9 魔と天と人の死闘2
合体魔法『超焔灼天爆導破』。
最強の火炎呪文であるメガファイアを複数の術者が同時に放ち、融合させ、その威力を倍加させる究極の火炎魔法。
しかもそれを放ったのは俺とジュダ、ヴェルファーという魔界の歴史上でも五指に入るであろう魔力の持ち主たちだ。
白い火球は使徒の光弾と激突し、
轟っ!
一瞬で吹き散らし、そのまま使徒たちに炸裂した。
「ぐっ……うああああああああああああああっ……!?」
四人の悲鳴が響く。
連鎖的な爆発が、空一面を真っ赤に染め上げる。
「はあ、はあ、はあ……」
やがて爆炎が晴れると、四人の使途はいずれも衣がほとんど吹き飛び、血と火傷にまみれていた。
全員、半死半生といった様子だ。
「はっ、いくら使徒といっても、俺たち三人の術を食らうのはキツかったか?」
ヴェルファーが吠える。
「おのれ……邪悪な者どもの力がここまでとは……」
言いながら、四人の体が閃光を発した。
たちまち、体の傷も衣も完全に元通りになる。
回復系の神術か。
「……彼ですね」
赤い衣の少女が俺を見た。
「ヴェルファーとジュダの魔力は分析済み……ですが、彼だけはデータがほとんどありません」
「ヴェルファーとジュダをさらに上回る魔力……なるほど、これが『運命超越者』の力……」
つぶやいたのは黒い衣の少年だ。
「こちらもすべてをぶつける必要がありますね」
碧の衣の少年が言った。
「ならば──来たれ、勇者たちよ!」
白い衣の少女が朗々と叫ぶ。
同時に、天空の亀裂からふたたび光が降り注いだ。
そこから降り立ったのは、数万単位の勇者たち。
大地を埋め尽くすかのような大軍勢だ。
全員が剣や槍、斧といった黒い奇蹟兵装を持ち、身にまとうのは黒い法衣。
さらに、
煌──!
天の亀裂から虹色の光が降り注ぎ、彼ら全員を包みこんだ。
「あれは!?」
見覚えのある現象だった。
「そうか、第二次勇者侵攻戦のときの……!」
リアヴェルトが魔王城の地下から奪い去り、自らそれをまとって戦った──『神の力』。
今、黒い勇者たちを包んでいる虹の光は、それによく似ていた。
「まさか──」
いやな予感がした。
もし、彼ら全員がリアヴェルト並の能力を持っていたとしたら……!?
そんな奴らが数万単位で攻めてきたら、いくらヴェルファーたちでもひとたまりもないだろう。
魔王軍は壊滅し、魔界も一巻の終わりだ。
「……フリード様」
ステラが俺の袖をギュッとつかんでいた。
きっと、俺と同じ想像をしていたんだろう。
「大丈夫だ、ステラ」
俺は彼女の手を握った。
暖かくて、柔らかくて、細い手だ。
「俺がいる。必ずお前を──みんなを守ってみせる」
「私も、全力を尽くします。勝利のために」
ステラは身をかがめ、俺の手の甲に口づけした。
「あなたの、ために」
「ああ、勝つぞ」
と、
「総力戦というわけか。ならば!」
ヴェルファーが背後を振り仰いだ。
「我が片腕たる魔軍長たちよ! そして我が刃たる兵たちよ! 魔族の強さと矜持を今こそ見せつけよ!」
手にした煉獄魔王剣を振りかざす。
おおおおおおおおおおおおおおおっ!
地鳴りのような雄叫びがこだました。
魔軍長や兵たちの士気が一気に最高潮に達したようだ。
「……ちょっと芝居がかってないか?」
「ふふふ、魔王っぽくてよかったよ、ヴェルファー」
「いや、俺はそもそも魔王だし……大体、今の台詞はお前が原案だろう」
「まあ、魔軍長も兵もやる気になってるんだからいいじゃないか」
微笑みつつも、ジュダの目が笑っていないことに気づいた。
ここからが、本番だ。
最初のぶつかり合いでは、俺たちが使徒を圧倒したが、これから始まる総力戦こそが本当の戦い──。
真の死闘は、これから始まる。
俺はその予感で全身を震わせた。








