8 真の激闘の始まり
第8章後半部です。章の終わりまで3日に1話ペースで更新します。
「報告によれば、リーガルは四天聖剣と名乗る勇者たちに倒されたようですな」
と、ゼガート。
四天聖剣。
最強と称される四人の勇者たちだ。
そのうちの一人、ルドミラとは以前に戦ったことがある。
場にライルもいたゴタゴタで、とどめを刺すには至らなかったが──。
「リーガルが敗れるほどの相手……半端な戦力を送っても、返り討ちでしょうな」
ゼガートが顎をしゃくる。
「どうなさいますか、王よ」
獅子の瞳には、まるで俺を試すような光が宿っていた。
「──俺が行く」
即断した。
「ほう、王自らが」
「リーガルは魔界屈指の猛者だ。それを打ち倒すほどの相手なら、俺が出るしかないだろう」
俺は真っ向からゼガートの視線を受け止め、言った。
「お前やジュダにはここの守りを頼みたい」
「ご武運をお祈りいたします、王よ」
ゼガートが恭しく頭を下げた。
「がんばってね、魔王くん。まあ、君なら滅多なことはないと思うけど」
ジュダのほうは気楽な口調だ。
と、
「魔王様、もう一つ──強大な力を持つ勇者の気配が近づいています」
ステラがハッと顔を上げた。
その額に第三の瞳が開いている。
「何?」
「数は二。進路上の守備隊はことごとく一瞬で撃破された模様」
「……次々に来るな」
俺はうなった。
そちらも、ジレッガに現れた勇者と同レベルの相手かもしれない。
あるいは四天聖剣の可能性もある。
それが二手か、あるいはもっと多くのルートに分かれ、別々に進撃している──?
だとすれば、いずれも並の魔族では相手にならないはず。
「そちらにはジュダを向かわせろ。俺はすぐにジレッガまで立つ。後の指揮はステラに任せる。ゼガート、フェリア。残りの魔軍長と連携して魔王城への敵襲に備えろ」
俺は手早く指示を出し、場を後にした。
※
四天聖剣の行軍は、まさしく快進撃だった。
立ちはだかる魔族は、黒い奇蹟兵装の力で瞬殺。
相手の攻撃はすべて黒の法衣で封殺。
切り札である神気烈破導を使うまでもない。
あっという間に魔界の外縁部から中心付近まで迫っていた。
「この先はどうやって進みますか? 四人で一直線に魔王城まで?」
フィオーレがたずねた。
「それとも──」
「そろそろ二手に分かれましょう」
ルドミラが言った。
「敵の罠なり予期せぬ強敵なりに、全員が一網打尽にされるリスクは避けたいから」
「俺も同意見だ。魔軍長はまだ六体残っている。一筋縄でいく相手ではないだろうからね」
賛同するシオン。
「俺とリアヴェルト、ルドミラとフィオーレという組み分けでどうかな? 一緒に修業した組だし、連携も磨かれているはずだ」
「異存はありまセン」
「わたくしもです」
フィオーレはルドミラとともに進む。
進みながら、少しずつ嫌な予感が高まっていた。
快進撃に次ぐ快進撃だというのに。
いったいなぜ──。
その疑問は、やがて解消される。
最悪の形で。
──『それ』を発見したのは、山間に差しかかったところだった。
「あ」
フィオーレの表情が凍りついた。
口が、息を大きく吸いこんだ形で止まる。
「ひどい……」
ルドミラがつぶやく。
血に染まった大地に、無数の勇者たちの死体が折り重なっていた。
フィオーレはその一点に、視線が釘付けだった。
言葉が出てこない。
目にした光景を、頭が否定する。
理性が否定する。
心が否定する。
駄目だ。
あり得ない。
あってはならない。
「あああ……あ……」
がくり、と膝から力が失せ、フィオーレはその場に崩れ落ちた。
「ああああ……ああああああ……あ……ああ……」
絞り出すような苦鳴と悲鳴。
彼女の視線の先にあるものは──。
無造作に地面に転がった、愛する弟エリオの生首だった。
※
シオン・メルティラートは荒野を進んでいた。
隣にはフルプレートアーマーの騎士──リアヴェルトがいる。
「魔王城まではまだまだ遠いな」
はるか前方にそびえる巨大な城を見つめ、シオンは嘆息した。
「これ以上の速度は出せないネ」
と、リアヴェルト。
二人の足元からは土煙が上がっている。
リアヴェルトが持つ『地』の奇蹟兵装の力を使った高速移動。
馬よりもはるかに早く移動しているものの、それでも魔王城はずっと先だ。
「随分と逸っているようだナ、シオン」
「逸るというか、昂ぶっているのさ。前回の侵攻戦では、俺たち四天聖剣はカヤの外だったからね。ようやく出番が来た、と言う感じだ」
爽やかな笑顔は崩さず、それでいてシオンの胸の内には激しい炎が燃えていた。
正義と使命感の炎が。
「我が祖先、剣聖ザイラスの名にかけて──魔王は俺が討つよ」
「家門のためカ?」
「使命さ」
シオンが爽やかに笑う。
「生まれ落ちたときから、メルティラート家の者はその使命を負う。勇者として戦い、世界を救う。人生のすべてをその使命に捧げる」
「定められた道筋を歩む人生だナ」
「俺はそれで納得しているし、満足もしているよ」
と、シオン。
「そうやって多くの人を守ってきた。多くの人の笑顔を。幸せを。そのことに誇りを持っている。それが俺の、生涯の使命さ」
何よりも、充実感を。
「生涯の使命……か。随分と窮屈な生き方だね」
前方が陽炎のようにかすみ、すらりとしたシルエットが出現する。
「お前は──」
「魔軍長の一人、極魔導ジュダ・ルギス」
少年にしか見えないが、魔族である以上、見た目通りの年齢とはかぎらない。
まるで数千年か数万年以上も生きたような、荘厳な気配を漂わせていた。
ただ者ではなさそうだ。
「ここから先は通さないよ」
「なら力ずくで、と言ったら?」
不敵にたずねるシオン。
「私に力でかなうと思うなら、試してみればいい」
銀髪の魔族は笑みを絶やさない。
「なら──そうさせてもらう」
シオンとリアヴェルトは黒い奇蹟兵装を構えた。








