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愛弟子に裏切られて死んだおっさん勇者、史上最強の魔王として生き返る  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第2章 魔王への道

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8 今はもう遠い日の安らぎだと

 俺は、ライルの元へと歩み寄った。


「う……ぐ……」


 他の勇者がやってくる気配はない。

 今度こそ一対一だ。


 ルドミラはすでに動けないみたいだし、対処は後でいいだろう。

 まずは──ライルとの決着をつける。


「ひ、ひいっ、助けて……」


 ライルが『レーヴァテイン』を手に後ずさった。


「ま、魔が差したんです……! あれは本心じゃない、信じて……っ」

「今さら命乞いか」

「師匠、お願いします!」


 ライルの顔が歪んだ。


 まるで今にも泣き出しそうな、弱々しい顔。

 俺に許しを請うような──。


「……駄目だ」


 俺は魔力の衝撃波を放った。

 ライルは十メートル以上吹っ飛び、地面で何度もバウンドした。

 右腕が妙な方向に曲がっている。


「ぐうう、ぉぉぉ……っ」

「次は左腕だ」


 俺は奴の元まで進み、静かに言い放った。


 ふたたび魔力衝撃波を放つ。


「ぎゃああああっ……!」


 吹っ飛ばされたライルの左腕が、右腕同様に折れ曲がった。

 その側に『レーヴァテイン』が突き刺さる。


 もはや奇蹟兵装を持つことさえできまい。


「次は足だ」

「い、嫌だ……嫌だぁぁぁっ! し、死にたくないぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 ライルは苦痛からか、恐怖からか、涙で顔をグシャグシャにして叫んだ。


「お前は俺を殺した。次は俺がお前を──」




 刹那、黒い輝きが周囲にあふれた。




「なんだ……!?」

「これは……!?」


 訝る声は俺とライルが同時に発したものだった。


 異様なプレッシャーが周囲に立ちこめる。

 全身からぬるい汗がしたたった。


「がああああああああああああああああああああああっ!」


 ライルが吠えた。


 胸元に、黒く輝く何かが浮かび上がる。


 小さな金属片。

 紫色のスパークを散らす、その欠片からすさまじい魔力が放出されていた。


 奇蹟兵装ではない。

 むしろ魔族が放つものに似た、禍々しい雰囲気。


 どこかで覚えがある、雰囲気。


 そうだ、確か……。


煉獄魔王剣(ラーディス)の……!?」


 魔王の象徴たる剣の雰囲気にそっくりだ。

 なぜライルがそれを持っているのか。


「がああああっ……ぁぁぁぁぁっ……!」


 ライルがもう一度咆哮し、手にした『レーヴァテイン』に欠片が吸いこまれた。


「あははははははは! なんだよ、これ! 力が湧いてくるぞ!」


 ライルが歓喜の叫びを上げて立ち上がる。

 折れたはずの腕はいつの間にか元通りになり、しっかりと剣を握っていた。


「何がなんだか分からないけど、圧倒的な力だ! 師匠……いや、フリード! 今ならお前にだって負ける気がしない!」


 魔王剣の欠片の力を、手にしたか。


「吠えろ、『レーヴァテイン』──魔王退治に力を貸せ」


 ライルが剣を振りかぶった。

 真紅の刀身が漆黒に染まり、牙を思わせる小さな刃があちこちから生える。


 聖なる武具というには、あまりにも禍々しい雰囲気を放つ剣だった。


「さあ、燃え尽きろ! 魔王フリード!」


 ほとばしった火炎が渦を巻いて迫る。


「『アクアウォール』」


 俺は水の壁を作り出した。


「……!?」


 そのとき、違和感が生じた。

 魔法を撃つだけで、強烈な脱力感があったのだ。


 火炎の斬撃波はその壁に激突し──やすやすと突き破る。


「この威力は──」


 以前の『レーヴァテイン』とは明らかに違う。


「『ウォーターバレット』」


 火炎斬撃波に向けて水の弾丸を放つ俺。

 突き進んだ水の弾丸は火炎衝撃波とぶつかり、ともに消滅する。


「ちっ、さすがに魔法の発動が早い──」


 ライルは舌打ちすると、剣を手に突進した。


「なら、近接戦で!」

「来い、煉獄魔王剣(ラーディス)!」


 俺は自身の剣を召喚した。


 魔王の剣と、その欠片を宿した奇蹟兵装と──。

 互いの剣がぶつかり合い、激しい火花が散る。


「はあああああああっ!」


 ライルは気合いの声とともに、大剣を振りまわした。

 パワーやスピードも上がっているのか、その斬撃は今までよりもはるかに鋭い。


 俺は剣で防ぎながら、じりじりと後退していった。


「くっ……!?」


 また、違和感があった。

 打ち合っているだけで体力も魔力もどんどんすり減っていく。


 消耗が、激しすぎる──?


