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ライオンの赤ちゃん

作者: めん坊

 

 ぼくはただの人間だ


 どこにでもいる人間だ


 ただ何かが違う


 それは敗北者だから


 人生の敗北者だから


 また、地下牢に戻ってきてしまった…


 「ねぇ、何してるの?」


 「隣に座っていい?」


 彼女は何者だ?


 他の女とは全く違う


 まぁ、地下牢に女はいないはずだが


 黒のブラウス


 青色のジーパン


 少女のような瞳をしていた


 「君、ここに入って何ケ月?」


 「もう1ケ月かな」


 「私は今日、入ってきたばかりなの」


 「そうなんだ」


 「ねぇ、地上に出たら会わない?」


 「えっ…」


 「嫌なの?」


 「嫌じゃないけど」


 「これ、私の連絡先」


 「分かった」


 「地下牢から出たら連絡してね」


 そして、月日が経った


 先に、彼女が地下牢から出た


 そして、私が地下牢から出る日がやって来た


 地上は蒸し暑かった


 知らない内に夏になったようだ


 「連絡するかぁ」


 プルプル・プルプル…


 ガシャッ!!


 「もしもし?」


 「ごめん、もう会えないの」


 「何で?」


 「ごめんね」


 ガシャッ!!


 プーーーーーーーー


 ぼくは何が起きたか分からなかった


 そして、また1人になった


 せっかく2人になったと思ったのに


 結局、1人なのだ


 でも、仕方ない


 これが人生だから


 ぼくは神社に向かった


 なぜだか分からない


 神がぼくを呼んでいたのかもしれない


 そんな気がした


 コト、コト、コト、コト…


 ぼくは階段を登った


 チャリン、チャリン…


 鳥居の奥から鈴の音が聞こえた


 チャリン、チャリン…


 ぼくは急いで階段を登った


 そして、頂上に着いた


 鳥居を潜ると、巫女が舞っていた


 チャリン、チャリン…


 ただの巫女ではない


 チャリン、チャリン…


 彼女だった


 チャリン、チャリン…


 地下牢にいた彼女だ


 チャリン、チャリン…


 巫女は美しかった


 チャリン、チャリン…


 この世のものとは思えなかった


 チャリン、チャリン…


 ……


 ……


 巫女の舞が終わった


 巫女は祈りを捧げた


 小声で何かをしゃべっていた


 ぼくは見惚れていた


 巫女は祈りを終えると、後ろを振り向いた


 そして、目が合った


 「あら、来てたの?」


 「君は何者なの?」


 「あなたには関係ない話」


 「何で連絡が取れなくなったの?」


 「やっぱり無理だったの」


 「何が?」


 「人間との恋愛は」


 「どういうこと?」


 「私は巫女。あなたのような人間とは身分が違うの。ごめんなさいね」


 巫女は立ち去ろとした


 「ちょっと待って」


 「君の名前を聞いてないよ」


 巫女は立ち止まった


 「私に名前なんてない」


 「神の使いだから」


 チャリン、チャリン…


 「鈴の音が聞こえる」


 「あぁ、この鈴?これが何?」


 「鈴音って呼んでいい?」


 「鈴音?」


 「うん、君にピッタリだよ」


 「ご自由に」


 巫女は立ち去ろとした


 しかし、様子が変わった


 とても、苦しそうだ


 「大丈夫?」


 巫女はうずくまった


 「ウワーーーーーーー」


 巫女は叫んだ


 叫び声は、神社から森の中まで響いた


 ちょうど陽が落ちてきた


 夕月が美しい


 ワオーーーーーーーーン


 何かの叫び声だ


 巫女ではない


 神の使い?


