7 風の決闘
ライルに向かってかざした手に、魔力を集中させる。
この一撃を放てば、奴は跡形もなく消滅するだろう。
「──フリード様、防御を!」
ふいに、ステラが声を上げた。
「『ルーンシールド』!」
とっさに跳びさがり、自分の周囲に青い防御フィールドを生み出す。
念のためにステラの周囲にも同じものを生み出した。
直後、木立の向こうから閃光があふれた。
「これは──!?」
数百という数の光の矢が、四方から撃ちこまれる。
魔力による防御壁──『ルーンシールド』を張っているから俺とステラはビクともしないが、辺りの木々が次々となぎ倒され、粉々に吹き飛んでいく。
……自然は大事にしろよ。
つい心の中でつぶやいてしまった。
吹き荒れる破壊の嵐の中、とりあえず『エネルギーハンド』で仮面を拾い、つけておく。
「大丈夫、ライルくん?」
前方から一人の少女が走ってきた。
青い髪をツインテールにして、黄色いリボンで結んでいる。
身に付けているのは銀色の軽装甲冑。
年のころはライルと同じくらいか、一つ二つ上だろうか。
前に映像で見た四天聖剣の少女だ。
「助かりました、ルドミラ」
ふらふらと立ち上がるライル。
「あの紋様は、魔王ね」
青い髪の少女──ルドミラが俺をにらんだ。
「後はあたしがやるわ」
翡翠色の弓を構える。
X字型をした独特の形状の長弓。
熾天使級奇蹟兵装『ラファエル』か。
ルドミラが弦を引くと、その手に輝く矢が現れた。
放たれた矢が、数十に分裂する。
「『ファイア』」
俺は最下級の火炎呪文で迎撃した。
中空でぶつかった光の矢群と豆粒ほどの火球が、盛大な爆光をまき散らす。
威力で勝っていたのは──光の矢群だ。
火球との激突でほとんどが消滅しながら、なお生き残った数本の光の矢が俺に向かってきた。
前面に張った魔力壁で、それらをあっさりと弾き飛ばす俺。
「……『ファイア』を撃ち抜いたか」
最下級呪文とはいえ、俺の『ファイア』は山をも消し飛ばす威力だ。
以前に戦った相手で、これを防いだことがあるのは魔軍長リーガルのみ。
「やはり、他の勇者とは違うな」
俺はルドミラのステータスを表示した。
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名 前:ルドミラ
階 級:弓兵型勇者
総合LV:192
H P:1460
M P:2041
攻 撃:1517
防 御:1280
回 避:1620
命 中:2333
装 備:奇蹟兵装『ラファエル』
スキル :最大装弾一点突破(LV27)
:最大装弾精密連射(LV38)
:風天使の羽衣 (LV15)
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今までの勇者と比べると、レベルがはるかに高い。
「『風』の四天聖剣──ルドミラ・ディールよ」
ルドミラが凛とした口調で言い放った。
弓を構え、いつでも次弾を放てる体勢だ。
「邪悪なる魔王、お前の命運は今日尽きる!」
「さ、さすがです、ルドミラ……」
ライルはおびえたように後ずさり、ルドミラの後ろに引っこんでしまった。
奴と決着をつける前に、まず彼女をなんとかする必要があるな。
「俺はライルに用がある。そこをどけ」
俺は静かに告げた。
「我が道を阻むなら、容赦はしない」
魔王としての、意志を。
立ちはだかる者が誰であろうと、揺らぐことのない意志を。
※
「我が道を阻むなら、容赦はしない」
傲然と言い放った仮面の魔王を、ルドミラはまっすぐに見据えた。
守勢に回ったら、やられる。
それは、先ほどの攻防だけで理解できた。
おそらくは小手調べ程度の小さな火球を消し去るのに、光の矢を何十も消費させられた。
もし全力の攻撃魔法を撃たれたら、いかに『ラファエル』でも迎撃できるかどうか。
「先手必勝──やられる前に、やるしかないわね」
ルドミラは弓に光の矢をつがえる。
この矢は、彼女の精神力に応じて出現する。
一度に放てる最大数は777。
連続して無限に射ることはできず、次の発射間隔までには数秒の時間がかかる。
とはいえ、その手数は圧倒的といっていい。
攻勢のまま押し切れるはずだ──。
「貫け、『ラファエル』!」
気合の声とともに、百を超える光の矢を放った。
「『ルーンシールド』」
先ほどと同じく魔王が防御フィールドを展開する。
「だったら、そっちよ!」
すかさず狙いをもう一人の魔族に変更するルドミラ。
そちらへも百を超える光の矢を射かけた。
「くっ……」
銀髪の女魔族は、慌てたように後退する。
次の瞬間、彼女の全身を青い防御フィールドが覆った。
魔王が守ったのだ。
「俺じゃなくステラを狙うとは──」
「弱い方から倒すのは、戦いの定石でしょう」
「彼女はやらせない」
仮面のために表情が分からないが、声音には怒りがにじんでいた。
「……部下思いなのね」
魔族の中にも、人間のように思いやりを持ったものがいるのか?
