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愛弟子に裏切られて死んだおっさん勇者、史上最強の魔王として生き返る  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第2章 魔王への道

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7 風の決闘

 ライルに向かってかざした手に、魔力を集中させる。

 この一撃を放てば、奴は跡形もなく消滅するだろう。


「──フリード様、防御を!」


 ふいに、ステラが声を上げた。


「『ルーンシールド』!」


 とっさに跳びさがり、自分の周囲に青い防御フィールドを生み出す。

 念のためにステラの周囲にも同じものを生み出した。


 直後、木立の向こうから閃光があふれた。


「これは──!?」


 数百という数の光の矢が、四方から撃ちこまれる。

 魔力による防御壁──『ルーンシールド』を張っているから俺とステラはビクともしないが、辺りの木々が次々となぎ倒され、粉々に吹き飛んでいく。


 ……自然は大事にしろよ。

 つい心の中でつぶやいてしまった。


 吹き荒れる破壊の嵐の中、とりあえず『エネルギーハンド』で仮面を拾い、つけておく。


「大丈夫、ライルくん?」


 前方から一人の少女が走ってきた。


 青い髪をツインテールにして、黄色いリボンで結んでいる。

 身に付けているのは銀色の軽装甲冑。

 年のころはライルと同じくらいか、一つ二つ上だろうか。


 前に映像で見た四天聖剣(セイクリッドエッジ)の少女だ。


「助かりました、ルドミラ」


 ふらふらと立ち上がるライル。


「あの紋様は、魔王ね」


 青い髪の少女──ルドミラが俺をにらんだ。


「後はあたしがやるわ」


 翡翠色の弓を構える。


 X字型をした独特の形状の長弓。

 熾天使(セラフ)級奇蹟兵装『ラファエル』か。


 ルドミラが弦を引くと、その手に輝く矢が現れた。

 放たれた矢が、数十に分裂する。


「『ファイア』」


 俺は最下級の火炎呪文で迎撃した。

 中空でぶつかった光の矢群と豆粒ほどの火球が、盛大な爆光をまき散らす。


 威力で勝っていたのは──光の矢群だ。

 火球との激突でほとんどが消滅しながら、なお生き残った数本の光の矢が俺に向かってきた。


 前面に張った魔力壁で、それらをあっさりと弾き飛ばす俺。


「……『ファイア』を撃ち抜いたか」


 最下級呪文とはいえ、俺の『ファイア』は山をも消し飛ばす威力だ。

 以前に戦った相手で、これを防いだことがあるのは魔軍長リーガルのみ。


「やはり、他の勇者とは違うな」


 俺はルドミラのステータスを表示した。


───────────────────────────

 名  前:ルドミラ

 階  級:弓兵型勇者

 総合LV:192

 H  P:1460

 M  P:2041

 攻  撃:1517

 防  御:1280

 回  避:1620

 命  中:2333


 装  備:奇蹟兵装『ラファエル』


 スキル :最大装弾一点突破(LV27)

     :最大装弾精密連射(LV38)

     :風天使の羽衣  (LV15)