 いや、もっと神聖な気がする


 ワオーーーーーーーーーン


 その物体は、巫女の胸元から現れた


 白銀だ


 白銀の狼だ


 ぼくと眼があった


 ぼくは畏れた


 あまりにも位が違うから


 ワオーーーーーーーーーーン


 白銀の狼は立ち去った


 森の中へと消えてしまった


 ぼくは固まった


 呼吸が止まっていた


 しかし、すぐに目に止まった


 彼女が倒れていたから


 「大丈夫?」


 「だいじょうぶよ…いつものことだから…」


 「だって…」


 「びっくりしたでしょ…」


 「うん」


 「あれは守り神」


 「守り神?」


 「そう、私の役割は守り神を降ろすこと」


 「すごいね」


 「まぁね、人間がみたらそう思うでしょうね」


 「君は本当に巫女なんだね」


 「そうよ」


 「すごいね」


 「まぁ、私はやらかしちゃったんだけどね」


 「やらかした?」


 「守り神の存在は、人間に見せちゃいけない決まりなの」


 「そうなの、だいじょうぶなの?」


 「まぁ、どうなるかしら」


 「ぼくのせいなの?」


 「まぁ、私が降ろしたタイミングに、あなたが出くわしたのも何かの縁かもね」


 「そっか」


 巫女は、パンパンッと袴のほこりをはらった


 そして、起き上がった


 「あなたと地下牢で出会った時、特別な気持ちになったの」


 「そうなんだ」


 「他の男とは全く違う。他の人間とは全く違う。何か違うものを纏っていた」


 「ぼくは普通の人間だけど」


 「いや、全然ちがう。今までの人間性の積み上げが違うの」


 「嬉しい」


 ドキッ!!


 巫女はぼくの手に触れた


 そして、優しく握った


 「あなたがよかったらだけど、私に仕えてくれない?」


 「君に仕える?」


 「そう、巫女と人間は付き合えないの。対等じゃないからね」


 「そっか」


 「だから、私に仕えて欲しいの。私の執事として」


 「ぼくも君のことが気になってる」


 「私もあなたのことが気になるの」


 「でも…」


 そう、ぼくは人生の敗北者


 地下牢の出身者


 君とは身分が違う


 神聖な君とは…


 「ぼくなんかでいいの?」


 「もちろんよ、あなた以外いないわ」


 「できることは何でもするよ」


 「ありがとう」


 「好きだから」


 「私も」


 巫女は小指を口にくわえた


 そして、強く嚙んだ


 赤い血が、うっすら見えた


 「ほら、あなたもやって」


 ぼくも小指を強く噛んだ


 そして、赤い血が滲んだ


 「小指を出して」


 「契りを結ぶわ」


 ぼくは小指を前に出した


 そして、巫女と小指を絡ませた


 血と血が混ざり合う


 新しい血が生まれるように


 ワオーーーーーーーン


 白銀の狼だ


 こっちに近づいてくる


 なぜか怖くない


 ワオーーーーーーーン


 ぼくらの目の前にやって来た


 思ったより小型の狼だ


 ペロッ


 ぼくらの血を舐めた


 「契りの言葉を言うわ」


 巫女は目をつむった


 「私たちはともに支え合うことを誓います」


 ワオーーーーーーーーン


 狼の声は遠くの街まで響いた


 ワオーーーーーーーーン


 遠くの街から、狼の遠吠えが聞こえた


 何匹いるか分からない


 複雑に絡み合った低音だ


 「これで契約は終了」


 「ぼくらはパートナーになったの?」


 「そうよ。そういえば、名前を聞いてなかったわね?」


 「ぼくは大地」


 「大地。人間の名前を呼ぶのは初めてだから、緊張するわ」


 「よろしく、鈴音」


 「鈴音、美しい…」


 「綺麗でしょ?」


 「うん、良い響き」


 「よろしくね、鈴音」


 「うん、よろしく」


 鈴音は握っていた小指を外した


 そして、大地の手を握り、手の甲にキスをした


 「ちょっと待ってて、加護をつけるから」


 「加護?」


 「うん、あなたは私に仕えるでしょ?だから、私はあなたに加護をつけるの」


 「そうなんだ」


 「あなたを邪気から守ってくれるわ」


 鈴音は鈴を手にとった


 そして、大地から少し距離をとった


 チャリン、チャリン


 チャリン、チャリン


 チャリン、チャリン


 ワオーーーーーーーーン


 狼も叫んだ


 ぼくらを歓迎してくれてるのだろうか


 チャリン、チャリン


 チャリン、チャリン


 チャリン、チャリン


 ……


 ワオーーーーーーーン


 ワオーーーーーーーン


 チャリン、チャリン


 チャリン、チャリン


 チャリン、チャリン


 ……


 ぼくと鈴音の旅が始まった


 出会いは地下牢


 キスは手の甲


 ぼくらは契約を結んだ


 血は混じり合い


 狼は叫び合い


 ぼくらは歩み始めた


 広大な大地


 美しい鈴の音


 ガオーーーーーーーー


 目の前にライオンがいた



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