1 そして三年後
神との決戦から三年が経った。
俺は魔王城の最上階――魔王の私室から、魔界の暗い空を見上げていた。
太陽の光が差さない、漆黒の空。
……のはずだったが、最近は少しずつ光が差し込み始めている。
理由は分からない。
魔界の空の成分や組成が少しずつ変化している、と複数の研究者から報告があったが……。
もしかしたら、俺が神を討ったことも、その原因になっているのかもしれない。
ともあれ――魔界は以前よりも明るい光がさしている。
もちろん地上のように太陽の光に満ちているわけじゃない。
それでも、俺はこの輝きが魔界の行く末を照らしてくれている気がするんだ。
気持ちが、明るくなる。
「嬉しそうですね、フリード様」
背後から声を掛けられ、俺は振り返った。
「ステラ」
振り返ると、そこには銀色の髪を長く伸ばした美しい女がいる。
「動いて大丈夫なのか?」
俺は彼女を気遣った。
ステラは――俺の『妻』は。
三か月前、俺との子を宿していることが判明した。
「はい、少しくらいなら」
ステラは微笑みながら自分の腹を愛おしそうに撫でている。
「感覚で分かるんです。少しずつ大きくなっていることが……」
まだ腹が目立つ時期ではないが、彼女のまとう雰囲気は早くも母になりつつあるようだ。
「何かあったら言ってくれよ。俺も必要なことを学びながら、一緒に育てていくから」
「王としての仕事もおありでしょう」
「まあ、バランスを取れるように努力するよ。子育てを放ったらかしにしたくない」
「嬉しいです」
はにかむステラの手を取り、
「ステラ一人に育児を背負わせたりしない……子育ては、色々と大変らしいからな」
育児経験のある重臣に聞いたりもしているが、本当に――思った以上に大変そうだ。
王としての仕事やこれまでの戦いとは、また違った大変さがあるんだろう。
とはいえ、それは幸せであることの証かもしれない。
「それに……戦いは当面なさそうだからな」
「ですね」
と、
「不可侵条約が破られないといいけどね」
ジュダがやって来た。
「人間は、簡単に約束を破る。そして魔族を容赦なく殺す」
「……知っているさ」
俺だって元々は人間だ。
「彼らへの警戒は常に続けていかなければならない。侵攻に備えて結界の定期点検や現有兵力の整備、魔王城の兵器のメンテナンス……やることがいっぱいだね」
「お前には色々と仕事を任せすぎてしまっているな……すまない」
現在のジュダは魔軍長筆頭にして、実質的に俺の『副官』としての役割も担ってくれている。
だから、以前はステラが担当していた仕事も、大半をジュダが肩代わりしてくれていた。
怠惰な性格のジュダだが、その気になれば驚くほどの事務処理能力を発揮するのだ。
武官としては当然だが、文官としてもこれほど有能な部下は他にいない。
「まあ、今だけね。本当は永遠にグータラして過ごしたいんだけど……」
「……ステラが仕事に復帰したら、またグータラすればいい。平和になった魔界なら、少しくらい大丈夫だろう」
俺は苦笑した。
実際、こいつもかなり我慢して働いてくれている。
ステラの『育児休暇』が終わり、仕事に復帰したら、今度はジュダに長期間の休暇を用意しないとな。
「君を助けるためだと思ってがんばるよ」
「ありがとう、ジュダ」
「友だちだからね」
ジュダが微笑む。
「そうだな。持つべき者は友人だ。ありがたいよ、ジュダ」
「ふふ、私を友と認めてくれるなら……そんな君のためにもうひと頑張りしてこようかな」
ジュダは手を振り、去っていった。
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