───────────────────────────


 今までの勇者と比べると、レベルがはるかに高い。


「『風』の四天聖剣(セイクリッドエッジ)──ルドミラ・ディールよ」


 ルドミラが凛とした口調で言い放った。

 弓を構え、いつでも次弾を放てる体勢だ。


「邪悪なる魔王、お前の命運は今日尽きる!」


「さ、さすがです、ルドミラ……」


 ライルはおびえたように後ずさり、ルドミラの後ろに引っこんでしまった。

 奴と決着をつける前に、まず彼女をなんとかする必要があるな。


「俺はライルに用がある。そこをどけ」


 俺は静かに告げた。


「我が道を阻むなら、容赦はしない」


 魔王としての、意志を。


 立ちはだかる者が誰であろうと、揺らぐことのない意志を。


    ※


「我が道を阻むなら、容赦はしない」


 傲然と言い放った仮面の魔王を、ルドミラはまっすぐに見据えた。


 守勢に回ったら、やられる。

 それは、先ほどの攻防だけで理解できた。


 おそらくは小手調べ程度の小さな火球を消し去るのに、光の矢を何十も消費させられた。

 もし全力の攻撃魔法を撃たれたら、いかに『ラファエル』でも迎撃できるかどうか。


「先手必勝──やられる前に、やるしかないわね」


 ルドミラは弓に光の矢をつがえる。


 この矢は、彼女の精神力に応じて出現する。


 一度に放てる最大数は777。

 連続して無限に射ることはできず、次の発射間隔までには数秒の時間がかかる。


 とはいえ、その手数は圧倒的といっていい。

 攻勢のまま押し切れるはずだ──。


「貫け、『ラファエル』!」


 気合の声とともに、百を超える光の矢を放った。


「『ルーンシールド』」


 先ほどと同じく魔王が防御フィールドを展開する。


「だったら、そっちよ!」


 すかさず狙いをもう一人の魔族に変更するルドミラ。

 そちらへも百を超える光の矢を射かけた。


「くっ……」


 銀髪の女魔族は、慌てたように後退する。


 次の瞬間、彼女の全身を青い防御フィールドが覆った。

 魔王が守ったのだ。


「俺じゃなくステラを狙うとは──」

「弱い方から倒すのは、戦いの定石でしょう」

「彼女はやらせない」


 仮面のために表情が分からないが、声音には怒りがにじんでいた。


「……部下思いなのね」


 魔族の中にも、人間のように思いやりを持ったものがいるのか?

 それとも手駒を失いたくないだけか?


 どのみち、魔族が倒すべき敵であることに変わりはない。

 魔王ならば、なおさらだ。


「お前は人類の──世界の、敵」


 ルドミラはふたたび光の矢を放った。


 が、ふたたび魔王が展開した防御フィールドにあっさりと弾き返される。

 やはり、あの『ルーンシールド』を正面から打ち破ることはできないようだ。


(それでも……突破口はあるわ)


 見ているかぎり、展開するまでにわずかなタイムラグがある。


「その隙をつければ──」


 ルドミラは魔王を狙うと見せかけて、女魔族──ステラを狙ったり、あるいはさらにその裏をかいたり、とフェイントを織り交ぜながら、矢を放ち続けた。


 決定打は一矢も与えられない。

 だが、ステラをかばっているために、魔王もなかなか攻勢に出られないようだ。


 ルドミラが、射る。

 魔王が、防ぐ。


 狙いを読み合い、互いの位置を複雑に入れ替え、そんな攻防を何度も繰り返した。

 何十、何百と繰り返した。


 そして──。


 ガラスが砕けるような音を立てて、防御フィールドの一部に小さな穴が開く。

 いかに硬い防御といえど、一点に攻撃を集中し続ければ、いずれは耐久限界を超えて壊れる。


「さあ、これで終わりよ、魔王!」


 ルドミラは精神力を最大レベルにまで集中し、凛とした声で叫んだ。


「奇蹟兵装『ラファエル』──最大装弾一点突破(フルバーストアロー)!」


 防御フィールドに空いた穴へ向けて、777本の光の矢を同時に放つ。


 それらは空中を突き進みながら融合し、巨大な一本の矢と化した。

 輝く矢が穴を通り、魔王に迫る。


 最大装弾一点突破(フルバーストアロー)


『ラファエル』の最大装弾数である777本の矢のエネルギーを一点に集中し、膨大な破壊エネルギーでもって対象を破壊、消滅させるルドミラの奥義だ。


 いかに魔王といえど、これを受けてはただでは済むまい。


「貫け!」


 その絶対の自信を持って放った矢を、魔王は──。




 片手で、受け止めた。




「そ、そんな……!?」

「俺だけを狙ってくるのを待っていた」


 すべての矢が握りつぶされ、霧散した。


「見切っていた。その矢を一度射ると、次の発射までにタイムラグがある──と。もう一度ステラを狙われる前に、これで終わらせる」

「あ……あぁ……」


 精神力を振り絞った一撃をあっさりと防がれ、ルドミラはその場にガクリと膝をついた。


 ようやく悟る。

 最初から、勝負になどなっていなかったのだ。


 自分と魔王では、戦闘能力の次元そのものが違う。

 あまりにも──違いすぎる。


 魔王はただ女魔族を守るために、より確実に勝てるタイミングを待っていたに過ぎない。


 ルドミラは攻勢に出ていたのではなく、攻めさせられていただけだった──。


「もう一度言う。俺の道は誰にも阻ませない」

「きゃあっ!?」


 どんっ、と強烈な突風を受けて、ルドミラは吹き飛ばされた。


 魔力による衝撃波だろうか。

 地面に叩きつけられ、倒れるルドミラ。


「くっ……」


 這いつくばったまま、立ち上がれない。


「さあ、続きだ。ライル」


 魔王はもはやルドミラを一瞥すらせず、ライルへと歩み寄った──。

評価ポイントが文章、ストーリーとも4桁になりました。なろうノクタ通じて今までの自作で初めてです。とても嬉しい……ありがとうございます(*´∀`*)

引き続きがんばります。

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