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愛弟子に裏切られて死んだおっさん勇者、史上最強の魔王として生き返る  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第6章 よみがえる強敵

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13 閃光の決着

 竜にまたがり、漆黒の魔力剣を構えた俺と、大剣を掲げた純白の巨大騎士が対峙した。


 互いの間ですさまじい魔力がほとばしり、衝突し、暴風となって吹き荒れる。

 緊張感が高まっていくのが分かる。


 うかがうのは、必殺のタイミング。


「おおおおおおおおっ!」


 先に動いたのは、光の王だった。

 咆哮とともに斬りかかる。


 感情を持たないはずの兵器が、闘志をむき出しにして。

 それだけ昂ぶっているのか、あるいは──。


「それだけ、追い詰められているのか」


 魔王(おれ)のプレッシャーに。


「砕け散れ、魔王っ!」


 振り下ろされた巨大な剣に、俺は右手の魔力剣を無造作に叩きつけた。

 ざしゅっ、という小さな音がして、光の王の大剣が真ん中から斬り飛ばされる。


「な、なんという切れ味──」


 戦慄したように後ずさる巨大騎士。


「行け、ベル」


 俺は乗騎に命じて奴に近づいた。


「く、来るなぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 恐怖の声を上げる光の王。


「邪悪な魔王があああああああああああっ!」


 その手から無数の光弾が飛んだ。


 が、無駄だ。

 俺は追尾型の魔力弾である『ホーミングレイ』を放ち、それらをすべて撃墜する。


「加速しろ、ベル」

「りょーかい」


 ベルが両翼を羽ばたかせ、飛翔スピードを一気に上げる。


 すれ違いざま、俺は魔力剣を振るった。


 斬撃は、四度。

 光の王の両手足を根元から斬り飛ばす。


「ぐっ……!」

「終わりだ」


 胴体部だけになった光の王に、俺は魔力剣の切っ先を突きつけた。


「あーあ、せっかくカッコいい兵器なのに、手足バラバラだ」


 と、ベル。


「いや、お前どっちの味方なんだよ」

「だってカッコいいものはカッコいいよ。もったいない」


 おもちゃ感覚なんだろうか。

 こいつの感性はよく分からない。


「まさか、ここまでの力を持っているとは──この我が、まるで歯が立たぬ」


 光の王がうめく。


「お前は魔族を殺し、魔界を壊すだけの兵器だ。ここで破壊させてもらう」


 俺は魔力剣を振りかぶった。


 ──刹那、


「フリード様!」


 冥帝竜(ベル)が珍しく驚いたような声を上げ、俺を乗せたまま後退する。


「どうした、ベル?」

「こいつの波動……何かおかしいよ!」


「気づいたか。さすがに竜族の最高位『ガ』の眷属──冥帝竜ベル・ガ・エルフィーダだ」


 光の王がつぶやく。


「だが、気づいたところでどうにもならんぞ。この魔界ごと消し去ってくれよう。神が我に与えた最終兵器で──」

「魔王様、そいつは自爆するつもりです!」


 地上から声が聞こえた。


 ステラだ。

 その額には第三の瞳が開いている。


「体内の魔力が異様な速さで濃縮されています。このままでは、あと三分ほどで大爆発を──」

「なんだと……」


 ベルが後退したのも、その気配を察知したから、か。


「できれば、魔界そのものは残しておきたかった。神にとって利用価値のある世界。回収しなければならないものもある。だが、魔王がここまでの力を持っているなら、これを滅することが最優先と心得る」


