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愛弟子に裏切られて死んだおっさん勇者、史上最強の魔王として生き返る  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第8章 第二次勇者侵攻戦

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10 混戦の予兆

「七大魔軍長の一人、極魔導(マスター)のジュダ──」


 シオンは緊張感を高めた。

 隣でリアヴェルトも臨戦態勢に入っている。


 ルドミラたちと別れ、魔王城を目指す途中でたちはだかったのがジュダだった。


「総合LV620、MP9000──魔力だけなら魔王クラスを上回っているナ」


 測定器を見たリアヴェルトがつぶやく。


「魔王以上の魔力、か」


 シオンはあらためて気持ちを引き締め直した。


 魔軍長というよりは、魔王と戦うつもりでかかったほうが良さそうだ。


「ならば──シオン、君の能力が重要になル」

「ああ、相手が魔術師型(メイガスタイプ)の魔族なら、俺の『あの技』の出番だ」


 彼が極めたザイラス流剣術の奥義ともいうべき、あの技の──。


「はあああああっ!」


 シオンが黒い槍から赤い閃光を放つ。

 神気によるエネルギー波だ。


「『ルーンシールド』」


 ジュダは前面に魔力障壁を展開し、それを防いだ。


 バチッ、バチッ、という火花とともに大気がプラズマ化し、小爆発を起こす。

 黒い魔力のシールドに亀裂が入った。


「へえ、前に戦った勇者たちとはけた違いの威力だね。混沌形態(カオスフォーム)を完璧に使いこなしているみたいだ」


 感心したようなジュダ。


「大したものだよ。太古の勇者に匹敵する──あるいは凌駕するかもしれない」

「随分と余裕だな、魔族」

「だが、その余裕はすなわち気の緩みダ──」


 背後からリアヴェルトがハンマーを振りかぶる。


「ここにも勇者がいることを忘れるナ!」


 今の攻防で魔族の気を引き、『地』の術で移動した彼が時間差攻撃を仕掛ける──。

 最初から二人の狙いは、これだった。


「『メガウィンド』」


 ジュダは振り返りもせず呪文を唱えた。

 突風がリアヴェルトを吹き飛ばす。


「……ちいッ」


 舌打ちまじりに空中で器用に体勢を立て直し、着地するリアヴェルト。


「今のは、風の最上級魔法か」


 シオンがうめいた。


「強い──」


 やはり、一筋縄ではいきそうにない。


「一つ質問したい」


 ジュダがぴんと人差し指を立てた。


「君たちはその力をどうやって身に付けたのかな?」

「俺たちがそれを明かす理由があるのか」

「ないね」


 爽やかに微笑むジュダ。


「ただの興味本位だよ」


 あくまでも飄々とした態度だった。

 戦場にはまるでそぐわない、柔和で穏やかな態度。


「ふざけた奴だ。俺は魔族とおしゃべりしに来たわけじゃない」


 シオンが槍を構え直した。


「……いや、少し話に付き合ってもいいだロウ」


 リアヴェルトがジュダの話に乗ってきた。


「お、おい、何を言っている」

「……私には私の考えがあル」


 戸惑うシオンにリアヴェルトが言った。

 フルフェイスの兜に覆われた顔からは、その表情も考えもうかがい知れない。


「私たちは天使に鍛えられた」

「天使……?」


 眉を寄せるジュダ。


「太古の戦いで、神や天使といった存在は人間の世界にほとんど影響を及ぼせなくなった。奇蹟兵装のような神の武具を与えることはあっても、直接かかわることなんてできないはずだけど?」

「できるようになったのダ。ようやく──」


 リアヴェルトが淡々と告げる。


 いつも通りの無感情な声とは違い、わずかにその声音には熱がこもっていた。

 喜びの、熱が。


「……なるほど、神の地上への影響力が増してきているのかな。興味深い」


 ジュダがうなる。


「私も一つ質問したイ」

「ふふ、私だけが回答をもらうのも不公平だね。どうぞ、勇者くん」

「魔王城の地下には、今も『アレ』が安置されているのカ?」


 と、リアヴェルト。


(なんの話だ……?)


 シオンは眉を寄せた。

 魔王城の地下に何かがある、などとは初めて聞く情報だ。

「太古の昔に奪われ、封じられた力ダ」

「へえ、それを知っているとは。感づいているようだね。『アレ』の存在に」


 ジュダは感心したようにつぶやき、リアヴェルトを見つめた。


「それを君に教えたのは誰かな?」

「決まっていル」


 リアヴェルトが告げる。


「神ダ」


 次の瞬間、爆撃が周囲を襲った。

 振り返れば、剣や槍を構えた勇者たちがズラリと並んでいる。


「君たちは──」


 シオンがハッと目を見開いた。

 勇者の一隊がまだ生き残っていたようだ。


「私の手の者ダ」


 リアヴェルトが言った。


「何……?」

「我ら、これより作戦の最終目標地──魔王城へと向かう。邪魔となる、あの魔族を排除せよ!」


 勇者たちが叫ぶ。


「城へは行かせないよ」


 ジュダが魔法弾を放ち、彼らを牽制した。


「違うネ。行くのは、この私ダ」


 リアヴェルトが地を蹴った。


「砕けロ──弐式・陸覇超重撃ロイヤル・アースブレイク!」


 巨大なハンマー型の奇蹟兵装『ウリエル』を振り下ろす。


「『ソリッドシールド』」


 ジュダは魔力障壁を生み出し、これを受け止めた。


「私の一撃を止めタ……!?」

「対物理特化の障壁さ。ほとんどの奇蹟兵装は、太古の戦いでその特性を把握しているからね」


 驚くリアヴェルトに微笑むジュダ。


「君の『ウリエル』は、物理攻撃力なら全奇蹟兵装の中で最強──だから、こっちも物理特化で対抗させてもらった」

「リアヴェルト様、我らも!」


 と、勇者たちがいっせいに攻撃してきた。


 その手にあるのは、いずれも黒い奇蹟兵装。


 シオンたち四天聖剣以外にも、独自の修業で混沌形態(カオスフォーム)に目覚めた勇者が複数いる、とは報告で聞いていた。

 さすがに黒の法衣(カオスジャケット)や、切り札といえる神気烈破導(オーラバースト)にまで目覚めた勇者はいないようだが……。


「くっ……!」


 遠距離攻撃の連打を受け、ジュダは大きく後退した。


「隙あり、ダ!」


 その瞬間、リアヴェルトが駆け出す。


 すさまじいスピードで疾走していった。

『地』の奇蹟兵装『ウリエル』の力を活かした高速移動だ。


「何──!?」


 ジュダは意表を突かれたように、一瞬動きを止めた。


「逃がさない」

「いいや、逃がす」


 追いかけようとするジュダを、シオンが制した。


 リアヴェルトの目的は不明だ。

 魔王城に何があるのかは分からない。


 だが、シオンは──これまで苦難を共にしてきた仲間を信じるだけだった。


「彼が魔王城に向かうというなら、必ず理由があるはず。だったら俺は……君を全力でサポートする!」


 告げて、『ガブリエル』を構え直すシオン。

 漆黒の槍の穂先から青く輝く神気の光があふれる。


「俺に背を向けたら、その瞬間に『ガブリエル』でバッサリ──だ」

「……それは愉快ではないね」


 ジュダがわずかに表情を引き締めた。

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