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愛弟子に裏切られて死んだおっさん勇者、史上最強の魔王として生き返る  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第10章 魔界動乱

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2 獄炎都市へ

 魔王城、謁見の間──。


「俺が兵を率いてジレッガに行く」


 俺は魔軍長たちに指示を送っていた。


「ステラはいざというときには俺の代わりに全軍の指揮を。リーガル、フェリア、オリヴィエはその補佐だ。ジュダへの連絡も頼む」

「千里眼で探していますが、ジュダ魔軍長の姿が見当たりません。引き続き、探索を続けます」


 と、ステラ。


「ジュダは重要な戦力だ。連絡が取れ次第、王都で守りについてもらうよう伝えてくれ」

「承知しました」

「後のことは頼むぞ、みんな」


 俺はその場に集まっているステラ、リーガル、フェリア、オリヴィエを順番に見回した。


「お気をつけください、魔王様」

「……ご武運を」

「がんばってね、魔王様」

「ファイトですっ」


 四人の魔軍長が俺を見つめる。


「行ってくる」


 言い残して、謁見の間を後にした。


 リリムたち警護兵を引き連れ、獄炎都市ジレッガへ向かう。


 俺は冥帝竜(ベル)に乗って、低空飛行だ。

 リリムたちは騎馬で随伴していた。


「魔王様、あたしたちがしっかりお守りしますねっ」


 リリムは気合満点だった。


「相手は魔界随一の猛者ゼガートだ。無理はするな」


 警備兵を連れてきたのは、俺を守ってもらうためというよりは、周辺住民の警護のためである。

 そのことはすでにリリムたちには伝えてあった。


「お前も頼むぞ、ベル」


 乗騎である竜に呼びかける。


「ゼガートかぁ……前々から野心たっぷりだと思ってたけど、とうとう謀反なんてやらかしたんだね」


 と、ベル。


 覚悟は、していた。

 予感もしていた。


 いずれゼガートは俺の前に立ちはだかるだろう、と。


 その覚悟と予感に、今こそ決着をつけるときだ──。




 ジレッガに到着すると、俺はゼガート軍と相対した。


 ずらりと並ぶ獣人系の魔族たち。

 そのいずれもが一流の白兵戦能力を持つ精鋭たちだ。


「き、来たぞ、魔王フリードだ……!」


 俺を見て、軍勢がどよめく。


「そうだ。この俺こそ魔界を総べる王! すべての魔族の頂点に立つ存在! おとなしく降伏するならよし!」


 朗々と叫ぶ。

 仰々しい台詞は奴らの戦意をくじくための威嚇込みだ。


「さもなくば──」


 俺は右手を突き出した。

 最下級の火炎呪文『ファイア』を放つ。


 ごうんっ!


 大爆発とともに、地面に巨大なクレーターができる。

 最下級とはいえ、俺のこの呪文は山をも消し飛ばす威力だ。


 当てるつもりはない。

 あくまでも警告のためである。


「なっ……!?」

「馬鹿な、今のが最下級呪文だと……!?」

「なんて威力だ──」


 たちまちゼガートの軍が静まり返った。

 彼らの顔は一様に青ざめていた。


「これが魔王の力だ。なお刃向うというのであれば──我が力を、その身を持って味わうことになろう」


 威厳を込めて、告げる。


「ひ、ひい……」

「聞いていた以上の、化け物だ……」

「ひるむな、我らにはゼガート様とツクヨミ様がいる……」


 それでもなお降伏しないのは、さすがに勇猛で鳴らしたゼガート配下だけはある。


 とはいえ、俺も無為に殺したくはなかった。

 本来、彼らは魔界を守るための剣となる大切な軍勢だ。


 俺がやりたいのは殲滅ではなく、鎮圧。

 そのためには──、


「出てこい、ゼガート、ツクヨミ。部下たちを盾にして、自分は隠れているつもりか」


 俺は周囲に呼びかけた。

 不意打ちに備え、俺とリリムたちの周囲に魔力防壁である『ルシファーズシールド』を張っておく。


 彼らを打ち倒し、軍の指揮に致命的なダメージを与える──それが狙いだった。

 可能なかぎり少ない犠牲で、この謀反を終結させるために。

 と、


「隠れるつもりなどない」


 獣人魔族たちが左右に分かれ、獅子の獣人が悠然と進み出た。


 獣帝ゼガート。


 正面から俺と戦うつもりか……?


 確かにゼガートは強い。

 だが、ステータスは俺の方が圧倒的に上だ。


 それは奴も理解しているはずだが──。


「こたびの謀反、どういうつもりだ、ゼガート」

「どうもこうもない。儂がこの世界を治めるために起こしたもの」


 ゼガートは悠然と告げた。


「儂こそがもっとも魔王にふさわしいと考えたゆえ。皆もそう思うであろう?」


 と配下に手を振る。


 おおおおおおっ!


 獣人たちがいっせいに叫んだ。


 俺におびえていた彼らが、すっかり闘志を取り戻している。

 さすがにゼガートのカリスマは抜群のようだ。


「魔界とは弱肉強食の世界。神や人によって、常に脅威にさらされる世界。それを総べる王は何よりも強くあらねばならぬ」


 どう猛な獅子の瞳が俺を見据える。

 俺は仮面越しにその眼光を真っ向から見返した。


「俺では、その強さが足りない──と?」

「然り」


 告げて、地を蹴るゼガート。


 これ以上は問答無用とばかりに、爪を、尾を、牙を、次々に繰り出してくる。


「──遅い」


 俺は奴の背後に回りこんだ。


「『ファイア』!」


 最下級の火炎呪文を叩きこむ。

 俺が放てば山をも消し飛ばす威力の魔法だが、さすがにゼガートも魔軍長の一人だ。


「ぐお……っ」


 苦鳴を上げつつも踏ん張り、俺に向き直った。


「やはり……お強い」

「降伏しろ。お前に勝ち目はない」

「勝ち目? そんなものが最初からないことは分かっております」


 ゼガートが笑う。


 いや、これは──。


 その顔が突然変化した。

 獅子の風貌から、鳥のそれへと。


「お前は……」


 ゼガートじゃない。


 こいつは獣帝の副官、シグムンド……!?

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