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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
第一章 英雄ノ帰還ト亡霊
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第十一話 作戦会議Ⅲ――乱入 

 助けるべき少女との結束は固まった。自分達の手札もだいたい把握できた。設定すべき期限は二日間。ジャンルは持久戦でも敵の殲滅でもなくアリシア復活までの時間稼ぎ。

 ひとまずの勝利条件は背神の騎士団(アンチゴッドナイト)がアリシアを追えない環境を生みだすこと。

 達成すべき目標も条件もご覧の通り定まっている。


 なら後は、己の手札を使いどうやって勝利を掴み取るかだ。


「さて、とりあえず何となく状況は理解できた。そこでだアリシア。俺たちが次にとるべき行動が何か分かるか?」

「むむむ……、私たちは追手に顔が割れているのだから、ここに留まるのは危険、だと思うのだ。だから……敵襲が来る前にどこか別の場所へ移動する、とかか?」

「ほぼ、正解だ。とりあえずここにいるのは不味い。ナルミとイルミの敗北を受けて、背神の騎士団(アンチゴッドナイト)がどれくらいで体勢を整えてくるかは知らないけど、もたもたしてるとすぐにでも奴らがやって来てゲームオーバーだ。だからここをすぐに離れる。そして向かう場所はどこでもいいって訳じゃない。できるだけ人目に付く場所、そう――灯りの絶えることの無い夜の街、ここからすぐの中央ブロック第五エリアのネオン街に行くんだ」

「第五エリア? 中央ブロック?」


 普段当たり前に使っている単語に相変わらず首を傾げるアリシア。エリアとブロックについてなど、最早自分の住んでいる場所の名前や住所を知らないに等しい。

 やはり彼女は普通の環境では育っていないのだと言う事を改めて実感しつつ、勇麻はどう説明したものかと頭を搔いて、


「あー、分かんねえか。えっとだな、簡単に説明するぞ。

 勇麻はスマホを制服のズボンのポケットから取り出そうとして、どこにもない事に気づいく。

 どこかで落としてしまったのか、学校に忘れて来たか。どちらにせよ予想外の痛手だ。

 ……まぁ、これでスマホの電波から居場所を逆探知されるような、間抜けな展開にはならずに済みそうだ。

 己の馬鹿さ加減を毒づきながら適当なメモ用紙とペンを持ってくると、アリシアに天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)の五つのブロックと、エリアについての簡単な説明を始めようとする。


「いいか、アリシア。この天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)には県とか市とかそういう概念はない」


 そもそもこの天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)は、明確にどこかの国に属している訳ではない。


 己の国では管理しきれない危険な〝異能者〟どもである神の能力者(ゴッドスキラー)を世界各国から預かり管理する研究施設、というのがこの街の外から見た『天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)』という実験都市だ。


 一般世論はほぼ完全に神の能力者(ゴッドスキラー)を拒絶しており、各国政府の重鎮達もその物理法則を越えた力に恐れをなしている。


 武力への利用を幾度となく愚考し、その都度逆に手痛い被害を被ってきた人類の傲慢な歴史が、歩み寄りを拒絶する要因になってしまっているのだ。

 御しきれないが故に兵器にも利用できない強大な力など、目の上のたんこぶに過ぎないという訳だ。

 そんな訳もあり、神の能力者(ゴッドスキラー)に対する差別や差別感情はなかなかなくならないのがこの世界の現状だ。


 だからこそ、天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)は受け皿として機能する。


 各国政府は、天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)へ莫大な額の補助金を払う代わりに、厄介者である神の能力者(ゴッドスキラー)天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)へと預けている。 

 さらに、預けた神の能力者(ゴッドスキラー)の実験データを天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)は補助金の額に応じて提供しており、ロシアやアメリカ、中国あたりはそれこそ目も眩むような金額を提示してくるのだ。


