4 魔王として
そして――さらに一年近くが経った。
魔王城のバルコニーから俺は王都を見回した。
幸いにも人間たちとの不可侵条約は破られておらず、平和な暮らしが続いている。
あるいは人間界よりも平和で穏やかな時間が流れているかもしれないな。
そんな世界で、俺は今日も魔王として暮らしている。
魔王としての仕事は相変わらず多いし、きっとこの先も様々な困難が待ち受けているに違いない。
人間界とは今後も和平が続くように努め、平和な魔界が実現するように力を尽くすつもりだが、それもどう転ぶかは分からない。
しょせん、人間と魔族で恒久的な平和なんて築けないかもしれない。
それでも――俺は進み続ける。
人として生き、今は魔族として生きる俺にしかできないことがきっとあるはずだから。
俺だからこそできることも――きっとあると信じているから。
今を生きる魔族と人のために。
そして、これから生まれてくる命のために。
「フリード様」
ステラが俺の側にやって来た。
その手には可愛らしい赤ん坊が抱かれている。
三か月ほど前に生まれた俺とステラの子だ。
「今、難しい顔をしておられましたね」
ステラが言った。
「少し物思いに耽っていただけさ」
俺は愛おしい妻に微笑んだ。
「この子が大きくなるころ……今と同じように平和な光景が流れていたらいいな、と――」
「私もそう思います」
ステラがうなずいた。
「あなたと、この子と、私で……そして魔界の民たち全員で、幸せに暮らしていけたら……」
「そのために俺は力を尽くすよ」
最初は単なるアクシデントだった魔王への転生――。
だけど今は明確な目的があり、意志もある。
みんなの幸せと、俺自身の幸せと――それを実現するため、俺は魔王としてこの世界を治めていくんだ。
穏やかな風が俺とステラと、そして俺たちの子を撫でていく。
幸せな日々がこれからも続くよう、俺は願った。
いったん終了です。まだコミカライズが連載しているので、もしかしたらこの先を描いたり、あるいは途中に新たなエピソードが生じる可能性もありますが……とりあえず完結ということで!
今までありがとうございました……っ!