 光の王が淡々と告げる。

 その間も全身の明滅は激しくなっていた。


 さながら自爆へのカウントダウンだ。


「ちっ……『ルシファーズシールド』!」


 俺はベルから降りた。


「お前は離れていろ。巻き添えを食わないようにな」


 言って、飛翔魔法で奴に接近する。


 ありったけの魔力を込めて障壁を張った。

 一枚、二枚……とその数を増やし、俺ごと光の王の全身を包みこむ。


「自爆の影響を障壁内に抑えこんでやる──」


 だが、何しろ相手は巨大だ。

 数枚程度じゃ体中を覆うことはできない。


 奴が爆発するまでに、完全に光の王を包みこむことができるか。

 時間との勝負だった。


「無駄なことを。いかに汝が比類なき魔力を備えていようと、我が体内には神が与えた力が宿っている。何者であろうとこれを封じることなどできん……!」


 光の王の明滅が激しくなる。


 俺はひたすら『ルシファーズシールド』を生み出し、周囲を包んでいく。

 この魔法は術者を起点に発動するため、俺と光の王を一緒に包むしかない。


 つまり、自爆した際には俺自身もその威力を食らうことになる。


 だが、躊躇している暇はない。

 迷っている暇もない。


「『ルシファーズシールド』!」


 叫ぶ。


 さらに五枚……十枚──。

 すでに障壁の数は五十を超えていた。


 さすがに意識が薄れだす。

 俺の魔力だって無尽蔵じゃない。


 しかも詠唱をいっさい無視し、通常よりも消耗するやり方で魔力障壁を作っているのだ。


「無駄なあがきだと言っている。我の最後の力は今炸裂する」

「させるか!」


 そして──百枚。


 生み出した百の障壁が、俺と光の王を完全に包みこんだ。

 同時に、天想覇王の明滅の激しさが最大限に達する。


「フリード様、駄目ぇっ!」


 ステラが悲痛な顔で叫んだ。


「ご自分を犠牲にするなんて──」

「勘違いするな」


 仮面の下で俺は笑う。


「犠牲になるつもりはない。そして、こいつに魔界は壊させない」

「ならば汝とともに我は砕け散るのみ──終わりだ!」


 告げて、大爆発する光の王。


 あふれ出した輝きが、漆黒の魔界を純白に染め上げた──。


    ※


 魔界には太陽がなく、常に闇がたゆたっている。


 そんな漆黒の世界を、まるで太陽が現れたかのような純白の輝きが包みこんだ。


「うっ……」


 あまりのまぶしさに、ステラは目を細める。

 それでも視線はそらさなかった。


(フリード様……!)


 自らの主の名を、心の中で呼びかける。


 ただ勝利を祈って。

 ただ無事を祈って。


 やがて爆光が収まり、魔界はふたたび闇に包まれた。


 巨大な白騎士──光の王は跡形もなく消滅している。

 その爆心地には、ぼろぼろのローブをまとった人影があった。


 魔王の、姿が。


「フリード様!」


 ステラは真っ先に駆け出した。


 彼が無事だった喜びと安堵感で。

 感情が爆発し、自分を押さえられない。


「よかった、ご無事で……」


 涙声で抱きつく。


「ステラ……心配をかけたな」

「フリード様……!」


 彼の仮面が砕け、ほとんど素顔が露出していることに気づいた。

 身にまとうローブもあちこち裂けて血がにじんでいる。


「奴の周囲に障壁を張ることを優先したから、俺自身を守る障壁の方は最低限しか作れなかったんだ。なんとか、仮面やローブがボロボロになる程度で済んだけどな……」


 苦笑するフリード。


「では、新しいものを用意します。とりあえずは、これで……」


 ステラは軍服風の衣装の裾を破り、フリードに渡した。

 それで口と鼻を覆えば、顔を隠せるだろう。


「どうぞ……」


 布を渡そうとして、フリードと目が合った。


 思った以上に顔が近いことに気づく。

 たちまち頬が熱くなった。


「あたし……えっと、その」


 胸の鼓動が早まり、頭がぼうっとなった。


「ん、どうした?」

「も、申し訳ありません……なんでもない……です……」


 怪訝そうなフリードに、ステラは慌てて首を振った。

 あらためて布を渡すと、そっと目を逸らした。


(あたしは……フリード様の臣下よ。こんなふうに想ってはいけない……)


 自身に言い聞かせる。


 臣下として必要なのは、あくまでも忠誠心だ。

 恋心などであっては、ならない。


 だが、フリードの安否を気遣ったとき、はっきりと自覚してしまった。

 彼のことが大切だと。

 失いたくないと。


 これからも、ずっとそばにいたい、と──。


    ※


「あれは──」


 抱き合うフリードとステラを見つめながら、リーガルがうめいた。


「魔王様の素顔……か……?」


 おそらく光の王の爆発によって、普段つけている仮面が壊れたのだろう。


 遠目だが、確かに見えた。

 精悍な中年男の顔が。


「あの顔と雰囲気は……」


 まるで、人間のようだ。

 いや、そんなはずはない。


「まさか、な」


 リーガルはつぶやいた。

 自らの考えを否定するように、首を左右に振る。


 だが、湧きあがった疑念は消えなかった。


 いつまでも、くすぶっていた──。

次回から第7章「決戦への序曲」になります。

一週間ほどお休みをいただき、6月12日(火)から更新再開予定です。


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