 神の能力者(ゴッドスキラー)の管理方法を模索していた各国にとってこれほどおいしい話しは無かっただろう。

 手に余る化け物どもの厄介払いを引き受けてくれたうえに、今後自国の戦力になりうるかもしれない化け物の飼い方まで――有料ではあるにしても――教えてくれると言うのだから。


 各国の首脳どもは心の中で声を上げて喜んだに違いない。

 その為なら、多少の国民の血税など容易い負担だと考えた訳だ。


 実験協力費として、毎月干渉レベルの高さ――実験への利用価値――に応じて高額の金額が支払われるのは、世界各国から莫大な金額をかき集めている天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)ならではと言える。

 その他にも家賃がタダだったり、住居が無性で提供されたり、学費が免除されたりするのも、天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)の財政が他国の金でうるおっている証拠だ。


 ちなみに実験データを他国へ堂々と開示するのは、実験都市でもないよその国に神の能力者(ゴッドスキラー)を制御するなど不可能だと踏んでいるからだ。

 事実この五十年あまりの間、神の能力者(ゴッドスキラー)の管理・研究でまともな成果を上げているのは、天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)の他には、同じ系列にあたるよその実験都市二つ――『新人類の砦アドバンスフォートレス』と『未知の楽園(アンノウンエデン)』の三都市しかないのだ。

 ……もっとも、そもそも渡している実験データが本当に正しいのかも怪しいところなのだが。


「そもそも国じゃないからな、ここは。あくまで一つの都市って扱い。だけど、どの国家にも属していない。だから少し特殊な事になってる」


 ともかく、天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)は事実上どこの国にも属していない。

 原則、この街に住む人間には仮の国籍のような物が与えられ、元いた国の国籍は、天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)内にいる限りは自動的に剥奪される事になっている。

 どの国にも属さないこの街は、明確に国として認められた訳でもなく、世界の例外として存在している。あらゆる法から逃れ、独自の法で動いている。

 例外的な場所であるこの街に、普通の国家が使うようなまともな県や州などの区分けも存在しないのだ。


 勇麻はメモ帳に歪な五角形を描き、さらにその内部にもいくつか線を引いていく。


「この街は五つのブロックに分かれていて、さらに各ブロックごとに五つのエリアが存在する。五ブロック二十五エリアからなる一つの実験都市と呼ばれる独立国家みたいなモンなんだ」


 天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)は太平洋上にある五角形のような形をした無人島と、その周囲にある五つの小さな群島とで構成された街だ。

 天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)は大きく分けて五つのブロックに分かれている。

 学校や学生寮の多い『北ブロック』。

 家族でこの街にやってきた人たちが沢山住んでいる、ファミリー向けの『西ブロック』。

 空港や港を有し、ホテルやレジャー施設など対外向けの施設の多い『南ブロック』。

 様々な実験施設がある学問の『東ブロック』。

 それから大人が多く集まり、この天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)の政治を司る『創世会』本部がある、この街の中枢施設が多く連なる心臓部の『中央ブロック』。


 そしてこれらの各ブロックがさらに一から五までのエリアで内分けされており、計五ブロック二十五エリアで構成されているのだ。


 あらかた説明を終えた勇麻は、改めてアリシアにこれからの計画について話すべく、かなり適当に描いた簡易地図の一点をペンで指し示し、


「いいかアリシア、俺らが今いるのはココ、北ブロックの第五エリアのこの辺りだ。んで俺らはこれから南方向に進んで、すぐ隣の中央ブロック第五エリアへ向かう。とにかく人目の多い所へ向かうんだ。連中だってさすがに天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)と正面きって戦争するのは嫌だろう。人の目くらいは気にするはずだ」

