにつれて気温も下がっていく。体温を逃さない為に被っているローブを掴んで体に密着させる。
「ローブ?その手があったか!」
被っていたローブを地面に敷いて魔石を乗せて念力で持ち上げる。 魔石の量が多すぎて包むことはできなかったがこれで大分運ぶのが楽になったし、もう暗いから運んでいる時は目立たない。
残りの魔物は先ほどの人達に任せて俺はミリ達が待つ古い教会まで飛んで帰る。
魔石は念力で浮かべて運んでいる。
「疲れた~」
残っている魔物は数えられる程度の数がいる。ストレートボアを倒した人達が頑張ればこれくらいの魔物倒せるだろう。
「ん?あの人達、魔物を見つけても戦わずにいるぞ。まだ俺が魔物と戦っていると思っているのか?」
こんなに魔物の数が少なくなったんだ。街の危険性が小さくなってもう魔物を倒さなくてもいいと判断したと思える。俺みたいなヤツが魔物を倒していたし、死骸から売れそうな物でも剥ぎ取っているのかもしれない。
無理して残っている魔物に襲われて怪我をしても笑えない話しだ。
ふと、街の上を飛んで帰っている時、戦わずにいる人達に疑問を持った。彼らはそんな理由で何故残っているのかと。何人かは剥ぎ取りをやっていないようで動き的になにかを探しているように見える。もう魔物の数が減って戦わないなら街へ帰ればいいのに彼らは帰らずにこそこそやっているのを不思議に思っていた。
とりあえず戻った俺は台座の縁のスイッチを押してミリ達が眠る隠し部屋に入った。
ベッチョ。
部屋に入ったとたん「お帰りなさい」と言うようにベスが体に張り付いてきた。
「ただいま」
と小声で言い張り付いているベスを撫でた。
撫でられたベスが嬉しそうに揺らめいている。
隠し部屋の入口から無理矢理に入れた魔石の山を部屋の隅に置いた。
魔石の山を見たベスが大喜びで飛び込もうとしたので念力で阻止する。
「これはお前の為のご飯じゃない。前に魔石を全部食べられたんだ。今度はそうはいかない」
この魔石は今日買い取ってもらうでいるんだ。また、食べられちゃこれから生活していく金に困る。これをベスに食べられたら売れる物が無くなった俺達が金欠で何も買えなくて餓死して死ぬので魔石を何としても死守しなければ。
「ベス、本当にこれは食べちゃダメだ。これを売った金で俺達が食べる物を買うから絶対ダメたからな」
そう言うとしゅんと落ち込むベスが可哀想に見えてくる。
しつこく釘を刺しといたが別に数個食べても構わないが調子に乗られて気がついたら半分も食べられました何て嫌だ。
しかし、何も食べさせないのは可哀想だ。食べさせなかったら今度はベスが餓死してしまう。
今度、ベスが食べられる物を魔石以外で探してみよう。
山から一個魔石を手に取りベスに与えると「食べていいの?」と言いたげに揺られく。
スライムには目も口も顔のパーツがないはずなのにベスはとても個性的で感情豊かだ。
見ていて飽きないとは言えないが意味がわからないことを口走っている奴よりは中々面白い奴だ。
ベスは早速差し出した魔石を取り込んで美味しそうに溶かしている。
「今はそれだけで我慢するんだぞ」
俺に答えるようにプルンと揺れた。
ベスは魔物なのに人の話を理解しているように見える。洞窟にいたゴブリン(仮)は人の姿に近かったのに意志疎通ができなかった。
ゴブリン(仮)と比べるとベスはすごい魔物かもしれない。どこまで頭がいいのかこれからはベスのことを観察しなくては。
ベッドに寝ている子達の様子を見るとミリ達はまだ起きないようなので幸せそうに寝息を掻いている。起きないところを見るとかなり疲れていたみたいだ。ミリ達には無理をさせていたみたいで次からはもう少し休憩を増やそう。
「なぁ、そういえばなんで領主様は冒険者達を使って魔物退治に向かわせたか知っているか?」
「そりゃ、街を守るためだろ。他に何もないはずだ」
「フツー考えりゃそうだろうよ。だけどな、どうも理由は別にあるみたいだぜ」
「なんだよ?もったいぶりやかって早く教えろよ」
まだまだ起きそうにないミリ達を眺めながらミュニミュニとベスを揉んで遊んでいると外から話し声が聞こえた。そんな話し声に興味が湧いたからか何となく耳を澄ませて聞いていると。
「領主様の娘が領主様と喧嘩して魔物の群れを倒しに向かったらしいぞ」
「領主様の娘って、俺の子供より小せぇじゃねえか。そんな小娘一人が千を超える魔物の群れを倒しに行っちまったのか」
「だから領主様が慌てる訳だろ?」
「それなら領主様が大金を出してまで冒険者達を雇ったのも頷けるな。なんで?領主様の娘が魔物を倒しに向かったんだ?」
「そこまで知るかよ。俺だってディエゴの奴に聞いたばかりだぞ」
声が遠ざかって行く。
たしか門番はアシュティアの父親は領主といっていたな。先ほど話し声が言っていた領主の娘というのは。
「まさかね」
嫌な予感が頭に過る。
魔物の数が少なくなっても街へ帰らなかった十数人は魔物を倒しに向かった領主の娘を探していたから未だに街の外でうろついていた。
もしかしたら、この話しは本当なのかもしれないその領主の娘というのはアシュティアのことで。アシュティアは父親と揉めて何故か魔物を倒しに向かった。街に向かっていた魔物はほとんど倒したがあちらこちらにまだ残っている。
中には危険な魔物がいるかもしれない。
それでアシュティアは街の外に出た。アシュティアのような小さな女の子なんて襲われたら食べられるか、殺されるだろう。
自然と体が動いた。
知合いの女の子が危険な場所に向かって殺されるかもしれないという状況下で俺にはアシュティアを見捨てることができない。
教会から出ようと体を出口へ向かうとベッチョとベスがまた体に張り付いた。
「ベス、一緒に来てくれるのか?」
ベスは喋らないがプルンと揺れた。それが緊張感を持ちながら肯定しているように思えた。
改めて表現力が豊かな奴だ。
隠し部屋の扉を閉めて急いで街の外に向かって飛んだ。
街の外は先ほどと変わらず数十人の大人達がこそこそしている。先ほどの話し声が言っていた領主の娘を探している冒険者達だ。
未だに探しているということはまだ見つかっていないみたいだ。本当にその領主の娘がアシュティアではないことを祈りながら捜索に参加する。
今はもう夜だ。空から見下ろすだけじゃ見つからない。それ以前にいくら目が良くたって空からだと辺りが暗すぎて見えにくい。
これでは見つからない。いったん降りて探してみる。
街の回りを捜索しても魔物ぐらいしかいない。今は魔物の相手をしている余裕がなくできるだけ見逃しているが人を襲っている魔物だけは倒している。
街の回りにはすでに十数人の大人達が探しているんだ。俺も一緒に街の回りを探しては効率が悪いと思う。
そっと遠くに見える森を見た。何となく森から巨大な影が来ているように見える。街には大人達が探し回っているんだし、俺はアシュティアを探しに森まで行こう。
影がなんなのか気になるし、大人達と一緒に街の回りを探し回ったって空回りするだけだと思う。
大人達が何時間もいいと探しているのに見つけられないのなら遠くまで探しに行くとしよう。