それとも手駒を失いたくないだけか?
どのみち、魔族が倒すべき敵であることに変わりはない。
魔王ならば、なおさらだ。
「お前は人類の──世界の、敵」
ルドミラはふたたび光の矢を放った。
が、ふたたび魔王が展開した防御フィールドにあっさりと弾き返される。
やはり、あの『ルーンシールド』を正面から打ち破ることはできないようだ。
(それでも……突破口はあるわ)
見ているかぎり、展開するまでにわずかなタイムラグがある。
「その隙をつければ──」
ルドミラは魔王を狙うと見せかけて、女魔族──ステラを狙ったり、あるいはさらにその裏をかいたり、とフェイントを織り交ぜながら、矢を放ち続けた。
決定打は一矢も与えられない。
だが、ステラをかばっているために、魔王もなかなか攻勢に出られないようだ。
ルドミラが、射る。
魔王が、防ぐ。
狙いを読み合い、互いの位置を複雑に入れ替え、そんな攻防を何度も繰り返した。
何十、何百と繰り返した。
そして──。
ガラスが砕けるような音を立てて、防御フィールドの一部に小さな穴が開く。
いかに硬い防御といえど、一点に攻撃を集中し続ければ、いずれは耐久限界を超えて壊れる。
「さあ、これで終わりよ、魔王!」
ルドミラは精神力を最大レベルにまで集中し、凛とした声で叫んだ。
「奇蹟兵装『ラファエル』──最大装弾一点突破!」
防御フィールドに空いた穴へ向けて、777本の光の矢を同時に放つ。
それらは空中を突き進みながら融合し、巨大な一本の矢と化した。
輝く矢が穴を通り、魔王に迫る。
最大装弾一点突破。
『ラファエル』の最大装弾数である777本の矢のエネルギーを一点に集中し、膨大な破壊エネルギーでもって対象を破壊、消滅させるルドミラの奥義だ。
いかに魔王といえど、これを受けてはただでは済むまい。
「貫け!」
その絶対の自信を持って放った矢を、魔王は──。
片手で、受け止めた。
「そ、そんな……!?」
「俺だけを狙ってくるのを待っていた」
すべての矢が握りつぶされ、霧散した。
「見切っていた。その矢を一度射ると、次の発射までにタイムラグがある──と。もう一度ステラを狙われる前に、これで終わらせる」
「あ……あぁ……」
精神力を振り絞った一撃をあっさりと防がれ、ルドミラはその場にガクリと膝をついた。
ようやく悟る。
最初から、勝負になどなっていなかったのだ。
自分と魔王では、戦闘能力の次元そのものが違う。
あまりにも──違いすぎる。
魔王はただ女魔族を守るために、より確実に勝てるタイミングを待っていたに過ぎない。
ルドミラは攻勢に出ていたのではなく、攻めさせられていただけだった──。
「もう一度言う。俺の道は誰にも阻ませない」
「きゃあっ!?」
どんっ、と強烈な突風を受けて、ルドミラは吹き飛ばされた。
魔力による衝撃波だろうか。
地面に叩きつけられ、倒れるルドミラ。
「くっ……」
這いつくばったまま、立ち上がれない。
「さあ、続きだ。ライル」
魔王はもはやルドミラを一瞥すらせず、ライルへと歩み寄った──。
評価ポイントが文章、ストーリーとも4桁になりました。なろうノクタ通じて今までの自作で初めてです。とても嬉しい……ありがとうございます(*´∀`*)
引き続きがんばります。








