1 魔界防衛会議
目の前に立ちはだかる、モンスターの群れ。
その数は全部で三十ほどだ。
「またお出ましか」
「これも魔法で生み出された兵器のようです、フリード様」
ステラが第三の瞳でスキャンして告げる。
「下がってろステラ。全部撃ち抜く」
俺は右手をまっすぐ突き出した。
「『ホーミングレイ』」
追尾式の光弾が三十のモンスターをすべて貫いた。
おおぉぉぉ……んっ。
苦鳴とともに、すべてのモンスターが倒れ伏した。
一撃で全滅である。
「しかし……次から次へと出てくるな」
ここまでの道中で五百体くらいはモンスターを倒しているはずだ。
「フリード様、魔力は大丈夫ですか」
「問題ない。まだまだ余力がある」
心配そうなステラにうなずく俺。
「先へ進もう」
俺たちはふたたび歩き出す。
深い霧が立ちこめる険しい峡谷。
その奥地に目的の魔族がいるはずだ。
「新たな『極魔導』が──」
その、候補が。
──時間は、半日ほど前にさかのぼる。
「よく来てくれた。我が側近、魔軍長たちよ」
八つの席がある円卓で、俺は三人の魔族──ステラ、リーガル、フェリアに告げた。
俺が身に付けているのはローブと杖、そして王冠だ。
魔王としての正装だった。
ちなみに杖は実戦ではほとんど使っておらず、飾り同然だった。
本来は魔力使用の補助道具らしいが、これがなくても普通に魔法を撃てる。
初めて勇者たちと戦ったときくらいしか、この杖を使っていない。
ほとんど雰囲気づくりの小道具と化していた。
「掛けてくれ」
まず俺が座り、三人に促す。
ステラたちは一礼して椅子に座った。
彼女たち三人を見渡す俺。
右隣りの席に掛けているのは、長い銀髪の美少女だ。
身に付けているのは、黒い軍服風の衣装。
魔神眼の称号を持つ魔軍長にして、俺の片腕ともいえる側近ステラである。
正面に座したのは、古めかしい金属甲冑をまとった髑髏の騎士。
不死王の称号を持ち、アンデッド軍団を従える魔軍長リーガルだ。
そして左隣には、薄桃色の髪を足元まで伸ばした可憐な乙女が座っている。
下着と見まがうような扇情的な衣装に、蝙蝠を思わせる羽根。
夢魔姫の称号を持ち、精神干渉系の魔術を得意とする魔軍長フェリアだった。
「これで魔軍長が三人になったか」
円卓の席は全部で八つ。
一つは俺で、残る七つは魔軍長用のものである。
今日は俺と魔軍長たちで、魔界の防衛についての会議だった。
「勇者たちが魔界に侵攻してくるまで、およそ二ヶ月半。迎撃態勢を整えなければならない」
俺は三人に告げた。
「王よ、あなたほどの力があれば、人間どもを根絶やしにすることもできるのではありませんか?」
リーガルがたずねる。
髑髏の眼窩に金色の眼光が宿り、俺をまっすぐ射抜いた。
「……人間を侮るな、リーガル。特に上位の勇者たちの力はかなりものだ」
静かに首を振る俺。
もっとも、奴の言うことには一理ある。
確かに、俺が人間界に行き、最上級の広範囲破壊呪文──メガファイアやメガサンダーあたりを連発すれば、国単位で壊滅的な被害を与えられるかもしれない。
だけど──それは単なる虐殺だ。
自衛のための戦い、という範疇を越えすぎている。
その虐殺は憎しみの連鎖を生むだろう。
それに、もう一つの理由がある。
ライルとの戦いで、俺の力が一時的に弱体化したことだった。
あれと同じことがまた起これば──不覚を取ることもあるだろう。
「我が魔界の国力も先の戦いで削がれている。まずは体勢を整えることだ」
「防戦主体ということですか。ならば、奴らが攻めてきた暁には、我がアンデッド軍団が蹴散らしてみせましょう」
「自信たっぷりだねー」
フェリアがニヤニヤした顔でリーガルを見た。
「返り討ちにあうんじゃない? 大丈夫?」
「なんだと」
茶化すような口調の彼女をリーガルがじろりとにらんだ。
ステラとリーガルもそうだけど、どうも魔軍長同士というのは、あまり仲がよくないみたいだ。
