5 始まりの魔王と不死王3
随分と間が空いてしまいましたが、更新再開です。
続刊やコミカライズ関連は情報が出せる時期になり次第、という感じですが……まずはなろう版の更新をちょこちょこと進めていきますm(_ _)m
【20.1.11追記】
3巻発売が決定いたしました! これも1巻や2巻を買ってくださった方々のおかげです! ありがとうございます!
3巻は2月15日発売予定ですので、ぜひよろしくお願いいたします~!
「さあ、存分に戦おうか!」
三面六臂──全力の戦闘形態となったヴェルファーがリーガルに襲いかかる。
「これは──!?」
一瞬にして、悟った。
受けきれない。
逃げ場もない。
この一度の攻防が終われば、自分は確実に斬り伏せられる──。
(これが『始まりの魔王』の真の実力か……)
剣士としての数千年の鍛錬すらも、ヴェルファーには遠く届かない。
気圧され、闘志が萎んでいくのを抑えられない。
「どうした、諦めたか!」
吠えるヴェルファー。
「私は……」
斬られる。
負ける。
──いや、違う!
──黙って斬られてなど、たまるものか!
失いかけた戦意が、ふたたび湧き上がる。
本能なのか、それとも単なる意地なのか。
リーガル自身にもよく分からないまま、前に進み出た。
「はあああああああああああああっ!」
裂帛の気合とともに、ヴェルファーが六本の剣を繰り出す。
リーガルは避けなかった。
骨の体が無数に切り裂かれる。
「剣士として、私はあなたに及ばない──だが!」
髑髏の眼光が強烈に瞬く。
「アンデッド剣士としての私は、別だ!」
「何……!?」
ヴェルファーによって切り裂かれた骨の体。
そのいくつかが刃のようになって、ヴェルファーへと向かっていく。
──否。
最初から飛び道具として使うために、わざと斬らせたのだ。
「アンデッドの体自体を武器に……!?」
「それも、違います」
リーガルはすべての瘴気を一気に噴き出し、右腕を飛ばした。
骨の体で作り出した刃と、右手の剣との、二重攻撃。
剣士としての実力と、アンデッドとしての特性を融合させた、リーガルだけが繰り出せる剣技──。
「くっ……!」
ヴェルファーは肩や脇腹を浅く切られつつ、骨のすべてを叩き落し、リーガルの右腕も切り裂いた。
「──やはり、お強い」
頭蓋骨だけになったリーガルが床に転がる。
「いや、ヒヤリとさせられた。想像以上に腕が立つようだ」
ヴェルファーが剣を下す。
その顔はわずかにこわばり、頬に汗が伝っていた。
「強いな、お前は。楽しかったぞ」
満面の笑みを浮かべる、始まりの魔王。
「……お楽しみいただけたのであれば、何よりです」
「お前はどうだ? 楽しめたか」
ヴェルファーがたずねる。
リーガルはハッとなった。
(まさか、この方は最初から俺の気分を晴らすために……)
気遣ってくれた、というのか。
「お前が戦う理由は、人間への恨みだったな……だが、お前を動かしているのはそれだけではあるまい?」
「…………」
「武人としての誇り。そして、捨てきれない情──お前は怨念と情の狭間で揺れ動いている。おそらく数千年の間、ずっと」
「何もかもお見通しというわけですか」
「見通しているわけじゃない。なんとなく、そう感じるだけだ」
ヴェルファーが笑う。
「お互いに武人同士。剣で語らった仲だからな」
「恐れながら、陛下は人間どもをどうなさるおつもりですか?」
今度はリーガルがたずねた。
「歴代の魔王はおおむね人間とは敵対関係にありました。魔族にとって人間とは敵以外の何物でもありません」
「フリードはそう考えてはいないようだが、な」
ヴェルファーは苦笑し、
「俺も人間を好んでいるわけではない。かつて──まだこの魔界に結界がなかったころ、人間たちの大規模侵攻があった」
「大規模侵攻──?」
初めて聞く話だった。
「奴らは俺たちを一方的に悪と断罪し、攻め入ってきたのだ。俺たちは苦もなくそれを跳ね除け、逆に奴らの世界へと攻め返した」
と、ヴェルファー。
「報復だ」
「報復……」
「人間どもは魔族ほどの力はないが……それでも最初の侵攻で殺された魔族たちもいた。彼らの無念を晴らすため、俺は軍を率いて人間界へ攻め入った」
ヴェルファーの表情は厳しかった。
「だが、結局は殺し合いの連鎖が続くだけだ。憎しみをぶつけ、相手もまた憎しみを返し──俺たちは最終的に魔界へと戻り、魔界全体に結界を敷いた」
「それ以上の戦いを避けるために、ですか?」
「そうだ。だが今は──その結界も破られ、ふたたび戦端は開かれた。しかも、今度は天軍までが攻め入ってきた。降りかかる火の粉は払う必要がある」
ヴェルファーはため息をついた。
「俺は人間を好んではいないが、かといって憎み切れてもいないんだろう。そんな気持ちを抱いている暇があるなら、魔界の統治のために時間を使いたい。要は、気持ちの優先順位の問題なんだろう」
「優先順位……ですか」
「憎悪も誇りも情も──すべてがお前だ。その中から、お前が大切にするものを選び、お前が行く道を決めればいい」