「うむ、なるほど。確かに良いアイディアだな。だが勇麻、今日寝るところはどうするのだ? どこかで野宿でもするのか?」

「さすがにそれはねぇよ。二四時間営業のカラオケでも何でもある。あそこは夜の街だ、寝る場所には困らねぇさ」


 勇麻は自分で言って、あれ? これって女の子と同じ部屋で寝る事になったりするのか? あれ? あれ? と内心ドギマギしていた。

 だが、アリシアは微塵も気にしていない、というか気づいていないようで、


「そうか、それなら良かった」


 安心したように、ホッと息をついた。

 何だか自分だけが変に意識してたみたいで、妙に恥ずかしく若干居心地が悪い。

 そんな勇麻の方を見て、アリシアは少し複雑そうな少し困ったような表情をしている。


「でも勇麻、弟くんには何と説明するのだ? もうじき帰ってくると思うのだが……」

 

 アリシアは弟の勇火の心配をしてくれているようだ。

 弟の勇火を巻き込んでしまって大丈夫なのか? と聞いているのだろう。

 そんなの決まっている。

 勇麻は考えもせずに即答した。


「いや、勇火が帰ってくる前にここを出る。アイツに話すとなると何かと面倒くさいからな、家で留守番でもしててもらおう」 


 アリシアはそう答えた勇麻を見て、少し笑ったようだった。

 やはり、まだどこかぎこちなさが残り、お世辞にも上手くは笑えていなかったが、暖かさを感じる笑みだ。


「勇麻は弟くん思いなんだな」

「……? どこをどう切り取ったらそういう事になるんだよ」

「うむ。仲良きことは美しきかな、なのだな」

「はぁ。まあどうでもいいけど、すぐ家出るからな。支度しろよ、勇火が帰って来る前に家を出ないと──」



「──出ないと、どうなるの?」



 リビングのドアが開く音と、そんな台詞セリフが聞こえた。

 最初は空耳かと思った。

 いや、勇麻がそう思いたかっただけなのかもしれない。


 けれども、何事も自分の思い通りに進まないのが人生だ。それは幻聴でも空耳でもない、明確に、確実に、勇麻たちの背後に誰かがいる。

 勇麻はゆっくりと、声がした方を振り返る。

 そこに立っていたのは――

 

「ようクソ勇麻、なに俺抜きで楽しそうな事始めようとしてんだよ。水臭え、俺も混ぜろや」

「悪いね兄ちゃん、そう何度も出し抜かれるほど俺は馬鹿じゃないんだ。兄ちゃんと違ってね」

 

 そこに立っていたのは勇麻のよく見知った顔たちだった。


「面倒くさい弟で悪いんだけどさ。でもこうでもしないと、兄ちゃんはまた一人で馬鹿みたいに突っ走って行くだろ?」

「オモシロそうじゃねえか。要するに俺が背神の騎士団(アンチゴッドナイト)の奴ら全員ぶっ倒せばいいんだろ?」


 東条勇火と泉修斗。

 勇麻のよく知る二人が、不敵な笑みを浮かべて勇麻の目の前に立っていた。


 勇火はその手に通話中のスマホを握りしめ、


「あ、そうそう。兄ちゃんたちの会話はぜーんぶ聞いてたから、言い逃れはしないほうが良いよ?」

「あぁ、傑作すぎてわき腹がぶっ壊れるかと思ったぜ。『愛しのナホちゃんへ、僕は初めて会った時からナホちゃんの事が大好きです!』って……ぶふっ……フハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! いやー、良いもん聞けて俺は満足だよ。なぁ、高見のアホに教えたら楽しそうなことになると思わねえ?」


 意味が分からなかった。

 なにがどうしてコイツらがここにいるんだ?

 勇麻はいきなりのこの状況に全く対応できずに、口を開けたまま固まっている。

 この馬鹿二人に返す言葉が見つからない。


 アリシアはそんな勇麻を見ながらどうしたものかと、オロオロしていた。

 突然の来客に、自分も何かするべきなのかとテンパっているのだ。呑みかけのぬるくなった麦茶のグラスを差し出そうとしているあたり相当キている。

 唖然とする勇麻をよそに、座卓の下ではどこかへ落としたと思っていた勇麻のスマホが、通話中の画面のまま光りを放っていた。

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