「この間の『夢幻の世界』を使った精神干渉とかで勇者たちを迎撃できないのか、フェリア?」
仲裁も兼ねて、たずねる俺。
「あ、無理無理~。この前は力が暴走気味だったから、あれだけの範囲に精神フィールドを広げられたけど、あんなの長くはもたないわよ」
と、フェリアが首を振った。
「すっごく疲れるし」
「夢などというまやかしの力など不要」
リーガルが傲然と言った。
「不遜なる人間どもは、この俺の剣で蹴散らしてくれよう」
「脳筋」
フェリアがぼそりとつぶやいた。
「あ、でもアンデッドだから脳がないんだよね」
「貴様は先ほどから俺を愚弄しているのか?」
リーガルの口調に不穏なものが混じる。
というか、さっきからフェリアに対してはずっと不穏な口調だ。
幹部同士、できれば仲良くしてほしいものだが……。
「二人とも魔王様の御前だ。慎め」
ステラが割って入った。
「はいはーい」
「……ふん」
「そうだ、リーガルは勇者の残党がいないか、探索していたな」
俺は別の話題を振った。
「その後の成果はどうだ?」
「はっ。先日に続き、残る地域を探索しましたが、勇者の残党は発見できませんでした。先の戦闘で、すべて殲滅もしくは追放されたかと」
「そうか。ご苦労だった」
と、リーガルをねぎらっておく。
「魔界の結界が破られないかぎり、当面は勇者の脅威は去ったと見ていい」
俺は三人をあらためて見回した。
「では、次に各軍の分担を整理しよう──」
魔界には七人の魔軍長をトップとする七つの魔軍がある。
俺は三人の魔軍長と相談して、それらの魔軍にあらためて役割を割り振った。
アンデッドや獣人たちには、魔界周辺の警護を。
魔導を操る魔族たちには、結界の監視と点検を。
眼魔や聴魔など感覚器官に優れた魔族たちには索敵と情報収集を。
夢魔たちには精神攻撃を仕掛けられた際の防御に備えてもらい、神官系の魔族は治癒能力に長けているため、有事の際の体制を再構築する。
ただ、大半の魔族はそれほど戦闘力が高くない。
もっと強固な防御態勢が必要である。
「やはり、一騎当千の強者が欲しいところだな」
つぶやく俺。
俺一人で広大な魔界全域をどこまでカバーできるかは分からない。
「少なくとも、先の戦いで討たれた三人の魔軍長の後任を決めておく必要があるでしょう」
ステラが言った。
「できるだけ、早急に──ですな」
リーガルが俺を見る。
「それと、人間界に侵攻したまま消息が知れない獣帝ゼガートの行方もつかむべきです。かの者こそ、まさしく一騎当千の猛者。私とて一対一では勝つのは難しいでしょう」
……そんなに強いのか、ゼガートって。
ぜひ、魔界の防備に加わってほしいところだ。
「なんとかゼガートを探し出すことはできないか?」
「それについては探索任務に長けた魔族を送りこんでおきましょう」
答えたのはステラだ。
「俺が直接出向いて探すのはどうだ?」
それこそ前回の要領で、ゼガートと合流次第すぐに魔界に戻るとか。
「いえ、彼が攻めていた場所は、勇者の数も多く──魔王様といえども、万が一の危険があります」
ステラが首を振った。
「それに──魔王様には、新魔軍長の選定に注力していただきたく思います。結界が破られるまでに、できるだけ防衛体制を整えておくべきでしょう」
「……確かにそうだが」
ならば、なおさらゼガートを見つけておきたい。
「ゼガートの元には私が行きましょう」
リーガルが名乗り出た。
「おお、行ってくれるか」
「この中では私がもっとも人間界の地理に慣れているでしょう。それに戦闘能力においても、私が適任かと」
「リーガル、戦いしか能がないもんね」
と、茶々を入れるフェリア。
「王よ、よろしいですか」
「あ、無視しないでよ!」
フェリアが拗ねたように唇を尖らせた。
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