「『サンダーアロー』!」


 俺は斬り結びながら、稲妻の矢を放った。


「無駄ですよ!」


 ライルはそれを斬撃で吹き散らした。


 やはり、威力が落ちている──!?

 奴が魔王の剣の欠片を持っているせいなんだろうか。


「ほらほらほらぁっ! さっきまでの勢いはどうしました!?」


 ライルが笑いながら剣を振る。


「さっきより弱くなってませんか、魔王? なら、さっさと討たれてください! この僕の──正義の剣で!」


 ますます勢いを増す斬撃の嵐に、俺は防戦一方だ。

 このままでは攻勢に移れず、押し切られる。


 ──魔王の力が、奴の前では威力を発揮しない。


 なら、どうするか。


 俺は奴のレーヴァテインを見据える。

 魔王の欠片を宿した、あの剣をなんとかすれば──。


 俺は、大きく跳び下がった。


「逃がしませんよ!」


 ライルが突っこんでくる。

 俺は懐に手を入れた。


「? 何を──」


 怪訝そうな顔をしたライルに向けて、俺は銃を構えた。

 銃声と、轟音。


「ぐっ……!?」


 ライルが小さく苦鳴を上げる。


 これは魔王の力じゃない。

 物理的な、ただの銃撃だ。


 その銃撃が、ライルの手から『レーヴァテイン』を弾き飛ばす。


「し、しまっ……」


 慌てる奴に向けて、俺は魔力の衝撃波を放った。




『ねえ、師匠。それかっこいいですね』

『銃か? 魔族相手に決定打は与えられないけどな』

『僕も欲しいなー』

『はは、子どもには扱いが難しいからな。もう少し大きくなったら、お前に譲ってやるよ』




「……子どものころ、お前はこの銃をねだったことがあったな」


 俺は倒れたライルを見下ろした。

 レーヴァテインがその手から離れたせいか、さっきまでの力が抜けていくような感覚は消えていた。


「かっこいいじゃないですか、銃って……」


 苦しげな息の下で、わずかに笑うライル。


「あんまり実用的じゃないから、結局もらわなかったんですけどね……」


 あのころのことを思いだしているのか。


 いや、感傷に浸っているのは俺だけかもしれない。


 こいつと過ごした時間は、俺に多くの安らぎをくれた。

 だけど、それはもう遠い日に過ぎ去った幻想だ。


 俺は感傷を断ち切り、ライルを見下ろした。


「お前に二つの罰を与える」


 呪文リストを呼び出して探す。

 対ライルにもっともふさわしい呪文を。


「ば、罰……?」


 不安げにつぶやくライル。


「『ギルティペイン』」


 ため息交じりに唱えた。


「あっ……!? ぐあっ、がぁ……ぁぁぁ……っ! あぁぁぁぁっ!」


 たちまちライルの顔が苦痛に歪んだ。


「い、痛い……痛い痛い痛い痛い痛いいだだだだだいいいいいいいいっ」


 大罪なる痛み(ギルティペイン)

 これをかけられた者は、絶え間なく続く激痛に襲われる。


 その効果は、一生続く。

 痛みで精神崩壊することすら許されず、命が尽きる瞬間まで──。


「俺の心の痛みを味わわせることはできないが、お前はその痛みを背負って生きていくんだ。これから先、ずっと……な」

「くそぉぉっ、フリードぉぉぉぉっ……! 痛い、痛いよぉぉぉぉっ……あぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぅっ……ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 ライルが血走った目で俺をにらんだ。


「俺の正体を誰かに話そうとすれば、その痛みは数百倍、数千倍になるよう設定しておいた。紙に書いて伝えるような行為でも同じだ。せいぜい気を付けろ」

「殺す……てめぇ、いつか必ず……僕は、こんなところで終わる男じゃ……」

「終わりだ、すべて。その痛みがあるかぎり、日常生活をまともに送ることすらできない」


 俺は冷ややかに言い放った。


「そして、次の罰でお前の野心を打ち砕く。永遠に──」

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