8 魔と天と人の死闘1
「魔王様、聖なる気配の濃度が急上昇しています──」
俺の側でステラが警告した。
「前回の天軍兵器の比ではありません。もっと強大な力を持つ者が──おそらく四体!」
「四体、か」
俺は気を引き締め直す。
右隣にはリーガルがいて、すでに剣を抜いていた。
オリヴィエは後方で、負傷者の回復役として待機させている。
ステラは瞳術で戦況を把握し、俺やリーガル、オリヴィエに指示を出す『司令塔』の役割だった。
次の瞬間、空が割れた。
天空に走った亀裂から、赤、青、白、黒──四色の光が弾ける。
その光は、それぞれ翼を備えた人型へと姿を変えた。
「使徒……か」
ヴェルファーがうなった。
「神の側近にして、神に準ずる力を持つ戦士……!」
なるほど、今回は強敵のようだ。
それぞれが赤、青、白、黒の衣をまとい、背から翼を、頭部には光輪を輝かせた少年少女たち。
全員から、すさまじいまでの神気を感じた。
「人間界を戦場に選ぶとは……」
使徒の一人が俺たちをにらんだ。
赤い衣をまとった可憐な少女だ。
「いざとなれば人間たちを盾に取る気か? だが甘い」
「我らは、いざとなれば躊躇なく人間を切り捨てる」
「魔を討つという大義の前に、犠牲はやむなし」
使徒たちの声は、冷たい。
人間をかばって本来の力が発揮できない……なんてシチュエーションは起きなさそうだった。
「まあ、相手が縮こまってくれたら儲けもの程度の策だからね」
ジュダが笑う。
「貴様ら、たった四人で魔王軍の精鋭に立ち向かうつもりか!」
ヴェルファーが傲然と叫んだ。
大気を震わせるような──いや、爆砕させるかのような、すさまじい威圧感のこもった咆哮である。
おそらく普通の人間が聞けば、それだけで魂まで砕かれるだろう。
声だけでこれほどの『力』がこもっているのは、さすがに始まりの魔王だけのことはある。
「舐めるなよ、神の手先が!」
その体が三面六臂へと変化する。
「邪悪な気配……お前たち魔の者は存在してはならない」
「お前たちの存在が人や神の世界を脅かし、多くの命が奪われ、傷つけられ、壊され、そして滅ぶ」
「ゆえに消去する」
「我らの神がそう決めた」
「俺たちは何もしていない。最初に攻めてきたのは、お前たち天軍だろう!」
ヴェルファーが声を張り上げる。
怒りと、そして悲しみが混じった声音だった。
「なぜだ!? 俺たちは魔界で暮らしていた。そりゃあ、中には争いを好む奴もいる。魔族同士の争いなんていくらでもある。だが、人や神の世界に手を出したことはなかった! 俺たちは俺たちの世界だけで生きてきた。それをお前たちが──」
ぎりっと三つの口でそれぞれ奥歯を噛みしめるヴェルファー。
「お前たちは一方的な殺戮を行った。俺たちを邪悪と決めつけ、幼子も老人も関係なく、男も女も関係なく、無差別に、無慈悲に、殺し続けた!」
「お前たちは存在そのものが邪悪。ゆえに消去したまで」
使徒たちが一斉に告げる。
「我らと天軍兵器、そして人間たちから選抜した勇者軍の力を合わせても、なかなかにしぶとく生き残るお前たち──だが、それも終わりだ」
「魔界の歴史は今日、終わる」
四人の使徒が同時に両手を突き出した。
その手のひらに、赤、青、白、黒──彼らの衣と同色の輝きが宿る。
「『天想烈壊聖燐弾』!」
放たれる四つの光弾。
それは空中で一つに交じり合い、より巨大な光弾と化した。
灰色に淀んだ、不気味な光弾だ。
あれは確か、勇者軍も使っていた合体技──?
「勇者が使っていた技は、我らが教えたもの。こちらが本家本元だ!」
俺の内心の疑問に答えるように、使徒たちが叫んだ。
確かに、数百人の勇者が放った同じ術と比べて、たった四人の使徒が繰り出したこの光弾の方が、けた違いの神気を放っている。
生半可な魔法では防げない……!
俺は即座に右手を突き出した。
打ち合わせも何もしていないにもかかわらず、ヴェルファーとジュダもまったく同じタイミングで、まったく同じ動作を行う。
そして、
「灼天の火焔!」
俺の、ジュダの、そしてヴェルファーの呪文が唱和した。
最大級火炎呪文の三重奏──。
三つの火炎は、使徒の術と同じく空中で融合し、
「合体魔法──『超焔灼天爆導破』!」
赤から黒……そして、さらに純白へと変色した巨大な火球が、天使の光弾と激突する。
大爆発とともに吹き荒れた破壊エネルギーが、地平線にまで駆け抜ける──。








