7 決戦への出陣
「さすがに神が直々に攻め入ってくると、気配が違うね」
ジュダが背後から話しかけてきた。
「魔界にまで届く強烈な神気──今までの戦いとは比べ物にならないほど激しいものになりそうだ」
その声がかすかにふるえていることに気づく。
俺はハッと振り返った。
「……緊張しているのか。さすがのお前も」
「はは。まあ、多少はね」
ジュダが肩をすくめる。
常に飄々と、悠然としているこいつが、珍しく真剣な表情だ。
そして、張り詰めた表情だ。
ジュダは何かを悟っているんだろうか。
もしかしたら──この戦いの結末を。
そう、歴史上では魔王ヴェルファー率いる魔軍は、神が率いる天軍に敗北を喫する。
「ねえ、フリードくん。聞いてもいいかな」
ジュダがたずねる。
あいかわらず張り詰めた表情で。
「君が来た未来では……今回の戦いはどう伝えられている?」
「それは──」
以前に『俺たちが未来から来た』と彼に看破されたとき、そのことについては聞かれなかった。
俺も話題に出すのを避けてしまった。
ヴェルファーが天軍との戦いの末に敗死するのを知っていたから。
言うべきなのかを迷っているうちに……今まで言いそびれてしまった。
「未来は無数に枝分かれしている──お前はそう言っていたな」
俺はジュダを見つめた。
「この戦いが、俺の知っている歴史通りになるとは限らない」
「だろうね。それでも知りたいのさ」
ジュダは譲らない。
「教えてくれ」
頑として退かない。
ジュダのこんな態度を見るのは、初めてだ。
「……ヴェルファーは殺される。天軍兵器──『光の王』によって」
「そうか」
ジュダは深々とため息をついた。
「なら、その結末を変えられる可能性は十分にある」
と、口元に笑みが浮かべる。
「君がいれば、ね」
確かに俺は元の世界で『光の王』を打ち倒しているが──。
そう単純な話で済むだろうか。
不安になった俺に、ジュダはかすかに首を振った。
そうか、こいつも──いや、こいつの方がはるかに不安なんだろう。
今のはそれを鼓舞するためのセリフなのかもしれない。
「当然だ。俺は史上最強の魔王だからな」
だから俺はジュダの気持ちを汲んで、ニヤリと笑ってみせた。
と、
「二人とも、そろそろ行くぞ」
ヴェルファーがやって来た。
「行く?」
「ああ、説明がまだだったな。これから俺たちは人間界に行く」
「人間界に?」
「そこが神や天使たちとの決戦場さ」
と、ジュダ。
「人間界なら、奴らも見境なく大規模な破壊術は使えないだろう。人間を巻きこむことになるからな。まあ、こういうやり方は好みじゃないが──ジュダがどうしてもこの作戦を推すんでな」
「私としては勝率を少しでも高めたいだけだよ」
「……本当にそれだけか」
「うん? 気になるかい?」
「いや、お前が立てた作戦なら俺は信じるだけだ」
悪戯っぽく笑うジュダに即答するヴェルファー。
ジュダらしくない作戦……か。
俺は内心でつぶやいた。
じゃあ、やはり彼はヴェルファーが殺されることを予見しているのか……?
俺がこの時代に来たことで、その結末は覆るんだろうか。
そして、もし覆ったとして、俺たちが元いた時代はどうなるんだろうか。
分からない。
だが、考えている時間はもうあまりなさそうだ。
迷っている、時間も。
数時間後、俺はヴェルファーたち魔王軍とともに人間界にやって来た。
ステラ、リーガル、オリヴィエも一緒である。
周囲には草原が広がり、その向こうには森林や険しい山脈が見える。
人里離れた場所のようだった。
「気配が濃い……ここが出現ポイントになりそうだね」
告げるジュダ。
そして──。
天空の一角に、亀裂が走る。
「来る……!」
俺は半ば無意識にうめいた。








